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結果は、2-1でフランスの逆転勝利。アイルランドにとどめをさしたのはフランスの逆転ゴールというよりも、ダフィの退場だろう。そして、試合の流れを変えたのは、デシャンの采配。カンテ→コマン。カンテがイエローをもらい、次節は出場停止になったことで発生した采配なのか、予め準備された采配だったのかは不明。偶然の産物か、必然か。運命は必然という偶然でできているとすれば、フランスにとってこの型は大きな武器となるだろう。
アイルランドの先制点が生んだ熱量
立ち上がりのアイルランドは、アウェーチームであることをしっかりと受け入れているように見えた。だからこそ、平常心のプレーを心がけ、最終ラインでボールを回す。普段のアイルランドならば、いきなりの空中戦を挑みそうだが、フランスのプレッシングの様子見をするような素振りは、この試合をできるだけ冷静にプレーしようと考えていた証拠になるだろう。そういう意味では、アイルランドは慎重にアウェーチームの役割を演じようとしていた。
しかし、開始2分のPKがもたらしたものは、いつも以上に冷静に振る舞おうとするアイルランドの姿勢を許すものではなかった。決して今までの試合内容が良かったとは言えないフランス。2分の失点が、フランスの面々を焦らせるには十分過ぎるきっかけとなった。いきなりのフルスロットルの姿勢を打ち出すフランスに対して、アイルランドも負けじと熱量を高めていく。球際での争い、得意の左サイドに配置されたポグバの躍動と、高い熱量に支えられた試合は、まるで後半戦のような前半戦となった。
ただし、激しいぶつかり合いが、アイルランドが行ってきた試合前の準備の精度を落とすことはなかった。アイルランドは自分たちの守備の基準点をずらさないように、フランスの攻撃に対応していく。特に捨てた部分は、フランスのセンターバックだった。カンテ、マテュイディ、ポグバをビルドアップの出口とするフランスに対して、しっかりと守備を固めていた。ビルドアップの出口からしっかりとプレッシングをかけることで、フランスの攻撃の精度を下げることに成功していた。また、高い位置をとるサイドバックに対しても、サイドハーフとサイドバックが連携して対応できていた。
フランスにあやがあったとすれば、マテュイディだろう。ポグバが異様に張り切っていたのに対して、右サイドでは沈黙だったマテュイディ。グリーズマンが中央にポジショニングする流れもあって、右サイドは死んでいた。サニャがオーバーラップしても、ボールが来ることはほとんどなかった。サイドチェンジなしの攻撃では、アイルランドの守備網に正面衝突を繰り返すばかりとなる。それでも、パイエ、グリーズマン、ジルー、ポグバが殴り続ければどうにかなる、という計算は決して間違っていないだろう。前半のロスタイムにはパイエのシュートからあわやの場面をつくるが、ゴール前の壁を越えることはできなかった。
運命は必然という偶然でできている
後半の頭から、デシャン監督は動いた。カンテ→コマン。システムは4-2-3-1。セントラルハーフにポグバとマテュイディ。マテュイディを左に戻したことも大きい。左サイドにパイエ、中央にグリーズマン、右サイドにコマンで、はたから見れば超前輪駆動型のチームに変貌した。
死んでいる右サイドにコマンという配置は、至極論理的だった。しかし、バイエルンとは違い、フランスでのコマンはサイドにはらない。この試合でもサイドにはっている時間は短かかった。それよりも、後半のパイエのほうがマテュイディの追い越す動き、エブラのサポートを活かすためにサイドにいることが多かった。
試合に一番影響の与えたポイントは、フランスのビルドアップの形が変わったことだろう。カンテがいなくなったことで、守備の基準点を失ったアイルランドの前線たち。さらに、ポグバやマテュイディはポジションを下げてプレーする機会が多かった。下がっていく彼らにどこまでついていくんだという問題も含めて、アイルランドのインサイドハーフが守備の基準点を失ってしまったことも大きかった。恐らく、フランスがこのような形で迫ってくるとは想像もしていなかったのだろう。落ち着いて自陣に撤退してフランスの攻撃に対応したいが、センターバックもようやく攻撃参加するようになったフランスに対して、どのように守るのかを整理することができなかったアイルランド。
フランスの攻撃も中央渋滞の雰囲気は漂っていたが、列を下りる動きによって、スペインのようにヨコパスで時間と空間を作れるようになっていった。そして、同点ゴールは死んでいた右サイドから生まれる。ボールを保持できるようになったフランスは、サイドバックの高いポジショニングが活きるようになった。サニャのクロスをグリーズマンが合わせて同点ゴールが決まる。そして、フリーのラミからのロングボールをジルーが落として、フリーのグリーズマンが華麗に逆転ゴールを決めた。
フランスのシステム変更がもたらしたものを整理すると、アイルランドの前線の守備の基準点が狂ったことで、フランスはビルドアップを効果的に行えるようになった。相手を押し込んでボールを持てるようになったので、右サイドのサニャが攻撃に貢献できるようになった。サイドバックが横幅が機能するようになったので、サイドハーフが中央でボールを保持をサポートできるようになった。後方の余裕がセンターバックの攻撃参加を促したと良いこと尽くめだった。
そして、中央のポジショニングに集中できるようになったグリーズマンは、ジルーを追い越す動きとライン間のポジショニングを繰り返すことができる。そのグリーズマンの動きがダフィを退場に追い込み、試合は終わりを告げた。アイルランドが猛攻を見せるものの、フランスが追加点をとれなかったことが不思議だった残り15分となった。次の試合はカンテがいないが、その予行演習を済ませたことはフランスにとって大きいだろう。
ひとりごと
守備の方法を変更することで、相手に変化を強いる戦術は、近年のチャンピオンズ・リーグでときどき見かけるようになってきた。ボールを保持側もボールを保持される側も同じ形が続けばどうしても慣れてしまう。その慣れがどちらに転ぶかは、その試合の内容次第なのだが、リスクをかけた型の変更で相手にも変化を強いることが狙いだ。
この試合ではフランスの攻撃方法の変化にアイルランドが対応できなかった。形としては決して珍しい形ではなかったが、ハーフタイムを挟まずに自分たちの形を変化させることは難しいのだろう。だからこそ、守備はできるだけ多くの形に対応できるように準備をする必要がある。3バックだろうが2バックだろうが、ビルドアップの枚数が減っても関係ないよということを証明するにアイスランドはうってつけの相手だ。フランスが真の優勝候補と証明するには、うってつけの相手となる。
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