ハリルホジッチの日本代表に賛否両論が巻き起こるなかで、オランダ代表はEUROの本大会にでられないかもしれない、という試練と向き合っている。予選で3位までに入れれば、ひとまずは問題なしの条件なのだが、オランダの順位は3位。4位のトルコとは2ポイントしか差がない。首位はまさかのアイスランド、2位はチェコ。そして、今日の相手はアイスランド。順位争いを混沌としたものにするためにも、そして何よりも本戦にでるために絶対に負けられない戦いとなる。
試合の前に、オランダサッカーについての印象を少し。バルセロナに多大なる影響を与え、未だに世界のお手本として君臨するオランダサッカー。ボスマン判決により、リーグの弱体化は避けられなかったが、アヤックス、フェイエノールトの下部組織からは優秀な選手が輩出されている。フル代表でも結果を残している印象だが、その中身は徐々にオランダらしくないカウンター、または攻守分断気味になってきている。偉大なる世代、スナイデルやロッベン、ファンペルシーの能力をフルに利用するための作戦かもしれないが、そのつけを払うときがようやく訪れているのか。それとも単なる杞憂なのかは、アイスランド戦、トルコ戦がその答えを教えてくれるだろう。
■アイスランドの献身性の前に
アイスランドのシステムは、4-4-2。首位でオランダとのポイント差もあることから、ハーフラインをプレッシング開始ラインとする守備でオランダに臨んだ。アイスランドからすれば、引き分けでもEUROへの出場権獲得に前進できる状況なので、高いエリアから相手を追いかけまわすようなリスクをとる必要はなかった。
オランダは、相手の2トップの間にクラーセンを配置。センターバックへのプレッシングを牽制することで、安定したボール保持を狙った。アイスランドの1列目の守備は、クラーセンを抑えながらボールを保持しているセンターバックへのプレッシングを行う形で行われた。よって、オランダはセンターバック同士のパス交換をストレスなく行うことができ、横幅を取ることで、時間とスペースを得ることができた。
序盤のオランダの攻撃を牽引したのがマルティンス・インディ。フェイエノールト時代から繋ぐことに関してはその能力を高く見せてくれていた選手だ。マルティンス・インディは相手のサイドハーフ、フォワードの間から何度も縦パスを通すことで、オランダ代表の攻撃の前進の出発点として機能していた。
この動きを防ぐために、2列目の中央に配置された選手がクラーセンまで出ることで、1列目の守備のストレスを開放する狙いをアイスランドは見せる。クラーセン対応がなくなれば、攻撃の起点となるセンターバックに1列目の選手たちが躊躇なくプレッシングをかけられるようになるからだ。
アイスランドの動きに対して、オランダはスナイデルが動く。オランダサイドから見た左サイドの四角形(相手のサイドハーフ、サイドバック、センターバック、ボランチ)にポジショニングする。クラーセンを捕まえる動きをボランチがしているので、四角形は既に崩壊気味。そして、このエリアでボールを受けることでスナイデルは攻撃を組み立てていく。アイスランドからすれば、相手の攻撃の出発点を捕まえるための動きをしたはずが、逆に相手の攻撃を加速させることになった。スナイデルの動きによって、アイスランドの10番は強制的に2択を強いられることとなった。スナイデルを捕まえるか、クラーセンを捕まえるか。
その答えはスナイデルを捕まえる。クラーセンは2トップで捕まえる。マルティンス・インディのボールを受ける選手を捕まえれば、パスは出せなくなる。こうして序盤からめまぐるしく動く展開となった。
マルティンス・インディサイドが封じられれば、逆サイドが空く。よって、オランダは横幅をとったデフライのボールの持ち出しから攻撃を開始する場面が増えていった。スナイデル、マルティンス・インディの存在が相手に極度の密集を促せたので、逆サイドにはスペースができる流れだ。オランダの右サイドにはロッベンがいる。オランダは右サイドバックのファン・デル・ヴィールをアラバロールのように中央に移動させることによって、ロッベンへのパスコースを確保。そして、ロッベンが執拗に仕掛けまくる展開に繋げることに成功した。
