両チームのスタメンはこちら。
結果は3-1でウェールズの勝利。先制したベルギーだったが、ハンガリー戦の成功体験に引きずられ、構えて守備をするようになる。しかし、ウェールズの攻撃に耐え切れずに同点ゴールを許してしまう。フェライニの登場とともに、猪突猛進の攻撃を見せるが、ベイル→ラムジーのホットラインから逆転ゴールを許す。その後はスクランブルアタックを見せるものの、カウンターでとどめをさされ、豪華なメンバーの揃うベルギーのEUROが終わった。
ベイルとラムジーの守備の役割
ウェールズの守備は、ベイルとラムジーの守備に特徴を見せた。彼らの役割は、中央に絞ってポジショニングをする。相手のセントラルハーフを捕まえるというよりは、センターバックからセントラルハーフへのパスコースを遮断するポジショニングをとっていた。ベイルたちのポジショニングによって、ベルギーのビルドアップは、セントラルハーフ経由よりも、サイドバックを経由する形が増えていった。ベルギーのサイドバックがボールを持つと、ウェールズのウイングバックが急襲してくる役割分担になっている。定跡としては、ベイルたちがサイドバックにプレッシングに行く形だ。それだけベルギーに中央経由でボールを運ばれたくなかったのだろう。
ウェールズの狙いとしては、相手のボール循環をサイドに誘導する。そして、サイドでボールを奪い切りたい。しかし、ベルギーの個の能力は、やっぱり異常だった。相手に囲まれても関係ないみたいな。チームの約束事で時間と空間を共有していくというよりは、個の能力で時間と空間を与えていくベルギーの姿勢は、昨年までのマンチェスター・シティに似ている。
ウェールズの守備を見ていると、相手に押し込まれたあとのベイルとラムジーの役割は曖昧だった。その曖昧さがカウンターの出発点として2人を輝かせているのは間違いないのだが、決まった守備の役割を行わないことは周りの選手にとっては、非常に整理が難しいだろう。実際に、ベルギーの先制点は、ラムジーが埋めるべきエリアから、ナインゴランのスーペルミドルが炸裂して決まった。定跡としてはラムジーが埋めるべきなのだけど、ウェールズの役割分担が謎なので、誰が守るべきだったかは、よくわからない。カウンターを仕掛けやすい(ハイリターン)、守備で混乱が起きる(ハイリスク)なわけだけど、先にリスクが出てしまったウェールズだった。
ラインの移動と数的優位
序盤からウェールズのカウンター、ベルギーの力技と斬り合いの様相もあった試合だったが、ベルギーの先制とともに、ウェールズがボールを保持する形になっていく。ベルギーからすれば、ハンガリー戦の再現を狙ったのだろう。4-4-2でハーフラインからのプレッシングに変更する。ベルギーの狙いは、相手に攻めさせて自分たちのカウンター機会を増やしたかったのだろう。成功体験、自分たちの得意技を考慮しても、決してわけのわからない判断とは言えない。もちろん、追加点を狙うべきだという考えも理解はできる。
ハンガリー戦の再現にならなかった理由は、ウェールズがボールを奪われないように、攻撃を構築したからだろう。3バックによるビルドアップに対して、ベルギーの1列目はおとなしかった。というよりは、ほとんど何もしなかった。そして、中央を固めるヴィッツェルとナインゴランに対しては、たくさんの選手を用意することで、混乱させることができた。ベルギーの泣きどころは、1列目が守備でまったく機能しなかったことだろう。ジョー・アレン、レドガーを観るのか、ベイル、ラムジーを観るのかとナインゴランたちの苦悩を考えるだけで、泣きたくなってくる。
だったらサイドハーフが中央に絞ればいいのだけど、ウェールズのウイングバックが大外に控えている。ウェールズは中央の数的優位と大外のウイングバックを使いながら、中と外の攻撃でベルギーに迫っていった。圧倒的な数的優位は、トランジション優位にも繋がった。よって、ベルギーはボールを奪えない&ボールを奪ってもカウンターを仕掛けられないと二重苦の状況となる。さらに、ロブソン・カヌにデナイエルが狙われたことも厄介だった。ベルギーからすれば、初スタメンコンビのデナイエルとルカク弟を狙うには既定路線だったのかもしれない。
