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コンパニが負傷離脱したベルギー。それでもスタメン、ベンチに座っている選手のネームバリューは、尋常でない。不安様子はウィルモッツ。2002年のワールドカップで、日本を相手にオーバーヘッドを決めたことで、日本でも馴染みのある選手だ。ベルギーでは英雄のウィルモッツ。そんな立ち位置の監督だけあって、ベルギー特有の民族問題への対策や、スター選手の扱いを考慮すると、英雄のウィルモッツが適任なのだろう。レアル・マドリーにおけるジダン的存在みたいな。ただし、2014年のワールドカップでも示したように、スタメンの陣容に比べると、ピッチでの戦術的内容は非常に乏しくなっている。
ベラッティ、マルキージオの離脱で、暗雲が立ち込めるイタリア。しかし、監督はユベントスを躍進させたコンテ。手腕に疑いの余地はない。モッタ、ストゥラーロを緊急招集するなど、何とか陣容を固めることに成功している。また、ブッフォン、ボヌッチ、キエッリーニ、バルザーリで構成されるディフェンス軍団は、ユベントスをそっくりコピーしている。バイエルンを苦しめたように、元ユベントス監督とユベントスの守備陣に支えられたイタリアは、隠れた優勝候補と言えるだろう。プレビューでもベスト4に入れたのは、そんな理由からだ。
コンテ×ユベントス風味のイタリア
ボールを保持していないときのイタリアのシステムは5-3-2。ベルギーのボール保持を準備万端で迎え撃つ場面が目立った。イタリアの守備で特徴的だったことは、インサイドハーフ(ジャッケリーニとパローロ)の役割の違いだった。ベルギーの右サイドバックがボールを保持したときはジャッケリーニがプレッシングを行なう。ベルギーの左サイドバックがボールを保持したときはカンドレーヴァがプレッシングを行っていた。サイドチェンジに対して、インサイドハーフのスライドが間に合わないゆえの差異かと考えたが、中央からボールが展開されるときも、上記のような守備の役割になっていた。
この差異が試合に大きな影響を与えたかというと、そんなことは決して無い。カンドレーヴァのプレッシングが間に合わないとき(前半の終盤)は、パローロがサイドバックにプレッシングを行なう場面があった。狙いとしては、サイドバックからのパスコースでインサイドハーフを残し中央へのパスラインを制限するか否かになる。デ・ブライネとアザールを比べると、アザールのほうがサイドに位置するよりもライン間を狙う可能性が高いと考えたのかもしれない。また、カンドレーヴァが前に出て行くことで、アザール番がバルザーリになる。もちろん、シマンよりもヴェルトンゲンのほうが斜めの楔のボールを入れることができるとスカウティングしたのかもしれない。
このようなイタリアの細部にこだわった準備に対して、ベルギーのボール保持は再現性を伴ったものとならなかった。イタリアの5-3-2に対して、どのようにボールを循環させるか。相手の守備の約束事に対して、構造上の弱点をどのように発生させるか。そして、そのエリアをどのように狙うか。5-3-2への策はたくさんあるんだけど、ベルギーは愚直に正面衝突を繰り返した。チャンスになりそうな場面は、誰かが無理をしたり、トランジション局面だったり、セットプレーだったりと、ボール保持からの準備された攻撃では、イタリアの守備陣をどうにかできそうな気配は、残念ながらなかった。
ベルギーの準備不足は、イタリアのボール保持局面でも見られた。イタリアは3-5-2でボールを保持する。3バックとブッフォンで始まるビルドアップに対して、ベルギーのプレッシング隊は迷いに迷った。フェライニがデ・ロッシを担当するとしても、3バックをルカクのみで担当するでは、どうしようもない。アザール、デ・ブライネは相手のセンターバックにプレッシングをかけようとするけれど、周りとの連動性がなかった。一か八かの連動性をみせ、シマンがボールを奪った場面を増やさなければいけないベルギー。ボール保持の可能性の低さを考慮すると、トランジション局面を増やしたいベルギーだけれど、現実はイタリアのボール保持からボールを奪えそうな感覚はまったくなかった。
イタリアのボール保持からの準備された攻撃は、コンテ時代のユベントスを彷彿とさせるものだった。相手のセントラルハーフとど付き合いのセントラルハーフはサイド、または相手のライン間に流れる→相手のセントラルハーフのポジショニングをサイドに誘導する→空いた中央のパスラインを2トップコンビが利用して楔のボールを受ける。ダイレクトで相手の裏に走ったインサイドハーフに流したり、2トップのコンビネーションを発揮したり、ボールをキープできたら横幅隊のウイングバックにボールを渡したりと、多才な攻撃を見せた。コンテのユベントスを食い止めるために、セリエAで3バックが大流行したことは懐かしい。過去の戦術をトレースしただけかもしれないが、強いものは強い。
トランジション局面で力を発揮できそうだけど、意図的にトランジション局面を増やすようにプレーできないベルギー。ボール保持からの攻撃の精度を上げるために、アザールやデ・ブライネがボールを引き出すために幅広く動きまわってボールを循環させるようになる。特にアザールのキープ力は、尋常でなかった。しかし、最後に立ちはだかるユベントス軍団の守備力もまた尋常でない。ミドルシュートは残念そこはブッフォンで防ぎ、ゴール前に侵入してもマークの受け渡しを失敗しないユベントストリオであった。
