【グアルディオラ対アッレグリの手筋】バイエルン対ユベントス

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

ファーストレグは2-2の引き分け。セカンドレグでアウェーに乗り込むのはユベントス。アウェーゴールを2点決めているのはバイエルン。よって、ユベントスは0-0、1-1の引き分けではチャンピオンズ・リーグ敗退になってしまう。

バイエルンのスタメンは、ノイアー、ラーム、キミッヒ、ベナティア、アラバ、シャビ・アロンソ、ビダル、ミュラー、リベリ、ドグラス・コスタ、レヴァンドフスキ。ロッベンは欠場。チャンピオンズ・リーグでも、リベリがとうとうスタメンに復活。センターバック周辺に怪我人がまだまだ多いが、ベストメンバーに近い布陣になってきている。バイエルンの場合は、なにをもってベストメンバーというかもわからないけれど。

ユベントスのスタメンは、ブッフォン、エブラ、ボヌッチ、バルザーリ、リヒトシュタイナー、アレックス・サンドロ、エルナネス、ケディラ、クアドラード、ポグバ、モラタ。キエッリーニ、ディバラ、マルキージオが負傷のため欠場。復讐にもえるマンジュキッチは、ベンチスタート。得点を取らなければ話にならないユベントスのゲームプランに注目。

ユベントスの守備は、3回変身する。

試合開始からユベントスが見せた守備の姿は2つあった。つまり、まだ変身を残していた。

ユベントスが最初に見せた守備の姿は、相手陣地深くからのハイプレッシングだった。スコアレスドローでは勝ち抜けできないユベントス。得点を取らなければどうしようもない状況だ。相手はボールを保持を得意とするバイエルン。しかも、相手の状況は、どうしてもゴールが必要だというわけではない。よって、バイエルンが延々とボールを保持している試合展開を避けなければいけないユベントス。よって、取る道はひとつだった。バイエルンのボール保持の精度を落とすため、ボールを奪うため、ゴールを決めるための、相手陣地からのプレッシングを行った。

ハイラインプレッシングをする場合のユベントスのシステムは、4-3-3。相手の3バック(アラバ、キミッヒ、ベナティア)に3トップ(ポグバ、クアドラード、モラタ)をぶつける。序盤のバイエルンは、ラームが右サイドバックの位置にいることが多かった。ユベントスの予想としては、バイエルンは3バックに変化するだろう、ということを前提にユベントスは守備の準備をしてきたようだった。空いているラームにはアレックス・サンドロを走らせ、3バックの前にいるシャビ・アロンソには、エルナネスかケディラが前に上がって対応する約束事になっていた。

中盤の噛みあわせを見ると、シャビ・アロンソにエルナネスかケディラが対応すると、ビダルかミュラーが空く。この空いた選手にはセンターバック(主にばバルザーリ)を上げて対応する準備万端のユベントスであった。ただし、この列の移動(アレックス・サンドロ→ラーム、エルナネスたち→シャビ・アロンソ)は、時間がかかる。そのわずかな時間を利用して、シャビ・アロンソ→ラームの循環によって、ユベントスの1列目を突破していくバイエルンだった。ボールを前進させられてしまったという意味では、序盤のユベントスのハイプレッシングは脅しとしては機能していたが、守備としては微妙だった。

ユベントスが次に見せた守備の形は、自陣に撤退して相手の攻撃を跳ね返す撤退守備だった。撤退守備の形は5-4-1。アレックス・サンドロが3列目に降りて、5バックに変化する。かつてのバルセロナ対策でリーガではやっていた形を思い出す。ブンデスリーガにおける最近のバイエルン対策で見られる形が5バックだ。5バックが採用される理由は、バイエルンのウイングに時間とスペースを与えないため。ゾーン・ディフェンスの構造上、どうしても逆サイドのスペースを捨てることになる。よって、バイエルンのサイドチェンジからのウイング突撃を抑えるためには、逆サイドへのスライドを速く行なう必要がある。しかし、人間のスピードには限界がある。よって、物量(人の数)を列に動員することで、そのスライドを機能させ、ウイングへのサイドチェンジに対応しようという狙いがある。

