【プレー再開の定着してきたセオリー】セビージャ対バルセロナ【メッシという劇薬】

マッチレポ1617×リーガエスパニョーラ

セビージャのスタメンは、リコ、エスクデロ、カリーソ、ラミ、マリアーノ、エンゾンジ、ナスリ、フランコ・バスケス、ビトロ、サラビア、ビエット。清武はベンチ。ホームでは無類の強さを見せているセビージャ。バルセロナを迎えての試合となった。サンパオリとリージョのコンビに浪漫を感じさせられた人は多いだろう。しかし、試合の内容は何とも言えず。一方で結果は出すという思ってたのと違う現状に少々驚いている。ビッククラブを相手にしたときは、ポゼッションを捨てることも躊躇わないセビージャなので、この試合ではそんな姿勢の強度に期待している。

バルセロナのスタメンは、シュテーゲン、ディニュ、ウムティティ、マスチェラーノ、セルジ・ロベルト、ブスケツ、デニス・スアレス、ラキティッチ、ネイマール、メッシ、スアレス。怪我人が多いバルセロナ。イニエスタ、マテュー、ピケ、ジョルディ・アルバは怪我で離脱している。よって、ベンチには見たことのない名前の選手もずらり。こんなときこそカンテラ育ちの選手がチームを救う、または台頭するのがバルセロナの伝統。新戦力のディニュとウムティティにとっては、出場機会を得るいいチャンスになっているか。

ボールを保持させないことで、バルセロナの良さを消せ

メッシ、ネイマール、スアレスの破壊力によって、今までのバルセロナとは異なる武器を手に入れたルイス・エンリケ。その姿勢に様々な評価はあれど、勝てば官軍なのは、スペインでも変わらないだろう。速攻やカウンターアタックでも他のチームとの違いを見せつけられるようになってきたバルセロナ。しかし、基本プランは、ボール保持からの定位置攻撃と言っていいだろう。ルイス・エンリケのバルセロナは、定位置の精度を上げることにこだわりを持たなかった。その代わりに、カウンターという武器を繰り出す機会を増やすことで、攻撃方法の変化によって、得点を狙うように設計してきた。定位置攻撃を中心として試合のリズムを支配し、得点は速攻やカウンターで奪うというスタイルは、ルイス・エンリケのバルセロナの代名詞となりつつある。

この試合のセビージャのプランは、バルセロナにボールを保持させないことだった。カウンターや速攻で得点を取りに来るとしても、試合の大部分を占めるのは、バルセロナがボールを保持する時間である。だったら、バルセロナにボールを保持させない。そして、自分たちがボールを奪われなければ、カウンターをくらうことはない。前線から激しいプレッシングを仕掛ければ、効果的な速攻をバルセロナに許さないことも可能だ。今季のセビージャは、ポゼッション野郎とかしている。よって、セビージャのプランは、平たく言うと、正面衝突であった。もちろん、バルセロナ対策として理にかなっている。事前の予想としては、もう少し構えると考えていたので、その勇敢な姿勢に感服した。

プレー再開の新たなセオリー

セビージャのプレッシングが目立った局面は、バルセロナがゴールキックで試合を再開するときであった。グアルディオラ時代のバルセロナは、ゴールキックを意地でも蹴らなかった。蹴るとしてもフリーのサイドバックにぴったりなボールを通すことで、ボール保持を安定させていた。その姿勢は、ルイス・エンリケ時代も受け継がれている。よって、ボール保持のスタートとなるゴールキックに対して、セビージャは激しいプレッシングを行なった。myboard

ボールを保持したいバルセロナからすると、ゴールキックは蹴り飛ばしたくない。よって、意地でも繋ごうとする。しかし、セビージャは枚数をかけてプレッシングに来るので、ボール保持者の選択肢がほとんどない。エンゾンジまでプレッシング隊に加わるとは予想していなかった。理屈では、ウムティティがセルジ・ロベルトにサイドチェンジをできれば、プレッシング回避となる。しかし、プレッシングを受けている状態で精度の高いサイドチェンジを蹴ることは困難な作業だ。ボールを受けに下るバルセロナのアンカーとインサイドハーフに対しても、ボールサイド(シュテーゲンがマスチェラーノに蹴るか、ウムティティに蹴るか)でスライドすることで、マンマークのように対応できていた。

