怖いくらいに計画通りだったユベントスとバルセロナの僅かな反撃の狼煙【ユベントス対バルセロナ】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ユベントス対バルセロナ。記憶を遡るまでもなく、チャンピオンズ・リーグファイナルを思い起こさせるカードだ。ファースト・レグで死んだはずのバルセロナは、パリ・サンジェルマンを相手に奇跡を起こして、チャンピオンズ・リーグの舞台での生き残りに成功する。一方で、日本的に言えば、横綱相撲のようなサッカーでユベントスはポルトに勝利している。ファースト・レグの会場は、ユベントス・スタジアム。ユベントスにとっては、チャンピオンズ・リーグ優勝が悲願。相手がバルセロナだろうがどこだろうが、負けるわけにはいかないだろう。

オープニングはプレッシングで窒息させろ

アッレグリの最初の策は、相手陣地からの積極的なプレッシングだった。そのプレッシングはシュテーゲンまで届くものだったという事実が、その積極性を表す現象と言えるだろう。相手がボールを保持しているときのユベントスのシステムは、4-2-3-1からディバラを前に出した4-4-2と変化する。さらに、バルセロナのゴールキックなどのプレーの再開の場面では4-3-3にさらに変化する。4-3-3に変化する理由は、シュテーゲンまでのプレッシングを行いやすくするためだろう。クアドラードが2列目に残り、マンジュキッチが1列目に移動することで、4-3-3への変換もスムーズに行われた。

ビルドアップは、相手の配置を考慮して行われるものだ。ビルドアップをするときに最初に確認することは、相手のプレッシング開始ラインと1列目の枚数といえる。これらの条件を柔軟に変更することで、ユベントスはバルセロナのビルドアップを徹底的に破壊しようと試みた。ブスケツ不在などの考慮すべき状況がバルセロナには確かにあった。しかし、ユベントスのプレッシングの連動性、スピードがバルセロナの技術を超えたと表現するほうが公平だろう。ボールを前進させられなくなったバルセロナは、ユベントスに何度もボールを奪われてカウンターを許す展開になってしまう。

ユベントスの守備が素晴らしかったことは、4-3-3と4-4-2での役割の違いにしっかりと対応できていたことだ。4-4-2の泣きどころになるはずのマスチェラーノのポジショニングに対しても、セントラルハーフの縦スライドによって、配置的な優位性を消していた。どこのエリアを優先して、どこのエリアを捨てるべき(ボールサイドでないエリア)かがチーム全体で共有されているのは見て取ることができた。勢いはそのままに、ユベントスは2分のセットプレーで高さの優位性も示している。セットプレーでの高さの優位性だけではなく、流れのなかでの困ったときのマンジュキッチとセルジ・ロベルトのミスマッチは、ユベントスの逃げ場としてしっかり機能していた。

5分にようやくバルセロナがセンターバックでボールを持つ時間が出てくる。いわゆる、オープニングの終焉。このポゼッションの終わりは、シュテーゲンからルイス・スアレスへの放り込みだった。つまり、ボールを持つ場面が出てきたバルセロナだったが、ユベントスの4-4-2のポジショニングの前に、ボールを前進させられなかった。もちろん、スアレスの裏とりが悪いというわけではない。

試合が動いたのは、6分。ユベントスが先制する。ボール保持者にメッシがプレッシングを始める。しかし、バルセロナのポジショニングは整理が終わっていない。整理された状況ではないのに、守備を始めれば、相手の攻撃にスイッチを入れることになってしまう。順番に引き出して剥がしていくユベントスのビルドアップからの攻撃は華麗だった。ペナルティエリア内という狭いエリアでも息ができるディバラがフィニッシュ。ただ、クアドラードの突破するふりドリブル力で、ネイマールまでもひきつけたのは巧みだった。

狙われたバルセロナの弱点

失点後の最初のプレーでメッシが仕掛ける。チームを鼓舞する意味でも大事なプレーだろう。スコアが動いたことで、ユベントスはハーフラインからのプレッシングに変更する。ユベントスがハーフラインまで撤退する守備に切り替えたことで、バルセロナはボールを保持し、相手陣地まで前進できるように許可される。スコアの変動が試合内容に大きな影響を与える例だ。バルセロナは自分たちの抱えていた問題と向き合う必要がなくなる。ただし、撤退したユベントスをどのように崩すか?という新しい問題と向き合うようになる。バルセロナにとって、どちらの問題と向き合うほうが嫌か?というのがポイントになってくる別れ道といえる。

