【ルヴァンカップファイナル】湘南ベルマーレ対横浜F・マリノス【プレッシング対ポゼッション】

J2018

欧州で行われているカップ戦は、基本的にリーグ戦に出場していない選手が出場機会を得る場として機能してきた歴史がある。かつてはナビスコカップと呼ばれていた日本のカップ戦も、ようやくそのような場として機能するようになってきている、気がする。湘南ベルマーレの場合は、若手を起用しすぎて罰金を食らったようだけれど。育成年代を見渡せば、神奈川の盟主は、なんだかんだ横浜F・マリノスである。最近は元気になってきた湘南ベルマーレの下部組織だけれど、そんな下部組織の力関係を考慮してトップチーム同士の試合を眺めても面白いかもしれない。下部組織では負けても、トップチームでは負けない!みたいな。

湘南ベルマーレのスピードにたじたじ

湘南ベルマーレのボール非保持のシステムは[5-2-3]

1列目の役割は「中央にボールを入れさせないこと」。ボールを外に誘導させることが彼らの役割となっている。

2列目の役割は「対面のインサイドハーフをマンマーク」。ボールを引き出すために幅広く動き回る天野の側には金子が隣に寄り添っている場面が多かった。[5-2-3]の泣き所である「2セントラルハーフの横のエリア」も根性でカバーリングしている秋野と金子のハードワークはさすがだった。

3列目の役割は、「ウイングバックは相手のウイングを抑えること」「センターバックはウイングバックの空けたエリアをカバーリングすること」「苦し紛れの相手のロングボールをしっかりと味方に繋ぐこと」。仲川のスピードに苦労する場面もあったが、空中戦ではそれぞれの選手に完勝の湘南ベルマーレであった。

横浜F・マリノスはボールを繋ぐことを至上命題としている。前線の3枚が空中戦でべらぼうに強いわけではないこともあって、意地でもボールを繋いでいきます!という姿勢に矛盾はまるでない。よって、様々なビルドアップの形を持っているのだが、湘南ベルマーレの1列目とウイングバックとセントラルハーフのマンマークに「ビルドアップの出口」となる面々が苦しむこととなった。

特に厳しかった場面は、「ゴールキックからの再開」だろう。明らかに狙われているけれど、ひとまずは繋いでみた横浜F・マリノス。しかし、ボールを奪われてフィニッシュまで持っていかれていた序盤戦。ならばと、ウイングに蹴っ飛ばしてみるけれど、空中戦にはやっぱり勝てないし、ロングキックの精度も決して高いものではなかった。

ビルドアップ対プレッシングの寄り道

横浜F・マリノスが得意としている「サイドバックのセントラルハーフ化」はこの試合でも行われた。しかし、中央を絞っている湘南ベルマーレの1列目の狙いからすると、優位性を得られるものにはならなかった。試合の流れを追っていくと、サイドバックのセントラルハーフ化→インサイドハーフのサイドバック化(天野が得意とする動き)を実行する横浜F・マリノスだったが、湘南ベルマーレの「マンマーク&自分のマークを捨てて次の対象にプレッシングをかける判断の速さ」によって、にっちもさっちもいかない状況になっていた。

上の図は机上の空論になるのだが、とあるチームが実際に行っていたビルドアップの形となる。相手が3トップで中央を制限する狙いを持っているならば、しっかりと迷ってもらう作戦である。松原と山中の役割は、相手の間(センターフォワードとウイング)の間にポジショニングする。このポジショニングによって、ウイングとセンターフォワードは自分たちの距離をパスを通されない程度に圧縮する必要がある。もしも、圧縮しなかったら、簡単に1列目を越えられてしまうからだ。3トップの選手同士の距離が圧縮すればするほど、大外にスペースが生まれる。

よって、3バックが横幅をとってボールを保持することができれば、大外から前進できるというネタになっている。大切なことは、二者択一となっていることだ。相手からすれば、中央を守るのか、外を守るのか。ボール保持から見れば、相手の外から前進するのか、相手の間に前進ルートを見つけるのか?となる。

ただ、横浜F・マリノスの場合は、センターバックが機動力にかけるように見えたので、まあ、机上の空論となる。ただ、27分の場面はこの形に構造は似ていた。それはほっておいて、次に机上の空論でない実際の横浜F・マリノスの振る舞いについて見ていきたい。

時間の経過と天野の列を下っていく動き

相手陣地からの攻撃的なプレッシングを行っていた湘南ベルマーレ。しかし、20分がすぎると、プレッシング開始ラインを下げ始める。それと時を同じくして、ビルドアップの最適解が見つからない横浜F・マリノスは、天野が動き始める。かつての中村俊輔のように、天野は「フリーマン」のように振る舞うようになっていった。この動きに対して、プレッシング開始ラインを下げた湘南ベルマーレはマンマークで天野に対応する道を選ばなかった。味方の1列目を越えてまで、金子が天野にプレッシングを行うことはさすがにやり過ぎとなってしまう。

横浜F・マリノスはこの天野の登場と、サイドバックのサイドバック化(普通)によって、湘南ベルマーレの陣地に入れるようになっていく。

ただし、「どの選手配置が湘南ベルマーレにとって厄介」なのかは、選手同士の中で共有されていないようだった。なので、不安定な状態のなかで、選手の配置が変更されていくので、攻撃が安定する雰囲気はなかった。チームが機能しているときに、自分たちの型を変更することは相手に混乱を与える。しかし、自分たちがうまく行っていないときに型を変えることはあまり得策とは言えない。例えば、サイドバックが本来の位置にいる型とサイドバックがセントラルハーフ化することは、この後も曖昧なトリガーのまま交互に繰り返されていった。

