【守備がやばいのはどちらか?】川崎フロンターレ対名古屋グランパス

マッチレポ2016×Jリーグ

川崎フロンターレのスタメンは、チョン・ソンリョン、車屋、エドゥアルド、奈良、谷口、中村憲剛、大島、狩野、エウシーニョ、森谷、大久保。インフルエンザのため、小林悠は欠場。柏レイソルから移籍してきたエドゥアルドを起用し、谷口、エウシーニョ、狩野のポジションをずらして対応した。攻撃に定評のある川崎フロンターレだが、メディアによると、最近は守備問題に着手したと話題になっている。オリンピック代表組を見てみると、奈良はスタメンに定着しているが、原川は行方不明。どうなる原川。

名古屋グランパスのスタメンは、楢崎、安田、竹内、オーマン、矢野、田口、イ・スンヒ、永井、古林、松田力、シモビッチ。不安が一杯の小倉監督の船出は想像よりも上々。そして、シモビッチの高さは尋常でない。どちらも本職はサイドバックでなかったけれど、右サイドでコンビを組んでいる矢野と古林のコンビが注目を集めている一方で、シモビッチの相方には誰がなるのか問題に関しては、まだまだ迷っているような小倉監督。今日の相方は松田力。単純に永井で良いような気がするのだけど、左サイドでかたくたに起用されている。カウンターで前に出ていく破壊力を求められているのだろう。

川崎フロンターレ流、1列目の突破

名古屋グランパスのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。川崎フロンターレはボールを保持することを長所としている。よって、名古屋グランパスは、相手陣地の深いエリアからの積極的なプレッシングを好んで行っていた。特に、川崎フロンターレのゴールキックに対しては、意地でも繋がせないポジショニングをとっていた。意図としては、ボールを奪ってのショートカウンターよりも、川崎フロンターレのビルドアップの出口をロングボールにしたいという意図があったのだろう。対する川崎フロンターレは、出来る限りは地上戦、でもロングボールを蹴るときは左サイドバックの安田を狙おうとしっかりと準備をしてきていた。

6分に川崎フロンターレが先制。ゴールキックからのロングボール展開。ハイプレスによって、2.3列目の間にスペースができ、そのエリアからボールを運ばれる展開。最後はエウシーニョ。シュートはゴラッソで楢崎もノーチャンス。ロングボールを蹴らせておけば、問題ないという計算が狂った名古屋グランパスだった。

失点後の名古屋グランパスは、全体のラインを下げて、川崎フロンターレのビルドアップに対抗する展開に試合が推移していく。名古屋グランパスのボールを保持していないときのシステムは、ひきつづき4-4-2。シモビッチと松田力は、撤退してからも相手の陣地からのプレッシングを行う意図を見せていた。システムの噛みあわせ論でいけば、松田力とシモビッチ対奈良とエドゥアルドの数的同数状態になる。相手のビルドアップの精度を落としたいときの常套手段である数的同数プレッシングが始まりそうな気配があったが、そうは問屋がおろさない。川崎フロンターレのビルドアップの形に、名古屋グランパスはあっさりとボールを前進を許してしまう場面が多かった。

この試合の川崎フロンターレのビルドアップの特徴は、大島(ときどき中村憲剛)を相手の2トップ(シモビッチと松田力)の間にポジショニングさせること。2トップの間にアンカーを置くことは定跡。2トップの守備の基準点がセンターバックだと突撃していくと、あっさりと2人の間を通されて、1列目を突破されてしまう。守備側の理屈とすれば、さらに数的同数にするために2列目からヘルプを待つか、2トップを縦関係にすることで、相手のセンターバックへのプレッシングが弱まることを是とするか。名古屋グランパスはこの割り切り(何を捨てて何を守るか)が曖昧なまま試合を進めていた。

相手の2トップの移動距離を長くする、または2トップの距離を離し、大島へのパスラインを作るために、センターバック同士で横幅をとる。さらに、大島が中央に鎮座する関係で余っている中村憲剛をサイドに流れさせる(理屈はサイドバックの上がったスペースにポジショニングする)ことで、大島と中村憲剛というビルドアップの出口を作ることに成功した。特に中村憲剛のポジショニングが機能していた。4-4-2攻略の最初の一手は、2トップの間か2トップの横のエリアを使うことだ。川崎フロンターレは定跡通りに2つのルートを確保することで、試合の主導権を握ることに成功する。2つのビルドアップの出口が有効に機能したこともあって、川崎フロンターレはボールを保持することに成功し、名古屋は耐えに耐え忍ぶ展開と試合は推移していった。

