【パル・ダイタイの罠と香川真司ベンチ外の代償】ヘルタ・ベルリン対ドルトムント

マッチレポ1516×ブンデスリーガ

ヘルタ・ベルリンのスタメンは、ヤーステイン、プラッテンハルト、ブルックス、ラングカンプ、ヴァイザー、ルステンベルガー、ヘーゲラー、ダリダ、原口元気、カルー、イビシェビッチ。現在の順位は3位。満員御礼、チケット完売。なお、チケット完売は今季で初らしい。ブンデスリーガのサプライズ枠にノミネートのヘルタ・ベルリン。監督はパル・ダルダイ。ハンガリー出身。なかなか珍しい国の出身だが、ヘルタ・ベルリンのOBだ。

ドルトムントのスタメンは、ビュルキ、シュメルツァー、フンメルス、ソクラティス、ピスチェク、ヴァイグル、カストロ、ギュンドアン、ムヒタリアン、ロイス、オーバメヤン。香川真司はベンチ外。カストロ、ライトナーにポジションを奪われた格好となってしまった。ただし、前回の試合では試合の状況(残り時間やスコア)によって、ライトナーたちが活躍したイメージがある。つまり、香川真司がどうしようもなかった、ということはない。ただし、今後の過密日程を加味して休息と考えることもできるが、そういった理由で前線の他の主力がベンチ外になったことはあまり記憶に無いので、嫌な雰囲気。現在のドルトムントの順位は2位。つまり、2位対3位の直接対決となった。

■ヘルタ・ベルリンの罠

ヘルタ・ベルリンのシステムは4-4-1-1。イビシェビッチはフンメルス、ダリダがヴァイグルを観る役割だった。繋げるセンターバックにマンマークで、繋げないセンターバックにボールを持たせる、かつてのバルセロナが苦しんだ形を思い出させるヘルタ・ベルリンの守備だった。センターバック(ほとんどソクラティス)がボールを運んできたら、決められたエリアからボール保持者へのプレッシングを行う。決して深追いはしない。試合の序盤こそは2列目のサポートを受けながら、高い位置からプレッシングを仕掛けていくヘルタ・ベルリン。開始直後は相手陣地から、時間がたったら自陣から、守備をする計画だったのだろう。

冬休み前のドルトムントは、ビルドアップからの攻撃にこだわりを見せていた。しかし、冬休みが近づくに連れて、ドルトムントはボールを蹴っ飛ばすようになっている。この試合でも序盤のプレッシングに対して、ロングボールでプレッシングを回避する場面が非常に目立った。決して大きくないドルトムントの前線は、空中戦で競り勝てることができない。よって、相手のディフェンスラインの裏まで蹴って陣地を回復することが目的となる。

ドルトムントの守備のシステムは4-4-2。カストロを前に出す形だ。ロイス、ムヒタリアンのサポートを受けながら、相手陣地深くでもためらいをみせずにプレッシングをかけていく。ヘルタ・ベルリンはキーパーを使ったビルドアップをしようと試みるが、素早いドルトムントのプレッシングの前に、ビルドアップは諦めたようだった。ドルトムントのプレッシングの特徴は、そのスピードで相手から時間を奪うことだ。そして、相手の攻撃の精度を落とさせる狙いがある。根源はバルセロナのプレッシングと同じだ。よって、序盤はロングボールが行き交う展開となった。

時間がたつにつれて、ドルトムントがボールを保持するようになっていく。ヘルタ・ベルリンがプレッシング開始ラインを下げたためだ。またヴァイグルがフリーにならない(ダリダがついてくるから)ので、ドルトムントは3バックに変化させる。ヴァイグルを落としたり、ギュンドアンを落としたり。この動きによって、ヘルタ・ベルリンのシステムは4-4-2に変更。恐らく自分たちのなかで予測できた相手の変化だったのだろう。ドルトムントのビルドアップは、3バックにギュンドアンで行われた。4枚のビルドアップの形は3-1や3-1偽ピボの形がメインで行われた。

