【個性の組み合わせ】イングランド対ロシア【ジュバへのロングボール大会】

EURO2016

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予選を全勝で突破したことで、優勝候補にもあげられることのあるイングランド。しかし、プレミアリーグの隆盛が終わりを告げ、というかプレミアリーグがチャンピオンズリーグで猛威を振るっていたときも、イングランドが主要な大会で目立った結果を残した記憶はない。しかし、スパーズの躍進から若手がレベルアップを遂げている。プレミアリーグの4強にイングランド代表に選ばれる資格のある選手が少ないことが、プレミアリーグとイングランド代表の強さに関連性がなかった要因だろう。不安要素はホジソン監督。良い監督がいないこともイングランド不調の原因かもしれない。

スルツキが監督のロシア。本田時代にCSKAモスクワの試合を見たけれど、あまりいい印象はない。自由奔放というか。ロシアに限って言えば、カペッロ時代の反動なのかもしれない。繰り返される自由と規律。チームの構成は国内組が多く、ゼニトとCSKAモスクワ軍団にノイシュテッターが紛れている。キーパーも含めた3列目には顔なじみの選手がそろっているので、大舞台にも慣れているだろう。クラブチームの組織力を代表チームにもコピーできれば、アルシャビン時代の再現ができるかもしれない。

デザインというよりも、個性の組み合わせ

ロシアが守って、イングランドが攻める。そんな試合前に予想された構図で、前半は展開していった。

イングランドがボールを保持しているときのロシアのシステムは、相手陣地だと4-4-2、自陣に撤退すると4-4-1-1。ダイアーへの注意は、半端じゃなかった。2トップの片方、基本的にはシャトフがダイアーをビルドアップで経由させないようにマークをしていた。ダイアー経由のビルドアップが防がればイングランドは、ケイヒルの運ぶドリブルで試合を構築するようになる。ダイアーが抑えられたときにセンターバックが出てくることは非常に論理的な流れだ。しかし、ケイヒルの運ぶドリブルの方向は、誰をフリーにするかが明確でなかったことと、攻撃方向の決定が明らかすぎたこともあって、ロシアのスライドの餌食となる場面が多かった。

ダイアーが抑えられたときのオプションのひとつが、センターバックの運ぶドリブルだったとする。もうひとつのオプションが、インサイドハーフによる列の枚数の調整だろう。ルーニーが頻繁にビルドアップをサポートすることによって、イングランドは新しいビルドアップの出口を見つけることになる。スコールズを彷彿とさせるサイドチェンジをルーニーは繰り返した。サイドチェンジを行なうことによって、4-4の泣き所の逆サイドエリアを使うことと、攻撃方向を相手に決めさせないことで、ロシアの守備を破壊しようと試みていた。

4-4-1-1に対して、どのように復元性をもった攻撃を仕掛けていくかなとイングランドを眺めていると、再現性を伴った攻撃は少なかった。ボール循環で相手の守備を分断するというよりは、前線の選手にボールを預けて殴り続けるといった様相。特にスターリングは、しゃかりきにボールを受けたら勝負をしていた。流行りの言葉を使えば、アイディアを出そう!ということになる。ただし、イングランドは選手の組み合わせが悪くなかった。サイドに流れるケインに対して、ララーナとアリは中央エリアを埋めることができる。よって、センターフォワードがいるべきエリアから誰もいなくならない。ララーナが空けたエリアには、しっかりとウォーカーが上がってくる。ルーニーがビルドアップの出口となることで、アリはライン間とゴール前の仕事に集中することができていた。

このように選手が個性を発揮しようとしても、しっかりと補完関係が成り立っている。ただし、デザインされていない攻撃は、味方がどのタイミングで何をしてくるかは予想がつかない。それは相手も同じだが、デザインされた攻撃だったら、味方は何が起こるかを知っていることもある。よって、イングランドの攻撃は、選手同士で同じ絵を描けたときはフィニッシュまでいける。同じ絵を描けないときは、あと一歩でゴールだったよねという場面になる。もちろん、後者の場面が多い。特にローズのクロスはあと一歩の惜しい場面があったのだけど、クロスに合いそうで合わない場面だらけだった。アリとケインはチームでも一緒なので、そのうちに合うかもしれないけれど。

 

イングランドが自陣に撤退したときのシステムは4-1-4-1。ロシアがボールを保持したときはプレッシングよりも撤退がメインだった。恐らく、自陣でボールを奪ってからのカウンター、トランジションを起こしたかった狙いもあるのだろう。

ロシアは、センターバックからのサイドチェンジ、ロングパスでボールの前進を試みるが、フリーの状態でも精度が悪かった。レスターのシュマイケルを見ている気分になった。セントラルハーフをなぜか経由しないロシアの攻撃は、全然脅威的でない。しかし、ロングボールによる攻撃なので、イングランドはボールを回復する地点がどうしても自陣の深い位置になってしまっていた。よって、効果的なカウンターを仕掛けられない。ロシアからしても、イングランドにカウンターを許すような展開だけは避けなければならないので、可能性の低い攻撃でも良しと考えたのだろう。しかし、普段はサイドバックを上げるポゼッションをしているようで、ときどきサイドバックが高い位置をとっていた。前半ではほとんど意味がなかったけれど。

