【Florent Dimitri Payet】フランス対ルーマニア【ポグバ、グリーズマンでなく】

EURO2016

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EUROの開幕戦は、開催国のフランスと曲者と名高いルーマニアの決戦。

フランスはヴァランが負傷離脱。懐かしのレアル・マドリーの10番ことラサナ・ディアラも離脱。才能に疑いの余地はないレアル・マドリーの元10番だが、まさか代表に復活しているとは、驚愕の事実だった。なお、ベンゼマ、ヴァルブエナは、大人の事情でフランス代表から離れている。ナスリは行方不明。

ルーマニア代表といえば、ハジ、イリエ、ムトゥ、キブ。全員がいなくなり、残された有名選手はラツとサプナルか。予選を5勝5分という数字で突破。負けないけれど、得点が少ないことが、チームの特徴と言えるだろう。

自由なパイエとグリーズマン

最初の10分間は、フランスの仕掛けた奇襲という名のハイプレッシングが見られた。フランスの奇襲によって、試合のペースは速いものとなる。しかし、ルーマニアもボールを保持する意図は特になかった。ハイプレッシングに対しては、自陣でボールを失わないことを優先してプレーを重ねていく。テンポを意図的に速くするというよりは、相手の状況に応じて、縦パスを躊躇なく入れる場面が目立ったフランス。ボールを保持することで相手の攻撃機会を削る、試合のリズムをコントロールするというよりは、相手にボールを渡しても別に怖くないから、相手の守備が整っていないときは素早くボールを相手のバイタルエリアに入れようぜ、という意思を強く感じさせるプレーが続いていった。

10分間が過ぎると、そのあとの試合の展開で繰り返されるような形が、ピッチの上で具現化されていった。フランスがボールを保持して、ルーマニアが4-4-2でフランスのボール保持を迎え撃つ形だ。左サイドのスタンクがサニャに引っ張られて5バックになる形もときどき見られたが、前半に限って言えば、4-4-2で対応がチームの約束事となっているようだった。

フランスのビルドアップは、カンテとマテュイディが軸となっている。守備を長所とするカンテは、ビルドアップに積極的に関わらない。3列目に下りてセンターバックに時間と空間を与える場面もあった。その形よりもメインは、マテュイディとエブラのポジションチェンジ。インサイドハーフがサイドバックのプレーエリアに降りることで、攻撃の起点となるプレーを何度も繰り返していた。

フランスの特徴として、左右のポジションで異なる役割を与えているように見えた。マテュイディは、ビルドアップに関わるために、ポジショニングを下げる。ポグバは、相手陣地のプレー機会を増やすためになるべく降りてこない。グリーズマンは、フィニッシャーとして機能するためにゴール前にポジショニングする。パイエは、チャンスメイクを中心とするために、ボールを触るために幅広く動き回っていた。もちろん、マテュイディが攻撃の起点となることが多いので、フランスの攻撃は左サイドから始まることが多かった。

インサイドハーフが降りる形に対して、ルーマニアの答えは、セントラルハーフが前に出て対応だった。セントラルハーフが前にでることで、2列目のスライドがより中央に絞る傾向になる。しかし、ルーマニアのサイドハーフは、中央に絞るポジショニングに隙ができることが多かった。それによって発生する中央エリアのパスラインをパイエに使われる場面が目立ったルーマニア。フランスからすれば、相手が中央に絞ってくれば逆サイドのサニャ、絞ってこなければ、フリーなポジショニングをみせるパイエとグリーズマンで仕留める計算になっていたのだろう。

ラツと、ときどきサプナル

フランスはボール保持を延々と行なう気がなかったことと、ボールを奪われてからは撤退を基本戦術としていたこともあって、ルーマニアがボールを保持する場面も目立った。ルーマニアの攻撃の起点は、サイドバック。ルーマニアのサイドバックへの最初の守備者は、フランスのサイドハーフ(グリーズマンとパイエ)となる。だが、前述のようにフランスのサイドハーフは、攻撃のタスクを実行すると、自分たちの持ち場から離れることになる。よって、ルーマニアのサイドバックは、時間と空間を得てプレーすることができていた。特にグリーズマンの帰陣が遅く、ポグバが守備に負われる場面は、多少のもったいなさを感じさせる場面だった。