最近のドルトムントは、ビルドアップに対して数的同数のプレッシングを受けることが多かった。ビュルキが繋げるわけでもないので、ドルトムントは正面衝突を避ける傾向にあった。しかし、この試合のヘルタ・ベルリンは、自陣に撤退でドルトムントに臨んだ。ボールを保持を全面に押し出していたときのドルトムントは、相手が自陣に撤退しても多種多様の攻撃の形によって、相手を崩すことに成功してきた。よって、ドルトムントは自分たちの形を変化させる前の形を利用することを、相手から求められたということになる。

いわゆるポゼッションスタイル(前の形)のときのドルトムントのキーマンはインサイドハーフコンビだった。ギュンドアンと香川真司。ギュンドアンはビルドアップを頻繁に助け、基本的に相手のブロックの外でプレーする。香川真司は相手のブロック内でライン間でボールを受ける動きをメインにしながらも、相手のブロックの外でボールを何度も受けることで、ドルトムントの攻撃を助けることができていた。しかし、本日の香川真司の代役のカストロは、相手のブロックの中から出てこなかった。この状況にヘルタ・ベルリンの守備を組み合わせると、面白いことが起きる。

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インサイドハーフに香川真司とギュンドアンが起用されていたときもシステムが線対称でないことはあったが、カストロがまったく落ちてこないので、その状況はさらに極端になった。さらに、フンメルスを抑えられていることで、どうやってもシュメルツァー側にボールが運べそうにない。ソクラティスのそばにはギュンドアンがいるので、ピスチェクサイドの攻撃がどうしても中心になることは明白であった。なお、カルーと原口元気を比べると、原口元気のほうが守備で信頼されているようだった。なお、前者はポジショニングで、後者は人を捕まえることで守備を行っていたが、単純に走るということがチームで評価されているのだろう。となると、ヘルタ・ベルリンはカルーサイドよりも原口元気サイドに守備機会が多いほうが計算が上手くいくとなる。

3バックに変化したドルトムントは、ギュンドアン発信で攻撃を繋いでいく。ヴァイグルの前にいたり(3-1)、ソクラティスの前にいたり(偽ピボ)するギュンドアンの守備を、誰が行うかはあまり明確でなかったヘルタ・ベルリン。原口元気がとびだしていったり、ダリダが対応したり。ボールを落ち着いて持てるようになったドルトムントは、サイドバックのポジショニングを上げるようになる。ピスチェク担当の原口だったが、ポジショニングを守るのか、相手についていくのか、ギュンドアンを観るのかと悪い意味で選択肢が多々あった。

ドルトムントの狙いは、ボールを保持しているときのシステム変換によって、相手の守備の基準点の変更を強制させる。そして、空いた選手を使う。ギュンドアンで原口元気をつって、ピスチェクとロイスでヘルタ・ベルリンの左サイドバックとのエリア優位を作る場面が復元的に行われた。物足りなさがあったとすれば、ドルトムントは右サイドからしかこの攻撃の形をできなかったことだろう。ヘルタ・ベルリンの構造を殴ることができいたが、ヘルタ・ベルリンが好調であることを証明するかのように、さっさと役割を整理し始める。

ヘルタ・ベルリンの修正は、高いポジショニングをとるピスチェクにあわせて原口元気を下げる。そして、ギュンドアンにはセントラルハーフの選手にプレッシングをさせる修正を行う。この修正によって、サイドバックの裏のスペースを簡単に使われるようにはならなかった。しかし、ギュンドアンとピスチェクがポジショニング優位になっている(彼らのポジショニングに従属している)ので、ヘルタ・ベルリンのサイドハーフとセントラルハーフの間にパスラインをつくることに成功する。そのパスラインの先にはロイスがいるのだが、この位置はサイドバック撃退で対応するヘルタ・ベルリンだった。

