【最強のボール保持】ドイツ対ウクライナ【不安な撤退守備】

EURO2016

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怪我をしたため、フンメルスが欠場のドイツ。大会中の復帰はできそうなので、離脱はしていない。アントニ・リュディガーは、大怪我のため代表を離脱。代役として、ジョナサン・ターが代表に選ばれている。

政情不安により、クラブチームの強化に影響が出ていることが大きいウクライナ。そんな条件下でも、ヨーロッパリーグで結果を残したシャフタール・ドネツクは立派。中国のクラブチームに移籍してJリーグのチームと対戦したことで記憶に新しいアレックス・テイシエラの穴を埋めたのがコバレンコ。まだ二十歳だが、スタメンに起用されている。

安定感のあるボール保持と不安定な撤退守備

ボールを保持していないときのウクライナのシステムは、4-4-2。ハーフラインを基準点として、相手のボール保持者にプレッシングをかけるスタイルだ。ただし、ドイツのセンターバックには積極的にプレッシングをかけない。センターバックにプレッシングをかけるときは、運ぶドリブルでハーフラインを越えようとしたときだ。ボールを受けるために、サイドバックの空けたエリアやラインを下りる動きをするクロースやケディラに、ドイツのセンターバックがパスをすると、ウクライナの1列目のプレッシングが始まる約束事になっている。エジルやゲッツェもときどきラインを下りてくるが、ウクライナはしっかりと捕まえることで対応していた。

セントラルハーフをしっかりと捕まえているウクライナの守備に対して、ボアテングがロングパスで相手の3列目の裏の攻略を繰り返した。平たく言うと、ロングボールを連発する。プレッシングが激し良いゆえのプレス回避というよりは、序盤からリスクを冒してビルドアップをする必要がないと判断したのだろう。相手の裏までボールを蹴飛ばせば、相手のボールになる確率が高くとも、ドイツは整理した守備から始めることができる。よって、ウクライナにカンターを許す展開にはならない。守備が整っていない状態でウクライナの攻撃を許すと、序盤に右サイドからのクロスにコノプリャンカが飛び込んだ場面を作らせてしまうかもしれない。よって、ボアテングの振る舞いは正しかったと思う。

10分が過ぎると、ボアテングのロングボール祭りは終わる。そして、ケディラ、クロース、エジルがラインを下りるプレーを繰り返すことで、ビルドアップの出口となり、ボールを循環させていった。ドイツのボール循環の特徴は、サイドバックが横幅を取り、ドラクスラー、ミュラー、ゲッツェが中央でライン間を狙うプレーを見せることだろう。ビルドアップ隊は中(ライン間)か外(大外)を選択しながら、ボールを循環させる。ボアテング、クロースの存在が正確なサイドチェンジを可能とするので、ウクライナはゆっくりと防戦一方となっていった。さらに、放置されても繋げるドイツのセンターバックに対して、ちょっと放置し過ぎな場面がときどき出てくるようになっていく。

ウクライナはボールを保持することで、自分たちの時間帯を作りたい。よって、キーパーも含めた3列目の選手たちにロングボールの意思はないけれど、バイエルンを彷彿とさせるようなドイツのプレッシングにたじたじになっていく。ビルドアップを奪われて速攻を許し、ファウルで止める。そのフリーキックからムスタフィにヘディングを決められてしまう悪循環に、ウクライナは陥っていた。ドイツのボールを保持していないときのドイツのシステムは、4-4-2。ハーフからのプレッシングではなく、相手陣地の深くからでもボールを奪いに行く積極的なスタイルが実を結んだ先制点でもあった。

18分の先制後のウクライナは、ボールの前進をロングボールで行なうようになる。ドイツにとって、このウクライナの方法に苦戦することとなった。ボールを保持したときのドイツの精度の高さ、尋常でない安定感は、最大の武器になる一方で、撤退してからの守備では不安定感を見せることとなった。ウクライナはドイツのサイドバックの裏(特にヘーヴェデスサイド)や前線の選手にロングボールを送る。そのプレーによって発生する質的優位でドイツの守備は、かなりの怪しさを見せていた。アトレチコ・マドリーやレスターの守備の強さの秘訣は、単純に全員で守備をしているという前提がある。しかし、ドイツの1列目やサイドハーフは、撤退守備のときに戻ってこないこともしばしばだった。

全員で守らない、相手との質的優位に勝てないとなると、相手のロングボール祭りや速攻、カウンターに苦しめられることになるのは当然の流れだ。よって、ドイツはボール保持を大切にする。相手陣地からのプレッシングで、相手のボール保持機会を減らすという懐かしいサッカーになっていた。フンメルスがいれば、ボール保持の破壊力は増すだろうけど、撤退守備ではさらに怪しさを見せることになる。フンメルスが怪我から復活したときに、ムスタフィか、フンメルスかのレーヴの選択は、なかなか興味深い。ウクライナに決定機を与えることはあったけれど、ボアテングのスーパークリアーや、残念そこはノイアー!で凌いだドイツ。気がつけば、決定機の数は似たような数字になったところで、前半は終了した。

相手の苦手な部分が自分たちの苦手な部分だったとしても

後半になると、ウクライナの姿勢に少し変化が生まれる。ゴールキックを繋ごうとしていたように、堅守速攻のようでボールを保持したいチームなのかもしれない。しかし、自陣からのビルドアップでは、ドイツの長所でもあるハイプレッシングと正面から向き合うことになる。相性を考えれば、前半のようにロングボールと心中したほうが良い。でも。プレッシングをショートパスでかわせれば、時間と空間をより前線に提供できるという魅力。結局は奪われそうになり、精度の低いロングボールを蹴ることになってしまうのだけど、相手に合わせることの難しさを知る。自分たちの武器が相手の武器を重なったときに、どのように振る舞うかはなかなか難しい。

