【2つのエリアを巡る冒険】フランス対クロアチア【ワールドカップファイナル】

2018 FIFA World Cup

さて、ワールドカップの決勝戦から振り返っていく。この試合は2つのエリアを巡っての争いが勃発した試合となった。

ハーフスペースの入り口を巡る攻防

クロアチアのボール保持は、インサイドハーフ落としを特徴としていた。モドリッチはレアル・マドリーでもこの形でプレーすることが多い。なお、マンチェスター・シティのデ・ブライネも今季からこのエリアでプレーすることが多い。味方に対して、時間と空間をパスによって与えられる選手がこの位置でプレーすると、攻撃がスムーズになる。4-4-2に対して、力を発揮することでもよく知られている。なお、2トップの間にブロゾビッチを配置していたことも非常に大きい。2トップに対する定跡として間違いのない形だ。

このエリアからの攻撃が面倒くさい理由は、守備の基準点をみつけにくいからだ。見ての通り、インサイドハーフがボールを持ったときに、どのポジションの選手にボールを奪いに行かせるかは非常に悩ましい。多くのチームは、サイドハーフの選手にボールを奪いにいかせていた。しかし、大外のサイドバックを見る選手がいなくなってしまう。むろん、サイドバック同士のデュエルで勝てるならばそういう勝負もありだろう。しかし、そんなサイドバックが世界中にあふれているわけもない。というわけで、セントラルハーフがボールを奪いにいく、もしくは1列目の選手の献身でごまかすチームが増えていった。

フランスの振る舞いを思い出してみると、ポグバのラキティッチへの突撃は何度も繰り返されていた。そして、ポグバの空けたエリアを埋めるのはカンテと、ボールサイドでないサイドハーフには本職はセントラルハーフのマテュイディ。ムバッペを前に攻め残りさせたい事情から考えても、いざとなったら3センターに変身できる陣容にしたのは色々なことを考慮したに違いない。このセントラルハーフでインサイドハーフ落としに対応するのは、アトレチコ・マドリーの得意技である。なお、インサイドハーフ落としをポピュラーにしたのはレアル・マドリーのアンチェロッティだが、自分の記憶ではビラス・ボアスのポルトが最初にインサイドハーフ落としをやっていたと記憶している。むろん、元ネタはもっと古いのだろうけど。

セントラルハーフが動いてできたエリアを巡る攻防

インサイドハーフに起用される選手は、色々な意味で化物な選手が多い。マンチェスター・シティはシルバとデ・ブライネだ。かつてのバルセロナはイニエスタとシャビだ。レアル・マドリーはクロースとモドリッチだ。チェルシーはエッシェンとランパードだ。というわけで、インサイドハーフの選手をどのように止めるか?というのは多くのチームの命題になっている。彼らはほんの少しの時間と空間でも平気でプレーしてしまうことが多い。よって、もうマンマークでどうにかするしかないっしょ!というチームが増えてきている。マンマークの代償は、セントラルハーフ同士の距離が離れてしまうことだ。よって、図のように、センターフォワードの選手が0トップのように振る舞えると、マンマーク戦術は一気に暗雲が立ち込める状態になってしまう。

実はフランスのハーフスペースの攻防は左右で違いが見られた。モドリッチに対してはカンテ!という決まり事があるようでなかった。むろん、マッチアップの機会は多かったけれど。ムバッペを浮かせる代わりに、ポグバはラキティッチとの勝負を延々と行う。そのカバーリングをカンテに行わせるために、マテュイディがハーフスペースの入り口までプレスにいったり、1列目の献身に頼ったりする場面があった。ただし、それでも、ポグバの空けたエリアをカンテがいつものように埋めることはできていなかった。食あたりのせいかもしれないし、クロアチアが狙ってなかったからかもしれない。

