UEFA EURO 2012 Group C スペイン対イタリア ~finalの前哨戦~

 栄華を極めつつあるスペイン。オリンピック代表にも逸材が揃っているので、今後もコンスタントにタレントが登場しそうである。それでも、勝ち続けることは難しいだろうと言われてきたが、前回のEURO、ワールドカップと立て続けに結果を残している。今回も結果をだそうものなら、サッカー史上でも名を刻む世代になるかもしれない。

 対抗するはイタリア。2006年以降はぱっとしない成績が続いている。クラブレベルでもCLの出場チーム数を減らされる状況。ただし、ハイレベルの戦術のぶつかり合いによって、リーグのレベルが落ちたと簡単に言える状況ではない。また、そんなハイレベルの攻防の中で生まれたユベントスの戦い方が、代表に好影響を与えているのも事実である。

 もちろん、クラブチームの戦い方に比べると、差異はある。これはどっちがレベルが高いかという意味ではなく、配置された選手による個性の違いや、単純にコピーされたものではないという意味である。だが、この試合はバルセロナ対ユベントスと言っても過言ではない対決となった。噂には聞いてたが、イタリアがユベントスの3-1-4-2をやってくるとは。

進化するイタリア

 前半はほぼ五分五分の展開であった。スペインが圧倒的にボールを保持したという印象はなく、イタリアも自分たちのビルドアップから何度も攻撃を再現することに成功していた。また、両者のかみ合わせを見ていると、スペインの面々はイレギュラーな状況をレギュラーな状況にあわせていく作業に追われた前半戦といってもいいだろう。

 スペインの攻撃は、前線のイニエスタ、セスク、シルバがかなり幅広く動いて攻撃を仕掛けていた。0トップの役割は基本的にシルバかセスク。イニエスタは彼らよりも後方からドリブルで仕掛ける場面が多かった。なお、前半からスペインの中で圧倒的な存在感を示していたのがイニエスタのドリブルによる仕掛けである。

 横幅を確保するのはSBの役割であった。ジョルディ・アルバとアルベロアは献身的な攻撃参加を見せたといいたいところだが、あまり効果的ではなかった。対面のマッジョやジャッケリーニがサボらずに守備に参加したこと&ボールを受けても孤独に仕掛けるしかなかったからである。なお、それでもクロスはあげられるが、よっぽどピンポイントのクロスでないと、この面々では競り勝てなそうである。なので、途中から攻撃参加をした印象がない。

 スペインがボールを保持することに成功した場合、イタリアは5-3で守る事が多かった。バロテッリとカッサーノもかなりの頻度で片方が守備のヘルプには来ていた。前述の理由で、スペインのサイド攻撃が微妙だったこともあり、繰り返されるスペインの中央突破に対して、中央に枚数をかけて対抗するイタリアという流れになった。

 それでも、イニエスタのドリブルや高い技術を活かした高速ワンツーでゴールに迫るスペインは異常なんだけど、攻撃機会のわりには決定機が数えるくらいしかなかったのは、相手の守備の狙いにはまってしまっていたからだろう。それでも、強引にやりきってしまうのがスペインではあるのだけど、ちょっと効率が悪いかなと。

レギュラーをイレギュラーにする作業

 で、問題はイレギュラーな状況である。スペインからすれば、基本的にボールを支配するのが日常である。しかし、前半戦はほとんど五分五分であった。つまり、イタリアもボールを保持できたわけで、その理由から探っていく。

イタリアのボールを保持するときの配置は3-1-4-2。よって、ビルドアップ対は3-1になる。スペインのプレッシング配置は、4-2-3-1。よって、イタリアのウイングバックをどうするの?問題がシステムの噛み合わせとしての差異としてのしかかってくる。

 つまり、サイドハーフであるシルバとイニエスタの守備の役割がぼやけさせられているのがよくわかる。ボヌッチとキエッリーニを見て、3バックに同数でプレッシングをかけるべきなのか、マッジョとジャッケリーニを見るべきなのか。相手からボールを奪い返すことを考えると、相手のCBに襲いかかるべきである。で、スペインのSBがマッジョたちに対応すれば、プレスをはめることができる。

 よって、スペイン代表は同数プレッシングを選択する。ブスケツとシャビ・アロンソの共演によって、シャビがピルロ番にまるく収まったことは偶然か、、それとも必然か。ただし、戦術大国のイタリアは、同数プレッシングになるのはわかりきっていた。というわけで、このような動きでスペインのDFラインを牽制する動きが見られた。

