モナコの変幻自在のプレッシングと攻守の問題を同時に解決するトゥヘルの修正【ドルトムント対モナコ】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

リーグ戦の優勝は限りなく不可能になってしまったドルトムント。残った注目ポイントは、チャンピオンズ・リーグでどこまで生き残っていけるか。怪我人が続出しているが、様々なシステムやポジションでプレーさせてきたトゥヘル監督の起用法によって、何となく穴は見当たらない布陣となっている。ドルトムントの場合、チャンピオンズ・リーグでどこまで勝ち上がれば成功と定義されるのかは、ちょっと気になる。優勝がマストだ!ということもないだろう。ベスト4まで勝ち残れば、ノルマ達成になるのだろうか。本当はそんなものなさそうだけど。一戦必勝でどこまで生き残れるかみたいな。

マンチェスター・シティを倒したことで、一気に台風の目になりつつあるモナコ。記憶を遡れば、モリエンテス時代の活躍が思い出される。この試合ではバカヨコが出場停止。それでもモウチーニョが出てくるのはえぐい。両サイドバックが怪我でもしたのだろうか。メンディたちがいないのは、ドルトムントにとっては朗報だろう。ドルトムントとはことなり、リーグ戦ではパリ・サンジェルマンよりも上の順位、つまり首位に位置しているモナコ。目指せリーグ覇者とチャンピオンズ・リーグでどこまで行けるか大会ができていることは、モナコの面々にとって、幸せな時間になっていることだろう。

変幻自在のモナコのプレッシングシステム

モナコは、4-2-3-1でプレッシング開始した。役割としては、オーソドックスな形だった。ポジションのまま役割が実行されると、ドルトムントの両脇のセンターバックが時間とスペースを得ることができる。よって、ピスチェクとベンダーの運ぶドリブルでモナコのサイドハーフがピン止めされる。そして、モナコのサイドハーフの背中でギンター、シュメルツァーがボールを受ける。この流れで、ドルトムントはボールを前進させることにあっさりと成功した。この形は再現性を持って行われることが明白だ。よって、モナコはさっさと4-2-3-1に見切りをつける。この見切りをつけるまでの時間が驚愕で、たったの2分だ。

4-4-2に変更するモナコ。レマーとムバッペがコミュニケーションを通じて、ポジションチェンジを行った。恐らく、事前に決まっていたのだろう。ドルトムントが3バックできて、1トップで抑えられそうになかったら4-4-2に変更しましょうと。モナコの基本形は4-4-2なので、この変更はスムーズに行われた。4-2-3-1のままだったら、再現されそうなドルトムントのウイングバックによるモナコのサイドハーフの背中取りは抑えられた格好となる。しかし、ヴァイグル番がいなくなった。また、3バックと2トップで追いかけ回すことは悪くはないが、効率が良いとはいえない。よって、モナコはさらにシステムを変更する。なお、ここまでたったの4分だった。

442から433変換で3バックに3トップをぶつける。ようやく最適解を見つけたモナコ。ドルトムントは配置的な優位性(3バックからの時間とスペースの供給)をたたれてしまったので、どうしても五分五分のロングボールが増えていく展開となった。ヴァイグル番はいないが、3トップでパスラインを制限するようになっている。例えば、ソクラティスがボールを持っているときは、ファルカオがパスラインを制限しながら寄せる。ソクラテスがベンダーにパスを通したら、ボールサイドでないウイング(この場面ではムバッペ)がヴァイグル番になるように設計されていた。恐らく、すべて準備されたものだったのだろう。そのなかでどの策を使うかは、監督の指示によるものだったのかもしれないし、選手たちに選択権があったのかもしれない。

この状況へのドルトムントの策は、ゲレイロがビルドアップの出口となれるように、列の移動を繰り返すだった。しかし、モウチーニョがどこまでもついてくる。香川の側には曲者のファビーニョがポジショニングしていた。よって、ドルトムントはロングボールが増えていく。ゲレイロがビルドアップの出口として振る舞っていたように、セカンドボールを拾う隊を準備していたわけではなかった。よって、ロングボールは効率が良いものではなく、モナコにボールを渡してしまう形になってしまうことが多かった。ヴァイグルが中央レーンから移動することで、ボールを受ける場面もあったが、非常にまれな現象だった。

15分にドルトムント陣地でのスローインのトランジションから、モナコは相手のディフェンスラインの裏にボールを供給。特急ムバッペが裏とりに成功するが、ソクラティス・パパスタソプーロスに倒されてPKを得る。キッカーはなぜかファビーニョ。そして、枠を外す。18分にはまたもトランジションの連続からモナコのカウンターが発動する。ボールを運ぶはベウナウド・シルバ。レマーのオーバーラップを見逃さないのが巧み。レマーのクロスをムバッベが押し込んで、モナコが先制する。でも、ムバッベのポジションはオフサイドに見えた。無情。ドルトムントはトランジションでボールを運ぶことはできていたが、トランジションが起きれば、相手にカウンター機会を与えることにも繋がる。でも、トランジションでも起きなければ、相手陣地でプレーできそうにない。そんな矛盾と向き合うのはなかなか厳しいドルトムントだった。

モナコが狙ったドルトムントの守備の仕組み

モナコは撤退守備を4-4-2で行っていた。相手陣地では4-3-3、自陣では4-4-2。トランジションで自陣に押し込まれると、4-4-2に変換するモナコは、その変換を面倒と考えていたのかもしれない。また、3トップによる絶え間ないボール保持者へのプレッシングがゆっくりと弱まっていった。30分を過ぎると、モナコの3トップはより走れなくなってくる。ドルトムントからすれば、ポゼッションのご褒美。だったら、最初から4-4-2で良いよね!という考え方になっていくモナコ。ボール保持でも4-2-2-2を披露するようになり、いわゆるいつものモナコになる。ただし、守備の形は4-2-3-1。この形でプレッシングに行くと、ドルトムントにボールを前進させてしまうのだが、4-3-3を続けて疲弊していくよりはましと考えたのかもしれない。

