【相手の状況で変化する試合の流れ】マンチェスター・シティ対レアル・マドリー

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

マンチェスター・シティのスタメンは、ハート、クリシー、オタメンディ、コンパニ、サニャ、フェルナンド、フェルナンジーニョ、シルバ、デ・ブライネ、ヘスス・ナバス、アグエロ。ヤヤ・トゥーレは、ベンチにもいない。フェルナンド、フェルナンジーニョコンビを並べ、守備を重視したスタメンで試合に臨んだ。とうとう上り詰めたセミ・ファイナル。過去に行った選択の正しさを証明するチャンスを元祖金満チームにやってきた選手たちが得る。そして、退任が決まっているペジェグリーニが報われるときとなるのか。かつてペジェグリーニが率いたレアル・マドリーが相手、というのも、因縁を感じる。

レアル・マドリーのスタメンは、ケイラー・ナバス、マルセロ、セルヒオ・ラモス、ぺぺ、カルバハル、カゼミーロ、モドリッチ、クロース、ベイル、ベンゼマ、ルーカス・バスケス。怪我のため、クリスチャーノ・ロナウドはベンチにもいない。代役は、ルーカス・バスケス。かつてリヨンとの死闘を続け、ベスト16で散り続けていた過去が懐かしいレアル・マドリー。気がつけば、チャンピオンズ・リーグでベスト4の常連になっている。ただし、ヴォルフスブルク戦でハットトリックをしたクリスチャーノ・ロナウドの離脱は、かなり大きいはず。守備の穴がなくなるというメリットもあるけれども。

ペジェグリーニの奇襲

マンチェスター・シティのシステムは、4-2-3-1。ボールを保持していないときは4-4-2。1列目にデ・ブライネとアグエロ。左サイドにシルバを配置。

マンチェスター・シティのプレッシング開始ラインの高さが、レアル・マドリーを苦しめた。マンチェスター・シティは、レアル・マドリーの陣内から積極的にプレッシングをかけてきた。アグエロ、デ・ブライネが、ぺぺとセルヒオ・ラモスとの数的同数を活かした守備をすることで、レアル・マドリーは、自陣エリアでのボール支配を実現することができなかった。恐らく、レアル・マドリーにとって、マンチェスター・シティの作戦は、青天の霹靂だったに違いない。マンチェスター・シティが積極的なプレッシングをするとは予想していなかったのだろう。また、マンチェスター・シティのプレッシングスピードが早かったこともあって、ポジショニングを調整する時間を与えてくれなかったことも、レアル・マドリーが攻撃を組み立てられなかった原因として、非常に大きかった。

レアル・マドリーのシステムは、4-1-4-1。ボールを保持していないときも、4-1-4-1。基本的にシステムは変わらないが、インサイドハーフが前の列に移動して、4-4-2に変化することがある。変化の理由は、ベンゼマ対オタメンディ、コンパニのエリアの数的不均衡を解決するためだ。レアル・マドリーは、マンチェスター・シティほどに積極的なプレッシングを行わなかった。よって、ボールを保持する機会が多いのは、センターバックエリアで時間を与えられたマンチェスター・シティとなった。

マンチェスター・シティのビルドアップからの攻撃の中心は、左サイドにあった。カルバハルの役割は、シルバをマンマーク気味に対応すること。よって。カルバハルにマークすべき他の対象(アグエロ、デ・ブライネ)を準備することで、守備の役割を混乱させる。そして、左サイドで時間とスペースを得るシルバ、アグエロ、デ・ブライネを起点に、攻撃を仕掛ける形がメインだった。ルーカス・バスケスに比べると、ベイルは下がってこないこともあって、相手の弱みをつきながら、自分たちの長所を発揮する流れをマンチェスター・シティは成立させる。

積極的な守備が機能したこともあって、ボールを奪い返す機会も多くなったマンチェスター・シティ。ビルドアップからの攻撃と、ボールを奪ってからのカウンターと多彩な攻撃を見せることに成功する。しかし、フィニッシュまでは繋がらない。ぺぺとセルヒオ・ラモスの固さは異常。ジダンの申し子とも言えるヴァランよりも評価されているぺぺ。過去に色々あった選手だが、このタイミングでキャリアの絶頂を迎えている雰囲気。

