【コンテの矜持】イタリア対スペイン【デル・ボスケの傲慢】

EURO2016

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試合結果は、2-0でイタリアの勝利。驚くべきは、結果よりも試合内容だろう。試合を通じて、イタリアが自分たちの思い通りに試合を進めることに成功した。前半に限っていえば、イタリアがボールを保持する展開を多く見られたくらいだ。コンテ式のユベントスを全うするイタリア代表の前に、スペインはらしさで出すこともできないまま、大会を去ることになった。

デル・ボスケは何で勝負する気だったのか

スペイン、もといバルセロナの本来の強さは、プランAの強度を徹底的に磨くことを基としている。言うまでもなく、スペイン勢のプランAは、ボールを保持することだ。ボールを保持できれば、相手のボール保持機会を減らすこともできる。よって、それぞれの対策をする必要性は減る。相手のプレッシング(ビルドアップを防ぐ)への対策をし、ボールを保持することができれば、あとは時間とともに相手に迫り続けるだけだった。守備組織力の向上によって、バルセロナがMSNを揃えたように、時代は変わりつつあるが、そのような選手は残念ながらスペインにはいない。今回のスペインがより原始的にボールを保持することにこだわっているように見えたのは、そんな背景もあるのだろう。

プランAを磨くことを強さとしてきたチームにおいて、プランBを準備することは難しい。それはプランAで勝ち取ってきたタイトルを否定することにも繋がってしまう。ピケやセルヒオ・ラモスを上げての空中戦は、プランBとは呼べない。プランBとは、自陣に撤退して相手にボールを保持させる。ボール保持の攻撃のスピードを意図的に上げ続ける(速攻の連続)などがあげられるだろう。プランBを行ったときに発生する不確実的な要素を、試合を支配するようなボール保持を基盤とするチームは徹底的に嫌う。不確実性を削除するために、ボールを保持する道を選んできたといっても過言ではないのだから。

ただし、今大会のスペインは、ときどき自陣に撤退して守備をする場面が見られた。そして、その強度不足は明らかだった。相手にボールを保持させる→ボールを奪う→相手の守備が整っていない状態を利用しての攻撃、というサイクルを意識したのかもしれない。プランAと心中するなら、相手にボールを保持させる時間を許してはいけない。バイエルンやバルセロナが行ってきたように、相手から時間を奪うようなプレッシングをかける必要がある。レヴァンドフスキやミュラーが2度追いを辞さなかったように、相手から時間を奪えば、相手はボールを離すことになっていただろう。

イタリアの3バックに対して、スペインはどのようにプレッシングをかけるかが整理されていなかった。後半に登場したルーカス・バスケスの素早いプレッシングが答えになっていたように、システムの噛み合わせなど関係なく、相手から時間を奪うようなプレッシングは、相手から余裕を奪う。グループリーグから妙に構えたところを見せるスペインは、イタリア戦でもそれまでに見せてきた姿勢を見せ、イタリアに好き勝手にボールを循環させてしまった。新しい何かを手に入れるための撤退だったのか、それともプランAと心中をする勇気がデル・ボスケになかったからなのかは不明だ。

イタリアの3-1のビルドアップに対して、序盤のスペインは、イタリアの3バックに対して、どのようにプレッシングをかけるかが整理されていなかった。具体的に言うと、サイドによって、約束事が異なっているように見える。例えば、シルバは相手のセンターバック(キエッリーニ)を基準点とする一方で、ノリートは相手のウイングバック(フロレンツィ)を基準点としている。インサイドハーフ(イニエスタとセスク)も基準点は、整理されていなかった。デ・ロッシを観るのか、相手のインサイドハーフ(パローロとジャッケリーニ)を観るのか。つまり、ばらばらだった。曖昧な約束事は、相手に時間と空間を与える。オープンな選手を作ってしまうと、イタリアは楔のパスから自動的な動きから攻撃が始まっていった。イニエスタやブスケツを前に上げて状況解決を狙ったが、根本的な解決は最後まで見られなかった。

