4-3-1-2の復権【レアル・マドリー対アトレチコ・マドリー】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

チャンピオンズ・リーグのファイナルに向けて、もうひとつのセミ・ファイナルを振り返っていく。

レアル・マドリーはベイルが怪我で、イスコがスタメンに定着している。ベイル→イスコと入れ代わった場合のレアル・マドリーは、4-3-3のふりをした4-3-1-2となる。リーグ戦でターンオーバーを採用していることもあって、スタメンたちのコンディションも上々のようだ。

アトレチコ・マドリーは、ファンフランが欠場。個人的に、ファンフランとフェリペ・ルイスの世界屈指のサイドバックコンビがアトレチコ・マドリーの肝だと考えているので、この欠場はとっても痛い。代役はリュカ。本職はセンターバックの選手なので、層の薄さが懸念される。

ファースト・レグという迷い

チャンピオンズ・リーグのファイナルに限らず、決勝戦が凡戦で終わってしまうことは世界中で起きている。その理由は、この試合に勝てば得られるものが大きいゆえに、リスクを冒すことを遠ざけてしまうことにあるだろう。年間を通じたリーグ戦ならば、ひとつの負けをあとで取り返すこともできるかもしれない。しかし、トーナメントで負ければ、その負けを同じシーズンに取り返すことはできない。チャンピオンズ・リーグのファイナルラウンドがホーム・アンド・アウェーで行われるとしても、思い切った策を取るというリスクを冒すことは難しいのかもしれない。例えば、圧倒的に力の差が両チームにあるとか、すでに目標は達成し、これは夢の続きなんです、なんてチームは、ファースト・レグから勝負を仕掛けられるのかもしれないけれど。

アトレチコ・マドリーにとって、リスクを冒さない姿勢とは、相手陣地からのプレッシングをやめて、ハーフラインからのプレッシングに切り替えることだ。相手陣地から同数になるような仕組みを持ったプレッシングで多くのチームを破壊してきたアトレチコ・マドリー。しかし、プレッシングを回避されてしまえば、相手に時間とスペースを与えてしまう。だったら、相手にボールを保持させても、自陣での時間とスペースを相手に与えない策をとったほうが、リスクは少ないと言えるだろう。

レアル・マドリーにとって、リスクを冒さない姿勢とは、守備の枚数を増やすことと、ボール保持を安定させる&攻撃の枚数を増やしすぎないことだろう。BBCの共存は、ベイルだけが守備をする仕組みになっていて、効率は良くない。また、ヴァランやセルヒオ・ラモス、カゼミーロと個の能力で帳尻を合わせてしまう選手が後ろに控えているとしても、相手にカウンター機会を与えるような攻撃方法は得策とはいえないだろう。帳尻をあわせが得意な面々でも、カラスコ、グリーズマン、ガメイロとスペースのある状況で勝負を重ねていくのは、割のいい勝負とは言えない。

アトレチコ・マドリーはしっかりと守備が準備できた状態でレアル・マドリーの攻撃を迎え撃ちたい。レアル・マドリーはボールを保持するなかで、リスクを冒さない姿勢を見せながらも試合をコントロールしたい。そんな両者の思惑が一致することもあって、試合はホームのレアル・マドリーがいつも通りにボールを保持し、アトレチコ・マドリーがプレッシングで対抗する試合となった。ただし、レアル・マドリーがいつもと異なる姿勢を見せたのは、4-3-1-2のシステムによるものだったと言える。

イスコ、クリスチャーノ・ロナウド、ベンゼマ

アトレチコ・マドリーの守備の仕組みは、いつもどおりだった。ハーフスペースの入り口でプレーするレアル・マドリーのインサイドハーフ(モドリッチ&クロース)には、セントラルハーフが前に出て対応する。

このアトレチコ・マドリーの仕組みを流用する形が、レアル・マドリーにはあった。

多く見られた形が、セントラルハーフが前に出てできたエリアにイスコが登場する。アトレチコ・マドリーのセントラルハーフがパスコースを制限しているはずなのだが、セントラルハーフの両サイドに位置している選手の絞りが甘いと、レアル・マドリーの面々は苦労することなくボールを通してしまう。閉じているはずのエリアでも平気でプレーできる選手の存在がゾーン・ディフェンスにマンツーマンをミックス形を加速させていったのは、昨今の歴史が証明している。3バックの迎撃とか、まさにそれ。

次に見られた形が、セントラルハーフが出てきたらサイドチェンジを行なう。ボールサイドでないハーフスペースの入り口には、ボールサイドでないインサイドハーフがしっかりとポジショニングしている。モドリッチでなければ、クロースみたいな。アトレチコ・マドリーの仕組みで言うならば、セントラルハーフが前に出て対応になるのだけど、スライドが間に合わずにサイドハーフが前に出てきて対応する→ゆえにサイドが空くといいう流れになっていた。むろん、クロースから一気にカルバハル!なんて形も、レアル・マドリーの選択肢にはあった。

アトレチコ・マドリーのセントラルハーフを苦しめたのがイスコのポジショニングだろう。セントラルハーフを前に動かすことの多いアトレチコ・マドリーだが、セントラルハーフ付近をイスコがうろちょろしている。完全なゾーン・ディフェンスならば、イスコはスルーしていいのだが、そもそもボール保持者にプレッシングがかかっているか否かが、相手をほっておくか否かの判断基準として重要になる。途中から2トップを余計に走らせたアトレチコ・マドリーだが、レアル・マドリーの4-3-1-2の前に守備の基準点が狂わされてしまっていた。