ここまでのせめぎあいがスムーズにオランダに流れた、なんてことはまるでない。アイスランドはゾーン・ディフェンスからのカウンターで決定機を作ることに成功していた。ゾーン・ディフェンスは相手の位置に執着しない傾向を持つ。よって、ボールを奪ったさいに、マッチアップの相手が側にいないフリー状態であることが多い。よって、アイスランドはボールを奪ったらその特性を利用して素早い速攻を見せた。1列目のフォワードがサイドに流れ、サイドハーフは交差し、サイドバックは果敢に攻撃参加する流れを持ち、クロスは大外をできる限り狙う攻撃は、わかっていても止められない。
試合はロッベンとスナイデルを中心にアイスランドのゴールに迫り、アイスランドは複数でロッベンに対応しながらも。その能力の高さに苦しみながらも、何とかしのいでカウンターにたくしていく。
そんな展開はあっさりと終わりを告げる。最初にロッベンが負傷。代わりにルシアーノ・ナルシンが登場。むろん、ロッベンの代役をできる選手がオランダのベンチに座っているわけもなく、苦労してたどり着いたアイスランドを叩く仕組みは突然に終了を告げる。そして、どのように攻撃を組み立てていくかを悩んでいるうちに、マルティンス・インディが相手と交錯。そして、そのリアクションがあまりに愚かで一発退場となった。ルシアーノ・ナルシンを出したばかりなのに。
しばらくはクラーセンをディフェンスラインに落とすことで、3バックで時を過ごすオランダ。しかし、バランスが悪い。3-4-3?スナイデルのポジシニングは?となっていたので、フンテラール→ブルマで秩序を取り戻す采配。4-4-1で左サイドにスナイデル、トップにメンフィス・デパイが配置された。
後半になると、4-4-1で高い位置からの守備などできないオランダに対して、アイスランドは落ち着いてボールを持つことができた。アイスランドは中盤を経由しながら、センターバックがボールを持ち上がり、ななめのロングボールを入れることで、肉弾戦の機会を増やしていく。スカウティングでオランダのセンターバックは空中戦や肉弾戦に強くないと判断したのかもしれない。このボディブローのようなロングボール作戦と地上戦のミックスの前に、もしかしたら守備を固めようとしたオランダは驚かされることとなった。その結末はファン・デル・ヴィールが相手を倒してPKを献上。これを決められて、オランダは絶体絶命のピンチとなった。しかも交代枠を2枠も使っている状況。なかなかない。
オランダは前半と同じようにボールを動かしていくが、中盤のクラーセン、ワイナルドゥムが相手に捕まっている状態だったので、オランダはボールを前進させることができなかった。サイドチェンジをしても技術的なミスでボールが繋がらない。ロングボールを蹴っ飛ばしても、もうフンテラールはいない。ボールを保持しているときのアイスランドは、ボールを取りにこないならじっとしているよ!なんて素振りをみせる余裕さえみせた。
オランダの攻撃を牽引したのはメンフィス・デパイとスナイデル。特にスナイデルはミドルシュートを連発。相手のエリア内に侵入できそうな気配もないので、これが精一杯か。クラーセンは相手の2トップの間にポジショニングしたりしなかったりで、恐らく失格になりそうなプレー。ワイナルドゥムもスナイデルに比べると。ボールを引き出す動きにかけた。そして、ブリントは良いクロスを供給できるが、フンテラールはもういない。
そんなちぐはぐな攻撃を見せるオランダの前に、アイスランドは前線の選手を入れかえながら(懐かしのグジョンセン登場)システムを4-1-4-1に変更。もしものための、サイドチェンジ対策。なお、センターバックが持ち上がってきたら、すぐに4-4-2に変更。そんな体力を使う役回りのためにさっさと前線を交代したのだろう。アイスランドはカウンターをやめることなく、シレッセンに迫ることに成功していた。両チームのキーパーが安定したセーブで試合を支えたが、オランダにとってはちょっとの運が欲しかったところだろう。しかし、そういった場面は訪れることなく、試合は1-0のまま終了した。
■独り言
試合前に想像していたよりも、オランダはひどくなかった。ロッベンが最後までいればこの試合もどうなったかわからない。試合の流れとして、ロッベン負傷退場→マルティンス・インディ退場の順序がせめて逆ならばいろいろと違ったんだろうなと同情を禁じ得ないところに、最近のオランダの巡りあわせの悪さを感じてしまう。スナイデルが孤軍奮闘をいつまで続けるのか、まだ続けるしかないのかときっつい境遇におかれているオランダ代表。気がついたらベルギーに完全においていかれてしまったでざる、なんてことになるのかどうかは10年くらいしたら分かるのだろう。
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