そんな試合を動かしたのはイタリアのボール保持からの速攻。3バックにプレッシングがかからないので、自由にボールを動かすユベントスの面々。フリーなボヌッチの動きにあわせて裏に飛び出したのはジャッケリーニ。ボヌッチからのピンポイントのロングパスが相手の裏に飛び出したジャッケリーニに渡る。ジャッケリーニは正確なトラップとシュートでクルトワからゴールを決めることに成功する。3バックへのプレッシング問題、プレッシングをしないならどのように守るかを整理できなかったベルギーの失態となる失点だった。ルカクをボヌッチにマンマークでキエッリーニとバルザーリを放置でもかなり違うんだけども。
ウィルモッツ采配の是非
後半のベルギーは、アーリークロスとデ・ブライネとアザールを前に出したプレッシングで攻勢にでた。3トップによるプレッシングによって、イタリアがまったりとボールを保持する展開を防ぐことに成功する。一方で、アザールたちが担当していたイタリアのウイングバックが空く展開となる。サイドバックが担当すれば良いとなりそうなんだけど、イタリアは2インサイドハーフと2トップがコンビネーションで中央突破を狙っている関係で、サイドバックもセンターに絞って守備をする必要性がある。特にインサイドハーフは、センターバックとサイドバックの間を走り抜けることが多い。よって、センターに絞ったサイドバックの動きによって時間と空間を得たウイングバックが輝く展開となる。ベルギーからすればリスクのある変更だけれど、何も起きなそうだった前半から比べれば悪くない賭けだった。実際にカウンターからルカクの決定機が生まれている。
58分にダルミアン→デ・シリオ。ダルミアンの疲労を考慮しての交代だろう。または守備をしっかりとする狙いがあったのかもしれない。
61分にナインゴラン→メルテンス。アザールを中央に配置し、フェライニを下げる。ただし、ゴール前にフェライニを送ることを忘れたわけではないので、4-1-2-3のように変化する。アーリークロスの勢いを下げないためにも、フェライニをゴール前に送り続けたことは、論理的な采配だった。
74分にエデル→インモービレ。前半ほどに試合がゆっくりと流れるものではなくなった後半戦。ベルギーは狙い通りにトランジション局面を増やすことに成功し、カウンターの機会を得るようになっている。このカウンターで厄介だったのがイタリアの守備。カウンターになると、ファウルで止めにかかる。もちろん、イエローで審判も答えるのだけど、代えの利かないキエッリーニとボヌッチは残し、イエローをもらったエデルはさっさと交代をしてしまう。ファウルトラブルにも余念がないイタリア。
同じ時間にシマン→カラスコ、ルカク→オリギ。このウィルモッツ采配は、なかなかおもしろかった。3バックにし、前線はスクランブルアタック。アザールがボールをキープし、メルテンスが追い越すなど、味方にも相手にも、誰がどこで何をしているかわからないような采配。でも、5-2-3で守り続けるイタリアにとって、このような誰がどこにいるかわからないポジショニングのほうが非常に厄介。さらに、3バックでボールを運ぶようになったので、イタリアの2トップが少し苦しむようになる。
78分にデ・ロッシ→モッタ。モッタがいきなりイエローをもらったのには笑った。ベルギーはアザールを中心にイタリアのゴールに迫りに迫る。クロス爆撃と突撃ドリブルで崩しにかかり、決定機を作ることにも成功した。しかし、ゴールは決まらない。ユベントス軍団恐るべし。それを打ち破ったバイエルンはもっと恐ろしい。極端に前がかりになるベルギーに対して、イタリアはカウンターチャンスがあれど、でも、そんなリスクを冒す必要があるのかと時間を稼ぐ意思を見せる。しかし、とっくに死なばもろともスタイルになったベルギーのプレッシングを相手に、ボールを繋いで時間を潰すのは不可能に近かった。よって、ロスタイムにはとうとう反撃に出る。そして、カンドレーヴァのクロスをペッレが豪快なボレーで決めて試合を終わらせることに成功した。
ひとりごと
コンパニの不在をどうこう言うというよりも、ペッレとエデルのポストワークにベルギーのセンターバックが苦労していたことも試合を分けた要因かなと。コンパニだったら勝てたのかと言われると微妙なので、なんとも言えない。2トップのポストプレーに飛び出すインサイドハーフ、ウイングバックという構図は、この後の試合でも続いていくだろう。
前半のベルギーは何も起こせなかったけれど、後半のベルギーはハチャメチャなりに試合を動かすことには成功していた。そういう意味で采配は狙い通りに機能したと思う。ただし、結果だけが出なかった。できれば、前半から色々と仕掛けたいけれど、後半の形を前半から行なうのは、さすがに博打すぎる。悩めるウィルモッツ。型がないけれど、より型をなくすと優れた武器になるというのは、ある意味で教訓になるかもしれない。
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