ゾーンのようで、マンマーク

守備の基準点という言葉がある。平たく言うと、誰をマークすべきなんだという対象だ。ゾーン・ディフェンスではボールと味方の位置でポジショニングが決定する。相手の位置はあまり気にしなくて良い。しかし、狭いスペースで活動できる選手、またはゾーン・ディフェンスの構造上、捨てているサイドに広いスペースを与えられたら、試合を壊しかねない選手が、近年は登場してきている。よって、相手によってポジショニングを修正する必要がある。相手にイニエスタやシルバがいれば、中盤のスペースをなくすために横の圧縮を強めるべきだ。そして、サイドにドグラス・コスタやネイマールがいるならば、彼らにボールが渡ったときに出来る限り早く寄せられるようにポジショニングを取る必要がある。

名古屋グランパスの守備を見ていると、人への意識が強い。1列目の守備は、相手のセンターバック(まさに噛みあわせ論)しか見ない傾向が強い。そして、サイドハーフ(永井と古林)は相手のサイドバックを見る。そして、サイドバックの高いポジショニングにつられて、名古屋グランパスは6バックになることもあった。永井のポジショニングがゾーン・ディフェンスの公式通りだったり、マンマークの公式通りだったりと、慌ただしく守備のルールが入れ替わっていた原因は、よくわからない。なお、その後も時には、4-4-2、または6-2-2と移ろう守備だった。たぶん、特にトリガーはない。

繰り返しになるが、名古屋のサイドハーフは人への意識が強い。よって、サイドバックのポジショニングに引きずられる傾向がある。その傾向によって、イ・スンヒ、田口とサイドハーフの間のエリアを川崎フロンターレのサイドハーフにライン間として使われる。チームの約束事としてボール保持者へのプレッシングがある。よって、1.2列目のライン設定は高め。3列目も連動したいのだけど、サイドハーフのライン間についていくのは、やらないことが多い。迎撃守備(自分のポジションを離れてボールを引き出す動きについていくこと)を積極的に行っていたのはオマーンくらいだった。さらに、相手のビルドアップに1列目はたじたじだったので、田口とイ・スンヒには理不尽な負担がのしかかっていた。

川崎フロンターレの狙いとしては、ビルドアップでオープンになった選手を攻撃の起点にする。ボールの受け手は、大外のサイドバック、相手のセントラルハーフとサイドハーフの間で受けようとする前線の選手と、よく整理されていた。名古屋グランパスは6バックになりがちだったので、セントラルハーフの横のスペースを好きなように使われていた。名古屋グランパスとしては、迎撃守備で対抗するしかないのだけど、迎撃守備をするサイドバック、センターバックに対して新たなマークを準備することで、ピン止めに成功する川崎フロンターレという場面も何度も見ることができた。

攻撃の起点、攻略の第一歩、そのための下準備をしっかりしてきた川崎フロンターレ。しかし、追加点は入らない。川崎フロンターレの攻撃は、中央突破を長所としてきている。しかし、名古屋グランパスは幸か不幸か6バックで中央の枚数は多い。さらに、川崎フロンターレは大久保を下げることに対する森谷、狩野のフォワード化はできていたのだけど、得点を取る動き(例えば裏抜け)に長けているかというと微妙。そんな状態が続くと、22分には耐え切れなくなったイ・スンヒと田口が暴走気味に中村憲剛と大島を捕まえに行く。名古屋グランパスのシステム噛みあわせ論再び。中央にぽっかりとスペースができる博打打ちのような守備だったが、川崎フロンターレを慌てさせるには良い変更だった。その後はやったりやらなかったり。

26分に名古屋グランパスがカウンターから同点ゴール。川崎フロンターレの守備がどうこう、というよりは、チョン・ソンリョンの対応の怪しさだけが記憶に残っている。そして、前半は終了。安定しないけど、人海戦術で耐え忍ぶ名古屋グランパス。裏抜けがない以外は、自分たちのやるべきことができている川崎フロンターレ。でも、スコアは同点と、川崎フロンターレからすれば、切ない状況で前半は終わった。

小倉グランパスの修正

前半を振り返れば、同点で折り返せたけど、自分たちの試合前に思い描いていたことは、どれだけできたのだろうかと自問自答の小倉監督。まずは攻撃の起点をやっぱり潰しに行かなければならないと田口、イ・スンヒに中村憲剛と大島へのプレッシングを強化。川崎フロンターレのセンターバックにショートパスの選択肢をなくさせる。ロングボールを蹴らせたら、2列目の運動量でセカンドボールを回収する作戦でボールを奪い返しに、というよりは、川崎フロンターレの攻撃の精度を落とす守備をするようになる。また、田口、イ・スンヒの連動にともなって、出来る限り4-4-2で守ることを順守。田口、イ・スンヒが前に出て行ったときにできるエリアは、3列目の撃退とサイドハーフの中央絞りで対応するしか無い。

