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国同士の試合を地理的な要因でダービーと表現されることは少ない。しかし、もともとは同じ国だったこともあって、ハンガリーとオーストリアの対決は、ダービーだ!という認識を両国ともにしているそうだ。
予選を圧倒的な成績で突破したオーストリア。移民系の選手を中心に構成しているが、派閥争いなどは聞いたこともない。各国のクラブチームで結果を残している選手も多い。注目はアルナウトビッチとアラバ。クラブチームと異なる役割だが、本当は中盤で勝負したそうなアラバに期待が集まる。
かつての古豪も久々のメジャートーナメント。注目はサライ。レアル・マドリーのBチームにいると聞いていたのだが気がつけばマインツへ。そして、トゥヘルのもとで大活躍をし、気がつけばシャルケに引きぬかれた逸材。最近は見かけなかったが、代表で奮闘しているようで何よりだ。
準備の質の差
アラバの奇襲から、試合は始まった。たらればを言うべきではないが、アラバのシュートの2連発がゴールに決まらかったという事実は、今大会でのオーストリアを苦しめることになるかもしれない。予選の勢いをそのままに、ラッシュを見せるオーストリア。しかし、その勢いは見せかけのようなものだった。気がつけば、ハンガリーが試合を支配するように変化していく。
ハンガリーのボールを保持しているときのシステムは4-3-3。ボールを保持していないときのシステムは4-4-2。攻守でシステムの変わる可変式だった。キーマンはラースロー・クラインハイスレル。守備では1列目、攻撃では2列目とポジションを動かしながら、チームの可変システムを支えていた。
最年長出場記録を塗り替えたキラーイがボールを繋げることに驚かされたが、ハンガリーはゴールキックから丹念にボールを繋いだ。特徴として、ビルドアップを助けるサイドバックのポジショニングが秀逸だった。サイドバックに高いポジショニングをとらせるチームが多いEUROだが、ハンガリーは低めでサポートをする。相手のサイドハーフをおびき出し、2.3列目にスペースを作るのが狙いだ。ライン間のポジショニングがうまいクラインハイスレルとゲラ。そして、3列目の前でボールを繋いでいくナジの実力は本物だった。
オーストリアは積極的なプレッシングで、ハンガリーのビルドアップへの反抗を企てた。しかし、システムが咬み合わないことが最大の原因となり、プレッシングのはまらない時間が長く続いた。愚直にショートパスを見せるハンガリーだが、サライへの放り込みも忘れない。フィジカルに特徴を持つサライは、空中戦でまったくひけをとらなかった。つまり、ハンガリーはショートパスでもロングパスでも、自分たちの狙いを発揮できる状況にあった。
オーストリアのボールを保持するときのシステムは、4-2-3-1。ハンガリーは、4-4-2で対抗する。4-3-3を4-4-2に変更する意味は、相手のセンターバックと数的同数状態にしたかったのだろう。オーストリアのビルドアップは、2センターバックと2セントラルハーフで行わるものだった。しかし、2セントラルハーフのサポートが不十分で、オーストリアのビルドアップはほとんど機能しなかった。センターバックの運ぶドリブルも方向性をサイドに限定されたものになってしまい、窮屈なエリアでのプレーを強いられた。一方で、ハンガリーは外外のビルドアップと中中のビルドアップを使い分ける巧みさを見せていた。
オーストリアが試合の流れを取り戻し始めたきっかけは、ビルドアップの形を明確にしてからだった。バウムガルトリンガーがセンターバックの間に下りる3バックへの変化によって、センターバックからの攻撃が自由に鳴り始める。時間とスペースを与えられるようになれば、オーストリアはアラバ、アルナウトビッチを中心に攻撃を加速させることができる。特にアルナウトビッチのクリエイティブなプレーは、ハンガリーを苦しめていた。あわやの場面はハルニクが外してしまう。それにしても、今大会では芝生に足をとられる選手が妙に多い。
後半になると、ハンガリーはビルドアップを丁寧に行わなくなる。オーストリアのプレッシングのスピードが増したこともその原因だろう。また、サライが空中戦で可能性を示していたことも、ビルドアップを捨てる理由になりえる。一方で、前半に修正したビルドアップからの攻撃をオーストリアは後半も続けることができていた。そういう意味では試合は徐々にオーストリアのペースに流れていったと言えるかもしれない。
試合が動いたのは62分。サライへの放り込みからハンガリーの速攻が炸裂。サライとクラインハイスレルのワンツーで守備を切り裂くと、最後はサライがゴールに流し込んで、ハンガリーが先制する。
一気に攻勢を強めるオーストリア。アラバが観客を煽りボルテージが高まったところで事件が起きる。コーナーキックのこぼれ球から同点ゴールを決めるが、ドラコビッチへのファウルでノーゴール。しかも、ドラコビッチは2枚目のイエローで退場になってしまった。イエローに値するファウルなのかどうかは審判次第だろう。もちろん、2枚目だからといって余計なバイアスが入ることはいけないんだろうけど、ちょっと退場には厳しい判定だったかなと。すかざず相手と揉めるアルナウトビッチは流石だった。
退場になったことで、苦しくなったオーストリア。バウムガルトリンガーを下ろして4バックにする。しかし、ビルドアップがうまくいかなくなる。アラバも捕まりやすくなり、ゴール前までなかなか届かない展開へ。ハンガリーは守りながらカウンターとバランスよく試合を構築する。前線の選手を交代し、プレッシングの強度とカウンターの威力を維持した采配も教科書どおりだった。10人になってもボールを保持しようと思えばできる。しかし、オーストリアは無策だった。このあたりも、オーストリアへの評価を下げた要因だ。
それでもアルナウトビッチなら何とかしてくれそうだったけれど、やっぱり無理だった。最後まで強気な采配を見せたオーストリアだったが、セットプレー崩れのカウンターで追加点を許してしまう。バウムガルトリンガーしか後ろに残していないのに、なぜに放り込まなかったのかは謎だった。噛み合っているようで、どこか噛み合っていないオーストリアは0-2で敗戦。3位争いを考えても厳しい初戦となった。ハンガリーからすれば、喉から手が出る程に欲しかった3ポイント。ただし、対戦が残っているチームは曲者揃いなので、最後まで目を離せないリーグとなりそうだ。
ひとりごと
オーストリアの前評判を鵜呑みにして、プレビューではベスト4にしたのだけど、はっきりいって無理そうな雰囲気だ。相手のビルドアップの方法は、決して珍しいタイプではなかった。プレッシングスタイルにも同じことが言える。しかし、前者、後者への対応に時間がかかりすぎている。しっかりと試合前に準備をしていないのか、試合中に対応せよ、という約束事なのかはわからない。どっちにせよ、チームとしての完成度は決して高くない。
比較して、ハンガリーはしっかりと準備をしてきた。オーストリアの4-4-2を外すための4-3-3でのビルドアップ、ビルドアップを破壊するための4-4-2と、論理的な前半戦だった。この準備の質の差は、試合に大きな影響を及ぼす。そういったものを無にするアラバやアルナウトビッチという可能性がないわけでもない試合だったが、アラバはもっとボールに関わったほうが彼らしいような気がする。
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