【チャンピオンズ・リーグのファイナルの再現】アトレチコ・マドリー対レアル・マドリー【変貌するレアル・マドリー】

マッチレポ1617×リーガエスパニョーラ

アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、フェリペ・ルイス、ゴディン、サヴィッチ、ファンフラン、コケ、ガビ、カラスコ、サウール、グリーズマン、フェルナンド・トーレス。アウグスト・フェルナンデスとチェルチが怪我。レアル・マドリーが怪我人の多さに苦しむ一方で、ほぼベストメンバーと言っていいだろう。今季は定位置攻撃の改善にも乗り出しているアトレチコ・マドリー。チャンピオンズ・リーグではバイエルンと同組など、ハードな日程、相手との試合を過ごしてきている。言うまでもなく、昨年のチャンピオンズ・リーグファイナルの再現となった試合だ。

レアル・マドリーのスタメンは、ナバス、マルセロ、ナチョ、ヴァラン、カルバハル、コバチッチ、イスコ、モドリッチ、ルーカス・バスケス、ベイル、クリスチャーノ・ロナウド。セルヒオ・ラモスとベンゼマは怪我から復活。スタメン復帰とはならずに、ベンチにいる。モラタ、カゼミーロ、クロース、ペペは未だに怪我から復活できていない。よって、野戦病院状態のレアル・マドリーとは言えるだろう。もうすぐに日本に訪れる&チャンピオンズ・リーグやクラシコもあるので、なかなか過密な日程となってきている。リーグ戦では、さりげなく無敗だ。

プレッシング開始ラインの差とアトレチコ・マドリーのチャレンジ

レアル・マドリーのシステムは、4-2-3-1。カゼミーロの離脱によって、4-2-3-1を導入しているジダン監督。カゼミーロの代わりにイスコが起用されると考えると、攻撃的な選択と言えるだろう。圧倒的な結果を残しているジダンだが、監督としての評価が不安定なものになっている。恐らく、結果と内容が一致しないからだろう。レアル・マドリー特有の緩さも、現在サッカーの流れからすれば逆の道を突き進んでいる。よって、ジダンの評価が不安定になっていることも頷けるのが現状だ。

アトレチコ・マドリーのシステムは4-4-2。コケをセントラルハーフで起用することによって、サウールとカラスコをサイドハーフに固定できたことが大きい。ただし、コケを2列目で起用したほうがいい、という考えも現地ではあるようだ。餅は餅屋なのか、コケが餅屋になるのが先か。ただし、セントラルハーフをできそうなアウグスト・フェルナンデスが怪我で抜けていることを考えると、ティアゴ、ガビ、コケでやりくりするしかいない。というわけで、コケ問題の解決は先送りとなる。

試合の序盤は、激しいプレッシングの応酬となり、ボール保持者に与えられた時間は少なかった。視野を確保する、ボールを保持してから考える時間の少なさは、試合の高速化をもたらすことになる。最初の10分間は、どこもエンジン全開で迫るのが最近の流れになっているのかもしれない。かつては、様子を見るという題目を引っさげて何となく試合に入ることも頻繁に見られた。しかし、その姿勢では一気に試合の流れを持っていかれてしまうように最近はなっているのかもしれない。

レアル・マドリーの4-2-3-1は、ボールを保持していないときは4-4-2となる。よって、両チームの形は非常に似通ったものとなった。形は相似形だとしても、チームの約束事は異なる。

アトレチコ・マドリーの守備の約束事は、ボール保持者への絶えることなく続くプレッシングだ。走る走るフェルナンド・トーレスとグリーズマンに、2列目の選手たちもしっかりと連動していく。モドリッチ、コバチッチにもマークがつくことによって、レアル・マドリーは、ビルドアップの出口を見つけることができなかった。レアル・マドリーの準備としては、クリスチャーノ・ロナウドを裏に走らせる方法でプレッシング回避を狙った。繰り返された形は、マルセロがボールを持つ→ベイルがファンフランを引き連れて下ってくる→空いたスペースにクリスチャーノ・ロナウドの突撃だった。

