【チャチッチの罠】クロアチア対スペイン【デル・ボスケの修正】

EURO2016

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ポイントが6のスペインは、スタメンを固定。過密日程を考慮すれば、多少はターンオーバーをしても良い気がする。しかし、デル・ボスケは揺るがない。今後、スタメンの固定によるコンディション悪化問題が起きれば、確実に叩かれそうな采配だ。ただし、過去のEUROではスタメン固定組が中二日のチームを打ち破ったケースもある。つまり、なんとも言えないのだ。

ポイントが4のクロアチアは、ターンオーバーを実行。両チームともに、グループリーグ突破をほぼ確定させている。よって、クロアチアの姿勢が一般的だろう。勝てば首位だが、連戦によるコンディション悪化と天秤をかけると、まあそこまで、という状況なのだろう。それでも、元気なベンチメンバーが相手のスタメン組を葬りさる歴史を何度も見てきたので、つまり、なんとも言えないのだ。

チャチッチの罠

今大会のスペインは、圧倒的なボール保持をチームの基軸に置いている。バルセロナやバイエルンが行ってたように、ボールを保持→ボールを失う→すぐに奪い返すの循環も、しっかりと機能している。バルセロナはMSNによるカウンター、バイエルンはドグラス・コスタ、コマンによるサイドからのアイソレーションをチームに組み込んでいる。一方で、特別な才能(1対1に必ず勝つ選手)がいないスペインは、ボール保持からの攻撃に徹底的に頼ることになっている。それゆえか、ある意味ではバルセロナよりもバルセロナらしいチームに仕上がってきている。

ただし、両チームとの違いはもうひとつある。バイエルンやバルセロナ(MSNの気まぐれによる)のボール保持者へのプレッシングは非常に強い。キーパーまで追いかけ回すレヴァンドフスキやスアレスの姿を見ることは、日常茶飯事と言っていいだろう。しかし、今大会のスペインは、相手陣地からのハイプレッシングを積極的に行わない。もちろん、相手がバックパスや横パスを連発した場合には、プレッシングのスイッチが入ることもある。ただし、基本的なスペインの守備の約束事は、自陣に撤退してハーフラインからのプレッシングとなっている。

ボールを保持を延々と行う一方で、展開が一様になることを嫌がったのかもしれない。ときには相手にボールを持たせて、速攻、カウンターを仕掛ける局面を作りたいという狙いもあったのだろう。ルイス・エンリケのバルセロナと発想は似ている。となると、ルイス・エンリケのバルセロナと同じ問題を抱えるということにもなる。ドルトムントの初期やバイエルンが苦労したように、スペインの撤退守備の強度は決して高くない。各々のボールを奪い切る能力、相手のポジショニングにあわせた圧縮、攻撃の起点を作らせない、作らせたとしても選択肢を制限する、、といったプレーで問題が生じる。相手の守備が整っていないときの攻撃という展開を手に入れるために、相手にボールを与え苦手な撤退守備の展開を増やすということが、割りに合った賭けなのかどうかは、数字で証明するしかないだろう。

つまり、スペインの苦手な局面が撤退守備だとする。よって、スペインに撤退守備をさせる機会を増やすようにゲームプランを組み立てれば良いクロアチア。撤退守備を増やさせるためには、スペインからボールを奪う必要がある。ボールを奪うための行動は大きく分けてふたつ。ボールを積極的に奪いに行くことと、相手にボールを繋ぐよりも攻め切ってもらうプレーを増やしてもらうことだ。

ボールを保持していないときのクロアチアのシステムは、4-4-2。ラキティッチとカリニッチが1列目となる。1列目の役割は、センターバックへの猛烈なプレッシングだった。2人の間にポジショニングするブスケツが気になるが、ブスケツへのパスを選択させないほど速くプレッシングをかければ、問題はない。時間を奪う強いプレッシングで、クロアチアはスペインのビルドアップの破壊を試みた。

この試みは、諸刃の剣となった。2列目の選手が中途半端に連動すると、自分たちの守備が整理されていない状態になってしまう。その隙を見逃さないイニエスタとブスケツにプレッシングを回避され、ボール保持からの守備が整っていない状態の速攻に繋がってしまう。シルバとセスクのコンビネーションから、最後はモラタに押しこまれてしまい、わずか7分でスペインに先制を許してしまった。

しかし、その後のプレッシングは、セルヒオ・ラモスとピケを苦しませ続けた。高い位置でボールを奪って、カリニッチとラキティッチのシュートまで至った場面は、まさに狙い通りの場面だったろう。クロアチアの1列目コンビは、センターバックとのどつきあいに集中していた。

例えば、スペインのボール保持は、センターバックが起点となることもあるし、センターバックを経由して、攻撃方向の変化を行なうこともある。しかし、センターバックにボールを戻すと、カリニッチとラキティッチは目を覚ましたかのようにプレッシングを発動させる。この動きによって、スペインはセンターバックへのバックパスをしにくくなる。ボールを下げれば、猛プレッシングを浴びてしまうからだ。

