【マイケル・オニールの頭の中】ウェールズ対北アイルランド【3バックを破壊せよ】

EURO2016

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結果は1-0でウェールズの勝ち。結果だけを見れば順当だが、グループリーグで見せた北アイルランドの試合前の準備の質が、ウェールズを苦しめた試合となった。北アイルランドの選手の平均年齢が、30歳に近いことは話題になっていた。しかし、次の大会のことなんて考えられねえよ、今だよ今!という姿勢は、代表チームにとって、とても大切な視点なのではないか、ということを考えさせられる。

Necessity is the mother of invention.

スウォンジー組を中心とするウェールズの3バックによるビルドアップは、高い完成度を見せていた。イタリアの3バックのビルドアップによって、スペインがズタボロにされていたように、3バックのビルドアップにはしっかりとした準備をして臨まなければならない。アトレチコ・マドリーやレスターのような4-4-2であれば、汎用性を持って対応できるのかもしれないが、そこまでの守備の強度と精度を手に入れられるチームは、決して多くはない。クラブチームと比較して、どうしても戦術的な質の劣る代表チームの試合において、相手の明確な解決しなければいけない状況を用意することは、理にかなったプランと言えるだろう。

クラブチームと比べると、強豪国の質に疑問が上がっている今大会。一方で、中堅国と思われていた、または初出場の国々の戦術的なレベルは上がっている。一緒にトレーニングを積む時間が長かったからか、試合を壊す個の不在が戦術的な解決策を求めたのかは、国々によってケース・バイ・ケースだろう。実際に試合内容でははちゃめちゃだが、最終的には強豪国が勝っていたという試合が多い。もちろん、ジャイアント・キリングも同じように起きている。論理的な結果もあれば、個で帳尻を合わせ、論理を破壊するチームもある、というのが今大会の特徴となっている。

ウェールズの3バックによるビルドアップが彼らの名刺だとすれば、北アイルランドの名刺は変容性と言えるだろう。ポーランドの良さを消す5バック戦術、ウクライナとの正面衝突で見せた4-3-3、キーパーに救われながらもドイツを相手に最少失点で守り切った守備力と試合ごとにその表情を変えている。そして、その表情はウェールズを相手にしても、しっかりとしたものだった。ウェールズの名刺に対して、北アイルランドは最善の準備によって、試合を自分たちの狙い通りに展開していく。

3バックのビルドアップを止めよ

試合中にチェスターがどのような心境でプレーしていただろうか。前半を振り返ると、圧倒的にボールタッチ数が多いのがチェスターだ。その理由は、北アイルランドの守備にある。北アイルランドは、ボールの奪いどころを相手の3列目に設定しなかった。ボールの奪いどころを2列目に設定する。よって、3バックからボールを奪う気はまるでなかった。その代わりに、ボールを前進させる、ビルドアップの出口を限定することに尽力した。ボールを奪うという目的を捨てた代わりに、相手の選択肢を削ったということになる。

具体的な方法は、ラファティはアシュリー・ウィリアムズにつく。ウォードはデイビスにつく。2トップで相手の3バックの2人をマークする。よって、チェスターだけが常にフリーという状況が設定される。チェスターがフリーなら問題ないではないか?となりそうだが、攻撃方向の限定が北アイルランドの守備を助ける。チェスターから攻撃が始まるとわかっていれば、北アイルランドは全体がスライドして対応する。よって、チェスターからボールを受ける選手は必然的に相手がそばにいる、もっと言えば、ボールを虎視眈々と狙っている選手がいるゾーンでの勝負を強いられることとなった。

だったら、サイドチェンジをすればいいとなるのだが、3バックを経由するサイドチェンジは不可能だ。アシュリー・ウィリアムズもデイビスも相手がそばにいる。キーパーを使っても意味は無い。だったら、中盤の選手を経由したいのだが、3バックによる迎撃は人への意識が強くなる傾向がある。よって、ジョー・アレンたちのそばにも人がいた。いや、チェスターが一発でロングボールを蹴ればいい、シャビ・アロンソみたいに。そのとおりなのだが、ボアテングやシャビ・アロンソは世界中にいない。そして、かりにサイドチェンジをしたとしても5バックによる横のスライドで得られるメリットはほとんどないという状況になっていた。

3バックビルドアップを止める方法は他にもあって、真ん中の選手(アシュリー・ウィリアムズ)だけにマークをつけて、分断する。ワイド(チェスター)にマークをつけて、残りの2人を1人で追いかけ回す。数的同数プレッシングで時間を奪う。4-3-3で2列目はスライドでサイドに対応すると、様々な手法が試されてきている、北アイルランドの手法は、ボールをもたせる選手を決定する。サイドチェンジをさせないように守備を組む。そして、マンマークに近い状態で相手を捕まえることで、攻撃を機能させないというものだった。