セルジ・ロベルトに比べると、あきらかに攻撃参加を自重しているマテュー。マテュー残しの3バックになってビルドアップをする場面が出て来るバルセロナ。ただし、バルセロナのセンターバックはほとんど放置される。3バックの狙いとしては、相手のサイドハーフをおびき出して、バルセロナのウイングたちに時間とスペースを与える。しかし、アウベスとアレックス・サンドロはバルセロナのウイングたちにどこまでもついてくる。メッシやネイマールが相手のサイドバックをおびきだすことによって発生するエリアに走り込む選手がバルセロナにはいないので、デートが可能となる。メッシがサイドにポジショニングしている場面が多かったのは、サイドからネイマールとメッシの個人技でチームに優位性をもたらすというものだったのだろう。そのための3バックによるボールの前進だったのではないか。しかし、ラキティッチとセルジ・ロベルトのポジショニングが曖昧だったこともあって、メッシはアレックス・サンドロとのマッチアップに苦戦する。マテューがサポートに来ないこともあって、ネイマールもアウベスに苦戦する格好となった。

よって、20分のメッシ→イニエスタの決定機のように裏に飛び出していく選手が必要になる。または、メッシが中央でプレーするほうが破壊力が増していくだろうことを示唆する場面だった。この場面はブッフォンのセーブで事なきを得るユベントス。結果として、ターニングポイントとなったプレーだったろう。

そんな場面のあとに、ユベントスの追加点が決まる。相手のゴールキックに対して、果敢なプレッシングを見せるバルセロナ。ユベントスはロングボールでのプレッシング回避を余儀なくされる。しかし、イグアインが見事なポストプレーを披露したことで、速攻状況が成立するユベントス。ボールを運ぶはマンジュキッチ。マンジュキッチのマイナスの折り返しをディバラがまたしても決める。

この試合のユベントスの攻撃で目立ったパターンは2つあった。

最初に狙われたのはラキティッチ。バルセロナの守備の形は4-1-4-1と4-4-2がある。4-1-4-1はメッシが下ってこないと問題が起きる。4-4-2はメッシが下ってこないなら、最初から下ってこないことを計算にいれて守備をしようぜという発想だ。メッシと比べると、守備のタスクが多いネイマール。裏返して言うと、バルセロナの左サイドの守備の枚数は足りるが、右サイドは足りなくなることが多い。この試合のバルセロナの守備は、4-1-4-1なのか、4-4-2なのかが、はっきりしなかった。よって、困るのはラキティッチだ。インサイドハーフ、もしくはサイドハーフとしての守備に仕事を行なうのか。現象としては、ラキティッチがサイドに引き出される→ラキティッチの空けたエリアをユベントスの選手が使う場面が頻出した。チームとしても、マスチェラーノ周りを使う意図はあったろう。ディバラの右サイド流れでネイマールが守備に参加しにくい状況をつくるという小ネタもあった。

そして、一番繰り返されたのがマイナスのクロスだ。サイドからバルセロナの陣地の奥深くに侵入するユベントス。バルセロナの2列目は帰陣が遅い。よって、マイナスのクロスがフィニッシュにつながりやすい。この仕組みを使用したのが、ユベントスの2点目だった。その後もユベントスはマイナスのクロスを繰り返していくが、さすがにバルセロナ側も気がついたのだろう。2列目がしっかりと帰陣することで、フィニッシュに持って行かれても、シュートエリアをペナルティエリアから追い出すことに成功している。マイナスのクロスからのフィニッシュをゴールに結び付けられなくて、狙い通りだったのに!という外した選手の表情は何度も見られた。なお、36分のクアドラードのドリブルによる仕掛け→マイナスのクロスは先制点とほとんど同じ形だった。

交代で登場したのはアンドレ・ゴメス

スコアが2-0になっても、試合内容には大きな影響を与えなかった。1-0になった状況で、ユベントスはスコアをリードしたチームの振る舞いに移行していたからだ。バルセロナのボール保持で機能していなかったのは、マスチェラーノ。マスチェラーノが頼りないからか、セルジ・ロベルトやイニエスタがマスチェラーノと近すぎる距離でプレーする場面が見られた。29分にはバルセロナが前でボールを奪えたけれど、スアレスのオフサイドで台無しになる。この場面がユベントスを救ったのは言うまでもない。つまり、ビルドアップは慎重にやろうという姿勢が顕著に現れるようになる。出番の増えていくマンジュキッチ。

