スペイン対フランスから考えるトランジションのあれこれ

FIFA World Cup 26

はじめに

デシャンはなぜ撤退守備からのロングカウンターに活路を見出さなかったのだろうか。前半にバペさんが抜け出した場面はスペインの肝を冷やしたに違いない。ハイラインを支えるウナイ・シモンの飛び出しには常に危なっかしさを感じさせるものがあり、なんでもいいからロングボールだ!という姿勢でもスペインを苦しめることはできたのではないだろうか。

デシャンはなぜテュラム息子やマテタを起用しなかったのだろうか。デケテケへのロングボールがスペインを苦しめたように、スペインには空中戦を挑むことが解決の糸口になるはずだった。トランジションで大活躍だったドクは個の力でスペインを苦しめていた。今日のフランスのファンタスティック・フォーのプレーを見ていると、もしかしたらドクはけっこう凄いのかもしれない。

デシャンはなぜ普段着で試合に挑んだのだろうか。今大会のフランスは驚異的な前線の強さと全ての局面でそれなりに振る舞えることから見える隙みたいなものを逆用できる強さがあった。相手がボールを持たしてくれるならファンタスティック・フォーで切り裂き、相手がボールを持って攻めてくるならば、バペさんの飛び出しで脅威を与える。

その姿勢でこの試合もいけると考えたのだろうか。それとも普段着で試合をしないといけないナニカがあったのだろうか。もちろん、ここまでの勝ち抜いてきた文脈、デシャンのこれまでの歩みも本日の采配には重く影響してくるだろう。この試合で突然にマテタのワントップにバペさんを添える形は世界中をびっくりさせるに違いない。そういう意味で言えば、突然にデ・ブライネとドクを外したリュディ・ガルシアの胆力とはなんだったのかと思いを馳せたくなることもまた事実だ。

■懐かしのブスケツ対策を凌駕するファビアン・ルイス

試合のオープニングはお互いにボールを持ちたがるような展開となった。フランスが想像よりもハイプレの雰囲気を出してきたことが少し意外だった。

オリーセがロドリにマンマーク、バペさんはクバルシをマンマークで、今日はボールを持たされたラポルテにはデンベレが外切りという計画のように見えるフランスだった。

オリーセがロドリ番をやることは懐かしさを覚える采配だった。かつてスペインにはブスケツという最高のアンカーがいた。ボール保持者を後方からサポートし、ボールを奪われたら最初の守備者としてボールを奪い返すブスケツはボール保持の安定とボールの回復を一手に担うようなスーパーな存在だった。

そんなブスケツへの対策はマンマークであった。マンマークでボール保持の局面からブスケツを追い出す。これはどこでもよくある采配だろう。興味深いのはブスケツにずっとついてういくことで、トランジションでもブスケツが活躍できないことだった。最初の守備者となるはずのブスケツだが、目の前に相手がいるのだから邪魔でしょうがない。

オリーセのロドリ番はそんな意図も感じるところだった。しかし、ベルギーが示したように、【4312】のハイプレには、相手のトップ下に対して二人で挟み込むダブルセントラルハーフで対抗しようぜが最近の流行になっている。ファビアン・ルイスがあらわれることによって、オリーセはハードワークを強いられることになった。

■【433】だけではないスペインの進化

スペインのボール保持で先入観と異なった点は、【433】へのこだわりがいい意味でなくなっていたことだろう。ファビアン・ルイスはロドリの横でプレーするし、ダニ・オルモも中盤のフリーマンとして登場する。ゼロトップのオヤルサバルも味方が席を空ければ、その席でプレーすることができる。状況によって、ダニ・オルモとオヤルサバルのダブルゼロトップのように見えるスペイン代表は、王道の【433】スタイルに流動性を添えながら進化してきたようだった。

フランスの狙いとしては、ラポルテにボールを持たせる。バエナとククレジャのコンビからボールを奪い切り、バペさんと逆サイドのバルコラのスピード、ディニュの攻撃参加でカウンターを仕掛ける計画があるようだった。実際にカウンターやトランジションではヤマルの守備が間に合わずにディニュの攻撃参加が効果的な形で行われる場面は何度も再現されそうだった。

