【ラムジーとベイル】ウェールズ対スロバキア【なめてはいけないシステム噛み合わせ論】

EURO2016

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メジャートーナメント初登場のウェールズと、メジャートーナメントの常連になりつつあるスロバキアの対決。

ギグス時代から期待を集めていたウェールズだが、ベイル時代にメジャートーナメントへの出場権を得た。アシュリー・ウィリアムズ、デイビス、アレン、テイラーとスウォンジーの香りが漂いつつも、ベイル、ラムジーとビックネームも揃えている。ベイルを絶対的なエースとして、どこまで結果を残せるか注目が集まっている。

ネドベドたちの華やかなチェコと対比して、地味な印象の強いスロバキア。ハムシクというエースを中心に、やっぱりクセモノが揃っている。予選ではウクライナ、スペインを撃破したしっかり守ってからのカウンターをチームの長所とする。ダークホースになれるかどうか。

迎撃型の3バックによる積極性

奇襲というよりは、試合に対する両チームの思い入れを強く感じさせる立ち上がりとなった。まるで決闘のような球際の争いに、審判も試合を落ち着かせることに苦労していた。球際の争いをさらに加速させた原因は、ウェールズの守備の約束事になる。3-4-3のウェールズは5バックに変化して、守備の形を作る。センターバックは、いわゆる迎撃型であった。つまり、マンマーク気味の守備が、球際の争いの機会を増やし、試合をさらにヒートアップさせた。そんな激しい攻防の中で、飄々とプレーしていたのは、ジョー・アレン。得意のバックパスと3バックによるビルドアップを活かして、自分たちの狙いを最初に出し始めたのがウェールズだった。

ウェールズのシステムのキーは、ラムジーとジョナサン。ボール保持の横幅はウイングバックが担っていたので、彼らは自由なポジショニングが許されていた。この2人の柔軟なポジショニングによって、スロバキアは中盤エリアでの守備を整理することができなかった。整理できていないということは、相手に効果的なボール保持からの前進を許してしまうことに繋がる。そして無理な守備はファウルを呼び、ベイルの直接フリーキックが炸裂する展開で、試合の序盤は終わりを告げた。

15分が過ぎると、素早いボールの入れ替わりは終わり、どちらかのチームがボールを保持し、もう一方が守備の形を作るようになっていく。ウェールズの守備は5-2-3。1列目は中央にポジショニングし、相手のボール循環をサイドに誘導する約束事になっていた。2.3列目の選手たちはマンマークの要素が強い。よって、ハムシクたちがビルドアップ隊のサポートに加わろうとすると、そのままついてくる。中央から人がいなくなるが、1列目の選手たちのポジショニングによって、パスコースは制限されている。さらに、センターバックは迎撃を可としている。ゆえに、中央を空けても問題にならないとしているのだろう。なお、撤退するときは5-4-1のようになるが、ラムジー、ジョナサンはできるだけ前に残したいんだろうというポジショニングをしていた。

スロバキアの守備は、4-1-4-1。3バックに対して、ハムシクを出して4-4-2で守りたいように見えた。しかし、ジョー・アレンとエドワーズのポジショニングによって、中盤のエリアを空けることは危険極まりない状態へ。よって、4-1-4-1を維持するのだけれど、3バックの運ぶドリブル、ラムジー、エドワーズ、ジョー・アレン、ジョナサンのポジショニングによって、ボールを循環させられてしまうように苦戦していた。ウェールズにボールを保持されることを想像していなかったのか、ウェールズが新しいボール保持をしてきて対応できていないのかは、不明だ。

ウェールズの守備に対して、スロバキアはハムシク、クツカ、、ヴァイスが、ポジショニングを下げてプレーするようになる。狙いは相手のマークがどこまでついてくるかを調査することだろう。ついてきたとしても、ボールを受けて、はたいてを繰り返せば、自分のマークがオールコートマンマークでないかぎりは、ボールの行方を見守る瞬間ができるので、マークを外すことができる。また、相手を連れて移動することができれば、ビルドアップ隊から前線へのパスラインを作ることもできる。ただし、縦パスに対して、迎撃型で対応するウェールズのセンターバックトリオの前に、スロバキアの前線軍団は沈黙してしまっていた。

