【変幻自在の守備が相手を動かす】バイエルン対アトレチコ・マドリー

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

ファーストレグの結果は、アトレチコ・マドリーが1-0で勝利した。この結果を受けてのセカンドレグ。バイエルンは勝利が必要。さらに、相手に失点を許すと、アウェーゴールの関係から窮地に追い込まれる。つまり、相手にゴールを許さずに勝利するというミッションが課せられたバイエルン。ファーストレグでの結果故の状況なので、やるしかない状況。

バイエルンのスタメンは、ノイアー、アラバ、ボアテング、ハビ・マルティネス、アラバ、シャビ・アロンソ、ビダル、ミュラー、ドグラス・コスタ、リベリ、レヴァンドフスキ。ぐうの音も出ないスタメン。ボアテングとハビ・マルティネスの復帰によって、ゼロセンターバックに終わりを告げている。

アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、フェリペ・ルイス、ヒメネス、ゴディン、ファンフラン、アウグスト・フェルナンデス、ガビ、サウール、コケ、グリーズマン、フェルナンド・トーレス。冬に加入したアウグスト・フェルナンデスと復帰したフェルナンド・トーレスの活躍を見ていると、チーム選びの大切さを知る。特にアウグスト・フェルナンデスのチームメイトたちは、チャンピオンズ・リーグでの活躍を羨ましがっているに違いない。

ボアテングと速攻

試合のオープニングは、ボアテングのロングボールから始まった。今季のボアテングのパフォーマンスは、尋常で無かった。相手のディフェンスラインの裏、逆サイドへのサイドチェンジを得意のロングボールで行なうことによって、バイエルンの攻撃を牽引してきた。怪我による離脱から久々に復活したボアテングのオープニングのプレーは、セカンドレグでのバイエルンの方向性を示すものであった。オープニングのプレーの後も、ボアテングはレヴァンドフスキを的とするロングボール、積極的な縦パスによって、バイエルンの攻撃を今までどおりに牽引していった。

ファーストレグでは、サイドにはったウイングからのプレーを攻撃の中心としていたバイエルン。しかし、セカンドレグではウイングのポジションに変化が見られた。ファーストレグがサイドにはったものであったことに対して、セカンドレグでは、中央に入ってプレーする場面が多く見られた。特に、ドグラス・コスタは、中央に侵入してのプレーが特に多かった。ウイングのかわりに、バイエルンの攻撃の横幅を獲得するポジショニングを見せるのはサイドバック、ときどきレヴァンドフスキとミュラー。サイドバックで起用されたアラバとラームは、バイエルンの代名詞にもなりつつあるアラバロールをする場面もあったけれど、基本はサイド攻撃を担っていた。

サイドバックが上がり、ウイングが中央にポジショニングする。いわば、いたってノーマルな形でバイエルンの攻撃は進んでいった。正攻法とも言えるバイエルンの攻撃の形で目立ったプレーは、早いエリアから勝負を仕掛けるプレーをすることだった。相手がボール保持者にプレッシングをかけてくる前、かけてこないエリアから積極的にゴール前にボールを送る、またはミドルシュートを放つ。ボールを延々と保持する印象の強いバイエルンだが、得点がどうしても必要なセカンドレグ。出来る限り速くゴール前にボールを運ぶことを目指していた印象を受けた。ミドルシュートの雨嵐、クロス爆撃の連続に、アトレチコ・マドリーは、ゴール前での守備機会がどうしても多くなってしまう展開になった。

バイエルンの狙いとしては、速攻で得点が決まれば問題なし。速攻からのトランジションでボールを奪い返して逆カウンターを決められれば良し。さらに、相手のゴール前でのプレー機会を増やすことで、セットプレーのチャンスが増えるも良し。アトレチコ・マドリーにカウンターの機会を与えるようなプレーの連続だが、シャビ・アロンソ、ボアテング、ハビ・マルティネスを後方に残せば、何とかなるだろうという計算だったのだろう。左サイドは懐かしのリベリ、アラバコンビで強襲し、右サイドはラームが奮闘する形で攻撃は繰り返されていった。クロスの狙いとして、ファーサイドでレヴァンドフスキが繰り返された形だった。特にファンフランとレヴァンドフスキのマッチアップの形をバイエルンは狙っていた。ビダル、ミュラーとゴール前に飛び込む選手を起用したことも、レヴァンドフスキとファンフランのマッチアップを実現するための作戦だろう。

4-4-2か、4-1-4-1か

13分くらいから、アトレチコ・マドリーは4-1-4-1に変更。グリーズマンが右サイドハーフに移動する。ファーストレグでも繰り返された4-1-4-1と4-4-2の循環。自分たちの形を変えることで、相手の攻撃に影響を与えることが目的のシステム変化を、最近は目にする機会が多い。しかし、この場面では、4-1-4-1のする必要性を感じたゆえの変更だろう。