ブロゾビッチを中心にボールを左右に循環させることができていたクロアチアは、モドリッチサイドでボールを動かして相手を誘い、ラキティッチサイドから仕掛けるプレーが目立っていた。特にサイドチェンジに対して、セントラルハーフ突撃をすることは距離的に難しい。そんなフリーのラキティッチからペリシッチにボールを通された場面は、なかなか危険な香りがした。つまり、ハーフスペースからハーフスペースへのパス交換は、勝手に相手が壊れていくことも往々にしてある。相手のゴールに近ければ近いほど。

クロアチアのプレーの狙いを推測してみると、モドリッチサイドに人数を集め、ボールを支配する。ハーフスペースの入り口もモドリッチだけに使わせない。そして、フランスのサイドバックが前に動かすことができたら、マンジュキッチとウムティティで一対一を挑ませる。それらが無理なようだったら、攻撃をやり直し、ラキティッチサイドからの攻略を試みる、みたいな。フランスが空けたエリアを幸運にも使わないクロアチアであった。

しかし、クロアチアもゆっくりと気が付き始める。自分たちのハーフスペースの入り口起点の攻撃によって、相手のセントラルハーフはかなりの距離を動いている。そして、中央が空いていると。よって、ペリシッチが急に現れたり、そのエリアをパスラインとして、マンジュキッチに楔のパスを通すようにクロアチアの攻撃が変化していった。この変化はハーフタイムを挟むことで明確になっていった。クロアチアは後半の立ち上がりからセントラルハーフを動かしたエリアからの強襲に成功する。ただし、フランスも自分たちが狙われているエリアをわかっていたようだった。

セントラルハーフを動かしてできるなら、動かさなければいいという結論

クロアチアの二度の強襲のあとに、フランスはより撤退して守備をするように変化する。つまり、インサイドハーフ落としへの解答がシカトして撤退だ。どうせゴールに来るんだからゴールで待とうぜ作戦である。はっきりいって、今日のフランスの守備は相手にエリア内に侵入されてしまうケースが目立っていた。よって、どうせ侵入されるなら、準備万端で待ち構えようぜという解答である。さらに、カンテ→エンゾンジで相手のクロスに対して、ポグバとエンゾンジというセンターバック並みの高さの選手を入れて対応した。

このフランスの対応のえぐかったところは、クロアチアの攻撃をサイドに誘導したことだろう。クロアチアの攻撃はどうしてもサイドからのクロスが多くなる。特にサイドからのクロスのセカンドボールを効果的に拾うことを設計するのは、普通の攻撃と比べると難しい。よって、前半からフランスのカウンターを防いでいたクロアチアのボール保持攻撃→奪われたら即奪回がゆっくりと機能しなくなっていった。また、前半はどん詰まりだったフランスのボール保持攻撃もエンゾンジの無駄に落ち着いたプレーがフランスに勢いをもたらすようになる。

というわけで、スコアと時間の変化、そして相手の狙いにしっかりと対応したフランスが勝者となった。そして、ハーフスペースからの主導権→それを防ぐ手立て→手立てによって発生するエリアを狙われる→それを防護するという殴り合いの試合となった。

ひとりごと

クロアチアの振る舞いは見事だった。ハーフスペースの入り口からのボール保持攻撃。素早い攻守の切り替え。そして、マンジュキッチを中心とするハイプレッシング。これらのプレーによって、ボール保持を安定させ、フランスを徐々に追い込んでいったのは印象的だった。できればもっとスコアレスの状態が続いたときのフランスの振る舞いが見てみたかった。

コメント

  1. ジョンソン・アンドグレン・ジョンソン より:

    こんにちは。
    いつもらいかーるとさんの記事を
    読ませてもらいっています。
    最近、サッカーの知識を
    より深く身につけたいと思い
    関連書籍を読み漁っているのですが
    一つ疑問が浮かびました。
    ハーフスペースでプレーすることを
    得意とするプレーヤーの名称などは
    あるのでしょうか?

    お時間がある時に返答していただければ
    嬉しいです。

    よろしくお願いします。

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