このプレッシング回避の方法が、効果的だったかはなんとも言えない。ただし、モドリッチにボールを入れる→ボールを奪われるに比べれば、ボールを失ったときのリスクは少ない。また、マルセロの必ず身体の向きを縦にすることで、相手のポジショニングを操るトラップは素晴らしかった。サイドバックの必修の技だが、プレッシングの強い中でも平気で行えるところにマルセロの強みがある。相手に縦を意識させて、中にボールを運んでいくマルセロのプレーも何度も見られた。ただし、ロングボールの機会が多く、アトレチコ・マドリーの攻撃的なプレッシングに対して、レアル・マドリーはボールを保持することにこだわりを持ってはいなかった。その姿は、チャンピオンズ・リーグのファイナルを彷彿とさせるものだった。

レアル・マドリーの守備の約束事は、ハーフラインからのプレッシングだった。相手にボールを運ばれてしまったときは、4-4-1-1になる。クリスチャーノ・ロナウドが守備を安定的にしないことは明白だ。ラファエル・ベニテスがサイドハーフに守備をする選手を起用して守備固めをしていたのは昨年のお話。どうせ守備をしないならば、頂点に配置しようというのは非常に理に適った采配だと思う。この試合のレアル・マドリーのサイドハーフは、ベイルとルーカス・バスケス。二人共にしっかりと持ち場に戻ることができる。その代わりに、レアル・マドリーの1列目の守備にはあまり期待しない。よって、4-4の形をしっかりと作って、アトレチコ・マドリーの定位置攻撃を撃退していくレアル・マドリーという展開は増えていく。

ボールを保持したアトレチコ・マドリーの攻撃の特徴は、ポジショニングの流動性にある。サイドハーフ、フォワードのポジションチェンジ、サイドバックの攻撃参加によって、相手の守備の基準点をずらすことを、今季は志向している。センターバックの攻撃参加、セントラルハーフの起点が微妙な以外は、よくできていると思う。空中戦の鬼がいないので、無闇にクロスを上げることはしない。サイドからボールを運べたときは、センターバックとサイドバックの間のスペースを狙い撃ちにする共通理解を持っている。どのエリアに対しても、基本的に決まった選手が決まった役割をこなし続けるよりは、フレキシブルな動きを見せることを特徴としている。

イスコが躍動した理由

15分過ぎから、ハーフからのプレッシングにアトレチコ・マドリーが変化する。相手陣地からのプレッシングを延々と行う必要はないし、定位置攻撃ばかりの局面もアトレチコ・マドリーにとって、いい状況とは言えない。この変化が、レアル・マドリーにボールを保持させる展開となる。

レアル・マドリーのボール保持は、アトレチコ・マドリーのボール保持の形に似ている。センターバックとセントラルハーフを残して、サイドバックは基本的に高いポジショニングを取る。アトレチコ・マドリーの場合は、サイドバックの片方が+1の働きをしているが、レアル・マドリーの場合は、イスコが躍動する。イスコはフリーな移動を許されていたようで、ボールに頻繁に絡みながらプレーすることができた。

個人的なイメージで言えば、レアル・マドリーへの移籍は試合への出場機会という意味で失敗のようなイスコ。しかし、この試合では攻守に存在感を見せつけていた。ボールを保持する局面では、プレーエリアを限定しないポジショニングでアトレチコ・マドリーの守備をかき乱した。パスでも運ぶドリブルでも高い技術を見せられるイスコのプレーが、レアル・マドリーの攻撃を牽引していった。アトレチコ・マドリーにとって、不運だったのは、長所でもある球際アタックがファウルと判定されることが多かったことだろう。ホームだし、いつもだったら流されていたし、という感覚はあったかもしれない。その一方で、レアル・マドリーの面々の上手さをファウルでしか止められなかったという解釈も可能だ。

そんなファウルで得たフリーキックをクリスチャーノ・ロナウドが決めてレアル・マドリーが先制する。壁に当たってシュートコースが変化していたので、さすがのオブラクでも止めるのは不可能だったろう。ガビとサヴィッチの間を抜けたので、2人は怒られたかもしれない。

失点後に4-1-4-1に変更するアトレチコ・マドリー。グリーズマンが左サイドへ、カラスコが右サイドへ、サウールがインサイドハーフへ。このシステム変更の理由がよくわからなかった。アトレチコ・マドリーの攻撃が機能していないは明らかに言いすぎだ。どちらかと言えば、イスコを捕まえられない問題を解決するために中央の枚数を増やすならわからないでもない。しかし、イスコを捕まえる意識もなかった。また、先制したことで、レアル・マドリーは撤退意識が強くなったこともあって、何だかよくわからない状況となった。アトレチコ・マドリーのシステム変更を強引にポジティブに解釈するならば、前半はこのまま終わりでも良いから、後半に勝負みたいな。