バイエルンの早めの仕掛けに対して、プレッシングをかけたいアトレチコ・マドリー。バイエルンの狙いとしては、早めの仕掛けに対して、相手が持ち場をいつもよりも離れて出てくる。できたスペースを使う、という準備があった可能性が高い。そのスペースを埋めるには中盤の枚数を増やす必要がある。よって、アトレチコ・マドリーは、さっさと4-1-4-1に変更して守備を修正した。

しかし、4-1-4-1への変更をすでに準備済みだったバイエルン。グリーズマンが下がったことで、ボアテングたちは、時間とスペースをより得られるようになる。よって、ボアテング、ハビ・マルティネス、シャビ・アロンソがよりアトレチコ・マドリー陣内に侵入してプレーをするようにバイエルンの攻撃は変化していった。ワントップのフェルナンド・トーレス脇のスペースを攻撃の起点とするバイエルンの攻撃に対して、アトレチコ・マドリーは防戦一方となる。この展開だったら、さっきのほうがマシだと考えたシメオネ。20分に4-4-2に戻す。そして、フェルナンド・トーレスとグリーズマンに中央の守備は任せるという名の一生懸命に走ってくれ作戦に切り替えた。

困ったときのセットプレー

4-4-2に戻すなら戻すで、別に問題のないバイエルン。アトレチコ・マドリーの守備の構造上、スペースが生まれるセンターバックとサイドバックの間にアラバが飛び出す。ビダルはシャビ・アロンソ、ハビ・マルティネス、ボアテングの前にポジショニングして、ビルドアップ隊からのボールを前線に繋いでいっていた。バイエルンの攻撃のキーマンは、ビダル。今季から加入したビダルだが、序盤は心もとなかった。しかし、ここにきてシャビ・アロンソからスタメンを奪うような貢献を見せている。

ボアテング、シャビ・アロンソ、ハビ・マルティネスが後方に残ることで、アトレチコ・マドリーのカウンター(フェルナンド・トーレスとグリーズマン)よりは数的優位となる。チアゴ・アルカンタラを起用したように、ビルドアップ隊を増やすことも考えられるが、ミュラーにはフォワード仕事を中心に働かせたいグアルディオラ。よって、ビダルが何役もこなさなければならないのだが、普通にこなしていた。シャビ・アロンソのいるべき位置でビルドアップ隊の出口だったり、ゴール前に飛び出して行ったりと、バイエルンの攻撃を牽引するビダル。ビダルの存在によって、4-2-4のように振る舞えるバイエルンだった。

繰り返されるバイエルンの攻撃に、オブラクの出番も徐々に増えていく。そして、バイエルンにゴールが生まれる。ファーサイドに流れたボールを回収したリベリからの攻撃のやり直し。そのトランジションでドグラス・コスタがファウルを受ける。そして、シャビ・アロンソの直接フリーキックが炸裂。ヒメネスにあたってコースが変わった事でゴールが生まれた。

32分にはセットプレーでヒメネスがハビ・マルティネスを倒してPKを与えてしまう。混乱のヒメネス。しかし、ミュラーのシュートをオブラクが止める。バイエルンからすれば勝ち越しゴールを決めるチャンスを逃し、アトレチコ・マドリーからすれば、まだいけるのではないかとメンタルを回復するチャンスを得た。PKを得たきっかけはセットプレー。つまり、バイエルンの狙い(相手のゴール付近でプレーする機会を増やすこと)は、しっかりと機能していた。よって、バイエルンもまだまだ焦る段階にはない。

36分にシメオネが荒ぶる。リベリに必死に止められるシメオネ。前半はスコアは動かず。シャビ・アロンソのゴールでトータルスコアは1-1。アウェーゴールの関係からアトレチコ・マドリーがゴールを決めると一気にバイエルンが逆境に立たされる状態で後半を迎える。

ポリバレントなサウール

後半の頭からアウグスト・フェルナンデス→カラスコ。サウールをアンカーとする4-1-4-1で後半に臨んだシメオネ采配。アンカーといって、中央に居座るというよりは、4-5-1に近い。前半に見せた4-1-4-1との違いは、インサイドハーフの役割にあった。前半に使われたフェルナンド・トーレス脇は、ガビとコケが前に出て対応するように修正されていた。この修正によって、相手陣地では4-4-2、自陣では4-1-4-1で守備ができるようになったアトレチコ・マドリー。自陣でもボールサイドのインサイドハーフが前にプレッシングに出て行くことは可能な意思統一がなされていたので、ただ待ち構えだけの守備とボールを奪いにいく守備を並列させることに成功するアトレチコ・マドリー。

52分にボアテングの楔のボールを奪われてカウンター発動。ボールを奪いに行くバイエルンの面々を段差をつけたパスで回避するアトレチコ・マドリーのカウンターの終着点はグリーズマン。グリーズマンがノイアーとのデュエルを制し、アトレチコ・マドリーが勝ち越しに成功する。そして、バイエルンは決勝戦進出のために2得点が必要になった。そして、ボアテング起点の縦パスのデメリットが出た瞬間だった。グリーズマンは、オフサイドぽかったけれど。

