前節から変更のないロシア。イングランド戦はセットプレー崩れから起死回生の一発でイングランドを地の底に沈めた。地の底に沈めたと書いたけど、実際には同点に追いついただけ。それでもシード国から勝点をとったことは評価できるだろう。守備をCSKAモスクワ、攻撃をゼニトセットで構成されている。監督は本田でお馴染みのスルツキ監督。なお、CSKAモスクワの監督を兼任しているらしい。
前節から3名の入れ替えを行ったスロバキア。同点ゴールを決めたドゥダがスタメンへ。中盤の選手だが、トップで起用されている。他には怪我から復活した名前が可愛すぎるフボチャン。ペチョフスキは大ベテラン。でも、代表に定着したのは最近らしい。EUROでの初勝利を目指して、ロシアに挑む。
予定調和を破壊するハムシク
イングランド戦では大人しさを見せたロシア。しかし、相手をスロバキアにすると、自分たちの姿を見せ始める。イングランド戦でも見せたように、サイドバックを上げるビルドアップを展開。4-1-4-1で守るスロバキアは、上がってくるサイドバックとサイドハーフのポジショニング問題を解決する必要性に迫られる。解決策のひとつが、攻撃の起点を作らせないことだ。いい位置に相手がいたとしても、パスコースを遮断したり、そもそもセンターバックにボールを持たせないような時間を奪うプレッシングを行えば、上記の問題は解決する。
ロシアのビルドアップ隊は、2センターバックと2セントラルハーフ。スロバキアのプレッシング隊は1トップと2インサイドハーフ。つまり、4対3状態となった。サイドバックがいないので、4枚の関係性で横幅縦幅を使うロシア。クラブチームではスパーズが行っている4枚でのビルドアップ。ボックスの形でスタートして、セントラルハーフが列を下りて3バックになったり、サイドバックのエリアにポジショニングしたりと汎用性は高い。スロバキアは高い位置からのプレッシングが機能しなかったこともあって、撤退して守る時間帯が増えていった。ウェールズ戦でも露呈したように、スロバキアの守備は、かなりゆるい。よって、ボールを前進させられるロシアにとって好都合な展開が増えていった。前線のゼニト軍団やスモロフがようやく自分たちがどういう選手であるかを証明するようになる。
スロバキアのビルドアップ隊は、2センターバックとアンカーのペチョフスキ。ロシアのプレッシング隊は、ジュバとシャトフ。つまり、3対2状態となった。ロシアの守備はジュバがセンターバック同士のパス交換を遮断する。シャトフはペチョフスキとデートをする。この役割分担によって、スロバキアのセンターバックは選択肢がなくなってしまう。キーパーを使えば新たな状況を相手に用意できるけど、スロバキアはキーパーをビルドアップに使わない。よって、自分の運ぶドリブルに頼ることになるが、ボールを失ったら一気にリスキーになる。だったら、相手にボールを渡してしまえというわけで、守備から試合に入るようになる。
よって、試合はほとんどロシアのターンで進んでいく。ロシア、やるやないかと。スロバキアの守備は、相手の攻撃をどこに誘導し、どこで奪うかが明確でなかった。それでも、ロシアのミスに乗じてショートカウンターを仕掛ける場面もしばしば。慣れないだろう1トップのドゥダは、ゼロトップ的な動きでチームに貢献していた。ただし、チームとしてボール保持率を上げるような状況にはなかったので、効果的な起用だったかは疑問が残ってしまった。ただし、ジュリシュを出してもロシアのセンターバックコンビに競り勝てたかは疑問なので、理解できる采配であった。
予定ではロシアが先制しそうな展開へ。しかし、そんな予定調和を破壊したのがハムシク。相手のプレッシングを受けながらもロングスルーパスで、ヴァイスのゴールをお膳立て。ヴァイスのフェイントにロシアの守備が2人ともに騙されたのが運の尽きだった。1人はチャレンジ、もう1人はカバーが鉄則。ショートコーナーからのハムシクはゴラッソ。ただし、全体的に集中力を欠如したかのような守備を見せてしまったロシア。ヴァイスへのパスはしょうがないとして、ショートコーナーはシュートまでにもっと苦労させられたのではないかと思う。怒るスルツキ。
変な采配だけど、ひたすら殴り続けるロシア
初戦で見せた再びのセントラルハーフ2枚替えをロシアは後半の頭から行った。。前半のセントラルハーフとの違いは、セントラルハーフ同士の横幅を取る。サイドバックエリアをプレーエリアとし、相手のインサイドハーフをサイドに動かすことで、2.3列目のライン間へのパスコースを作る狙いがあった。さらに、ビルドアップに関わった後は、積極的に相手のブロック内に侵入していった。前半のコンビでもその仕事はできそうな気がするのだが、恒例のスルツキ采配である。
ハムシクの活躍で2点差を手に入れたスロバキアは、がっつり自陣に撤退していた。しかし、ロシアにライン間を使われる場面が頻繁に起こっていた。このままでは不味そうなスロバキアは、ゆっくりと守備固めをする。最終的に大きい選手とサイドの選手を入れることで、セットプレー対策と4-4-2への移行を完了させた。ハムシクを前に出して、4-4-2に変更する。狙いとしては、ロシアのビルドアップを抑える&ペチョフスキの横のエリアを防ぐためだろう。
スロバキアが4-4-2に変更したので、ロシアは、インサイドハーフをサイドに流れる形をやめる。2センターバックと2セントラルハーフで3バックに変更して、ビルドアップをするようになった。相手の2トップへメッセージ。2枚なら3枚でサイドから侵入しますと。サイドバックを高い位置に上げる形がデフォルトなので、この形への移行はスムーズに進んだ。ベレヅスキが右サイドバックのエリアでプレーする場面が出てくる。でも、ロングボールの質は低い。
ロシアの変更によって、4-1-4-1でも4-4-2でもライン間を使われてしまったスロバキア。ウェールズの攻撃にも抗えなかった印象が強いので、守備は苦手なのだろう。修正も苦手のようで。でも、守る道を選択するのは謎。あれだけライン間を使われれば、失点するのも時間の問題。精度の低いミドルシュートに救われていたが、80分にトランジションからグルジャコフにゴールを許す。やっぱりトランジションがキーになる。それだけ準備された守備から得点を奪うことは難しい。
撤退したスロバキアの良さを思い出すと、2人のセンターバックの空中戦は強い。そして、肝心の場面で何度もセットプレー、クロスに触る決断をできたコザーチクが巧みだった。特にロスタイムの空中戦を無事にキャッチしたプレーは立派だった。味方に休ませる時間を与えられるし、確実にマイボールにできるので、終了間際にクロスやパワープレーに飛び出せるキーパーは有能だ。試合は2-1のままに終了。スロバキアは歴史的な初勝利を得た。敗戦のロシアは、スルツキがなんとも言えない表情だったことが印象に残っている。
ひとりごと
個の力が炸裂した、という典型的な試合だった。脈絡のないハムシクの2発は、スルツキの心を砕いただろう。個の力といっても、毎試合のようにこのようなプレーができるわけではない。よって、個の力に頼るぜというのはあまり賢くない。それはメッシくらいの選手だったら、それでも大丈夫だろうけど、メッシは世界に1人しかいない。今回の結果がどのような形で未来に影響をあたえるかは、イングランド戦にかかっているスロバキア。死闘はまだまだ続く。
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