ユベントスの撤退守備の最大の特徴は、ポグバの攻守両面の意味を持ったポジショニングだった。基本は5-4-1のユベントスだが、エブラとアレックス・サンドロのサポートをえて、ポグバが前にプレッシングにいける形も持っている。この形はラームやシャビ・アロンソたちへポグバのプレッシング(孤独なモラタのサポートという意味においても)を可能にすることで、自分たちの全体のラインを押し上げることができるメリットがある。さらにカウンターでキミッヒ、ラームのエリアをポグバが突撃できるという攻撃のメリットも兼ね備えていた。5バックによるライン間でボールを受ける選手への撃退(バルザーリやエブラ)も積極的に行えたこともあって、ユベントスの撤退守備は機能していた。

5分にユベントスが先制。定位置攻撃からの速攻。ケディラからの裏へのボールに反応するリヒトシュタイナー。アラバとノイアーが処理をしようとするが、連携ミス。こぼれ球がポグバに元に転がるバイエルンからしては不運。ユベントスからすると、幸運。ポグバは無人のゴールにボールを転がしてユベントスが先制した。リードした状況もあって、ユベントスは撤退守備からのモラタ、ポグバのカウンターにかける手もあった。しかし、定位置守備をずっと続けていると、バイエルンは攻略の方法を見つけていくかもしれない。よって、ユベントスは変身を見せる。

ユベントスが最後に見せた守備の形(3度目の変身)は、ハイプレッシングの修正だった。ケディラが相手のセンターバックまでプレッシングをかける。この動きによって空いていたラームにポグバが集中できる。ケディラはシャビ・アロンソのマーク→センターバックへのプレッシングとマークすべき対象をかえながら、プレッシングマシーンとなっていった。もちろん、ケディラの空けたスペースは、基本的にバルザーリが登場する。突然の4-4-2変化の前に、バイエルンは面食らう形となる。なお、この形は撤退守備からラインを押し上げるときにも、ときどき使われた。運動量のあるケディラだからできる芸当。また、バイエルンのポゼッションの唯一の怪しさであったベナティアを狙う意図もあるのだろう。実際にこの守備の影響から21分にはノイアーに致命的なミスが生まれるが、オフサイド判定でノーゴールとなった。

バイエルンの抱える問題とそれでも見据えるゴールへの道筋

変幻自在のユベントスの守備に、攻略の糸口を探っていくバイエルン。ラームがシャビ・アロンソの横のエリアに移動できない(ポグバが気になる)こともあって、右サイドの攻撃はかなり窮屈そう(ポグバが前にでてくるし)になっていた。よって、ラームの代わりに、キミッヒが攻撃参加する序盤戦となった。なお、キミッヒは前線に時間とスペースを供給できる選手なので、キミッヒが攻撃の起点となってもあまり問題ではない。序盤のユベントスのハイプレッシングをかわすと、バイエルンは恒例の5-4-1対策に取り組んでいく。なお、シャビ・アロンソの周りにはモラタがいたこともあって、キミッヒが目立つ展開となった。

相手の5バックに対して、ウイングの選手に時間とスペースを供給することは困難そうであった。バイエルンはクロスを中心に、序盤は攻撃を組み立てていった。バイエルンのクロスは大外(リヒトシュタイナー、アレックス・サンドロより外)か、ウイングバックとセンターバックの間(エブラとアレックス・サンドロ)を狙う形が多かった。序盤のビダル突撃の形がその伏線にもなっている。5バックがウイングを捕まえるために行なうならば、ウイングとセンターバックの間にはスペースができるだろうという計算である。また、両脇のセンターバックは撃退守備(相手のライン間を捕まえる)役割もあるので、このエリアにを狙う意図はあった。

バイエルンのポジショニングを見ているとビダルとアラバのポジションチェンジが目立った。アラバが相手のライン間でプレーし、ビダルがシャビ・アロンソの横にいる時間が長くなる。チアゴ・アルカンタラとアラバのポジションチェンジと仕組みは同じ。バイエルンとしては、左サイドから攻撃を組み立てたい。しかし、シャビ・アロンソの横でボールを受けるとクアドラードが全力でプレッシングに来る。自陣に撤退したときのユベントスは、モラタにシャビ・アロンソ番をさせていた。よって、キミッヒとベナティアは空く。右サイドのキミッヒは時間とともに攻撃参加が加速していったが、ベナティアは沈黙気味だった。このベナティアが時間を稼げないだけ、バイエルンは左サイドからの攻撃を機能させられなかった。