バルセロナからすれば、ロングボールでプレッシング回避を狙うしかなくなっていく。自陣でボールを失うよりは、相手陣地でボールを失ったほうがましだ。よって、ネイマール、スアレス、メッシにロングボールを蹴る展開が増えていくが、空中戦に準備万端の選手たちになかなか勝てなかった。この展開によって、セビージャはバルセロナのビルドアップのスタートを破壊することに成功する。そして、セビージャはカウンターやボール保持からの攻撃でバルセロナのゴールに迫っていった。

ボールを動かしながらのボール保持は、決して困難な作業ではない。しかし、プレー再開(ゴールキックやスローイン)からのボール保持は、相手に守備を整える時間を与える(だからこそ、クイックリスタートはこれから流行る)ことになる。相手が守備を整えられるにもかかわらず、自分たちの選択肢は少ない。ゴールキックをショートパスで繋ごうとすれば、センターバックかブスケツに蹴るくらいだろう。よって、それらの選手にボールが渡ったあとの守備側のポジショニングは準備されたものになる。その状況を回避することは難しい。そういう意味では、ゴールキックを競り勝てる選手の希少価値は上がっていくだろう。

メッシという劇薬

バルセロナのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。メッシが下りてこない代わりに、ネイマールは下がる。かつてのレアル・マドリーが同じ方法で守備を行っていた。そのときの苦労人はディ・マリア。バルセロナではネイマール。メッシが中央にポジショニングしたこともあって、スアレスは右サイドでのプレーをする機会が多かった。気を使うスアレス。ボールを保持しているときは、セルジ・ロベルトやラキティッチが右サイドのエリアにポジショニングする役割になっているのだけど、ボールを保持することがあまりできなかったこともあって、応急処置のようだった。

味方がボールを保持しているときに、まったりしているメッシ。味方がボールを保持しているときは、それでも問題にはならない。むしろ、周りとのスピードとの差が、メッシに時間とスペースを与えるようになっている。ただし、相手がボールを保持しているときも、メッシは走ったり走らなかったりと安定感がない。このメッシの守備の不安定感が、セビージャのボール保持を助ける形となってしまう。バルセロナの積極的なプレッシングは、連動性が皆無だった。よって、あっさりとサイドにボールを運ばれると相手をフリーにしてしまう。セビージャの前進は、エンゾンジ下ろしとナスリのヘルプが中心に行われる。ネイマールやスアレスがセンターバックまでプレッシングに行くと、サイドが空くのは定跡で、その定跡でボールを運ばれてしまうのは物悲しい場面であった。

トランジション局面での勝負

後方からの攻撃参加を助けに、セビージャの攻撃は行われていく。バルセロナも4-4-2でセビージャの攻撃を迎え撃つ。ボールを保持できなかったと書いたバルセロナだが、もちろんボールを保持できる場面もある。試合の展開で興味深かかったのは、ボールの移り変わりでのプレーの成功確率であった。ボールを奪っても、すぐに奪われたら、相手にさらなる攻撃の選択肢(ボール保持か、ショートカウンターか)を与えることになる。よって、ファーストディフェンダーをかわす必要がある。

セビージャはこの切り替えでバルセロナを凌駕することができた。そもそも個々の選手の能力が高い。ナスリ、フランコ・バスケス、サラビアは持ち前の技術によって、相手のプレッシングを無効化する。そして、ポゼッション野郎として過ごしてきた年月は無駄でない。ショートパスの連続でバルセロナの最初の守備者を剥がすこともできていた。この局面でのデュエル勝負で負けない&組織でも外せたことによって、セビージャはカウンターを繰り出す機会が多かった。そして、15分にはヴィトロが先制ゴールを決める。

メッシという劇薬、再び

先制点が試合に与えた影響は少なかった。エンジン全開でピッチを走り回るセビージャ。バルセロナは四苦八苦。良くも悪くも、バルセロナらしさを出すことはできなかった。そういう展開で光るのはメッシ。ナスリのようなフリーマンのような動きでボールを受け、ボールを繋いでいく。バルセロナのすべての攻撃の起点となり、チャンスメイクもすれば、ときどきはフィニッシャーにもなる。速攻局面では、徐々にネイマールも存在感を示すようになり、単純な意味での個の力で殴り返していくバルセロナは、ある意味でルイス・エンリケ時代のバルセロナを象徴するような時間帯だったのかもしれない。