ルーマニアのボール保持からの前進は、サニャの背後が狙いだった。ワントップのアンドネ対ラミは、この試合で何度も繰り返されたマッチアップとなった。ヴァランの代役のラミを弱点と考えたのか、長所であるラツからの展開が増えたからか、このマッチアップ機会が増えた原因はどちらかだろう。ただし、セビージャで修行を重ねたラミも強さを発揮する。よって、質的優位を確保できなかったルーマニアの狙いは、ボールを狙ったエリアに運べるけれど、効果的ではない展開となってしまう。序盤のコーナーキックからのニアそらしは見事だったが、流れの中からロリスまで届いた場面は記憶に無い。

その後のルーマニアは、サイドチェンジを繰り返すようになる。フランスのサイドハーフのポジショニングの怪しさを利用したボール循環によって、フランスのゴールに迫っていった。フランスも4-3、または片方を下ろした4-4で守るのかが曖昧だった。よって、インサイドハーフの守備の役割がサイドまで出て行くのか否かで迷っているように見える。それでも、神出鬼没のカンテのボール奪取能力は尋常でなかった。ただし、カンテにめがけてロングボールを放り込まれると、他の選手を動かして対応しなけれならないことは、構造の弱点となっていくかもしれない。

フランスの守備の怪しさが、レアル・マドリーやバルセロナが見せたように、4-3で守ってカウンター局面を狙っているものなのかは謎だった。また、サイドバックが攻撃の横幅隊になるので、自分たちのボール保持からのカウンターでちょっと苦しみそうな気もする。そんな色々なことを考えさせられる前半戦は、スコアレスで終わった。少し重たい試合になったかもしれないが、グリーズマンがフィニッシュに絡んだときのフランスの攻撃のスピードアップは、かなりの迫力を見せていた。

マーシャルとコマンの個性と与えられた役割

前半の序盤にフランスが奇襲を仕掛けたように、後半の序盤はルーマニアの奇襲で始まった。ルーマニアがボールを保持したときのフランスのサイドハーフのポジショニングが怪しいと考えたルーマニア。両サイドバックを上げて突撃。特にサプナルサイドからのクロスが目立った。しっかりとロリスまで届いた奇襲は、会場の雰囲気に一石を投じるプレーになったと思う。逆にフランスの立場を考えると、サイドハーフの守備問題は放置ということになる。つまり、ある程度は織り込み済みということなのだろう。

ルーマニアの奇襲で始まった後半戦は、前半戦とは異なり、スコアが動く展開となった。先制点を決めたのはフランス。困ったときのセットプレー。57分にパイエのクロスをジルーがキーパーに競り勝ってフランスが先制する。タタルシュヌからすれば、ポグバのシュートを防いだ後の落とし穴にはまってしまったといったところか。サイドハーフがゴール前に集中することで、ゴール前のペナルティアークあたりでポグバがフリーになる現象は、これからもフランスを助けてくれるかもしれない。

60分にアンドネ→アリベク。最初に動いたのはルーマニア。ルーマニアのボール循環は、前半と変更はなし。基本はラツを起点にサニャの裏を狙う。同サイドの攻撃を完結するときは、レバークーゼンのように密集する傾向がある。後半のスタンチュは、サイドに流れてボールサイドの数的優位に貢献できていた。そんなスタンチュのサポートから完結するサイド攻撃から、65分にスタンチュがエブラに倒されてPK。スタンクが決めて、同点に追いつく。

同点と同時に、フランスは、グリーズマン→コマンで攻勢に出る。ルーマニアは、ポパ→トルジェとスタンチュ→キプチュ。キプチュが左サイドに移動。スタンクがセンターへ。76分にボグバ→マーシャル。パイエがセンターに移動して、4-2-3-1に移行するフランス代表。

