誤審の裏で起きていた、対象的なジダンとアンチェロッティの采配対決【レアル・マドリー対バイエルン】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ファースト・レグを振り返ると、ハビ・マルティネスの退場がきっかけとなり、レアル・マドリーが逆転に成功した試合となった。バイエルンは自分たちの型をレアル・マドリーに押し付けることができていたけれど、レアル・マドリーの同点ゴールから歯車を狂わせた印象が強かった。ボール保持攻撃の精度が落ち、レアル・マドリーにカウンターを許すようになれば、カードトラブルが起きても不思議ではない。ノイアーがスーパーセーブを連発させていなければ、セカンド・レグを待たずに試合は終了していたかもしれない。

そして、セカンド・レグの勝敗を決定づけたのは、ビダルの退場だった。2試合連続で退場かよ!となるが、ハビ・マルティネスの退場はいたって妥当なものだった。ビダルについては賛否両論が起きているが、明確な誤審(そもそもファウルじゃなかった)ではなかったので、致し方ない。そして、延長戦でのクリスチャーノ・ロナウドのゴールは、リプレーを観ると、2つともにオフサイドだった。いわゆる、明確な誤審となる。セルヒオ・ラモスからのクロスを決めたゴールは、手前のカルバハルとドグラス・コスタに副審が気を取られてしまったのだろう。マルセロからのクロスを決めたゴールは、マルセロの独走ドリブルにバイエルンのディフェンダーとともに副審もついていけていなかった。正しいポジショニングを審判ができなかったときに、正しくないポジショニングから見た現象を疑わしきを罰すべきかどうかは非常に怪しい。そういう意味では、審判泣かせな場面でもあった。

アセンシオのダメ押しゴールが決まったといえど、クリスチャーノ・ロナウドのオフサイドによる2ゴールは、メディアにとっては格好の獲物となった。試合後にバイエルンの選手が審判団のロッカーに乱入したとか、試合後のインタビューで審判を批判したとか、さらにヒートアップする。そんなヒートアップの中で、この試合はそんな誤審やゴール以外には何が起きたんだ?となるが、残念ながらそんな内容を伝えるメディアは少ないだろう。というわけで、今回はそんなゴール以外の部分でこの試合では何が起きていたのかを追っていく。果たして勝利にふさわしかったのはどちらのチームだったのだろうか。

動いたジダンと、不動のアンチェロッティ

枕でも振り返ったが、ファースト・レグは、レアル・マドリーの同点ゴールによって、バイエルンが狂ってしまった試合であった。逆に言えば、狂わなければ、バイエルンが優勢な試合だったと言っていいだろう。よって、アンチェロッティが何か特別な手をうつ必要はなかった。ファースト・レグの前半戦を繰り返せばいいだけと、アンチェロッティが考えても不思議はない。よって、バイエルンは特に大きな仕掛けもなく、サンチャゴ・ベルナベウでレアル・マドリーに挑んだ。いわゆる、アンチェロッティは動かないことで、試合を動かそうとしていた。レヴァンドフスキとフンメルスを怪我から復活させたくらいで、方法論はそのままであった。

ファースト・レグではあまり良い試合をできなかったジダン。ファースト・レグで勝利したと言えど、サンチャゴ・ベルナベウでファースト・レグの再現は望ましくない。ベイルが負傷したこともあって、スタメンを動かせる立場にいた。リードを守るなら、ルーカス・バスケスなどの守備で頑張れる選手をサイドハーフで起用する策が考えられる。しかし、ジダンの選択はイスコだった。しかも、イスコをトップ下に配置する。8分までは、トップ下の位置で守備も行わせてた。つまり、ベイルの負傷という理由はあれど、ファースト・レグで勝利したレアル・マドリーはファースト・レグとは違う方法でバイエルンに臨んだ。いわゆる、ジダンは動くことで、さらに試合を優勢に進めようとした。

 

4-1-4-1→4-3-1-2→4-4-2

ファースト・レグのレアル・マドリーは、相手がボールを保持しているときは4-1-4-1。ときどきクリスチャーノ・ロナウドが前に出て、4-4-2になることもあった。ハーフラインからのプレッシングという狙いだったこともあって、バイエルンのビルドアップ隊は楽にプレーすることができていた。さらに、チアゴ・アルカンタラとリベリをライン間に配置することで、ビルドアップの出口も準備されていた。