ウェールズの策は、ラムジーやベイルがポジションを下げて、プレーをするだった。本来ならば、ジョー・アレンが列を下げてプレーをすることで、相手の守備の基準点、ポジショニングを狂わせたかったのだが、3バックから4バックへの変換は行わなかった。どこかで聞いたことある変換だが、気にしない。よって、列の移動はラムジーとベイルになるのだが、代わりに前線に上がっていく選手がいるわけではないので、ウェールズの攻撃の迫力は計算通りに減っていった。それでも、ラムジーとベイルはファウルをもらいながら何とかしようと試みているのには立派だった。

狙われたラムジーとベイル

ウェールズのシステムは3-4-2-1と表現することもできる。3-4-2-1と言えば、ミシャ式だが守備の設定がめんどくさい。5-4-1になるか、3-4-3のまま守備を行なうか。ラムジーとベイルの守備の役割は曖昧で、北アイルランドはその隙を見逃さなかった。

北アイルランドは3バックからのビルドアップでベイル、ラムジーを外し、ウェールズの1.2列目の間のエリアを支配することに成功する。デイビス、エバンス弟、ノーウッドの面々が攻撃を展開していき、試合を自分たちの流れに引き寄せることに成功した。特に3バックで相手をずらすというのはウェールズの得意技だったのが、ほとんどミラーの状況を作ることで、相手のやりたいことを自分たちがやっていた。

時間が経つにつれて、北アイルランドは相手陣地からのプレッシングも行なうようになる。チェスターは放置が原則だったのだが、ボールを奪えそうならプレッシングを仕掛けるべきだ。ノーウッドが前に出て行くことで、チェスターはさらなる混乱にさらされるようになる。このように試合をやりたい放題ですすめていった北アイルランド。それでも得点が奪えないところに、切なさを感じさせる。ボール支配率ではウェールズが上だったが、北アイルランドのほうが効果的にボールを保持していた前半戦となった。

ジョナサン・ウィリアムズが鍵

後半になっても試合の流れに大きな影響はなかった。前半のように北アイルランドが試合の流れを掴んでいた。ウェールズも前半とは異なる展開を望んだが、顕在化するまでには、ジョナサン・ウィリアムズの登場を待つこととなった。そういう意味で、ジョナサン・ウィリアムズの交代がトリガーとなることをハーフタイムで意思統一していたのだろう。

63分にジョナサン・ウィリアムズがレドリーと交代して登場する。ウェールズは中盤をジョー・アレン、ラムジーにした。ジョナサン・ウィリアムズはベイルと一緒に前線に配置され、最前線には途中から登場したカヌが鎮座していた。

繋げなかったウェールズはロングボールによる陣地回復を狙うようになる。ノーウッドのプレッシング開始でボールを奪われるのが最も悪い状況とするならば、相手にボールを渡しても問題はない。相手のラインを下げ、相手がボールを外に出してくれれば、一気に相手陣地からのボール保持となる。だったら、いっそのこと蹴ろう、繋げるときは繋ぐけどという姿勢が試合の流れをゆっくりとかえはじめる。

また、ジョナサン・ウィリアムズの登場で、ウェールズは高い位置からのプレッシングが発動するようになる。走らなかったラムジーから走るジョナサン・ウィリアムズ、そして途中交代で元気なカヌによって、前線の守備が機能するようになると、ウェールズは徐々に相手陣地でボールを持つようになった。ボールを蹴っ飛ばす→マイボールになったらラッキー。相手ボールになったらプレッシング発動。相手を押し込んだ状態でマイボールになったら、ジョー・アレンとラムジーでボールを動かし、ジョナサン・ウィリアムズとベイルのドリブルで仕掛けるという局面変換は非常に機能した。

前半を振り返れば、ウェールズがボールを持つ。北アイルランドに奪われる。北アイルランドの速攻かボール保持にさらされるという展開が続いた。この局面変換がうまくいったウェールズ。ただし、力技の雰囲気が漂っていたので、強豪相手に通用するかは微妙だ。そのときはそのときの手があるのかもしれないけれど、なさそうだと予想しておく。

試合はベイルのクロス連続からオウンゴールが誘発する。悲しみの北アイルランドは残り15分のスクランブルアタックを仕掛ける。しかし、肉弾戦には強いウェールズ。適度に時間を潰しながら守り切ることに成功した。こうして英国対決、初出場対決、練習試合をよくやっているチーム対決は、ウェールズの勝利で終わった。

ひとりごと

北アイルランドの緻密さが際立った試合だった。それでも勝てないところが面白い。逆にウェールズは内容はもっていかれたけれど、何とか勝ちきるというのは今までとは違う勝ち方だったのかなと。そういう意味では自信に繋がる勝利になっただろう。しかし、ここまで攻略のヒントをさらされてしまうと、次の相手の準備に対してどのように抗うかは非常に怪しいところ。まだ、策はあるのかどうかでウェールズの命運は決まるか。それでも、ベイルなら何とかしてしまうかもしれないが。

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