リーガ・エスパニョーラは2強体制が続いていた。その体制に殴り込んだのがチームシメオネ。そして、新たに殴り込みをかけたのがサンパオリ×ファンマ・リージョという夢のタッグに引きられたセビージャ。セビージャと言えば、かつてのカヌーテ、レナト、ヘスス・ナバス時代が非常に懐かしい。今季のセビージャは、夢のタッグのわりにはあれだね、という試合内容を続けながらも奇跡的な展開に何度も助けられ、気がつけば試合内容と結果の両立に成功するようになっている。勝ち続けるって大事というお話だ。チャンピオンズ・リーグでも台風の目になりそうな予感。
かつての娯楽性はどこへ消えたビジャレアル。リーグ随一の守備力を背景に、ときおりみせるかつての娯楽性とともに、リーガ・エスパニョーラでしっかりと地盤を築いている。リケルメ時代から考えると、リーガ・エスパニョーラの代表するチームと考えられがちだが、2部に落ちたこともある。そのときのビジャレアルの監督がミゲル・アンヘル・ロティーナ。現在の東京ヴェルディの監督だ。どうやったらあのビジャレアルを2部に落とせるんだこら!ということもあって、ロティーナは日本に流れ着いたのかもしれない。
トランジション全盛期のなかで、セビージャはボールポゼッションに命をかけている。ビジャレアルは相手がボールを保持しているときの4-4-2の守備に魂を込めている。かつての故事成語を思い出せる最強の矛(セビージャ)と最強の盾(ビジャレアル)の試合となった。
セビージャの可変式ポゼッションの仕組み
ゆっくりと3バックが世界中で流行していくなかで、セビージャの取り組みは3-1-4-2。4-4-2とかみ合わせると、配置的な優位性を確保できる仕組みになっている。4-4-2が代名詞になりつつあるビジャレアルにとっては、非常に守りにくいシステムとなった。それゆえに、この試合はほとんどの時間をセビージャがボールを保持し、ビジャレアルの陣地で試合を進めることになった。
3バック+エンゾンジによって、相手の1列目(トリゲロスとアドリアン・ロペス)を越えていく。多く見られた場面が両脇のセンターバックの運ぶドリブルによるボール前進と、ナスリがビルドアップの出口となる形であった。配置的&数的優位性を手に入れているセビージャがボールを前進させることに苦労することはなかった。よって、ビジャレアルは相手陣地からの果敢なプレッシングを行なうことはできずに、ハーフラインからのプレッシング開始を余儀なくされる展開となる。
4-4-2攻略の定跡である2トップ脇のエリアを利用しやすい仕組みがしっかりと整っているセビージャだった。たぶん、ラングレに気を使って、ナスリがボールを受けに下ってきたのだと思う。右サイドは運ぶドリブルで、左サイドはポジショニングでボールを前進させるセビージャだった。ビジャレアルからすれば、2トップに走って死んでタスクを課す考えもある。しかし、2トップの真ん中にエンゾンジがうろちょろしているので、2人の距離を離すわけにはいかない。よって、相手のボール循環に一緒に動くしか無いビジャレアルの2トップにはなかなか厳しい状況となった。
守備の基準点を複数用意することによるピン止め
2トップの脇のエリアからセビージャの攻撃が始まる。そのときにファーストディフェンダーはどうする問題にビジャレアルは向き合わなくてはいけない。2トップの走って死んでができないなら、サイドハーフかセントラルハーフが出て行く必要がある。図で言えば、ナスリに対応する場合は、カスティジェホかロドリゴがナスリにプレッシングを行なう必要がある。
しかし、ヴィトロにボールが出たらどうする。サイドバックのマリオ・ガスパールが出ればいいかもしれない。しかし、その場面でヨヴェティッチがサイドに流れてきたらどうする?センターバックをサイドに動かすのは最終手段だ。さらに、中央にはフランコ・バスケスもいる。ボネーラを動かしたあとのエリアにフランコ・バスケスが突撃してきたらどうする?と考えると、非常にしんどいことがわかる。
セビージャの攻撃の肝は、前線の枚数にある。特に相手のディフェンスラインの付近に選手をポジショニングさせることで、守備の基準点を用意する。つまり、オレはこの選手のマークをすればいいんだなと相手に考えさせる。そして、前への援護をできない状態にしてから、ゾーンを越えた動きをすることで、相手にマークについていくか否かの判断を何度も強いる。判断の連続は相手の脳への疲労を蓄積させることになるだろう。