このモナコの変容によって、わずかだが見られた序盤戦のようにボールを前進させられるようなったドルトムント。しかし、モナコの4-2-2-2には明確な罠があった。

モナコの狙いとしては5-3で守るドルトムントに対して、サイドバックは時間と空間を得られやすい設計となる。その位置からのクロスは、4バックを維持している限りは享受できる。この形をさらに加速させたのが、トランジションのときに誰がヴァイグルの脇を守るかであった。ゲレイロと香川は前に出て行くので、撤退守備ではヴァイグルの横にいても、トランジションのときにはいない。ドルトムントはウイングバックをヴァイグルの横を守らせていた。本来ならばピスチェクが出てくれば良いのだが、サイドハーフからセンターに入っていく動きにギンターが釣られたとも言える。ただし、何度もつられていたので、そういう習性があることをスカウティングされていたのかもしれない。この形も再現性を持って行われていた。

34分。中央に移動するレマーにギンターがついていきすぎてしまう。いわゆる習慣。そして、空いたサイドで時間をえるラッジ。ラッジのクロスをまさかのベンダーが押し込んでスコアは0-2でモナコのリードとなる。考えすぎかもしれないが、3トップでの守備をやめてドルトムントのボール保持&前進を許す。その代わりに相手の守備が整っていない状況を作りやすくする。カウンター&ボール保持でヴァイグル脇のスペースを使い、サイドに時間をつくる。どこまで計算で行っていたかわからないが、前半はモナコが完全に試合を支配していた。しかし、戦術オタクと呼ばれたトゥヘルの逆襲が始まる。

トゥヘルの采配の中身

後半の頭から、ベンダー→ヌリ・サヒン。シュメルツァー→プリシッチ。懐かしのヌリ・サヒンの登場は胸熱。ヌリ・サヒンの登場は、ドルトムントの問題を攻守に解決した。セントラルハーフを2人にすることで、ビルドアップの出口が増える。ヴァイグルだけでは、パスラインの制限でどうにかなるケースが多かったが、サヒンもいると、2トップでパスラインを制限しながら3バックにプレッシングは、無茶な芸当だ。さらに、モウチーニョとファビーニョは香川たちを見ながら、ヌリ・サヒンとヴァイグルをどうする?と無理難題を強いられることになる。また、守備面でも中央の枚数が増えたことで、ウイングバックによるセンターへのサポートを行わなくなった。よって、プリシッチとゲレイロはサイドの守備に集中することができるようになる。なお、デンベレも相手のサイドバックンには頑張って守備をしていた。

そして、後半から登場したもうひとりの刺客が半端なかった。右サイドから繰り返されるプリシッチの突破のドリブルは、ドルトムントに多くの優位性をもたらすことになる。モナコが4-4-2になったことと相まって、ドルトムントは配置的な優位性と質的な優位性を持って、猛烈な勢いでモナコの陣内に攻め込んでいった。57分にそんな展開からヌリ・サヒンのサイドチェンジをゲレイロがクロス。オーバメヤンが狙ったのか何なのかは不明だが、香川に回し蹴りでパスを通し、香川はデンベレにプレゼントパスをする。デンベレが決めて1点差となった。

前半にはくるりくるりとシステムをかえていたモナコだったが、後半は大きな変化を行わなかった。もしかしたら、リードしている状況が勇敢な動きを制限してしまったのかもしれない。65分にベウナウド・シルバ→ディラル。守備の強度を維持する印象の強い交代策だった。モナコは撤退守備で耐えながら、ときどき殴り返すという形になっていく。ファルカオが75分のチャンスを決めてれば、もっと楽な試合にはなっただろう。しかし、事故が起きる。78分にモナコに追加点。ドルトムントもゆっくりと動きを失っていくなかで、まさかのビルドアップミス。ピスチェクのパスミスをムバッペがかっさらって独走。そして、ビュルキとの勝負に勝つ。気がつけば選手同士の距離が近くなっていて相手にパスカットを狙われやすい状況になってしまっていた。

スコアは1-3。しかし、後半のドルトムントは問題をほとんど解決していた。そんなドルトムントは83分に香川真司の真骨頂。クロスを見事なファーストタッチからの切り返しで相手を切り裂き、ゴールを決める。スコアは2-3。この試合の香川はビルドアップの出口となるよりも、相手陣地で攻撃の起点となる場面が多かった。特に後半にチーム全体で繰り返されたサイドチェンジを何度も行って攻撃を演出していた。ドルトムントのゴールも両方ともにサイドからのクロスだったのは偶然ではないだろう。モナコの守備は中央圧縮の習慣が強く、サイドに時間ができる。よって、サイドからのクロスが逆サイドのウイングバックに届いてさらにクロスを繰り返す場面もあった。オーバメヤンがヘディングを決めていればという場面もちらほら。

試合はこのまま終了。スコアは2-3。アウェイゴールを持ち帰ったモナコだが、マンチェスター・シティとの試合でも見られたように守備は悪くはないが失点は必ずしてしまう。よって、セカンド・レグも激戦必死になりそうだ。ヴァイグルとヌリ・サヒンのセントラルハーフコンビが試合の流れに大きな影響を与えた。この形に対して、モナコがどのような対策を考えてくるかは楽しみだ。

ひとりごと

試合前のYou‘ll Never Walk Aloneは、なかなか感動的だった。

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