セカンド・レグのレアル・マドリーは、相手がボールを保持しているときは、4-3-1-2。ベンゼマとクリスチャーノ・ロナウドをはっきりと2トップで起用した。守備に関しては気まぐれな2トップも、対面のセンターバックにはプレッシングに行くタスクを懸命に全うした。よって、この試合の前半は、ファースト・レグとは異なり、バイエルンのセンターバックは落ち着いてボールを保持することができなかった。ポゼッションの逃げ場は、サイドバック(アラバとラーム)となった。レアル・マドリーのシステムが、4-3-1-2だったこともあって、バイエルンはサイドからボールを運ぶようになる。レアル・マドリーからすれば、4-3のスライドで対応という絵になっていたのだろう。

しかし、8分にアラバにあまりにも簡単にボールを前進させられてしまい、決定機を作られてしまう。相手の攻撃をサイドに誘導しているのに、サイドを突破されては試合にならないではないか!ということで、8分にはシステムを4-4-2に変更する。イスコがサイドハーフ(左右は定かではない)の守備タスクをこなすようになり、バイエルンのサイド攻撃(ウイングとサイドバックのコンビネーション)に対応する頭数を揃えた形となった。具体的に言うと、サイドハーフがクロースとイスコになったような感じである。そこそこに固い。クリスチャーノ・ロナウドとベイルのコンビに比べれば、超かたい。ベニテス時代から続く、サイドハーフに守備をこなせる選手を配置して守備固め作戦をレアル・マドリーは行ったということになった。

バイエルンからすれば、ファースト・レグの再現をしたくてもできない状況となった。最大の原因は、センターバックを試合から消されてしまったことだろう。ベンゼマとクリスチャーノ・ロナウドがいることで、フンメルスとボアテングは、それぞれの持ち味を発揮しにくい状況となった。グアルディオラ時代のバイエルンだったが、シャビ・アロンソを下ろすなどのポジション変化を行いそうだが、アンチェロッティは動かない。また、サイド攻撃もかつてのアイソレーションのような破壊力は潜めている。リベリは中央を謳歌しているし、ロッベンには複数の選手で対応されてしまっていた。さらに、問題が出てきたのはイスコという選手の個性にあった。

ボールを奪い切るという点においてのデュエルと、密集アタック

バイエルンのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。チアゴ・アルカンタラを前に出すお馴染みの形だ。ホームのレアル・マドリーは、ボールを保持する意思を見せる。バイエルンは果敢にプレッシングに行くのだが、相手のマークに対して、プレッシングが噛み合わない。日本的な表現を使えば、プレッシングがはまらなかった。その原因がイスコのポジショニングにあった。ボールを保持したときは自由に動き回るイスコがいることで、バイエルンのセントラルハーフコンビは大いに苦労することとなる。本来ならば、モドリッチとクロースとガチンコで勝負をするという想定だったが、そばにイスコがいる。さらに、ベンゼマもボールを受けに下ってくると、レアル・マドリーの密集するポジショニングにボールの奪いどころを設定できなかった。

この状況をさらに悪化させたのが、ロッベリーの守備のポジショニングと、レアル・マドリーの個々の強さにある。セントラルハーフコンビが相手を捕まえきれずに苦戦しているところに、ロッベリーがしっかりとカバーリングしてくれれば、セントラルハーフの思い切った守備を可能とする。しかし、ロッベリーの守備のポジショニングは怪しい。ちなみに、10人になったらロッベンは懸命に守備をしていたので、やろうと思えばできるのだろう。ファースト・レグでも見られたが、特別な選手による守備のデメリットが、強豪を相手にすると目立ってしまうのがチャンピオンズ・リーグの怖いところと言えるだろう。ごまかしがきかないというか、デメリットがメリットを超えてしまうというか。

それでも、ビダルやシャビ・アロンソ、チアゴ・アルカンタラは懸命に相手をおいつめて、ボール保持者と対峙することができていた。しかし、レアル・マドリーの面々はボールを失わない。モドリッチ、イスコはひょうひょうと追い込まれた状況からボールを脱出させてしまう。かつて、バルセロナのプレッシングをウィルシャーが個の能力ではがしたことで、有名となった。そんなプレーをレアル・マドリーがバイエルンを相手にやっているような前半戦となった。逆にレアル・マドリーの守備に目を移してみると、カゼミーロはあっさりとボールを奪いまくっていた。プレミアリーグではカンテの評価が最高潮になっているように、ボールを奪い切る力をもつ選手が評価される時代になってきているのかもしれない。グアルディオラ仕様になっているバイエルンには、カゼミーロやカンテのような選手がいないこともあって、バイエルンは苦戦が続いていった。