次の手が必要になりそうなスロバキア。徐々に上がっていくボール保持率。もともとボールを保持することを得意としているチームではない。しかし、試合の展開によっては、ボールを保持しなければならない状況も訪れるだろう。今がその時。そして、スロバキアの選んだ手は、今の状況を継続することだった。味方につけたのは時間。残り時間が少なくなっていくにつれて、ウェールズの守備の乱れが発生することを予想していたのだろう。疲労、集中力の欠如は、いつだって終了間際に訪れると相場で決まっている。徐々に自由になるハムシクたちを中心に、スロバキアはセンターバックのビルドアップも含めて、ウェールズの陣地に侵入していけるようになっていき、前半は終了した。

解決されない守備問題

後半が始まると、ウェールズがまたもボールを保持するようになる。スロバキアは効果的に前進させたくないのだが、プレッシングがはまる場面が極端に少なかった。サイドの選手を前に出して、4-3-3のように守るのか、ハムシクを前に出すのかが曖昧であった。ジョー・アレンに見事にターンされボールを循環されてしまったように、ウェールズが息を吹き返す後半の立ち上がりとなった。気になることがあったとすれば、リードしたこともあって、ウェールズがウイングバックの守備を下げたことだろう。よって、スロバキアはサイドバックからウェールズ陣地に侵入できるようになっていった。

60分にジュリシュ→ネメツ。質的優位をチームにまったく与えられなかったジュリシュは、無念の交代となってしまった。同じタイミングで、フロショフスキー→ドゥダ。ポルトガル界隈で目にしそうな名前だが、間違いなくスロバキア人。21歳で代表デビューをした19歳の新鋭が登場する。ドゥダをトップ下、ハムシク、クツカをセントラルハーフにすることで、守備を噛みあわせないようにするスロバキア采配。

そして、同点ゴールをすぐにドゥダが決める。得点のきっかけは、ライン間を上下するクツカとハムシクを経由するビルドアップから、サイドバックとポジションチェンジしたマクへ。ハムシクとクツカの上下動に合わせて、ポジションを上げたドゥダへのマークが空いてしまったウェールズ。マクのパスを受けたドゥダが左足を振りぬいて、同点ゴールが決まった。楔のパスをことごとく防がれたスロバキアは、後方から攻撃の起点を作り、運ぶドリブルや突破のドリブルをメインにウェールズの守備陣に挑んでいった。

68分にエドワーズ→レドリー。70分にジョナサン→カヌ。セントラルハーフの疲労を考慮しての交代。カヌの采配は面白かった。ワントップにカヌを配置することで、ベイルのポジションが下がった。よって、ベイルのプレー機会が増える。空中戦の的としての役割から解放されたことも大きいだろう。ラムジーとベイルのシャドウは強烈だった。このような攻撃の型が変更されたことで、苦しんだのはスロバキア。特にベイルとラムジーには苦しめられていたと思う。

試合を終わらせたのは、ウェールズのボール保持攻撃から始まった。中央からクツカとハムシクの間にパスラインを見つけ、ラムジーが中央を割ると、最後は交代で登場したカヌが決める。交代で登場したドゥダとネメツが自分のポジションに戻る間の隙を見逃さないウェールズの繋ぎの上手さが濃縮されたラムジーへのパスだった。躍動し続けるラムジーは、お役御免で交代。両チームともに交代枠を使い切る。ウェールズで興味深い采配は、守るだけにならないように、ベイルを前線に残したことだろう。快足ベイルを活かしたカウンターでとどめを刺す、、までは行かなかったが、攻撃を忘れない守備によって、守りきりに成功する。こうして、ウェールズが初めての大きな大会で初勝利をあげた。

ひとりごと

守備を長所とするスロバキアだったが、3-4-3でスタートするウェールズのボール保持に対して、効果的な策を最後まで実行できなかった。4-3-3で死なばもろともな雰囲気もときどき感じられたけど、再現性があったかといえば、なかった。なめてはいけないシステム噛み合わせ論。負担のかかるエリアと負担のかからないエリアの調整をしなければ、ろくな事にならない。自分たちがボールを保持する場面においては、中盤の形を変更するなど、対応は明確だったのだけれど。

ウェールズは会心の勝利。自分たちらしさを存分に発揮したのではないだろうか。ベイルの先制点、カヌの追加点と、ゴールを決めたあとの喜びを爆発させる景色は、胸をあつくさせるものだった。また両チームのモチベーションの高さは、嫌でも感じることができた。気持ちは目に見えないけれど、ときどきは目に見えるという格言を再認識させられた。このあつさが代表戦の醍醐味だろう。ダークホースになれるか期待のウェールズはファイナルラウンドに向けて貴重な勝点3を手に入れた。

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