シメオネの計算違いは何だったのか【アトレチコ・マドリー対レアル・マドリー】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ファースト・レグで3失点をしてしまったアトレチコ・マドリー。セカンド・レグでひっくり返すには無失点で3得点を入れてからが勝負となる。その間に失点でもしようものならば、アウェイゴールの関係で得点が必要となってしまう。レアル・マドリーを相手に5得点はさすがに現実的ではないだろう。アトレチコ・マドリーのメンバー変更は、ガメイロ→フェルナンド・トーレスとリュカ→ヒメネス。

余裕のあるレアル・マドリーのメンバー変更は、カルバハル→ダニーロ。ディフェンスラインならどこでもこなせるナチョはベンチに置くジダン。ベイル離脱以降は、盤石のスタメンと言えるだろう。最後のビセンテ・カルデロンで行われるマドリード・ダービーの結末やいかに。

リスクを冒すバージョンのアトレチコ・マドリー

ファースト・レグではハーフラインからのプレッシングでレアル・マドリーにボール保持を許したアトレチコ・マドリー。しかし、この試合では3得点を入れることが突破の絶対条件となる。セカンド・レグでは相手陣地深くからボールを奪おうとするアトレチコ・マドリーが見られるだろうと誰もが予想したに違いない。その予想を覆すことなく、アトレチコ・マドリーはレアル・マドリーにボールを保持させないように、激しいプレッシングを見せた。そんなアトレチコ・マドリーのプレッシングのキーを見ていく。

相手陣地からリスクを冒すプレッシングをするときのキーは、同数によるプレッシングだろう。2トップで2センターバック+アンカーをみる守備も定跡のひとつとして確立されている。しかし、相手の技量(センターバック同士の距離やパススピード)や戦術(キーパーをビルドアップに組み込むかどうか)によっては、相手の攻撃を制限することが難しくなる。よって、何を捨てて何を守るかを決める必要がある。例えば、セルヒオ・ラモスに運ぶドリブルをさせるように守るとか、キーパーに下げたらプレッシングに行かないとか。ただ、何かを捨てるということは、相手に活路を与えることにも繋がる。よって、アトレチコ・マドリーはセントラルハーフの片方の選手をカゼミーロまでスライドさせることで、ファースト・レグで見せた2トップで2センターバック+アンカーをみる守備から同数によるプレッシングに変更した。何かを捨てている場合ではないアトレチコ・マドリー。

同数によるプレッシングを行なうための選手の役割の整理が戦術的なキーだとすると、もう一方のキーは、個人の決断力に委ねられたものとなる。日本の言葉で言えば、2度追いだ。フットサルの言葉をかりれば、ジャンプだ。図でいえば、セルヒオ・ラモスがマルセロにパスをする。セルヒオ・ラモスをマークとするフェルナンド・トーレスだが、そのままマルセロまでプレッシングに行く。この2度追いがこの試合では各エリアで繰り広げられた。ゾーン・ディフェンスの弱点が自分たちの枚数以上の守備の基準点を準備されたときにどうする?となる。相手がパスをするたびにボール保持者へのプレッシングとディアゴナーレの動きを異なる選手が行っていると、その移動の隙をつかれてしまうのがチャンピオンズ・リーグのレベルと言えるだろう。だからこその2度追い。特にレアル・マドリーのインサイドハーフのポジショニングに対して、2度追いで対応する場面はが見られた。

アトレチコ・マドリーの最後の手が、複数による囲い込みだろう。モドリッチやイスコから単独でボールを奪うことは難しい。特にモドリッチの運ぶドリブル、相手のプレッシングをいなすドリブル力は異常だ。つまり、アトレチコ・マドリーの面々は、レアル・マドリーの選手を狙い通りに捕まえたとしてもボールを奪えるかどうかはわからないとなってしまう。だったら、激しさを全面に出すぜとなるが、それを認めたら試合が大荒れになるだろうと、審判は笛を吹きまくる。正直言って、ナイスジャッジだった。そんなアトレチコ・マドリーの奥の手が、相手を捕まえたら複数の選手で一気に囲い込んでボールを奪うであった。この作戦は要所要所で効果を発揮したが、よりにもよって、アトレチコ・マドリーにとどめをさしたベンゼマの突破にも絡んでしまっていたことが恨まれる。ほとんどの場面で囲い込みからボールを奪うは機能していたので、この場面のベンゼマを褒めるしかないだろう。

