ドルトムントのスタメンは、ビュルキ、ドゥルム、フンメルス、ソクラティス、ピスチェク、ギンター、ヴァイグル、アドリアン・ラモス、香川真司、ムヒタリアン、オーバメヤン。香川真司、ギンターがスタメンに復帰。アドリアン・ラモスのスタメン起用は記憶に無い。また、右サイドバックでブレイクしたギンターが中盤になっている。もともとは中央(ボランチやセンターバック)を主戦場としていたたので、元の鞘に納まるだけの話ではある。ドルトムントの弱点は、インサイドハーフの守備力であったため、それを隠すために選手とシステムを変更するというのが、最近のトゥヘル監督。ホームで未だに無敗。アウェーチームからすれば、難攻不落の名城らしい。小田原城か。
インゴルシュタットのスタメンは、エズカン、バウアー、ヒュブナー、マティプ兄、ダコスタ、モラレス、ロジェール、クリスティアンセン、レッキー、ハルトマン、レスカーノ。昇格組のインゴルシュタット。アウディの支援を受けて、ハーゼンヒュットル監督のもとで躍進を遂げている。そのサッカーは、クロップ×ドルトムントに例えられることもあるようだ。攻守に積極的なアクションを見せるチームなのだろう。なお、ハーゼンヒュットル監督はオーストリア人。オーストリア代表のEURO予選での躍進も記憶に新しいが、監督も海外で頑張っているようだ。
■変化するトゥヘル
ドルトムントのシステムは4-2-3-1。ヴァイグルとギンターのセントラルコンビ。トップにオーバメヤン、下に香川。左にムヒタリアン。右にアドリアン・ラモス。ボールを保持していないときは香川を前に出しての4-4-2。このときにギュンドアンとヴァイグルのコンビがセントラルになると、個の能力で中央を破壊される現象が何度も発生していた。よって、中央にギンターとヴァイグルを同時起用することによって、守備力を上げたい狙いがあったのだろう。
インゴルシュタットのボールを保持していないときのシステムは4-3-3。時には4-1-0-4-1と書きたいくらいに、前の4枚が積極的な姿勢を見せる。基本は4-3-3。前の3枚で1列目を形成し、積極的なプレッシングを見せる。サイドハーフの選手がセンターバック、センターフォワードの選手がヴァイグルを担当する役割分担が基本構造。いわゆる数的同数プレッシング。空いてしまうのは、ドルトムントのサイドバックになる。この位置は2列目のスライドで対応する。もしくは、センターバックにサイドバックにボールを出させる時間とスペースを与えないほどにのプレッシングをかけることで、その機会を減らすことを狙っている。以上の2つのルールが、インゴルシュタットの約束事になっている。
事前情報通りに積極的なプレッシングで、ドルトムントのビルドアップを破壊しようとするインゴルシュタット。ドルトムントもインゴルシュタットのプレッシングを事前に予想していたのだろう。正面衝突をすることなく、ロングボールでインゴルシュタットのプレッシングを回避する道を選んだ。ビルドアップの正面衝突は、ハイリスク・ハイリターンとなる。自陣付近でボールを奪われれば、即ピンチとなる。プレッシングをかいくぐれば、相手の守備を分断することができる。大切なことは相手がどのような狙いをもって、試合に取り組んでいるか。インゴルシュタットは自分たちの守備が分断されても、ボールを奪ってのショートカウンターを狙っている。そういった狙いが試合のなかで表現できそうだという状況は、メンタル的に非常に大きい。逆に自分たちのやりたいことが試合のなかで機能しなそうだという状況になれば、非常にやるせない状況となる。
ドルトムントがロングボールを蹴る。インゴルシュタットもロングボールを蹴ると、試合はちっとも落ち着かない展開であった。インゴルシュタットの前線の選手は、何の迷いもなく一対一を仕掛けていく。なお、ブンデスリーガのなかで一対一の回数が一番多いのがレッキーらしい。判断を迷わない愚直さは、時として武器になる。ドルトムントの3列目の個の能力は、ドルトムントというチームの格から考えると決して高くはない。よって、前線のワン・オン・ワン対決ならば、インゴルシュタットにも勝機はあると考えたのだろう。つまり、質的優位、せめて互角の勝負になれば、御の字という計算か。
ロングボールといっても、ビルドアップをすることもあるドルトムント。ドルトムントのビルドアップは2パターン。ヴァイグルをアンカー、香川とギンターをインサイドハーフとしてプレーさせる普段の形と、4-2-3-1のままにビルドアップを進めていく形。普段の形については、個人の意志で香川がボールを触りたいからポジションを下げているのだったら、その動きにギンターが連動することは考えにくい。しかし、香川の動きに応じて、ギンターはスムーズにポジションをあげていたので、チームとして準備されていた形だろう。ただし、どのような状況のときに、どちらの形でビルドアップを行うかは整理されていないようだった。よって、香川は4-2-3-1ビルドアップで動いているのに、ギンターはインサイドハーフの動きをしたりと混乱が起きていた。