バルセロナは後半の頭から、マテュー→アンドレ・ゴメス。アンドレ・ゴメスをアンカー。ウムティティを左サイドバック。マスチェラーノをセンターバックと変更した。後半のバルセロナは、裏へのランニング(特にスアレス)が増える。セルジ・ロベルトとラキティッチもメッシを自由にするために動き回る。セルジ・ロベルトがハーフスペースで、ラキティッチがサイドスペースにポジショニングした。ピッチに入ったばかりこそは存在感の薄かったアンドレ・ゴメスだったが、スムーズにボールを左右に供給し、ボールを持ったときには身体の向きをかえられることで、マスチェラーノよりは攻撃に貢献できることを示していった。反撃の準備が整っていくバルセロナ。しかし、追加点はユベントスに入る。

53分にはイグアインが超決定機を迎えるが、シュテーゲンの我慢により防ぐ。しかし、54分にはコーナーキックからキエッリーニがヘディングを決めてユベントスが追加点を決める。マスチェラーノが競り負ける。キエッリーニのマークがマスチェラーノという時点でミスマッチだ。空中戦を考慮して起用されたのだろうマテューはベンチに戻っている。なお、この試合のキエッリーニは、バルセロナのロングボールをことごとく跳ね返していた。まるで無双状態。スコアは3-0。パリ・サンジェルマンとのファースト・レグを嫌でも思い起こさせる展開となっていく。

しかし、バルセロナは砕けない。前半よりは選手配置も改善された。そして、早すぎる失点によって許されたボール保持の時間もますます長くなっていく。ポゼッションチームの勝負は相手の疲れてくる後半戦だ。67分にメッシの個人技で無双状態のキエッリーニをはがし、スアレスの決定機を演習。68分にはネイマールのシュートがキエッリーニの手にボールが当たるが、審判は華麗にスルー。前半のイニエスタの決定機も含めて、枠内シュートこそ少ないが、決定機未遂、エリア内でのシュート機会は、バルセロナもないわけではなかった。それを枠外シュートにするブッフォンのポジショニングが秀逸なのは言うまでもないが、失点0で終われたのは、少しの幸運も味方したと言ってもいいだろう。

72分にクラドラード→レミナ。存在感を発揮しはじめた孤独なネイマールを止めるために、疲労のみえるクアドラードを交代する。そして、80分にディバラ→リンコン。4-1-4-1に変更し、中央でプレー機会の増えたメッシのプレーエリアの制限に乗り出す。なお、ロスタイムにはバルザーリをいれて、5バックに変更する。こうしたシステム変更によって、相手にも新しいシステムに対応する時間を強いることで、時間を過ごすことに成功したユベントス。レミマが登場してからは、バルセロナに決定機を与えることなく試合を終えることに成功した。

ひとりごと

スコアだけ見ればユベントスの完勝だろう。しかし、バルセロナも反撃をしなかったわけではない。また、パリ・サンジェルマンを下した成功体験も大きい。ただ、セカンド・レグまでの時間は短いので、ルイス・エンリケが準備を終わらせられるかの難易度は前回よりも高い。ユベントスからしても、何だかんだ守りきれたという成功体験を積んでいる。この試合のユベントスは、相手陣地からのプレッシング。撤退守備からの多彩なシステム変更。ロングボールによる前進とショートパスによる前進と様々な姿でバルセロナに臨んでいた。アッレグリに率いられたユベントスが、セカンド・レグでどのような表情で試合に臨んでいくかも注目だ。アウェイゴールでとどめをさしにいくか、それとも撤退守備でイタリアの守備レベルの高さを世界に示すか。

なお、ディバラとメッシの比較は難しい。ディバラはあくまでチームのなかの個として機能している。そういう意味では、多くのチームでもスムーズにプレーできるだろう汎用性がある。メッシはチームのなかの個というよりは、チームを超えた個。やらなくてもいい仕事も多いが、メッシのやらなくてはいけない負担はディバラを超えている。ディバラみたいに守備をしろと言われてもメッシは困るだろう。しかし、メッシのように自分の能力でチームを引っ張れと言われてもディバラは困るに違いない。ただ、アッレグリのもとで、メッシがどのようなプレーをするかは見てみたいけれども。

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