ペッレの質的優位と役割

すべての選手が重要なことは、言うまでもない。その中でも特に存在感を発揮していたのがペッレだった。攻守にペッレの役割を整理していく。

スペインがボールを保持しているときのペッレの役割は、ブスケツを抑えることだった。俗に言う、ブスケツとデートである。この役割の厄介なところは、攻守にブスケツを消すことができることだろう。トランジション局面では、ボールを回収するブスケツの仕事を邪魔することで、イタリアのカウンターを優位に進めることができる。スペインがボールを保持する局面では、ブスケツを経由しない攻撃によって、スペインの攻撃の方向性を決定することができる。ブスケツを経由しないサイドチェンジは、長いボールかセンターバック経由になるので、スライドが楽になる。相手に中央でボールを持たせないこと(センターでボールを持たれたら中央に絞るから)で、サイドのスペースを相手に与えないことも可能となる。

イタリアがボールを保持しているときのペッレの役割は、楔のパスを受ける、ハイボールを何とかするだった。両方のプレーにおいて、ペッレはチームの攻撃を牽引した。マッチアップの相手は、セルヒオ・ラモスとピケ、ブスケツと世界屈指の選手たちだったが、圧倒的な空中戦の強さで質的優位をチームにもたらした。前述のようにビルドアップは機能していたイタリア。さらに、ビルドアップからの楔のパス、最終ラインからのロングパスも機能するとなると、手がつけられなくなる。逆に言えば、このエリアでセルヒオ・ラモスやピケが優位性を持ってプレーできていれば、試合の流れはここまでイタリアに傾かなかっただろうし、デ・ヘアの大活躍も見られなかっただろう。

スペインがボールを保持できなかったイタリアのプレッシングの仕組み

相手からボールを奪えないとしても、自分たちがボールを保持する機会は必ず来る。相手が延々とボールを保持するようなチームでないかぎりは、その機会は頻繁に訪れるだろう。だからこそ、イタリアからボールを奪う仕組みを準備しなくても、スペインが大丈夫と考える(本当はダメだけど)気持ちはわかる。つまり、こちらにボールが来たら、相手に渡さなければ、良い。しかし、イタリアはスペインにボールを保持させないようにプレッシングを行ってきた。イタリアからすれば、撤退守備の強度が高くないスペインに対してボールを保持できれば、試合を優位に進められると計算したのだろう。その際に重要なのは、自分たちがボールを保持する仕組み(この部分はもともと自信ありでいじる必要性がない)よりも、相手からいかにしてボールを奪うかだった。

イタリアの答えは、ジャッケリーニを前に出すだった。ペッレをブスケツ、ジャッケリーニをピケ、セルヒオ・ラモスにエデルをぶつけることで、ビルドアップ隊から時間を奪った。スペインがサイドバックにボールを出せば、ウイングバックが強襲する仕組みになっている。いわゆる数的同数のプレッシングによって、相手のビルドアップ隊から時間を奪う策に出た。この策の短所は、相手の1列目(モラタ)と味方の3列目(ボヌッチたち)が同数でマッチアップしてしまうことだろう。よって、スペインはモラタへの放り込みを行なうが、ペッレのように優位性を示すことはできなかった。ユベントスのチームメイト対決は、イタリアの計算通りに進んだ。モラタには負けないというチームメイトの計算は、普通の計算よりも答えの精度が高くなることは言うまでもない。

スペインの予想は、5-3-2でイタリアがプレッシングをしてくるだったのだろう。しかし、実際には5-2-1-2だった。3-4-1-2と書いたほうが一般的かもしれない。ジャッケリーニの運動量を活かした可変式の前に、スペインは放り込みが増えてしまう。それゆえの後半の頭からアドゥリスの投入は論理的な采配だったと思う。ただし、待たれていた采配はルーカス・バスケスのような采配だった。

選手のポジショニングにどのような意味をもたせるか

イタリアはウイングバックをなるべく最終ラインに下げたくない意図を見せていた。その理由は、3列目に落としてしまうと、スペインのサイドバックへのプレッシングが遅くなってしまうからだろう。もちろん、そういった局面ではウイングバックの代わりにインサイドハーフが出て行くことで解決するのだが、イレギュラーな状態は、なるべくしないほうがいい。