注目の采配だが、ルーマニアは特に変更はなし。フランスの采配は印象的だった。グリーズマンとポグバとフランス代表の中心と考えられていた選手が交代でピッチを去った。両者ともに持ち味を発揮していたとは言い難いので、妥当な交代といえる。一番偉いのは監督だということを示したデシャンの采配だが、同時に中心として活躍しそうな選手たちがそろって微妙だったことも事実だ。なお、もっとも輝きを放っていたパイエシステムに変更したことは、好手だったと思う。

登場したマーシャルとコマン。クラブチームではサイドから違いを作れる選手として重宝されている。グリーズマンとパイエが中央に移動するならば、彼らはサイドにはってこそ活躍できる選手たちだ。しかし、マーシャルとコマンに与えられた役割は、グリーズマンたちと変わらない役割だった。選手の個性よりも、チームの型が優先されているように見える。ボール循環システムの変更で相手の守備に混乱を与えるという意味でもマーシャルとコマンがサイドにはる采配は大いにありだが、現実は中央で大混雑が起きていた。かたくなに中央に移動するコマンをみて、その献身性というかモラルの高さには、頭がさがる思いでいっぱいだった。

そんな試合の締めは、パイエのスーペルなミドルシュートが炸裂。中央の隙間でボールを受けると、狭いエリアでも活きれるからという高い技術をみせつけた。前半からフリーロールで自分の持ち味をフルに発揮していたパイエが最後の最後でヒーローになることは論理的な結末といえる。こうして、開催国のフランスがギリギリで結果を残した。フランスを応援しているわけではないが、大会の成功不成功の判断に開催国の奮闘も大きな要素になると思うので、頑張って欲しい。試合前の予想通り、ルーマニアは得点を取る、ということに置いて課題があるようだった。サイドバックの裏を殴り続けたけれど、他に手はないのかと、ラミから提案されているような試合となった。

ひとりごと

開催国のフランスだが、不安を煽るような内容となった。パイエの躍動は良いニュースだが、グリーズマン、ポグバの機能しなさ。そして、両サイドハーフの守備問題。サイドハーフが守備をしないときの準備の曖昧さ。そして、マーシャル、コマンの起用法と不安をあげればキリがない。レアル・マドリーの調整屋こと、最強のベンゼマの不在は実に痛い。自業自得のようなので、致し方ないが。強豪と試合になったときにこれらの粗が一気に可視化しそうな予感。それをパイエがぶっちぎれるかがしばらくは鍵になりそうだ。

ルーマニアは、両サイドバックが優秀だった。ラツとサプナルへの守備は、他のチームも苦労しそうだ。しかし、サイドバックなので、フランス代表のようにどうにかなる気が、しないでもない。どうにかさせないためにも、新たな手が必要となるだろう。

 

コメント

  1. hhhhenry より:

    ご無沙汰してます。

    カンテ良かったですよね。中盤で1人でボールを奪える能力って1つの才能だと思ってるんですが、この試合に出た選手の中ではダントツだったかと思いますね。もう少しビルドアップにも関われるイメージもあるんですけど、そこは明確な役割分担ってとこでしょうか。

    ジルーは中に居座るのでグリーズマンもパイェもポグバもゴチャッとしてるなぁって見てました。余談ですが、ジルーはしこたま国内評価が低いらしくてこの試合でも決めたのに「ジルーがゴールを決めるには1万回チャンスが必要」とか書かれていたそうですよ

    • らいかーると より:

      うわ、超久しぶりです。しかと覚えていますよ。なんだか嬉しいですねえ。

      カンテは良かったと思います。ボールを奪う能力もさることながら、最低限の繋ぐ仕事もしていたかと。高さだけがネックなので、エッシェン的変化を遂げると、ちょっと手がつけられなくなりそうです。

      ジルーの長所はポストワークだと思うのですが、活かされているのかどうか微妙でした。中央渋滞はひどいですね。良い選手だと思いますが、評価が低いのも分かる気がしてしまいます。

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