アトレチコ・マドリーの試合運びに難があったとすれば、一気呵成で手に入れた2ゴールを入れたあとだろうか。コーナーキックからサウールのヘディング、グリーズマンのPKと、16分であと1点にまで迫れたことは、シメオネの計算通りというよりは、できすぎたストーリーであった。あと1点に迫ったアトレチコ・マドリーは、ファースト・レグのように引いて守備をするようになる。ハイペースは持たないと考えたのだろう。残りの時間で得点ができればいいと。ただし、ボールを持ったレアル・マドリーはじわりじわりとアトレチコ・マドリーのゴールに迫っていく。その結果がベンゼマのゴールに繋がってしまったのでせめて前半の間はハイペースでどこまでいけるか試してほしかった。2つの試合を振り返ってみると、シメオネは守備で我慢できると計算していたのだろうけれど、レアル・マドリーがボール保持からゴールを奪い切るだけの力を身につけていると考えたほうが良かったのかもしれない。その計算違いが、もっとも試合に影響を与えたのではないかと。

ジダンが名将とされそうでされない理由

序盤のアトレチコ・マドリーの猛攻を防げなかったことはしょうがないだろう。あのペースで飛ばされてしまっては試合にならない。むしろ、セットプレーからカゼミーロの決定機とレアル・マドリーも黙っていたわけではない。ただし、結果として2失点してしまったことは、反省材料というか。

レアル・マドリーに弱点があるとすれば、やはり守備の形だろう。4-3、もしくは4-4で守るのかがはっきりしない。ファースト・レグではイスコがサイドハーフに移動するようにしていたが、この試合ではその時間を与えられなかったこともあって、レアル・マドリーの守備は中途半端であった。もちろん、可変システムの弱点でもある時間をアトレチコ・マドリーが狙い撃ちにしたという側面もあるのだろうが、だったら、4-4-2を基本として、ボールを保持できたらイスコを移動にしたほうが効率は良い。でも、ジダンは行わない。よって、守備の形が明確にならない時間を過ごすことになる。

問題はジダンも認識しているからこそ、後半にアセンシオとルーカス・バスケスをいれて、守れるサイドハーフが登場するお馴染みに采配を行なう。では、それまではどうするの?ははっきりしたほうがいい。4-3で守るなら4-3で守ればいい。もっともやってはいけないのは、選手によって4-4で守る、4-3で守る意識が混在していることだ。今季のレアル・マドリーはそんな場面がかなり見られる。クリスチャーノ・ロナウドをFW化したことによって、気まぐれな守備がなくなったこともレアル・マドリーの後半戦の強さの秘訣だと思うが、イスコロールと守備を整理するまでの時間問題は、間違いなく弱点として認識されているのだろうという試合でもあった。

ジダンからすれば、それでもイスコのトップ下に価値があると考えているのかもしれないし、セルヒオ・ラモスたちが防いでくれると計算しているのかもしれない。ただ、この試合に限って言えば、相手のプレッシングによってボールが繋げない状況に追い込まれたならば、さっさと様子を見たほうが良かっただろう。恐らく、3失点していたとすれば、超絶に叩かれた采配になっていたのではないだろうか。その計算はここまで致命的なミスに繋がっていないが、チャンピオンズ・リーグのファイナルでこの問題がどうなるかは楽しみである。それとも、ベイルが復活することで、この問題が立ち消えになり、別に問題が出てくるかもしれないが。

ひとりごと

ベンゼマの突破からのイスコのゴールで、試合は終わった。それでも、懸命な試合を見せるアトレチコ・マドリーや応援を続けるサポーターから学ぶことはたくさんあると感じさせられる。たしかチャンピオンズ・リーグのバルセロナサポーターにも感動させられた気がするけど。

ビセンテ・カルデロンから新スタジアムに移動するアトレチコ・マドリー。7万人収容ということで、さらなるビッククラブへの進化を目指して進んでいくのだろう。放映権だなんだと言われているなかで、スタジアムの収容人数を増やそうぜというに着手している欧州のチームの多さを考えると、やっぱり現場は大事だよねと再認識させられる。グリーズマンがどうする?シメオネがどうする?と多くの問題を抱えているがどう転んでも、なんとなくアトレチコ・マドリーは変わらなそうな気がする。それとも、シメオネがいなくなると、あっさりとかわってしまうのか。シメオネ以後もちょっと見てみた気がするのだった。

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