ドルトムントの変化は以上!だったので、試合は膠着状態となった。セットプレーから決定機を得たり、トランジションからチャンスを作ったりと、両チームともに似たり寄ったりであったが、キーパーが活躍する場面はほとんど覚えていない。よって、得点の気配は特にないまま、時間だけが過ぎていった。ドルトムントは相手のサイドバックを動かし、その裏を狙う意図は準備されていたが、いかんせん同じサイドからしか攻撃をすることができなかったので、その機会が少ないし、時間とスペースを狙っているエリアで作ることもままならなかった。

後半はギュンドアンの位置を左インサイドハーフへ。ロイスとムヒタリアンの位置も入れかわった。ヘルタ・ベルリンの守備は前半と同じ。つまり、ドルトムントは逆サイドからの攻撃を開始した。カルーを狙い撃ちである。ずっと同じサイドから攻撃を仕掛けたら、相手も慣れてくる。だったら、逆サイドからの攻撃だと。なお、ギュンドアンが移動したことで、右サイド攻撃はほとんど機会すらなくなっていった。この状況で攻撃のやり直し(ディフェンスラインへのバックパス)をすると、ソクラティスが独りぼっちになってしまう。そんなソクラティスは運ぶドリブルを仕掛ける場面もあれば、パスミスをする場面もあった。効率が悪い。

ただし、カルーが適切なポジショニングをとれないので、チャンス到来のドルトムント。と思ったら、原口元気が移動してくる。いつのまにか守備の職人としても起用されている原口元気。なお、カウンター場面では得意のドリブルをしていたので、決して守備にひたすら追われているわけではない。攻撃を途切れさせないためにボールを守ることもできていたので、欧州で着々と評価を高めていると思う。

そして、時間が過ぎていく。

ドルトムントは右サイドでムヒタリアンが落ちて受けるようになる。ソクラティスを助けるためでもあり、攻撃を円滑にすすめるためだろう。もともとシャフタール・ドネツクでトップ下を担っていた選手なので、こういう芸当もできる。サイドバックのg兵撃エリアを離れることで、中盤の仕事をするようになるムヒタリアン。

68分にカストロが香川ロールをやり始める。急に3-2-5に戻るドルトムント。ようやくか。なお、ヴァイグルも積極的に前にでることで、2-3-5になる。もともとは2-3-5。意地でも2バック。しかし、71分にプリシッチとアドリアン・ラモス。オーバメヤン、カストロが交代。カストロの動きは何だったのだろう。そして、出てこないライトナー。

アドリアン・ラモスが右サイド、プリシッチが左サイド、ロイスがワントップ、ギュンドアンとムヒタリアンがインサイドハーフのように見えるドルトムント。しかし、この形もロイス→ギンターの交代でさっさと終わりを告げる。最終的にはギンターとヴァイグルの中盤コンビで守備を固め試合は終わった。必殺の2-3-5は相手からカウンターを受ける場面が多く、餅は餅屋。前半に出てきた選手を使いましょうという展開へ。カウンターが危なっかしかったので、登場するギンター。そんな采配。

■ひとりごと

ヘルタ・ベルリンはしっかりと守りカウンター。後半には原口元気起点のカルーの決定機など、チャンスはあった。でも枠に飛ばない。攻守にハードワークができるので、この順位にいるのだろう。フンメルスを試合から追い出したり、相手が狙ってきたサイドにしっかりと守備ができる選手を投入するなど、論理的な采配だった。

ドルトムントは守備の弱点を隠すために四苦八苦。この試合でも原口元気やカルーからボールを奪いきれるだろう局面でボールを奪いきれなかった。だから、香川もスタメンから外れてしまうのかもしれないが、カストロが守れるかというと微妙。それらをごまかすためのサッカーの変換作業の真っ最中。しかし、そのゴールの絵がまったく見えないので、これから何が起きていくかは予想ができない。ただ、トゥヘルにとって運が悪かったのは、香川真司がいたらどうにかなったのではないか?という結果と内容の試合になってしまったことだろう。恐らく、ドイツのメディアにもなんでベンチからも外したの?と問われまくっているに違いない。

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