一気に逆境に立たされたバイエルン。前半から狙ってたのは、サウールの脇。3センターの間にポジショニングすることで、相手に解決しなければならない状況を用意する。アトレチコ・マドリーは後方支援(センターバックによる迎撃)とサイドからの支援(サイドハーフの絞り)で、バイエルンの隙間ポジショニングに対応する。バイエルンはカウンターを恐れたのか、特にラームがアラバロールのポジショニングをするようになる。その関係でドグラス・コスタがサイドに張り出すようになる。アラバロールに弱点があるとすれば、相手のサイドハーフにサイドの守備を捨てることを許すことだろう。また、アトレチコ・マドリーの積極性(コケとガビ)がアラバロールのポジショニングと噛みあうこともあった。

72分にドグラス・コスタ→コマン。リベリを固定すると考えると、右サイドはコマンと考えたのだろう。

73分にアラバのクロスをファーサイドでビダルが折り返して最後はレヴァンドフスキが決める。得意の大外から大外クロスからの強襲。ここでも登場するはビダル。コマンの仕事を奪っているような気がしないでもないけれど。

縦が警戒されるコマンは、中央に切れ込んでチャンスを伺う。コマンがロッベンだったら、と想像してしまう場面がちらほら。大外でクロスに合わせる場面も出てくるが、チャンスをつかめないコマン。または、大外で待っているのに、大外までボールが来ない。セットプレーも含めて総攻撃を仕掛けていくバイエルンだが、オブラクが立ちはだかる。特にアラバの方向の変わったシュートを止めたのは素晴らしかった。

アトレチコ・マドリーはカウンターからフェルナンド・トーレスがPKを得るが、ノイアーに止められる。以前に退場になったことも含めて、フェルナンド・トーレスとチャンピオンズ・リーグの相性がいまいちよくわからない。ハビ・マルティネスの気合の空中戦、あと一歩のレヴァンドフスキと最後まで諦めないバイエルンだが、ゴールは遠く。グアルディオラのバイエルンでの挑戦は、シメオネによって終止符を打たれる格好となった。

グアルディオラと、バイエルンとバルセロナ

バイエルンの話をすると、ドイツ・カップの決勝が残っている。相手はドルトムント。相手にとって不足はないので、グアルディオラの最後としてはふさわしい相手だと思う。

バルセロナではサイド攻撃に苦しんだけれど、ゼロトップとバルセロナで育成された選手で中央を支配することはできた。ロッベンとリベリの存在によって、バイエルンではサイド攻撃に苦しむことはそんなになかった。しかし、ゼロトップの適任者を見つけられなかったこともあって、中央支配では多少の物足りなさをグアルディオラは感じていたかもしれない。

次はマンチェスター・シティ。良い選手は揃っているが、サイドアタッカーがいるわけでもなく、中央支配に適した選手がいるわけでもない。それでもどうににかしてしまうと思うけれど、どうにもならない試合で問題になるのは中央かサイドか。それとも新しいアイディアでどうにかしてしまうのか。来季もやっぱり注目したいグアルディオラであった。

ボールを奪う守備とゴールを守る守備は、異なる。システムを変えて相手の攻撃に変化を迫るように、自分たちの守備の目的を変化させることで、相手に迷いを与える守備をアトレチコ・マドリーは見せた。守備を変幻自在に行なうことで、試合の流れを変えてしまうというのは、ありそうでなかった考え方。守備に問題がある、時間とスコアからシステムを変更することは今までもあったけれど。

コメント

  1. ととや より:

    攻撃で意地を見せるも隙を突かれて失点、そしてPK失敗。
    終わってみればチェルシー戦のリプレーのようでした。
    バルサにバイエルン、PSGと
    今季のCLはポゼッション主体のチームが守備の脆さを見せた印象です(バイエルンとPSGは前監督の頃は堅守でした)。
    レアルも今でこそアンチェロッティの遺産で自陣でも守れますが、
    今の路線を継続すれば同じ現象が発生しそうな気がします。
    バルサはバルサでMSNが解体したらもうアトレティコに勝てなくなるかもしれません。

    • らいかーると より:

      ととやさん

      コメントありがとうございます。

      チェルシー戦と言うと、イニエスタのゴールを思い出してしまいます。

      ポゼッション主体のチームが結果を出せなかった大会になりつつありますが、マンチェスター・シティは何だったのでしょうね(・∀・)果たして彼らは何が主体だったのか。
      個人的にレアル・マドリーもポゼッション主体のチームの部類だと思います(守れるかといえば守れない)ので、決勝戦はなかなか楽しみです。

      サッカーが不確定要素の大きいスポーツだとするならば、レアル・マドリーのほうがチャンスはあるかなと個人的に思っています。決勝戦が終わった頃にまた参上してください。
      お待ちしております。

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