セビージャのスタメンは、セルヒオ・リコ、ガブリエル・メルカド、マリアーノ、ニコラ・パレハ、ヴィトロ、清武弘嗣、エンゾンジ、パブロ・サラビア、フランコ・バスケス、ベン・イェデル、ビエット。ヨーロッパリーグを3連覇しているセビージャ。狙ってできる記録ではない。新監督にサンパオリ。コーチにリージョと胸を躍らせるコーチ陣になっている。さらに、清武が移籍してきたのだから、まさに必見のチームになった。システムは4-4-2の菱型。ヴィトロが左サイドバックになっていたのが特筆すべきことだ。
エスパニョールのスタメンは、ロベルト・ヒメネス、アルバロ・ゴンサレス、ルーベン・ドュアルテ、オスカル・ドュアルテ、ハヴィエル・ロペス、ビクトル・サンチェス、ディオプ、パブロ・ピアッティ、エルナン・ペレス、ジェラール・モレノ、レオ・バチストン。新監督に懐かしのキケ・フローレス。昨年はワトフォードを率いていた。エスパニョールにはチャイナマネーが投入されたそうで、新戦力を多数獲得しているらしい。レジェス、ハビ・フエゴがベンチに控え、ベンチ外だかデミチェリスも控えているようだ。いわゆる今後が期待なチームとなっている。
結果は6-4でセビージャの勝利。前半だけで3-3という壮絶な打ち合いというよりは、セビージャの肉を切らせて骨を断つを彷彿とさせる姿勢に、エスパニョールが飲み込まれた形となった。
サンパオリの頭のなか
ボールを保持すること!?なにそれおいしいの?というチームが増えていくなかで、今季のセビージャはボールを保持することを志しているようだった。この試合のボール保持率は、時間帯によっては60から70%を超えるような数字を残している。
ボールを保持しているときのセビージャのシステムは3-5-2。
ビルドアップは、キーパー、2センターバック、アンカーで行われる。セルヒオ・リコは全体的に怪しさを漂わせていたので、必要がなければキーパーまでボールを下げない判断をしているようだった。アンカーのエンゾンジが最初のキーマン。列の移動で2センターバック+アンカーと3バックを使い分けていた。ときどきは、センターバックの脇に下りることで3バックを作ることもあったが、まれなケースと言っていいだろう。
3枚+キーパーでのビルドアップを前提としているので、他の選手は相手の陣内にポジショニングすることができる。
サイドバックは高いポジショニングを実行する。いわゆる横幅隊だ。インサイドハーフの清武とサラビアは、相手のサイドハーフとセントラルハーフの間にポジショニングする。トップ下のフランコ・バスケスは、セントラルハーフの間にポジショニングする。2トップは外になるべく流れずに、相手のセンターバックとのどつきあいとピン止め要員とされている。2トップが中央にポジショニングしていることで、セビージャのインサイドハーフ+トップ下が数的優位状態を維持できる仕組みになっている。
ビルドアップ隊からのボールは基本的に高いポジショニングのサイドバックをビルドアップの出口としていた。キケ・フローレスのチームは、4-4-2と相場が決まっている。セビージャのインサイドハーフ+トップ下がセントラルハーフの同列にポジショニングしているので、エスパニョールのサイドハーフは中央に絞るしか無い。よって、セビージャのサイドバックに時間と空間が与えられる。
サイドバックにボールが入ると、セビージャのインサイドハーフは相手のサイドバックの裏に突撃していく。2トップがサイドに流れてくることもあるが、基本的にはインサイドハーフのサイドバック裏突撃が基本プランのようだった。
このインサイドハーフの動きによって発生するのは、相手のセントラルハーフを中央から動かすことにある。セビージャの攻撃パターンは、ボールサイドのコンビネーションによる突破。相手のセントラルハーフを動かしてできたエリアを2トップまたはトップ下に使わせる中央への楔攻撃。一番繰り返されたのが中央へのカット・イン(サイドハーフをカバーリングするセントラルハーフがいないから容易にできる)からの、逆サイドのサイドバックへのサイドチェンジだった。逆サイドでボールを受けるサイドバックが孤立することなく、近くのインサイドハーフとのコンビネーション(オーバーラップ、もしくはインナーラップ)でサイドからの攻略を狙う。
この試合のセビージャのボール保持は、このパターンを延々と繰り返していた。もちろん、味方が空いたらサイドでなくセンターからボールを前進させていく場面もあったけれど。
4-4-2で守備を形成するエスパニョール。最初の3枚+キーパーによるビルドアップをどのようにして邪魔するかが整理されていなかった。途中で4-4-1-1、4-4-2でセントラルハーフを前に出して対応するなど、試行錯誤をするが、ほとんど効果はなし。最終的に2トップに走って死んで作戦でまとまったのはキケ・フローレス的には苦しいところだったろう。
コンテ式とセビージャのいまのところの弱点
コンテ式にしろ、ミシャ式にしろ、複雑な形と繰り返されるパターン攻撃によって、相手に変化を求めるところは似ている。サンパオリのパターンも同じで、4-4-2でくらいついていくのは、なかなか難しそうだ。アトレチコ・マドリーくらいの完成度がなければ、難しいと思う。自分たちの型によって、相手にミラーゲームを強いるというか、そういう発想のチームが増えてきている気がする。