■配置のかみ合わせ、個性編

されそうだったと書いた理由は、スペインもこのエリアをどのように守るのかを計画していたからだ。ヤマルの裏を利用したデ・ブライネを徹底的に追いかけたロドリはこの試合でも健在だった。バルコラへの対応をするポロを隣で支えることで、ディニュとバルコラのコンビはデシャンの期待に答えることはできなかった。

スペインの恐ろしいところはまだ続く。ロドリがサイドに流れるので中央を埋めるのはファビアン・ルイス。さらに、ダニ・オルモとオヤルサバルも戻ってくるところがえぐい。特にダニ・オルモは中盤の選手がいなくなると、その位置にあらわれることで、スペインの守備の厚みを加えていた。いざというときにこのコンビが戻ってくることで、スペインはかなり救われていた。
ツートップがそこまで下がるとカウンターはどうするのだ!となるが、スペインはボールを保持して状況を改善できるので関係ない。昔のサンフレッチェ広島と理屈は同じだ。【541】の撤退から前に出ることは難しいが、ボールを繋いでどうにかできるなら、別に前線に人がいなくても問題はない。

裏返して、フランスの配置を見ると、デンベレは少し前からプレッシングにいきたそうなかみ合わせとなっていたが、バルコラはクバルシにボールがなかなか入らない関係で、ディニュを助けることに集中できていた、というよりも、ヤマルへのダブルチームが役割だったのだろう。実際にとんでもないスピードでボールを奪い切る場面もあり、守備のことを考えればバルコラは賢明にタスクをこなしていた。

なお、バルコラの代わりに登場したドゥエは負けている状況での登場となったので、エクスキューズは成り立つのだけど、失点場面でポロについていなかったことは、痛恨の一撃となってしまっていた。交代直後で難しいことは百も承知だが、バルコラの根性が機能していたので、デシャンからすると残念無念の采配となった。

■最も試合に影響してしまったフランスのボール保持

この試合で最もやるせなかったのが、スペインの【442】に対して、フランスのボール保持がまるで機能しなかったことだろう。スペインの【442】はオーソドックスな形で行われ、背中をムダ遣いしないツートップ(オヤルサバルとダニ・オルモ)の献身性は言うまでもないけれど、フランスは困りに困っていた。チュアメニがセンターバックの間に下りてかみあわせを変更しても、焼け石に水であった。

モロッコの18歳がいればどうにかなったかもしれないし、ボールを触りたがる印象の強いカマヴィンガはどこで何をしているのか。ザイエメならどうにかなるような気もするが、序列が低いのか出番が少ないのは残念だった。前線の選手に時間とスペースを渡せない状況で、頼みのオリーセはロドリとファビアン・ルイスを相手に沈黙。このコンビを相手にすれば無理なものは無理なのでしょうがない。

だったら、おれたちのデンベレがどうにかしてくれると言いたいが、こちらはバエナとククレジャでダブルチーム。さすがチームシメオネのバルデは守備をまるでサボらない。というか、【442】のスペイン代表の守備が少しだけアトレチコ・マドリーの雰囲気を感じたのは秘密だ。
フランスの中盤は時間とスペースを作れない問題は、スペインがフランス代表にボールを持たせる流れにも繋がっていった。実際に試合が終わってみればボール保持率もパス成功率も似たような数字になったことは、スペインが必ずしもボールを取り上げ続けることで、フランスのファンタスティック・フォーを止めたという現実を証明するものではない。

フランスからすると、バルコラサイドはロドリのヘルプで止められ、デンベレサイドはバエナが待ち構える展開となった。となれば、ロングボールで徒競走が一番良さそうなのだが、ハイラインでバペさんは何度もオフサイドになり、オフサイドをかいくぐってもウナイ・シモンが待ち構えるのだから、スペインの守備が本当によかったというお話。

■レストディフェンスからみる慎重さ

それでも最初の10分くらいは、スペインがどこかでボールを奪われてフランスのカウンターが炸裂するのではないかという予感があった。その予感の理由は、スペインの攻撃の枚数がどこか少ないように見えたからだ。ビルドアップ隊とフィニッシャー隊を5枚で分けたときに、どのようにして6人目を準備するかが現代サッカーの肝だとすると、スペインはなるべく5枚で勝負しているように見えた。