時間がたてばたつほど、1列目の守備が緩くなっていくのは当然の流れだ。よって、前半の終了間際にはダイアーがボールに関わるようになる。すると、ルーニーも少し高い位置でプレーできるようになり、ライン間のポジショニング(アリ、ララーナ)が活きるようになってくる。この時間とともに発生する使えるエリアは後半に向けて有効活用したいところだ。ロシアはしっかり守ってからの若手のスピードを活かしたカウンターで何とかしたい。しかし、イングランドの3列目も速いので、得点をあげるには難しそうな展開となった。

ハイボールの殴り合い

試合前の予想よりも、ボールを保持できることに前半で気がついたロシア。ジュバへの放り込みを起点にセカンドボール争いで優位に立てれば、ボールを前進させられるではないかと考える。よって、後半はジュバへの放り込み、2列目がセカンドボール拾う隊になり、サイドバックが横幅を埋めるようになった。また、センターバックからのロングボールだけでなく、ときどきはセントラルハーフを経由することになった。自陣に撤退が約束事になっているため、イングランドは積極的にボールを奪いに行くプレーをしない。よって、ロシアはデザインされた攻撃を仕掛け、ゆっくりとハートまで近づいていった。

また、ロシアは4-4-2によるプレッシングを強めることで、高い位置でボールを奪うことにチャレンジする。ハートが蹴っ飛ばす状態に持ち込めれば、マイボールになる可能性が高い。ショートパスでプレッシング回避をされてしまう場面もあったが、ハートが蹴っ飛ばす場面も増えたので、後半のロシアの修正は、機能していたと言っていいだろう。

イングランドは、前半とかわりなかった。ロシアの変化に対して、手を焼きながらもルーニー、ダイアーの縦パスを中心にボールを前進させていく。ウォーカーやスモーリングの突破が抑えられると、どうしても手詰まり感が出てしまう。唯一のチャンスがローズのクロスを相手がクリアミス→ルーニーのシュート炸裂の場面くらいだったろうか。ボールも循環するので、悪くは見えないが、息の合わない場面が続く。やはり何が起こるか両チームともに知らないと、なかなか得点に繋がらない。

膠着状態を動かすのはセットプレーと相場が決まっている。イングランドはアリが倒されて得たフリーキックをダイアーが蹴りこんで先制に成功する。ダイアーが蹴る前に、アキンフェエフが前に飛び出してきたのは謎だった。アリにボールが入る仕組みだけは、何度も繰り返してきたイングランドの形だったので、唯一の再現性のある形がゴールに繋がったのは感無量とも言える。

先制後に一気に両チームの監督が動き始める。ロシアはセントラルハーフを両方共に交代し、中央の選手を入れ替えながらチームのバランスを保つ。バランスを保ちながらも、ゴール前の枚数を増やし、トランジション状態に対応できるような器用な選手を増やしたのだろう。イングランドはルーニー→ウィルシャー。追加点を狙うのか?という采配。ウィルシャーもルーニーのように攻撃を中心にプレーしていたので、まだ守るんじゃない!というメッセージだったのかもしれない。そして、スターリング→ミルナー。機能していたかどうかは置いとくとして、カウンターでスピードあふれるプレー見せていたスターリングからミルナーは、守備固めの狙いがあるのだろう。

ロシアの攻撃方法を考えると、空中戦を導くハイボールの出発点、ハイボールの到着地点をどうにかする必要がある。スモーリング、ケイヒルも少し苦労をし、なおかつセカンドボール争いでもなかなか厳しい状態だった。しかし、采配でこの場所を放置するホジソン。信頼感がまるで違う。そして、ロスタイムにコーナーキック崩れからベレヅスキに圧倒的な高さのヘディングでゴールを決められてしまう。セットプレー崩れも守備が不安定になる瞬間だった。ローズではベレヅスキには競り勝てない。このような展開にならないように、空中戦要員を増やす、4-4-2にかえて相手のセンターバックに襲いかかるなどなど策はあったが、不動のホジソンだった。

ひとりごと

ロシアからすれば、ラッキーな結果だったと思う。スコアレスドローや1-0での勝利は想定していただろうけど、先制されたら、ほぼ終了な雰囲気はあった。しかし、イングランドが特に変わらなかったこともあって、後半の修正が最後まで効いた結果が同点弾を導き出した。

イングランドからすれば、非常に悔しい結果となった。前評判通りのプレーができたかは疑問だが、何もないわけではない。気の利く選手もいる。自陣に撤退する守備の狙いがよくわからなかったけれど、グループリーグで敗退するようなレベルではないと思う。でも、2位、3位での突破は大いにありそう。

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