この流れを破壊するために、レアル・マドリーは、マンチェスター・シティのビルドアップ破壊を試みる。インサイドハーフを前の列に上げて、積極的なプレッシングを試みる。しかし、インサイドハーフを前に出してプレッシングを行なうレアル・マドリーに対して、しっかりと準備済みのマンチェスター・シティだった。クロースやモドリッチが前に移動してできたエリアに素早くポジショニング(特にフェルナンジーニョ)することで、ビルドアップの出口をうまく作っていた。積極的なプレッシングが相手の攻撃のスイッチを入れるきっかけとなる状況を作ってしまったレアル・マドリー。まさに罠にハマった瞬間である。

マンチェスター・シティは積極的なプレッシングによる奇襲。左サイドにスペシャルな選手たちを集めることで、ビルドアップからの攻撃を機能させる。そして、レアル・マドリーの4-4-2変化によるプレッシングを交わす手段を準備することで、試合を優位に進めることに成功した。

レアル・マドリーの対応とペジェグリーニの罠

15分が過ぎると、レアル・マドリーに変化が生まれる。ハーフタイムを挟まないで変化できることが優秀さの証明。

最初の変化は、クロース、モドリッチがセンターバックに近づいてプレーすることで、ビルドアップの向上を狙った。マンチェスター・シティの攻撃的な守備に苦しみながらも、サイドチェンジとモドリッチのひらめきでゆっくりとレアル・マドリーに流れを引き寄せていった。個の能力でどうにかする、というのも立派な手段。独力で時間とスペースを味方に供給するモドリッチが、特に目立っていた。これらの動きは、マンチェスター・シティのプレッシング対策となり、段々とボールを保持できるようになっていくレアル・マドリー。

さらに、レアル・マドリーはプレッシング開始ラインをハーフラインに設定。インサイドハーフを前に出すこともなくなる。狙いとしては、相手のセンターバックから縦パスが入ったときの守備の準備を優先するように変化した。インサイドハーフを動かしてできるエリアを狙われるなら、最初から動かさないよ、という考え。マンチェスター・シティにボールを持たれる時間は長くなるかもしれないが、相手にスペースを与えるよりはましと考えたのだろう。

ボールを持たされたマンチェスター・シティ。センターバックに時間ができる。この状況で躍動したのはコンパニ。左サイドではなく、右サイドからの攻撃を仕掛けるように変化していった。狙われたのはクロース。前に前に行く習慣のあるクロースの裏にフェルナンジーニョで強襲。カゼミーロの脇のエリアにスペシャルな選手たちをポジショニングさせると、レアル・マドリーの守備陣は迎撃で対応するだろう。しかし、フェルナンジーニョの出現は予想外だった。左サイドからのスペシャルな選手たちの共演と、コンパニを起点として走るフェルナンジーニョアタックでレアル・マドリーに迫っていく。

29分にとうとうケイラー・ナバスを使ったビルドアップを見せるレアル・マドリー。シュートを止めるという意味でのケイラー・ナバスの出番は未だにないけれど、ゴール前にクロスを上げられたり、セットプレーの機会を与えたりと、良い雰囲気ではなくなっていった。よって、自分たちのボールを保持する時間を長くしようとケイラー・ナバスを使う。ケイラー・ナバスにボールを下げることで、ポジショニングを調整する狙い。守備の改善よりもボールを保持する時間を長くすることで、相手の攻撃の機会を削ったほうが効率がいいと計算したのだろう。

39分にベイルを止めてイエローをもらったシルバが負傷。イヘアナチョが登場する。急遽登場したイヘアナチョ。デ・ブライネは左、イヘアナチョは中央に配置された。この采配で、マンチェスター・シティの左サイドの攻撃の勢いは衰えることになる。よって、レアル・マドリーが一気に試合の流れを取り返すべく攻撃を仕掛けるようになる。マンチェスター・シティの攻撃の精度が落ちる→レアル・マドリーがボールを奪い返す機会が増える→カウンターやビルドアップからの攻撃が増える流れ。しかし、5分で何かが起こるべくもなく、前半はスコアレスで終わる。