このように前半は攻守にレアル・マドリーが圧倒する展開となった。シュートの雨嵐となるが、枠を外れたり、ノイアーが防いだり、ボアテングがスーパークリアーをしたりと、失点をしなかったことが不思議なくらいだった。まとめると、レアル・マドリーはイスコのポジショニング優位で周りの選手の選択肢になっていた。また、各々のボールを守るスキルの高さでバイエルンのプレッシングを回避して、攻撃を組み立てることができていた。また、守備面でもしっかりと枚数を揃え、バイエルンの攻撃をサイドに誘導したことで、優位に進めることができていた。バイエルンはビルドアップミスも散見され、動かなったアンチェロッティよりも、動いたジダンのほうが評価を高めそうな前半戦となった。

4-4-2→4-1-4-1

後半も序盤はレアル・マドリーのペースで進んでいった。正直言って、このままバイエルンのチャンピオンズ・リーグが終わるのではないかと思わされたほどだった。その考えを断ち切ったのが唐突に現れたPK判定。リベリは交代でいなくなるが、ロッベンは最後までピッチにたどり着ける。両者の間にちょっと差が生まれてきているのかもしれない。ロッベンがファウルで受けたPKをレヴァンドフスキが決める。ファースト・レグのPKをビダルが決めていたら、バイエルンからすれば、もっと簡単な決戦になったのだろう。

スコアの変化は、試合内容に大きな影響を与える。ファースト・レグのクリスチャーノ・ロナウドのゴールがそうだったように、レヴァンドフスキのゴールはバイエルンの面々に勇気を与えた。直後にもロッベンからビダルであわや決定機な場面をつくる。そんな流れを断ち切るために、63分にベンゼマ→アセンシオ。イスコが右サイドハーフでアセンシオが左。4-5-1で守備をするレアル・マドリー。この交代で、バイエルンはボール保持を許されるようになる。2トップによるプレッシングから解放されたフンメルスとボアテングに出番がくる。さらに、70分にはイスコ→ルーカス・バスケス。守備を固めながらもカウンターで走れるようにという采配だ。サイドハーフにフレッシュな選手を入れるところがにくい。

レアル・マドリーの追加点は、シャビ・アロンソの交代直後に起きる。セントラルハーフにチアゴ・アルカンタラとビダル。ふたりともに中央から誘い出され、カバーリングをするはずのサイドハーフはもちろん戻ってこない。中央をカゼミーロにわられ、最後はクリスチャーノ・ロナウドに決められる。ジダンの采配は追加点を狙ったものではなかったと思うので、ジダンからすればラッキーだったろう。ある意味で、バイエルンのサイドハーフの守備問題をついた攻撃でもあった。サイドハーフの守備問題で悩んでいるジダンからすれば、アンチェロッティの悩みと弱点は理解していたのかもしれない。だからこそ、イスコを起用してボール保持を優位に進めるという策に辿り着いたのかもしれないが。

だが、76分にバイエルンにゴールが決まる。フンメルスのロングボールをミュラーが落とす。このボールを奪ったレアル・マドリーだが、ナチョとセルヒオ・ラモスの連携ミスで、セルヒオ・ラモスのオウンゴールとなる。これで同点へ。やるせないオウンゴールだった。そして、ビダルが退場し、試合は延長戦へ。10人になったバイエルンは、レアル・マドリーにボール保持攻撃に晒され続け、やっぱり耐えきれなかったという結果となった。グアルディオラ時代もそうだが、ボールを保持するチームがボールを保持しない局面が長くなると、やっぱりきつい問題は継続しているようだった。

ひとりごと

率いてきた年月に差はあれど、ジダンの動きにアンチェロッティが振り回されるというセカンド・レグとなっていた。ジダンの監督としての手腕は、懐疑的な声が大きい。しかし、今日のようにチームを動かして論理的な試合内容を導き出すことがある。ただ、惜しむらくはセカンド・レグも結果は出ていない(90分のスコアは1-2)ので、動くと結果が出ないという切ないジンクスがある。クリスチャーノ・ロナウドを交代することはほとんどないが、ベイルとベンゼマは容赦なく交代できることで、守備固めにさっさと移行できるのは大きいかもしれない。また、佐藤寿人のようにゴール前に常駐するストライカーのようになってきたクリスチャーノ・ロナウドはそれはそれで脅威なんだなとこの試合で感じさせられた。

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