セビージャの選手にトップ下適正の選手が多い理由も、ゾーンの列の移動をスムーズに行いたいからだろう。特に多いピン止めが、両サイドに配置されたヴィトロとマリアーノに見られた。ヴィトロたちにビジャレアルのサイドバック(マリオ・ガスパールやホセ・アンヘル)が対応した場合は、ヨヴェティッチやフランによるライン間ポジショニング(センターバックはなかなかついてこれない)でしとめる。ヴィトロたちにビジャレアルのサイドハーフ(ジョナタンやカスティジェホ)がついてきた場合は、ナスリやセンターバックの攻撃参加でサイドハーフが埋めなければいけないエリアを上手く利用していた。
セビージャのなかで特別な役割を与えられているのがナスリ。FWの列からMFの列への移動は多くの選手が行なうが、MFのの列からエンゾンジの列まで下りることが許可されているのはナスリだけであった。そんなナスリは運ぶドリブルで相手のペナルティーエリアまで入ったり、相手のライン間にボールを何度も送るなど、縦横無尽の活躍をしていた。マンチェスター・シティではときおりしか輝かなかった印象だが、与えられた役割によってここまで輝き続けるという事実は、どのタイミングでどのチームに所属しているかが、選手にとって本当に大切だということを教えてくれる。
両チームの采配とアセンホ
前述してきたように、ビジャレアルを殴り続ける準備をしてきたセビージャ。ビジャレアルは正面衝突をするが、案の定、殴られ続ける。ビジャレアルのボール保持に関していうと、セビージャは4-4-2に変化してほぼマンツーで対応してきた。そのプレッシングを効果的に外すことができなかったこともあって、セビージャの攻撃が延々と続く試合になってしまった。なお、開始直後にセビージャにPKが与えられてもおかしくない場面もあったくらいおされまくっていた。
ビジャレアルの考えとしては、トリゲロスの列の移動&ワンタッチのパスを連続させることで、どうにかなるだろうと。さすがのビジャレアルなので、ときどきは華麗にプレッシングをかわせるが立派だった。しかし、懐かしのアドリアン・ロペスがチャンスを外し続ける。後半のブルーノからのスルーパスは鳥肌もので、試合の流れをかえるほどのプレーだった。けれども、すぐにセビージャに流れは戻ってしまう。
ビジャレアルの陣地でのプレーが続いていたセビージャ。これはもっと前のめりにしてもリスクは少ないと考えたのだろう。最初に交代はマリアーノ→サラビア。右サイドにヴィトロ、左サイドにサラビアとサイドに強烈な選手を配置する。また、相手がボールを保持しているときも3バックのままで守れるならよろしくシステムになる。
ビジャレアルはチェリシェフを左サイドにいれる。その心はヴィトロが守備をしないなら、チェリシェフで蹂躙してやる作戦だ。理に適った采配だったが、チェリシェフにボールが届くことはあまりなかった。
セビージャの次の手は、ヨヴェティッチ→ビエット。ビジャレアルはアドリアン・ロペス→バカンプでバカンプに行って来い作戦に切り替わる。だって、繋げないなら蹴っ飛ばして走るしかないだろうというわけで、バカンプはそれなりに目立っていた。
セビージャの最後の手はフランコ・バスケス→イボーラ。セントラルハーフの印象の強いイボーラだが、背の高さもあって、空中戦要員という意味合いが強い。しかも、結果も残すようになっている。クロスからのイボーラはセビージャの奥の手だ。
そんなセビージャに立ちはだかったのがセルヒオ・アセンホ。これも懐かしい名前だ。アトレチコ・マドリードで将来を嘱望されたが、気がつけばデ・ヘアのポジションを奪われ、その次はクルトワが相手となった。そんなセルヒオ・アセンホ。前半から好セーブを連発。後半にあったセビージャのPKもまさかのキャッチ。セビージャのセットプレーも前に出てきてはじく。間違いなくこの試合のMVPだなという活躍で、セビージャの思惑を破壊することに成功した。ビジャレアルは4-4-2で最後まで耐え抜く根性を見せ、0-0で試合を終わらせることに成功した。
ひとりごと
はっきりいって、セビージャが勝ってもおかしくない試合だった。こういう試合をものにしてきたイメージの強いセビージャだったので、多少は嫌な雰囲気になるかもしれない。でも、嫌な雰囲気になるような試合内容では微塵もなかったけれど。
ビジャレアルはフルボッコにされる。順位の差以上のものを感じさせられた一方で、しっかりと勝ち点を持ち帰ることに成功している。ただし、もうすぐヨーロッパリーグも始まるので、チームとしても調子をあげていきたいだろう。
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