26分にユベントスに追加点。シャビ・アロンソがポジションを上げたときに、ユベントスのカウンター発動。シャビ・アロンソの縦パスをアラバが奪われてユベントスのカウンターが始まる。たぶん、ベナティアが一発でかわされたのが計算違い。いわゆる本職のセンターバックがあっさりかわされてしまうのでは、グアルディオラの計算が合わない。最後はクアドラード。チェルシーで何もしなかった選手だが、ユベントスでは大活躍。チーム選びは大切。

0-2にされてしまってからのバイエルン。グアルディオラに指示を受けて以降のリベリは、サイドにはる回数が減っていく。サイドにはることで、相手をサイドにひきつけることと手薄なサイドからの攻略が機能していなかったからだろう。それでは、サイドにはる意味もなくなる。ユベントスの守備の構造を見てみると、中央のエルナネスとケディラの活動エリアが広い。彼らが空けたスペースはバルザーリが埋めると、しっかり準備はできているのだが、そこにリベリを登場させたらどうなるかという実験。ケディラの上がっていくプレッシングに対してもビダルを下ろすことで対応するようになっていく。0-2になってユベントスが守備の意識を高めたこともあって、バイエルンは相手を押し込んでボールを保持するようになる。そして、中央からミュラーに決定機が生まれるなど、中央とサイド攻撃と色々な形をだし、ゆっくりとブッフォンの出番が増えていって、前半が終了した。

狙う場所は変わらない。終始一貫。

後半の頭から、ベナティア→ベルナト。アラバをセンターバックに配置することで、左サイドの修正をはかる。さらに、リベリとドグラス・コスタの位置を入れ替えた。けれど、すぐに戻している。ユベントスはケディラを前に上げる守備を継続する。バイエルンはビダルをおろして、ボールを前進を試みる。ここまでは前半の形とさほどかわらなかった。

ユベントスは出来る限り前からプレッシングに行き、自分たちの時間を増やしながら(相手の時間を減らしながら)時間を潰していく狙い。ボールを奪う、パスカットを狙う、というよりは中間ポジションを取りながら縦パスのコースを制限とサイドにボールが出たらすぐにプレッシングにいけるように備えていた。55分には撤退守備をメインにきりかえる。モラタのカウンターでチャンスを作るなど、バイエルンのセンターバックの軽さをしっかりと狙い撃ちにすることも忘れていなかった。

ユベントスの攻撃は、左サイドのポグバと加勢するモラタのフィジカルを活かした速攻。相手がキミッヒとラームになるので、質的優位で勝てると計算しているのだろう。前半からこの形が目立っていた。途中からファウルと判定されることが多くなっていったが、56分にはゴールキックからポグバ→モラタで決定機をつくる。この形が実った瞬間だった。

60分にシャビ・アロンソ→コマン。コマンは右サイドに配置。左にリベリ。インサイドハーフにドグラス・コスタとなった。

後半のバイエルンは、ラームをアンカーの横に置く。ラームを中央に配置することで、ポグバは迷う。ケディラたちに対応させたら中央にスペースができるし、ポグバがプレッシングにいけば、サイドのカバーリングが間に合わなくなる。ポグバはラームに対応をすることを優先したので、コマンは一対一を仕掛ける場面が増えていった。しかし、アレックス・サンドロは対応を重ねるごとにコマンに対応していくようになる

インサイドハーフのドグラス・コスタはかなり幅広く動き回っていた。中央でライン間を狙ったり、サイドからドリブルを仕掛けたり。ユベントスからみて厄介だったことは、ゾーンを横断するドリブルだった。本来の役割と離れて他の選手もドグラス・コスタに対応する必要が出てくる。よって、サイドに時間ができはじめるユベントスだった。

67分にケディラ→ストゥアーロ。役割過多のケディラの消耗を考慮したのだろう。70分にモラタ→マンジュキッチ。復讐にもえるマンジュキッチが登場。ファーストレグでは大活躍だった。ユベントスは、選手を交代しながら守備の強度維持をはかっていく。なお、コマンにはアレックス・サンドロがつきっきりで対応。縦をきることで、コマンからのクロスは減っていった。しかし、その一方でブロックの外で動き回るドグラス・コスタが厄介なユベントス。