後半の勝負のアトレチコ・マドリー

後半の頭から4-4-2に戻すアトレチコ・マドリー。前半の序盤に見せていたような攻撃的なプレッシングと定位置攻撃で同点ゴールを狙う。そのプレッシング圧力&ボール保持攻撃の連続性は本物だった。レアル・マドリーはカウンターの機会すらなく時間を過ごすこととなる。

本来のレアル・マドリーならば、タコ殴りにされそうな展開だ。しかし、今日は守備を頑張る選手をサイドハーフにおいている。さらに、クリスチャーノ・ロナウドも忘れた頃にプレスバックしてくる。モドリッチとコンビを組んだコバチッチも守備で強さを見せていたのは嬉しい誤算だった。もちろん、ボールを保持したときに長所を発揮できるコンビのモドリッチとコバチッチだけど、サイドハーフの助けを得ると、十分に守れるものなのだなと。

ボールを保持できなかったレアル・マドリーだけど、徹底してアトレチコ・マドリーの攻撃を跳ね返し続ける。カウンターのチャンスもなかったので、精神的にきついはずなのだけど、飄々と守備をしているように見えた。今は我慢の時間です、みたいな。ナチョとヴァランのコンビに不安という声もあったろうが、ほとんどミスなく時間を過ごしていった。アトレチコ・マドリーにエリア内でのシュートをほとんど許すことなく、レアル・マドリーは強い守備力でアトレチコ・マドリーに対抗する。

残り30分でガビ→コレア。トーレス→ガメイロとさらに攻撃の精度を上げるアトレチコ・マドリー。しかし、この交代の直後にレアル・マドリーが追加点を取る。オブラクのゴールキックを驚異的な高さで跳ね返すヴァラン。このボールに飛び出したクリスチャーノ・ロナウドをサヴィッチが倒してPKを得る。判定に物議を醸し出しそうだが、このPKを決めて、レアル・マドリーが貴重な追加点を得る。そして、さらにセットプレーのカウンターからベイルが相手を振り切ってクロスを上げると、またしてもクリスチャーノ・ロナウドで3-0となる。

その後のレアル・マドリーはハメス・ロドリゲスを出したり、怪我明けのベンゼマを出すなど、余裕の采配を見せる。アトレチコ・マドリーは最後までレアル・マドリーから得点を奪うことができずに、シメオネ以降は互角の勝負を繰り広げていたマドリード・ダービーで力負けをすることになった。

ひとりごと

レアル・マドリーの守備が非常に強かった。守備をしたくないクリスチャーノ・ロナウドを外に出し、9人でがっつり守ろうぜ作戦が成功する。ルーカス・バスケスが特にしっかりと守備を行っていた。レアル・マドリーのサイドハーフで守備をきっちりやってくれる選手は貴重だ。そして、トップ下のイスコはファーストディフェンダー、2列目のカバーリングと精力的に動き回った。途中で出てきたベンゼマがまったく守備をできそうなコンディションになかったことは笑ったけれど。

アトレチコ・マドリーはチャンピオンズ・リーグと同じような形で負け。あのときよりも、レアル・マドリーの守備が改善されているなんて聞いていなかったよ、という話だろう。アトレチコ・マドリーなりに定位置攻撃の改善に取り組んでいるのに、レアル・マドリーの守備の改善のほうが勝っているとは夢にも思わなかった。そんなアトレチコ・マドリーとリベンジは、まだまだ続く。

コメント

  1. サッカー より:

    勉強させていただきたいので質問です。

    マルセロの必ず身体の向きを縦にすること

    ってどういうことですか??
    お暇な時にお教えください。

    • らいかーると より:

      お答えしよう。サイドバックの選手がボールを持ったときに、最優先で観るべきは縦列の前にいる選手となる。マルセロの場合はクリスチャーノ・ロナウドですな。よって、センターバックなどからもらったボールをクリスチャーノ・ロナウドに出すぜって身体の向きを極端に作る必要があります。そうすると、相手は縦にはボールを入れさせたくないから、パスコースを制限するために、極端に縦にポジショニングを取ります。だから、中央が空きます。そのために、縦にボールを出せる身体の向きを作る必要があるという話でした。

  2. ととや より:

    アトレティコ、リーグ戦では絶不調ですね。
    インテル就任の噂もありますし、本当にシメオネのラストシーズンになってしまうかもしれません。

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