つまり、ボールを奪われたときにボールを即時奪回できればOK。即時奪回できなくても枚数を後ろに残そうねを徹底しているところがにくかった。恐らく5枚は残す計画だったのだろう。サイドバックの攻撃参加はどちらかに限定され、ファビアン・ルイスがゴール前に迫るときはククレジャは残るようになっていた。もちろん、ときどきは誰かが6人目になっていたが、スペインが恐れるフランスのカウンターにはボール保持の安定と後ろに残す選手の枚数でどうにかする計画だったのだろう。

だからこそ、スペインの先制点が本当に大きかった。ディニュのヘディングミスからのヤマルを蹴っ飛ばすプレーは、まさにミスの一言だった。あるあるのPKと言っていいだろう。このゴールがよりスペインのボール保持とカウンター対策を容易にしたことは言うまでもない。

前半の途中からデンベレが中央でオリーセが右へ。デンベレのほうが相手を背負ってもどうにかできそうだし、ハイプレの勢いも増すことになった。まさかデンベレが前田大然になるとは夢にも思わなかったけど。ボールを持てるようになったオリーセだったけれど、こちらのサイドにはバエナがいるのでかなりつらそうだった。なお、時間とスペースを削られたなかでのプレーだったこともあって、フランスのファンタスティック・フォーの本来ならありえない技術ミスが何度も起きていたことはフランスのつらさを象徴していた。

■発動しない死なば諸共プレッシング

コネが登場し、颯爽とロドリ番であることを示していた。デンベレとバペさんがスペインのセンターバックにプレッシングをかけるかみ合わせとなるのだけど、マンマークでハイプレッシングの雰囲気はなく、アルゼンチン対スイスのような雰囲気になったことは否めない。だからといって、バペさんを交代することはチームの序列的にもできなかっただろう。

スペインはゴールキックを蹴っ飛ばす場面も見せながら、整理された状態でフランスの攻撃を迎え撃つ姿勢を見せ続けた。トランジションを避ける今大会のトレンドはスペインも変わらないようだった。リードしている状況では理にかなったプレーとも言えるけれど。ボールを持たされたフランスは相変わらず苦しそうで、どうせならバペさん下りてきてボールを受けるほうが十分に怖さがあったことはやるせない現実であった。

コネを前にだしている関係で、フランスのセンターバックは果敢にダニ・オルモたちを捕まえるのだけど、どこまで追いかけるべきかは非常に難しい問題となる。チュアメニやコネが相手を追いかけ回している一方で、ダニ・オルモはラクロアの守備範囲から姿を消し、オヤルサバルをピン留めとして利用する立ち位置でビルドアップの出口となった。このプレーをきっかけにスペインの攻撃が加速し、追加点が決まったのは綺麗すぎる流れだった。

ラクロアがダニ・オルモたちにつられるというよりはマンマークのようなタスクなのでしょうがないのだが、この約束を利用するスペインは流石だった。特にヤマルの裏抜けはどれかが成功してもおかしくなかっただろう。ボールを保持するけど、裏も忘れてないよと示すスペインの攻撃は非常にバランスがとれていた。

残りは30分。しかし、フランスにロングボール大作戦の雰囲気はなく、頼みの綱のドゥエも失点に絡んだからか強引な判断が目立った。シェルキが登場してチームをオーガナイズしようとしてもそっちではないというか。ロングボールはまだかと待っていたが、ウナイ・シモンのファインセーブを引き出すこともできぬまま、フランスは大会から去ることになった。

■ひとりごと

かつてのクラシコは姿を変えないバルセロナに対して、レアル・マドリーがなにをするかがいつも楽しみだった。もちろん、バルサのサッカーはいつも楽しみだった。でも、バルセロナはある意味で枷をつけた状態でサッカーをしているので、不変と言えば不変だった。
フランス対スペインにおいて、何をするかわからないフランスと不変のスペインのかみ合わせかと思ったら、逆だったことが一番驚いている。フランスは普段着のまま負け、スペインはトランジション対策を入念に行い、フランスにボールを持たせることも嫌がらずに試合を進めていった。
というわけで、スペインがほぼ優勝。でも、最後に裏ボスが待っている。フリーザを倒したのに、超サイヤ人のベジータとナメック星で戦うようなものか。裏ボスは気合と根性で盤面をひっくり返す天才たちなので、どうなるかみんなでみてみよう。

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