マンチェスター・シティの変化を見逃さないレアル・マドリー

後半の頭から、ベンゼマ→ヘセ。負傷をかかえてのベンゼマだったが、限界がきたようだった。

前半にイヘアナチョが登場してからのマンチェスター・シティは、4-4-1-1でプレッシングを行った。4-4-2の攻撃的な守備に比べると、レアル・マドリーに時間を与えることになってしまう。この変更の意図は不明。前半から自陣に押し込まれたときは4-4-1-1で守備をしていたけれど、体力的な問題でもあったのだろうか。

ボールを保持できるようになったレアル・マドリーが、試合の流れをつかむようになる。恐らくマンチェスター・シティのプレッシングに対して、どのようにボールを保持するかをハーフタイムに整理できたのだろう。センターバックの横幅、インサイドハーフの降りる動き、サイドバックの高いポジショニングと、レアル・マドリーは、徐々に日常に近づいていった。

55分にベイルとルーカス・バスケスのポジションチェンジ。監督としてのジダンは、勝負をなかなか仕掛けない。もっと言えば、融通が利かない。前半は、ベイルを右、ルーカス・バスケスを左。お互いにストロングサイドとしているのは後半の形。つまり、逆。前半の配置は何だったのだろうか。良く言えばスタメンの選手への信頼感は絶対的。そして、スタメンから落ちると、信頼を回復することは難しい。イスコとハメス・ロドリゲスの命運はいかに。

76分にヘスス・ナバス→スターリング。試合の流れがレアル・マドリーに傾いたのは、マンチェスター・シティの守備方法の変更になる。積極的なプレッシングをやめた理由を考えてみる。シルバの離脱による攻撃精度の低下を嫌がったのか。それとも、ボールを保持してもケイラー・ナバスまで辿りつけなかったので、カウンターを多めにすると計算したのか。後半の序盤にアグエロの左足ミドルのような場面を意図的に後半は増やしたかったのかもしれない。カウンター仕様にして、チームが慣れたころにスターリングを投入するというのは、理にかなっている。よって、守備の方法も途中で4-4-2に戻しているマンチェスター・シティ。

しかし、一度渡したボールは帰ってこない。ヘセ、ベイル、ルーカス・バスケスは守備をなかなかサボらない。マンチェスター・シティがボールを保持したとしても、前半に見せていたようなインサイドハーフの裏エリアについては、センシティブに対応するレアル・マドリー。高さでは勝てないマンチェスター・シティがロングボールで勝機を見いだすことは難しい。逆にコーナーキックからレアル・マドリーにフィニッシュを許したり、ボール保持からの攻守の切り替えからなる連続攻撃で苦しめられたりと、ハートの出番は増えていった。

取り戻せない流れの中でもカウンター場面がないわけではない。デ・ブライネの突破は可能性を感じさせた。しかし、ぺぺが圧倒的なパフォーマンスで、マンチェスター・シティの攻撃を食い止めていく。レアル・マドリーは最後にイスコを投入。さすがに時間が短すぎる投入で意図はわからなかった。ヴォルフスブルク戦の采配からみても、イスコとハメス・ロドリゲスを隠したということはないだろう。悲しみのイスコ。後半はレアル・マドリーが強さを見せつけるがスコアは動かず。決着はセカンド・レグに持ち越された。

ひとりごと

前半のサッカーを90分通じてできれば、マンチェスター・シティに勝機はある。よって、ファースト・レグの後半に、前半に見せたサッカーをやらなかったのか、やれなかったのかは非常に気になる。また、サンチャゴ・ベルナベウでのレアル・マドリーは、驚異的なプレッシングを見せることがある。そのプレッシングに対して、マンチェスター・シティのビルドアップ隊が冷静に振る舞えるかもポイントになるだろう。

レアル・マドリーは、ベンゼマとクリスチャーノ・ロナウドの代役をどうするか。もちろん、試合に出られないと決まったわけではない。ヘセ、ルーカス・バスケスのハードワークコンビで守備を安定させる選択もありだろう。それとも、イスコとハメス・ロドリゲスにチャンスはあるのかないのか。ジダンの采配がどう出るのか非常に興味深い。

コメント

  1. 匿名 より:

    ペペはモウリーニョ期以前やワールドカップのイメージが強いかもしれないですけど、マドリディスタとしてはアンチェロッティになってからずっとスーパーな選手ですね。

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