名古屋グランパスの守備の修正に対して、川崎フロンターレはロングボールが増えていく。つまり、ビルドアップの出口を見つけられなくなるのだけど、川崎フロンターレにとってもメリットがあった。前半は自分たちのフォワード仕事をできる選手の不足、相手の中央人海戦術に苦しんだ。前者には森本の投入で、後者は相手の守備変更によって解決される。それでもビルドアップができなくてはどうなんだ?となりそうだが、ボールが落ち着かないということは、両者にカウンターチャンスが訪れることになる。ボール保持で相手の攻撃機会を減らすことがなくなるが、川崎フロンターレにとっても歓迎すべきともとらえられるカウンター合戦となった。よって、前半に比べると、相手のエリア内に侵入する場面が増えていく川崎フロンターレ。

この流れから逆転ゴールを決めたのは63分に名古屋グランパス。永井のカットインに対して、谷口とエウシーニョとの対応がお粗末であった。大島の中のカバーリングポジションも怪しかったが、一番はキーパーだろう。せめて、反応してほしい。かりにシュートが見えなかったとしても。ただ、この得点はカウンターではなく、スローインから始まっていることは忘れはいけない。

大島と中村憲剛の中央を抑えられている川崎フロンターレ。大外からのビルドアップが大事になるが、奈良がミス。このミスがきっかけではないだろうが、奈良→中野で攻撃にでる川崎フロンターレ。谷口とエドゥアルドのセンターバックになったこと&名古屋グランパスの2列目が徐々に前に出てこれなくなったこともあって、川崎フロンターレの波状攻撃が始まる。川崎フロンターレの攻撃は中央への突撃&コンビネーションが中心になるのだけど、なかなかの破壊力であった。狭いエリアも利用するという技術と発想はさすが。また、車屋のサイドからの仕掛けも、とても印象に残っている。

そして、ショートコーナーから中村憲剛のクロスに大久保が合わせて同点ゴールが決まる。振り出しにもどった試合だが、永井を中心とするカウンターの破壊力は尋常でなかった。ボールを保持したときの地上戦にはまったく破壊力がない名古屋グランパス。でも、シモビッチに放り込んでの2列目のプレッシング発動は強い。高さとカウンターという武器がある以上、やっぱり大崩れはしなそうな雰囲気。永井のスペールな個人技からのシュートは、松田力の気をきかせたプレーがオフサイドになり、ノーゴールとなった。

おおとりは中村憲剛。小倉監督は矢田、明神を入れて、1列目の守備問題、イ・スンヒのカードトラブルの対策をうった。しかし、攻撃の始まりがスローインからの奇襲的ミドルシュートではどうしようもない。中村憲剛のミドルシュートが炸裂し、川崎フロンターレが逆転に成功する。盛り上がりを見せるスタジアムを尻目に、名古屋グランパスは最後の反撃に出る。でかいことはいいことだみたいな。よって、川崎フロンターレも井川を投入し、逃げ切りをはかり、無事に成功する。こうして、勝ったほうが首位対決は、川崎フロンターレに軍配が上がった。

ひとりごと

川崎フロンターレの守備について、どのような状況なのか知りたかった。けれども、名古屋グランパスの攻撃が空中戦とカウンターがメインだったので、状況はわからず。ただし、前からボールを奪いに行くプレッシング、それに伴う連動はなかなか出来ていたと思う。だからこそ、名古屋グランパスが空中戦に舵をとったとも言えるわけで。もともとその予定だったかもしれないけれども。守備がどうだったかと聞かれれば、キーパーが怪しかったと答えるしか無い。

名古屋グランパスは、自分たちの悪かったところを後半にしっかりと修正できることはすごい。前半に比べれば、後半のオープンな展開のほうが攻撃チャンスは増えるわけで、計算通りの内容の変化だったろう。ただし、機能しないハイラインプレッシングなど、自分たちの理想とするサッカーに引っ張られて、自分たちの最大の長所であり、相手が嫌がるだろう、高さ&カウンターと心中する潔さみたいなものはなさそうな気もする。それでも、小倉監督で降格もあるのではないか?という不安は、ひとまずは消えた序盤戦ではなかったのではないだろうか。

 

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