よって、スペインはバックパスを使いにくい展開となる。ブスケツを下ろして3バックでビルドアップをする場面を作るようになり、落ち着きを取り戻す。ただし、ブスケツ下ろしの代償は、前線の枚数を減らすことにもなるので、ボールは落ち着けど、前線の選手に時間と空間を与えにくくなっていった。なお、スペインが相手を押し込んだときのクロアチアのシステムは、4-1-4-1。ラキティッチはブスケツをマンマークで観る。流石にバルセロナ所属のラキティッチだけあって、ブスケツ対策がしっかりしている。ブスケツを経由させないことで、サイドチェンジに時間をかからせる&攻守の切り替えでブスケツよりも先にボールを触ることが狙いだ。そのためには、ブスケツ周りに選手を配置することが得策と言えるだろう。

それでもスペインが得点をとってもおかしくない場面はあった。1列目のプレッシングと引き換えに、クロアチアは1.2列目のライン間をスペインに渡してしまう時間が多かった。スペインはこの位置にシルバを送り、数的優位を作る。横パスで時間と空間を味方に与え、前線やサイドバックに時間と空間を与えていく。そういう意味では、スペインのボール保持からの攻撃が機能しなかったとはいえない。1.2列目のライン間を明け渡すような賭けは、負けても次があるからこそできる選択だろう。

スペインの攻撃を跳ね返しながら、自分たちもボールを保持する時間を長くしていくクロアチア。ブスケツ対策と個々の技術の高さで攻守の切り替えを優位に進めることに成功したクロアチア。撤退後のスペインは4-4-2への変換がうまくできないので、クロアチアのビルドアップ隊には時間があった。ブスケツ周りのスペースを狙いながら、クロアチアは攻撃を構築していく。しかし、クロアチアのチャンスはトランジションからが中心となり、クロアチアのボール保持はスペインのボール保持機会を奪うという意味では機能していたが、攻撃面では微妙だった。ただし、空中戦はセルヒオ・ラモスを狙い撃ちにし、サイドからのクロスはファーサイドまで必ず飛ばすなどの、少ない機会をものにするための準備はしているようだった。

そして、前半のロスタイムに同点ゴールが決まる。ペリシッチがファンフランをかわし、クロスはカリニッチの元へ。ニアで潰れたラキティッチが巧み。そして、クロスは同じラインで飛び込むことという定跡が機能した瞬間だった。前半の途中からペリシッチとピヤツァの位置を交換して良かったクロアチア。首位通過をかけた戦いは後半戦へ。

デル・ボスケの修正

クロアチアの策で最も厄介な策は、1列目によるプレッシングだろう。よって、スペインは、ブスケツをおろして3バックを形成する。数的優位によって、クロアチアのプレッシングを牽制する。そして、ブスケツの位置にインサイドハーフ、インサイドハーフの位置にノリートやシルバ、横幅隊と裏抜けはサイドバックの選手が行なうことで、全体のバランスが壊れないように調整してきた。序盤のジョルディ・アルバを走らせるパターンは、ハーフタイムに準備した策だろう。なお、クロアチアを押し込んだときもブスケツは最終ラインにいた。攻撃をサポートするのはセンターバックコンビに任せている。

列を下りたブスケツの行動によって、守備の基準点を失ったのはラキティッチ。代わりに両脇からセンターバックが上がってくるのだからやるせない。多少の混乱をもたらしたスペインの修正だったが、クロアチアは冷静に試合を進めることができた。その理由はアトレチコ・マドリーと一緒で、個でボールを運ぶ能力のある選手が多かったことだろう。ペリシッチ、ピヤツァはドリブルでボールを奪われない。普通だったら追い込まれてボールを失う場面でもやりきってしまう。それはスルナも同じで、強引にクロスまで持って行けてしまう姿勢は、スペインにとって前半と変わらずに非常に厄介な状況だった。

59分にノリート→ブルーノ。交代で出場したブルーノはブスケツの横からプレーをスタートする。だが、気がつけばモラタの横までプレッシングに出ていき、この試合で初めてクロアチアのビルドアップを破壊することに成功した。この場面以降は、ブスケツが列を上がってプレッシングをかける場面が目立った。ブルーノの役割はブスケツを解き放つこと。ブスケツの役割をこなせる選手を複数配置することで、後方を安定させる狙いもあったのだろう。引き分けでも首位突破のスペインが無理をする必要はない。

1列目のプレッシングを封じながら、ブスケツとブルーノでバランスを確保する采配は見事だった。クロアチアのハイプレッシングが発動してもデ・ヘアを利用することで、うまく打開できるようになった後半のスペイン。攻撃のリセットもセンターバックとブスケツ、ブルーノを使えばできるようになった。よって、ボールを保持して相手を効果的に押し込めるようになる。相手が自陣に撤退になれば、ゴール前に到達する機会は増える。よって、モラタ→アドゥリスでクロス爆撃への準備を備えていった。