72分にバイエルンが反撃の狼煙をあげることに成功。コーナキックからの押し込んだ状態のからの攻撃。ベルナトのサイドチェンジにコマン。コマンのバックパスを受けたドグラス・コスタはフリー。ポグバが慌ててプレッシングにいくけど、間に合わず。このクロスを前半から狙い続けたウイングバックとセンターバックの間(大外ではなくひとつ中という意味)で合わせたのがレヴァンドフスキ。セットプレーから定位置守備に移行することは難しい作業なので、その隙をつかれたともいえる失点だった

1点差になったことで、ユベントスは完全に撤退守備をメインにする。バイエルンはドグラス・コスタのゾーンを横断するドリブルを、他の選手もするようになる。また、ウイングバックとセンターバックの間のスペースを狙っているならば、ユベントスはサイドハーフにウイングバックとセンターバックの間のスペースを埋めさせてカバーリングをするように変化。中を優先する代わりに、サイドからのクロスは捨てる。よって、コマンの後ろに控えるドグラス・コスタがクロス爆撃に出る。

88分にクアドラード→ペレイラ。この交代直後にバイエルンに同点ゴール。ドグラス・コスタの仕掛けからボールを奪われるが、ビダルが奪い返し、ボールがコマンに渡る、縦をきることで、コマンに対応できていたアレックス・サンドロだが、この場面では時間的に間に合いようがなかった。コマンのクロスに突撃するはリベリ。リヒトシュタイナーはついていく。そして、クロスは大外で待っていたミュラーの元に届き、ヘディングが炸裂。このミュラーのポジショニングもウイングバックとセンターバックの間、というよりは、センターバックの裏。リヒトシュタイナーが走り去ったので、大外に見えるけれど。

2ゴールに共通することは、いわゆる安定していない守備から失点に繋がっていること。コーナキックからの定位置の移行とトランジションからの守備でユベントスは失点。問題はどのように相手の守備を安定していない状態に追い込むか。というわけで、試合は延長線へ。

延長戦

ユベントスはペレイラの役割がフリーダムだった。サイドハーフの守備をしたり、トップ下の位置にいたり。守備のときはストゥアーロが左サイドハーフで、空いたスペースをペレイラが埋めることも繰り返された。恐らく攻撃のパワーを残したかったのだろう。よって、5-3-1-1、5-3-2にも見えるユベントス。バイエルン側からすると、サイドからのアイソレーションもやりやすくなる状態となっていった。ちなみに、アッレグリの指示は前からプレッシングをかけられるときは全員でいけ!のようだった。

100分にリベリ→チアゴ・アルカンタラ。さすがにリベリもお疲れ。また、中盤にスペースができはじめたので、チアゴ・アルカンタラに攻撃のタクトを揮って欲しかったのだろう。しかし、ミスを連発する立ち上がりのチアゴ・アルカンタラ。

107分にバイエルンが逆転ゴール。クロスのこぼれ球を拾ったチアゴ・アルカンタラとミュラーのポストシュートが炸裂。チアゴ・アルカンタラはミスパスが目立ち、試合にうまく入れていなかったが、一気に面目躍如のゴールだった。

109分にはカウンター。コマンの独走からのシュートフェイント→中に切れ込んでのシュートでユベントスにとどめをさした。

その後のユベントスは反撃に出る。バイエルンもボールを保持して試合を終わらせるというよりは、相手にボールを渡してノーマルな守備を見せる。ただし、バイエルンのノーマルな守備は決して守備力が強いわけではない。ポグバの仕掛けで決定機を作られるなど、怪しさは満点だった。ボヌッチが上がってきての高さを全面に出した攻撃の迫力は異常。

しかし、ノイアーのセーブなどあり、試合はそのまま終了。0-2から4-2という大逆転でバイエルンがユベントスに勝利。チャンピオンズ・リーグのファイナルで実現してもおかしくないカードは、こうして終了した。

ひとりごと

両チームともに勝ち抜けさせてあげたいような試合だった。いつかのEUROでスペインとイタリアが決勝戦で再戦したように。この勝利でバイエルンはまたレベルアップしていきそう。リーグ戦は問題ないとして、チャンピオンズ・リーグでバイエルンを止められるチームは出てくるだろうか。本命はバルセロナ。対抗はパリ・サンジェルマンとアトレチコ・マドリー。大穴はレアル・マドリーとマンチェスター・シティ。次にバイエルンとどのチームが対戦するか非常に楽しみ。

 

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