さらに、この流れを加速させたのがベンゼマとクリスチャーノ・ロナウドのポジショニングだ。イスコだけでなく、このコンビも幅広いエリアを移動していた。アトレチコ・マドリーにとってきつかったのはセンターバックの基準点をなくすような動きをクリスチャーノ・ロナウドとベンゼマが行ったことだろう。特にクリスチャーノ・ロナウドはサイドに流れることで、相手のサイドバックをピン止め&狙い撃ち(→リュカ)にすることで、マルセロに時間とスペースを与えることに成功していた。2トップをセンターバックではなく、サイドバックにぶつけることで、相手の基準点を狂わせる策は、ヒディンクの得意技であった。その亜種のようなプレーをしたかと思えば、2トップの通常営業であるセンターバックとのどつきあいもこなしていたクリスチャーノ・ロナウドとベンゼマであった。

アトレチコ・マドリーにとって厄介だったことは、2トップ+イスコの柔軟なポジショニングによって、ボールを奪うことを困難にされてしまったことだろう。さらに、ときおりはゼロトップのようになるレアル・マドリーだったが、少数でもフィニッシュまでたどり着くこと&コーナーキックの機会を増やすような攻撃のフィニッシュを狙うことによって、安定したボール保持からの得点を狙う。その結果、10分にはコーナーキック崩れからカゼミーロのクロスをクリスチャーノ・ロナウドが頭で合わせてゴールを決めるのだから、ちょっとうまく行き過ぎだった。ただ、この試合の4-3-1-2のレアル・マドリーによるボール保持が、この試合の結果に最も影響を与えたといっても過言ではないだろう。

レアル・マドリーのポゼッションが機能していたのは事実としても、ときどきはビルドアップで致命的なミスをするところがレアル・マドリーらしい。アトレチコ・マドリーは得意の前から同数で迫っていくプレッシングに移行したいが、チームが連動しない。当初の計画外だったからか、レアル・マドリーに押し込まれた状況から前に動けないのかは不明だった。後半にグリーズマン以外の前線の選手を入れ替えて、プレッシングを試みるが、2列目が全くついてこなかった場面が全てを物語っていそうな。

前半を振り返ってみると、16分のガメイロが迎えた決定機やセットプレーからのゴティンのシュートなど決定機がなかったわけではない。だが、試合を通じてボール保持攻撃の迫力不足は否めなかった。全体的なオフ・ザ・ボールの動きも少なく、アトレチコ・マドリーはやっぱり疲れているのかと想像しないと納得できないようなプレーぶりだった。

後半になると、レアル・マドリーの攻撃はさらに研ぎ澄まされていく。カルバハルのアクシデントで登場したナチョは何の違和感も感じさせないプレーだった。サイドバックとセンターバックを兼任できる選手はいるようでなかなかいない。66分にイスコ→アセンシオで完全な4-4-2に変更し、守備を固めるレアル・マドリー。イスコのトップ下からの可変式システムでの守備では粗が目立つレアル・マドリーなので、頃合いを見てバランスが取れたシステムに変更するジダン監督のお馴染みの采配だ。さらに、ベンゼマ→ルーカス・バスケスで4-1-4-1に変化する。そして、73分にはボール保持攻撃からクリスチャーノ・ロナウドが追加点。85分にはカウンターからまたもクリスチャーノ・ロナウドが決めて、試合が終了した。最初はボールを保持し、最後には相手にボールを保持させてカウンターでしとめるのだから、レアル・マドリーの思うがままに試合が進んだ格好となってしまった。

ひとりごと

シメオネの選択、ファースト・レグは大人しく激しくという姿勢が裏目に出てしまった試合となった。レアル・マドリーは普段通りに戦いながらもボール保持により傾倒したような戦い方だったが、プラン通りに進んだこともあって、選手に迷いのようなものは一分もなかっただろう。アトレチコ・マドリーはスコアの変化によって、どうする?の部分で意思統一がなされていなかった。途中から登場した選手も含めて、まるでプラン通りにいなかったのではないだろうか。この試合を受けて、セカンド・レグではがっつり相手陣地からプレッシングに行くアトレチコ・マドリーが想像できるが、その正面衝突がどうなるかは非常に見てみたい。

レアル・マドリーからすれば、ベイルの離脱によって、クリスチャーノ・ロナウドがウイングから純粋なフォワードとして起用できることが大きい。ただ、ベイルがいても4-3-1-2は貫けそうだけど、ジダンはやらなそう。懐かしのベイルがトップ下でもそれはそれで脅威だとは思うのだけど。トップ下の存在が、カゼミーロに時間を与えることで、カゼミーロがボール保持攻撃でも貢献するようになり、インサイドハーフとトップ下の連携により、ボール支配がより効果的になることの全てがジダンの計算通りなら、末恐ろしい監督である。

 

コメント

  1. NNS より:

    ジダンが名将ではなく、迷将っぽいのは何故ですか?

    試合運びですかね?

    そもそも皆さんは名将派…?

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