この試合では4失点のセビージャ。原因ははっきりしていてボールの失い方。ビルドアップのときに3バック+キーパーで行われているのだけど、エンゾンジ以外の選手の能力は決して高くない。運ぶドリブルによる状況の打破、ボールをもったときの身体の向き、ロングパスの精度などで残念ながら足を引っ張っている。よって、ボールを蹴らされる、持たされると、途端にミスが増える。恐らく、ボールを失いことをまるで想定されていないポジショニングになっているので、ビルドアップでボールを失うと、一気に相手にフィニッシュまで持って行かれてしまう。
解決策としては、インサイドハーフやトップ下の選手は列を降りるとなる。ただし、クロスに対する枚数は減ってしまうので、サンパオリは恐らく是としていない。清武が降りてきてボールを前進させる場面もあったが、よりにもよって、バックパスを奪われて失点に絡んでしまった。試合の結果には影響のない6-3からの失点だったといえ、サンパオリがこの場面をどのように解釈するかは非常に興味深い。
セビージャの守備のルールは、グアルディオラを思い出させる攻守の切り替え。何秒ルールかは忘れたけれど、すぐに奪い返しましょうルールを採用している。攻撃の枚数を揃えているので、他の取るべき策もないだろう。ただし、途中出場のレジェスに中央をぶち抜かれる場面もしばしば。ピッチの中央にカウンターをうけるときの防波堤を用意しても、ドリブラーで防波堤を破壊するのはよく見られる手になっている。そういう意味では、そういうタレントがいるチームには歯がたたないかもしれない。レジェスを起用したキケ・フローレスの策は、非常に興味深かった。
最後にセビージャのポジショニングについて。
ひとりごと
セビージャ
パコ・ヘメスのラージョをよりパワーアップさせたような。それでいてビルドアップミスでの失点の多さも切なさをつのらせる。ただし、端から見ているには最適なチームかもしれない。ビルドアップミスをどのように解決させていくかが注目。選手をかえるか、仕組みをかえるか。ヴィトロがサイドバックをやっていた(大活躍!)ように、怪我人が多いらしいので、帰ってきてどうなるか?までは特に変化はないかもしれないけど。
エスパニョール
キケ・フローレスらしいチームでカウンターで強さを見せる。ただし、守備面ではボール保持からの攻撃、セットプレーとぼこぼこにされた印象は拭えない。相手が攻撃にステータスを全フリしてくるとしても、もう少し抗いたかった。4点決めても勝てないのかよという絶望は深い。
清武弘嗣
セビージャのインサイドハーフは、ポジショニング勝負。ポジショニングで味方を助ける。ボールを受けてはたいてよりも、オフ・ザ・ボールの動きの質が強く求められそう。清武の長所を考えると、もっとボールに絡めたほうが良さは出そう。でも、オフ・ザ・ボールの動き、サイドからのコンビネーションでも呪文すぎるほどに良さはでていたけれど。最後のゴールにように後方から味方を追い越していく動きがキーになる雰囲気。セットプレーもまかされているので、スタメンから急に外れることはなさそう。そういう意味で、移籍は成功といえるだろう。今後も期待。
コメント
待ってました。
私も課題はビルドアップのところとネガティブトランジション時の守備だなと強く感じました。
またビルドアップはエンゾンジ以外だと、パレハからのフィードが多かったですが、あまり効果的ではなかった印象です。
ちなみにこの試合はポゼッション率が高かったのであれですが、バルサ戦やレアル戦を見た時は、相手のビルドアップを破壊すべくかなり前から激しくプレスをしていました。うまくいくことも多かったですが、突破されるとけっこうヒヤヒヤな印象も受けました。このあたりについても今後らいかーるとさんの見解、楽しみにしてます!
自分もちょうど昨日分析記事をアップしたので、もしお時間があればぜひご覧ください。
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/socceranalyzer/article/1
お互いにほどほどに頑張りましょう。
非常に面白く読ませねいただきました。
清武のオフザボールの動きで、味方を追い越す動きの他に、
ポジショニング勝負のために具体的にはどういうオフザボールプレーが重要でしょうか?
抜けるふりして抜けない(・∀・)
リコはスーペルコパでもミスで試合を終わらせてしまいましたね。
セービングはリーガ随一なのですが。
シリグを補強した理由もそこにあるのかもしれません。
セービングは本当にすごかったです。悩みどころですね。
初めまして
いつも楽しく拝見させていただいています。
このブログに出会ってからサッカー見るのがより楽しくなりました。人生の幸福度が上がりました!
セビージャが低い位置から左サイドでビルドアップしていくシーンで
バスケスは中央やや低めに残ったままジョギング、
清武が右サイドからバスケス超えて左のつなぎに中央前目で受けにいくシーンが
後半途中から何度かあったと思いますが、
どういった理由だと思いますか?
特にカウンター等でポジションが入れ替わっていたわけでもなく、
ポジション的にはバスケスがそのまま受けに行ったほうが、
効率・バランス面で良いように見えたので、
私としてはバリエーション・目先を変える・清武がアピールの意味でももっとボールに高い位置で絡みたかった
くらいしか想像できなかったのですが、
他の見方があれば教えていただきたいです。
いきなり的外れな質問でしたらすいません。。。
バスケスとのポジションチェンジは、ときどき行われていたと思います。バスケスだけでなく、チーム全体として、誰かの空けたエリアを誰かが使う約束事は徹底されていました。
清武の場面はたんにボールに触りたかっただけかもしれないですけど。