前半はセビージャがプランどおりに試合を進めていた。バルセロナはときどきボールを保持して、ときどきカウンターをしていたに過ぎない。ただし、その中心にいたメッシは、異次元な存在感を放っていた。そして、そんなメッシを中心に前半の終了間際にバルセロナのカウンターが炸裂する。

メッシからデニス・スアレスを経由したボールは、ネイマールの元へ。ネイマールは主役の上がりを待ち、最後はメッシが決めて、バルセロナが同点ゴールを決めることに成功する。セビージャに試合を思い通りにすすめさせる要因になったメッシだが、試合の流れをぶっ壊したのもメッシだ。このゴールのダメージは非常に大きなものとなった。

後半のセビージャは、4-1-4-1で自陣に構えるようになった。その要因はたくさん推測される。22分過ぎからブスケツの下りる動きに、セビージャはいまいち対応できなかった。3バックのビルドアップに対して前からプレッシングをかけるときは、3トップへの変化が定跡となっている。しかし、セビージャはピッチ上への変化に気がつくことなく、仕組みを変えないでプレーを続けた。その結果、ゆっくりとバルセロナがらしさを発揮するように変化している。また、後半のバルセロナは、セルジ・ロベルトの多彩なポジショニング(3バックの一員や2列目に上がっていく動き)を仕込んでいた。しかし、セビージャが下がったことで、そのセルジ・ロベルトの動きはあまり目立たなかった。

おそらくは、メッシの同点ゴールのダメージが大きかった。そのダメージはセビージャのプレーのクオリティを下げ、バルセロナのトランジションディフェンスを機能させることにもなった。ボールの保持を許されたバルセロナは、らしさを存分に発揮していく後半戦となる。そして、チームが機能しなくなれば、わけのわからないミスも出てくるセビージャ。センターバックのカリーソがボールを奪われると、バルセロナのカウンターが発動する。スアレスのゴールを演出したのはやはりメッシ。メッシのアシストで、バルセロナが逆転に成功する。

攻める必要性が出てくるセビージャだが、変更した戦い方を元に戻すことは難しい。ネイマールのかつてのチームメイトであるガンソ、背の高いイボーラを出すが、セットプレーは惜しくも枠を外れる。バルセロナもアンドレ・ゴメスを出場させ、背の高さで対抗する。最後に登場したホアキン・コレアが意地を見せるが、ゴールには届かず。スコアが動かないまま、上位対決はバルセロナの勝利で終わった。

ひとりごと

ミスも目立ったが、デニス・スアレスがなかなか良かった。イニエスタとシャビの後継者で揉めていたが、ラフィーニャ、デニス・スアレス、いざとなったらセルジ・ロベルトと継続起用すればどうにかなりそうな選手が出てきていると思う。いざとなったら、チアゴ・アルカンタラを買い戻すか。しかし、アンドレ・ゴメスを補強するという補強策を考えると、そんな考えは片隅にもなさそうだけど。

セビージャは、システムの最適解を見つけたようだ。4-1-4-1。エンゾンジを下ろしたボール前進。サイドバックはウイングのように振る舞う。後ろからどんどん人を追い越す。サイドバックとセンターバックの間のエリアを見逃さない。清武が試合に出るとすれば、インサイドハーフのポジションか。サイドハーフもいけそうだけども、ホアキン・コレア、ヴィトロとのキャラの差を考えると、なかなか難しい。激しいスタメン争いは続く。

コメント

  1. ととや より:

    監督はメッシ対策に自信があったんでしょうが、メッシは前半のうちに攻略してしまいましたね(アルゼンチン代表ならそのまま孤立していたところですが)。
    プランが崩れたことでセビージャは自信喪失し、プレッシャーに屈してコンパクトさを失ったと。
    CL明けのチームに取りこぼしが多かったですし、セビージャもその一例だったのかもしれません(シティも後半に失速しましたし)。
    逆にバルサはCLから立ち直った試合となりました。今季は要所でかなりの粘り強さを見せています。

  2. あおき より:

    試合見てませんが分析が面白過ぎて試合を堪能したかのようです。色々な戦略や仕組みが作用してるんでしょうがサッパリ分からない僕のような素人はこのような解説があると一気に面白さが分かりますね。
    ありがとうございます。

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