前半の試合内容を言えば、インゴルシュタットの献身性、ハードワークの前に、ドルトムントが苦戦したという内容だった。ただし、ドルトムント側からしても中盤の守備力の問題がほとんど出てこない状況だったので、最低限の自分たちのやるべきことはできていたと思う。また、サイドバックがクロスに飛び込んでいく大外の形も、サイドハーフ(主にアドリアン・ラモス)が行っていた。自分たちの形を変化させても、今までに行っていた崩しの形を再現できるのは、なかなかできる芸当ではない。ただし、フィニッシャーのアドリアン・ラモスはあんまり機能していなかったが。ドルトムントが最大の危機を迎えたのは、相手のゴールキーパーのキックで裏を取られてしまった形。3列目のラインを上げすぎて、弱点の1つであるフンメルスの裏を狙われてしまった。なお、インゴルシュタットのキーパーのキック精度はめちゃくちゃだったので、ちょっと計算外のロングキックになってしまったのかもしない。
■4-3-3の数的同数プレッシングの回避
後半になると、ドルトムントはサイドバックからのビルドアップを始める。インサイドハーフの動きで相手の3センターを動かして、空いたスペースをヴァイグルに使わせる形をすぐに繰り返した。4-3-3の数的同数プレッシングの弱点は、相手のサイドバックが空いてしまうことになる。パスコースの制限をしたいのだが、中央で相手がボールを持っている状態で大外をきっても、中央を通されてしまう悪循環になる。前半のインゴルシュタットは相手から時間を奪う強烈なプレッシングができていた。しかし、後半のドルトムントはセンターバック→サイドバックのパスを素早く行う、サイドバックの周りに選手を配置しないことで、時間とスペースを与えることができていた。なお、基本的にピスチェクサイドからこの攻撃は何度も繰り返される。
インゴルシュタットの1列目の守備を突破すれば、インゴルシュタットの残りは4-3。インサイドハーフ(主にギンター)が相手のブロック内に突撃していくことで、相手の3センターの守備の基準点を狂わせるようにプレーしていた。前半からできる形だったのだけど、敢えてやらなかったのか、後半からやることで、相手に修正の時間を与えない形だったのかは不明。1列目のプレッシングがひっかからなくなっていくインゴルシュタットは、自分たちの狙いをピッチの上で表現できなくなっていく。
サイドバックを使うことによって、インゴルシュタットのセンターバック担当のサイドハーフの選手が、ドルトムントのサイドバックへのパスコースを遮断する、またはサイドバックよりのポジショニングに修正するようになる。そうなれば、ドルトムントのセンターバックに時間とスペースが生まれるようになる。ソクラティスの運ぶドリブルが出たこともこの現象が原因となる。徐々にらしさを取り戻していったドルトムントは54分にヴァイグル、香川→ライトナーとカストロ。いつもの4-3-3に姿をかえて、一気にインゴルシュタットにとどめを刺しに行く。
サイドバックを抑えるか、センターバックを抑えるかで悩んでいたインゴルシュタット。センターバックを抑えれば、サイドバックが空く。サイドバックを抑えに行けば、センターバックが空く。どっちを優先すべきか悩むインゴルシュタットの手は、いったん自陣に撤退することだった。4-4-1-1で守り、相手がセンターバックにバックパスをしたら、サイドのパスコースをきりながら全体を押し上げていく。このスタイルがときどきはまり、フンメルスの自陣ゴールへのスーパーループシュートに繋がるのだが、判定はまさかのノーゴール。フンメルスへの強烈なプレッシングがファウルと判定されてしまう。
そんなインゴルシュタットについて考えれば惜しい展開の試合。しかし、撤退からの押し上げでプレッシングをかわされれば、守備は分断される。また、攻撃を仕掛けてサイドハーフの帰陣が遅れれば、それはそれで守備が分断されている。そんな隙を見逃さないドルトムントは、サイドバックを起点に攻撃を再開。そして、フリー状態のピスチェクのゴール前のクロスにオーバメヤンがあわせてドルトムントが先制に成功する。
その後のインゴルシュタットは攻撃に出る。守備でも積極性を見せる。そんなスクランブルアタックはドルトムントのカウンターの餌食となる。だが、ぎりぎりのところで耐え忍ぶインゴルシュタット。しかし、終了間際に力が尽きる。追加点が決まったときのインゴルシュタットは枚数が足りていなかった。順番にマークをずらされていき、最後はまたもオーバメヤン。こうして2-0で試合が終わった。
■ひとりごと
やっぱり難攻不落の名城だった。気になるのは香川真司の扱い。超ポゼッションのチームだったドルトムントだが、今はポゼッションにこだわらなくなっている。守備の問題を隠すためのチームの変化なんだけれど、チームの幅を広げるためにやっているようにも見える。後半の状態で登場すれば、香川真司も活躍できたと思う。なので、あんまり気にすることはないかと。交代の理由も病み上がりだからだったかもしれないし。ただ、サッカーが変化していくなかで、自分の役割の変化についていけるかどうかは微妙。ただし、縦に早くといっても、遅くする必要もあるわけで、自分の役割の変化に無頓着であることが、武器に変化する可能性もある。
コメント