となれば、スペインは相手を5バックにしたい。可能となれば、スペインのサイドバックへのプレッシングに時間がかかるという状況に、イタリアは遭遇する。ルーカス・バスケスは、隙間でのプレーできる選手だが、サイドにはることもできる。ルーカス・バスケスの存在がデ・シリオのポジショニングを後方に押し込み、ファンフランを自由にする場面が見られるようになった。ただし、肝心のファンフランはチャンピオンズ・リーグからの疲れが抜けていないようで、非常に微妙なプレーになってしまっていたけど。

グループリーグからの戦いを振り返ると、スペインの横幅は、ときどきウイング(シルバ、ノリート)、基本はサイドバックだった。スペインのサイドバックが高い位置をとっても、5バックで対応すればいいイタリア。しかし、ウイングがサイドにはられると、相手のサイドバックへの対応は怪しくなる。この位置にジェラードやデコを配置した名采配を思い出したが、デル・ボスケは動かず。不運だったのは、モラタを交代した後に、アドゥリスが負傷したことだろう。ペドロが登場するが、できればワイドで使いたい選手だった。

イタリアの先制点はフリーキックのこぼれ球をキエッリーニが押し込んだ形だった。フリーキックを得た形は、イタリアの型から炸裂しており、まさに狙い通りのゴールだったといえるだろう。スペインも自分たちの型が押し出せないなかでもミドルや最後のピケの場面のように、フィニッシュまでいけるのは底力というべきか。ロスタイムにコーナーキックからイタリアのカウンターが炸裂し、スペインにとどめ。まるでベルギー戦を再現しているかのような試合内容と結果でスペインは大会から去ることになった。

ひとりごと

自分たちへの信頼からか、スペインはあまりに無策でイタリアと衝突し、そのまま敗れ去ってしまった。クロアチアに敗れたことで、目が覚めるかと思ったが、決してそんなことはなかったようだ。スペインの面々の戦術的なレベルは非常に高いと思う。しかし、監督の明確な指示がなければ、イタリアの守備に効果的に対応できない事実は、選手だけでは無理だという現実を知らしめてくれた。アトレチコ・マドリーのメンバーがもう少しいれば、どうにかなったかもしれないけれども。

イタリアは、コンテ式で猛威をふるう。たぶん、見て判断していないんだろうというプレーも多数。見ていないからこそ相手よりも速く動ける。オートマチックの強み。クラブチームよりもトップレベルの質が劣るとすれば、ひたすらに型を決めて愚直に殴り続ける形のほうがチームの完成形までの時間はかからない。クラブチームが徐々に型なしの方向性に進んでいるのに対して、明確すぎる型を持つイタリアの躍進はなかなか興味深い現象といえるだろう。そして、コンテのチェルシーがどのようになっていくかも非常に楽しみだ。

コメント

  1. ととや より:

    横綱相撲であっさり大会を去る結末はいかにも過去の栄光に縛られ過ぎたスペインらしいと思います。
    W杯を機に世代交代を迫られメンバーの入れ替えは行いましたが、アトレティコの戦術を取り込むなどの改革は出来ずチームは古いままだったかなと。
    W杯前から懸念していたストライカーの問題も解決できたとはいえず。
    リーガは欧州を支配しましたが、優勝チームのストライカーはいずれも外国人でしたからね。アトレティコが優勝していればトーレスが呼ばれた可能性もありますが(フィットしたかはともかく)。個人的にはやっぱりアルカセルが見たかったです。

    • らいかーると より:

      自分もパコ見たかったです。アトレチコ・マドリーの戦術を取り入れるのは難しいと思いますが、部分的な導入はできたかもしれませんね。
      でも、選手にもプライドがありそうなので、大変そうです。

  2. ヴィヴァルディ より:

    Twitterのツイートで
    >3バックのポゼッション潰しは、クラブチームレベルではとっくに結論が出ている。
    とのことですがどういうことでしょうか?
    この事がよくわかる試合の記事などでも構わないので教えて欲しいです

    • らいかーると より:

      すいません、過去にそんなことをまとめてツイッターで呟いたので自力でサルベージしてください。

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