よって、引いた湘南ベルマーレにカウンターをくらう場面が出てくる。カウンターをくらう原因はトランジションへの備えというよりは、そこでボールを失うんかい!!というボール保持のミスだったと感じた。例えば、ピンどめするはずのウイングが下がってきたり、扇原が下りて3バック化したときの前にいる人数が変わったりなどなどのように、攻撃の位置が安定しなければ、ボールを失わずに攻撃を続けることは難しい。また、ゴールキックのように、この位置でボールを奪われることは想定していないよという場合は「トランジションの備え」もやっていないので、余計に湘南ベルマーレのトランジションを加速させることになる。

そして、湘南ベルマーレが先制する。ただし、湘南ベルマーレのゴールはスローインからのボール保持攻撃から生まれた。堅守のイメージのある横浜F・マリノスだが、自分たちの撤退守備や湘南ベルマーレの繰り返される速攻の前に、選手のポジショニングがあやふやな場面は多々見られた。このDNAが失われていくことはちょっともったいない。

私は3人目だから

ゴールキックなどのプレーの再開などでは、前半に見せていたような攻撃的なプレッシングを行う湘南ベルマーレ。しかし、リードしている状況もあって、後半は自陣からプレッシングを開始する場面が目立った。[5-2-3]で守るチームは、撤退したときは[5-4-1]になりがちなのだけど、湘南ベルマーレは[5-2-3]をできるだけ維持しようとしていた。ハーフスペースの入り口を封鎖することによって、横浜F・マリノスにいつものように攻撃を許さない!という狙いがあったのだろう。また、攻撃面を考慮すると、この位置にいれば、カウンターの起点となれる可能性が高いことは言うまでもない。

曖昧なポジショニングを見せていた横浜F・マリノスだが、前半よりは相手が撤退してくれたこともあって、いつものようにボールを保持できるようなっていった。横浜F・マリノスの攻撃で目立っていたのは右サイドの仲川。専修大学のスーパーエースがようやくメジャーデビューである。大津とのポジションチェンジでも、ともに長所を失わないコンビとなったおり、非常に選手配置の巧みさを思い知らされた。

ただし、チャンスを生み出しそうだったのは左サイドである。

どこまでもついていく金子。さすが、市立船橋の影の立役者だった選手だ。いつのまにか湘南ベルマーレにいて笑ったのは秘密だ。最近は大学に行ったけれど、気がついたらプロになっていたでござる!という選手が増えてきている気がする。まだまだレアケースだろうけど。

サイドの守備はサイドバックとサイドハーフが連携して行うことが多い。相手もサイドバックとサイドハーフで対応することが多い。よって、3人目が登場すると、相手が困ることが多い。3人目を登場させるパターンは多岐にわたる。オーソドックスな形は、「3-4-3」などによる3列目からの登場(センターバックの攻撃参加)だ。亜種の形としては、逆サイドのサイドハーフが登場などもある。なお、センターフォワードがサイドに流れて3人目になる形もポピュラーになりつつある。

ボールを保持するチームの勝負は後半!という格言がある。その心は、90分も相手陣地でプレッシングを継続できるチームなど、ほとんど存在しないからだ。よって、後半には相手陣地でボールを持つことができるようになる展開になることがオーソドックスである。この試合もそういう試合となり、横浜F・マリノスはあと一歩のところまで迫ることはできていた。しかし、秋元を焦らせるような場面はあまりなかった。秋元のファインセーブは記憶にない。その理由は、湘南ベルマーレがシュートを打つ選手に対して、しっかりと主体性をもって守備ができていたからだろう。なので、オープンな状態でシュートを打つような場面はほとんどなかった。それでも、あわやPKの場面や、繰り返されたセットプレー、ゴール前でのトラップが成功していれば、というたらればを言いたくなるような場面があったことも事実だ。というわけで、ちょっとした「運」が足りなかった横浜F・マリノスは、「万事を尽くした」湘南ベルマーレに敗れることとなった。

ひとりごと

日本(ハリルホジッチ)対オーストラリア(ポステコグルー)のような試合だった。

横浜F・マリノスは、攻守にポジショニングがあやふやだったことが印象に残っている。特に相手がボールを保持しているときにどのように守るかの部分がチームの長所だったと思うので、新しい長所を手に入れる過程で、それらを捨てないようにするためにはどうしたらいいのか?とか考えている。ビルドアップのときに「形」で覚えているのか、「相手」で決めているのか、「コンセプト」でプレーしているのかは気になる。なので、誰か聞いてきてください。いつだって「アラバロール」や「サリー」は悪手です。

湘南ベルマーレは、噂にたぐわぬチームだった。個人的には交代した選手をまた交代した時点で結果が出てよかったと思っている。あれで同点にでも追いつかれたら、選手と監督が非難轟々となる。そういうことをしたんだけど。セントラルハーフやウイングバックの役割過多は気になったが、平気でやりきるところが素晴らしい。特に埼スタに帰ってきた岡本くんにとってこの結果は言葉では言い表せないものだったのではないだろうか。特に良かったことがロングボールに対する準備。横浜F・マリノスが準備をしていない苦し紛れだったこともあって、攻守にロングボールをマイボールにする設計は見事だった。

コメント

  1. 通りすがりのスポーツファン より:

    いつも楽しみにしています。
    この分析は何回くらい試合を見てまとめてらっしゃいます?この試合、私はライブ中継で見ていましたが、一回見ただけでは時系列が曖昧になってしまうこともあり、なかなか記憶を辿って整理するのが難しかったです。

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