 こうなると、カバーリングの関係もあるので、アルベロアたちがマッジョたちまでマークにいけなくなる。でも、プレスがはまっていれば、その場所を捨ててもOKという考え方もあるんだけど、序盤にデ・ロッシの見せた精度の高いロングボール、そしてピルロもいるじゃないかということで、相手のフリーランニングを捨てるわけにはいかなくなったスペイン代表。

 つまり、イタリアのビルドアップに対して、スペインのプレスがなかなか噛み合わなかったのである。システムの妙&相手にマークをさせない動きの合わせ技によって、スペインを苦しめることに成功した。特にカッサーノは空いたスペースに飛び出したり、わざとサイドに流れてアルベロアにプレスに行かせない場面を作るのが上手く、存在感を見せていた。

 こうしたネタによって、イタリアもスペインに負けないくらいにシュートチャンスを作ることに成功する。個人的な感覚で言えば、得点に近い場面はイタリアのほうが多かった印象だ。すべては、ボールを保持したときに相手の対応も含めてどのように対応するかを準備していたイタリアが立派である。

 後半になると、イニエスタとシルバはCBまで深追いはせず、でも、遠からずという曖昧な距離を取るようになる。相手のCBからボールを出させた後に回収すればOKだよねというように方向転換。ただ、こちらの方向転換よりも、もっとボールを支配するということに重点をおいたことのほうが試合への影響力は大きかった。

 イタリアは引いて守備を固めるだけでなく、積極的に高い位置から攻撃的な守備も見せた。前半のスペインはむりやりに繋いで状況を打開する場面は少なかったが、後半はそれこそ無理矢理にボールを繋ぐようになる。ワンタッチやダイレクトパスの連続で、まさに相手との違いを証明するかのようなプレーを見せるようになる。証明したくなった、せざるを得なかったのかもしれないけどね。

 しかし、先制はイタリア。結局のところ、守備問題でいい解決策を見いだせなかったのがすべての問題か。CBのパスからフリーのジャッケリーニに寄せるはピルロ番のシャビ。で、フリーになったピルロにボールが渡ると、華麗なドリブルでブスケツをかわせば、そこはバイタルエリア。交代で出場したディ・ナターレが裏取りに成功し、イタリアが先制する。見事なずらしであった。

 で、攻めるスペイン。失点する前からもジョルディ・アルバの攻撃参加が異様に目立つようになる。この試合で絶好調のイニエスタへのサポートだろう。ジョルディ・アルバがマッジョをひきつければ、イニエスタへの負担がほんのちょっと軽くなるわけで。

 そして中央突破が炸裂。イニエスタ→シルバ→セスクと繋いで見事に同点ゴールを決める。ここからはイタリアがときどき攻める程度で、ただし、その攻撃の破壊力はなかなかだったのだけど、スペインがボールを支配することで、試合を支配することに成功する。

 スペインはシルバ→ヘスス・ナバス、セスク→フェルナンド・トーレスで攻撃の方向性に変化を与える。で、フェルナンド・トーレスはチャンスを掴むが、やっぱり外してしまう。謎の安定感。左サイドをジョルディ・アルバが、右サイドをヘスス・ナバスが常駐することで、イタリアの守備を少しでも横に広げ、攻撃の幅を広げたいスペイン。

 アルベロアは守備に専念かなとおもいきや、最後の最後に攻撃参加してきて、右サイドの攻撃も活性化していた。イタリアもジョビンコのスルーパスやマルキージオの中央突破など、得点の可能性を感じる場面を作ったが、前半ほどの勢いはなく。両チームのGKのスーパーセーブもあり、試合は1-1のまま終了した。

独り言

 この試合で注目が集まったのはイタリアのボールの動かし方になるんだろう。システムを噛みあわせない→相手が噛みあわせてきたら、さらに動いて噛みあわせない。フリーな選手を作ることで、ボール運びの成功率を安定させ、試合に影響力を持つ。バルサが3-4-3で相手のWGやSHの守備の役割をぼやけさせる発想に似ている印象を持った。

 で、それに対抗して、スペインがより自分らしく戦うことで、何とかしてしまうってのもなかなか面白い解決策だった。つまり、守備の機会を攻撃の方法を少し変化させることで減らす。でも、ピルロをオープンにしたことで、やられてしまったわけで、もしも再戦があれば、お互いに色々な工夫が見られそうである。

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