つまり、見事な修正によって、クロアチアの狙い(プレッシングで3列目を機能させない)を回避したスペイン。得点も時間の問題は言い過ぎだが、前半よりも快適に時間を過ごせるようになる。そして、70分にはPKを奪う。キッカーはなぜかセルヒオ・ラモス。このPKを蹴る前の件が、なかなかおもしろかった。怒りのスルナが異議でイエローをもらう。それがPKならさっきのピヤツァが倒された場面もPKだろうと。気持ちはよくわかる。その後はモドリッチにセルヒオ・ラモスがどちらに蹴るかを聞くスルナ。どっちから見て?と確認しているのが、かわいかった。そして、スバシッチに伝える。ブスケツもセルヒオ・ラモスに何かを伝える。そして、セルヒオ・ラモスが外す。キッカーが蹴る前にキーパーが前にでるのは反則なのだが、見事に見逃されてしまった。

ただし、PKを外しても、試合の流れが代わることはなかった。コーナーキックからセルヒオ・ラモスの強襲はこの試合で何度も繰り返され、セットプレーから何かが起こっても不思議ではなかった。ただし、スペインも守備の整理ごとはなされていないようで、相手のセンターバックに対して、イニエスタ(途中あからトップ下)が寄せたり、セスク(途中からサイドハーフ)が寄せたりと、しっかりせえ、という場面もちらほら。でも、それが致命傷になる、なんてことはまるでなかった。

クロアチアは、コバチッチを投入。スペインは、チアゴ・アルカンタラを投入。どちらも是が非でも勝利を!という采配ではなかった。ただし、スペインは両サイドバックを上げてボールを保持していたので、多少は狙っていたのかもしれない、ブルーノの楔から始まったスペインの攻撃はクロアチアに止められて、カウンターが発動する。ドイツだったら迷わずにファウルで止めそうな場面。スペインは相手のカウンターを受け止めた結果、ペリシッチのスーペルなシュートがニアに炸裂し、クロアチアがまさかの逆転に成功する。終了間際の逆転ゴールに驚いたのは、両チームだろう。

あとは守り切るだけだとクロアチア。クロアチアの強いところは4-4-2の守備を全員で行なうところだ。そして。2センターバックと2セントラルハーフでボールを保持できることだろう。その戦術の幅がチームに色々な選択を可能としている。マンジュキッチやらの代役で出場した選手のレベルも高く、最後まで集中力をきらさなかったクロアチアが守りきりに成功し首位での突破を決めた。

ひとりごと

思わぬ敗戦で2位抜けになったスペイン。ファイナルラウンドの初戦がイタリアに決定。前回のEUROを思い出す試合だ。すでにスペインとの決戦が決まっているのに、まだグループリーグの試合を残しているイタリアは、最後の試合をどのように消化するのだろうか。

主力を休ませながら、まさかの勝利のクロアチア。ファイナルラウンドの相手を考えても、クロアチアにとって有利な状況となった。フランスワールドカップ以来の結果を残せるチャンス到来。チャチッチも意外と仕事をしているようで、今後に期待が持てる。

コメント

  1. ととや より:

    ドローでもいい試合で守りのポゼッションに失敗しバルサのような負け。
    気持ちの面で負けていたという見方も出来ますが、やはりスペインは風化しかかっている感じがします。
    ファンフランが走れなくなっていたことといい、メンバー編成にも問題はあったんでしょう。
    トーナメントの片側が大混戦になったことで有力候補は潰し合いの消耗戦を強いられた挙句、
    漁夫の利を得た逆サイド側のチームが優勝、という展開も十分考えられますね。

    余談ですが、自分の中では
    勝率 = チームの完成度 ✖ 決定力 ✖ コンディション    という印象です。

    • らいかーると より:

      うーん、負けは負けなんですけど、クロアチアも勝ちに来ていたかというと微妙で。
      スペインからすれば、マジで事故!って感想になるんだと思います。

      サイドバックは休ませて上げて欲しかったですけど。
      逆の山はそれはそれで消耗戦になるでしょうから、条件は意外と同じかもしれません。ただ、休みが一日多かったような記憶があるので、それはでかいかもしれません。

  2. GIOO より:

    おひさしぶりです。

    イタリアの山が、いわゆる「少年漫画の主人公」的なものになっちゃいましたね。
    スペイン、ドイツ、フランスを倒して決勝へ!みたいな。その場合どこが決勝の相手に相応しいのかはわかりませんが。とにかくイタリア応援します。

    ところで、たまに見かける「質的優位」というのは何を指すのでしょうか?
    1対1における個人のスキルによる優位性でしょうか?

    • らいかーると より:

      おお、これまたお久しぶりです!!!!!

      天下一武道会みたいになってますよね。ラスボスが誰になるのかはちっとも予測がつきませんが。

      質的優位は選手の質で勝っているという意味です。スラムダンクで言えば。桜木と河田弟みたいな。

  3. GIOO より:

    なるほど、絶対勝てるというポイントですね。
    よーくわかりました 笑

    久々のコメント投稿でしたが、記事はだいたい全部読んでます。
    ノックアウトラウンドの記事も楽しみにしています!

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