ウェールズの中央からの数的優位に貢献したのがラムジー。ラインを移動することで、ラインの枚数を調整していた。ラインごとに数的有利かどうかは、相手の関連性ではっきりする。その枚数をラインの移動することで、ラムジーは調整する。ナインゴランたちは、ジョー・アレンたちから時間を奪いたい。しかし、ラムジーがサポートに来ると、逃げられてしまう。相手の2トップに対して、2トップの間にポジショニングしたり、センターバックの間に下りる動きと発想は同じだ。ちなみに、この動きからベイルがフリーになり、ラムジーが飛び出して、ウェールズの逆転ゴールが決まる。
時間を少し巻き戻すと、一気呵成のウェールズは、トランジションカウンター、セットプレーの機会が増え、コーナーキックからアシュリー・ウィリアムズが決めて、同点に追いつく。スウォンジーの主力であるウィリアムズの得点は非常に嬉しかった。なお、ウェールズ代表では微妙だと聞いたことがあったのだが、クラブチームでのプレー以上の仕事をしていると思う。スウォンジーでも頑張って欲しい。引きぬかれてもおかしくはないけれど。
フェライニ投入の正当性
後半の頭から、カラスコ→フェライニ。デ・ブライネは右サイドへ移動。形としては、ナインゴランをトップ下、ヴィッツェルとフェライニをセントラルハーフという形に変更したベルギー。ウィルモッツ采配だが、この采配は定跡通りだったと思う。ウィルモッツは修正がうまい。ただし、試合前からわかりきっていたことでは、、という意見もわからなくはない。得点を取りに行く場面でカラスコを下げるという采配は矛盾しているようだが、後半のベルギーのラッシュは、采配の正しさを証明していた。
前半戦のベルギーの問題は、1列目が守備をしないことと、相手の中盤の数的優位作戦に苦戦していたことだった。両方を解決するためには、1列目に守備をさせればいい。でも、デ・ブライネは守備をしてくれないと考えたのだろう。よって、ナインゴランが列を上げる。ナインゴランの位置にはフェライニを入れる。いざとなったら、4-5-1でも守れる布陣は、ウェールズの中央での数的優位作戦に対抗できる。実際に守備が整理されたベルギーは、ボールを奪ってのカウンターや自分たちがボールを持つ時間が増えていった。
決定機を量産していく中で、シュートが枠に飛ばないベルギー。守る時間の増えたウェールズだったが、55分にロブソン・カヌのゴールが決まる。綺麗過ぎるクライフターンからのシュート。クライフターンでのトラップが流行しているが、今では必修のフェイントになっている。ラムジーがデナイエルの裏に飛び出したのがにくかった。
ベルギーのいいところは、個々の選手が何とかしようとする意思がプレーに反映されること。悪いところは、それらのプレーがばらばらで共有されないところ。アルデルヴァイレルトのオーバーラップがチャンスに繋がったように、横幅とインナーラップの関係性は、相手が何バックだろうと、徐々に響いてくる。しかし、その形を捨てるかのようなメルテンスの投入で、スクランブルアタックにはしったウィルモッツ。こういう采配はあまり好きではない。ただし、空中戦では世界で最強のフェライニがゴール前に上がっていくと、確かにシュートが決まりそうな雰囲気になっていくからさすがだった。
しかし、とどめはウェールズ。3バックに変化したけど、横幅が誰か微妙なベルギーの泣きどころのサイドにボールを繋ぎ、最後は途中出場のヴォークスが決めて試合は終わった。後半のベルギーは良い意味でも悪い意味でも、彼ららしさを発揮してしまった。ウェールズは我慢を続けた結果、ジャイアント・キリングに成功。怪しさは露呈していたけれど、チーム全体でつかみとったような勝利は、チームをさらにレベルアップさせるだろう。
ひとりごと
ベルギーをまとめられる監督は、出てくるのだろうか。ベスト8という結果をどのようにベルギーが解釈するのかは興味深い。プレミアリーグの選手が多いが、プレミアリーグの監督たちが一気に様変わりしたので、その影響を受けて進化する、なんて都合の良いことは起きないだろう。
初出場でベスト4に上り詰めたウェールズ。準決勝は、ラムジーとデイビスがいない。双方ともにかなり痛い。また、クリスチャーノ・ロナウドとベイルの対決ということで、話題性も十分だ。注目はフェルナンド・サントスのウェールズ潰しだろう。ボールを保持してもどうにかできそうな感じがするので、どのような策で来るのか楽しみだ。
コメント