前半に見せたボール保持を後半も展開するドイツ。サイドバックを上げてセントラルハーフを下ろす形に、ウクライナはまだ対応しない。ドイツではドルトムントが好んでいた形だ。相手のサイドハーフが味方のサイドバックのポジショニングに従属し、相手が6バックのようになるとラッキーという展開になる。相手のサイドバックは、中央に移動したサイドハーフ(ミュラー、ドラクスラー)を観る役割があるのだけど、枚数のかけかたとしてはもったいない。よって、サイドバックを上げる形への対策は、前線から枚数をかけて追いかけ回すことで、ビルドアップの時間を与えない方法が確立された。または、6バックではなく、5バックのゾーンでサイドバックのポジショニングに対応し、中盤の枚数を増やすことで守備を固める方法もよく見られた。

65分にゾズリャ→セレズニョフ。73分にコバレンコ→ジンチェンコ。前線で空虚なプレッシングを繰り返していたコンビが交代する。76分にドラクスラー→シュールレ。ドラクスラーはサイドからの突破に定評がある。よって、横幅をサイドバックだけに任せるのではなく、ヘクターとのコンビネーションで仕掛ける場面も見られた。右サイドのミュラーが中央でプレーする代わりに、左サイドは枚数をかけて崩すというバランスを確保した起用なのかもしれない。ポドルスキーやマリオ・ゴメスが出てこないことは、少し残念だった。

残り時間が10分くらいになると、ウクライナのプレッシングに変化が生まれる。1列目の2枚で2センターバックと2セントラルハーフを見ていたのだが、マンツーマンの様相が出てくる。そんな死なばもろともな雰囲気がもたらしたものは、ドイツの冷静なビルドアップと言うよりは、長いボールによる質的優位による攻略だった。また、ウクライナが攻勢に出たこともあって、相手の守備が整っていないときの速攻、カウンターをドイツが繰り出すようになる。前半よりも2.3列目の距離が近くなったことで、前半に比べると、ノイアー大忙しにならなくなったドイツ。

しかし、ムスタフィのバックヘッドの場面や、相手のゾーンを越える動きに対してのマークの受け渡しミスなど、怪しさを露呈するドイツ。今までは隙のない印象が強かったが、もしかしたらどうにかできるでないか?という希望を相手に与えるチームになっている。ウクライナの計算されたボール循環よりも、適当なボールのほうが苦労するあたりに問題を感じる。恐らく、愚直にロングボールを繰り返すようなチームに苦労するかもしいれないし、自分たちよりもボールを保持するチームと対峙したときに、どのように振る舞うかで、ドイツの完成度が試されるだろう。

最後の最後に登場したシュバインシュタイガーがコーナーキックからのカウンターを沈め、ウクライナにとどめを刺して、試合が終了する。危なっかしい場面もあったが、優勝候補のドイツは、曲者のウクライナを退けた。前半に狙われたヘーヴェデスの裏もケディラで抑えるなど、しっかりと修正したところは流石。ただし、サイドバックを上げるサッカーをするなら、ドルトムントのコンビに出番があっても良いような気がする。しかし、2人共に呼ばれていない。大外からクロスに合わせる、大外からクロスを上げることに限って言えば、シュメルツァーとギンターは最適な選手のような気がするけども。

ひとりごと

ゼロトップがボール保持を強めるためのものだとすると、ゲッツェがいなくても十分にボールを保持できたドイツ。つまり、ゼロトップの意味があまりない。必然性がないというか。もちろん、クロース、エジル、ケディラでボールが回らないときに必要になりそうなのだけど、それは相手次第というか。クロスがゴールに繋がらなかったように、本職のセンターフォワードでも良かったような気がするが、マリオ・ゴメスしか呼ばれていないので、やらないだろう。

ウクライナは、両翼のコノプリャンカ、ヤルモレンコが噂に違わない選手だった。死なばもろともでドイツの速攻を許したけれど、もう少し早く勝負を仕掛けても良かったかもしれない。

コメント

  1. 名無し より:

    更新お疲れさまです

    分析に要するに時間って、何時間くらいですか?
    相当掛かりそうな気がしますが、らいかーるとさんの場合はどうですか?
    教えてください。

    • らいかーると より:

      名無しでコメントしたら、もう載せないからね(-_-)

      試合を見る時間が90分。書くのに30分から60分。それで終わりです。EUROのグループリーグは適当に(!!!!!!)書いているので、観戦時間とあわせて120分くらいで書いてます。

      • NNS より:

        返信ありがとうございます。
        名無し、辞めます(笑)

        どうしたら、もっとサッカーを戦術的に観られますか?
        「サッカーのみかた」と言う本を参考にすれば、ある程度はOKでしょうかね?

        • らいかーると より:

          NNSならオッケーです(・∀・)

          本を読むよりも、試合を見るほうが良いです。試合をみたら、起きたすべてのことを文章にしてください。
          たぶん、それが一番の遠回りで一番の近道です。

          • NNS より:

            ありがとうございます

            自分なりに分析をして、楽しみたいと思います。

  2. ドイツファン より:

    試合を見ていましたが、ドイツの守備の緩さを感じました。
    ファアルやカードも減ったとも取れますが。
    攻撃ではクロースが素晴らしかったです。
    ボールを持っていないときのケディラも良かったです。
    スペイン以外の国ではドイツが確実に主導権を握ると思いますので、クロースがキープレーヤーになりそうです。

    • らいかーると より:

      ドイツの守備は緩かったですね。全体的に撤退守備の強度が低いイメージのある大会になっています。
      ケディラとクロースは、らしさを出していましたね。

      個人的にドイツは左サイドと1トップの選手がどれだけ活躍できるかにかかっていると思います。

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