アトレチコ・マドリーのスタメンは、オブラク、フェリペ・ルイス、ゴティン、サビッチ、ファンフラン、ガビ、サウール、コケ、カラスコ、フェルナンド・トーレス、グリーズマン。チャンピオンズ・リーグの決勝戦にたどり着くものの、なかなか優勝できないシメオネ×アトレチコ・マドリー。相手がボールを保持しているときに最も強さを発揮する特徴をもったチームだが、近年は自分たちがボールを保持したときも強さを発揮できるようになってきている。大切なことは、時間&スコアの変化、そして相手の状況によって、適切なサッカーを選択できるかどうかだ。そのためには、引き出しを必要とする。その引き出しを増やしながら、アトレチコ・マドリーは戴冠を狙っているのだろう。
レスターのスタメンは、シュマイケル、フクス、ベナルアン、フート、シンプソン、ディディ、ドリンクウォーター、マフレズ、オルブライトン、岡崎、ヴァーディ。昨年にミラクルを起こしたレスター。チャンピオンズ・リーグの舞台において、プレミアリーグの唯一の生き残りになっている。ラニエリからシェイクスピア(名前がずるい)になったことで、リーグ戦も結果が出始めている。チャンピオンズ・リーグしている場合じゃない!のが本音かもしれないが、4-4-2の対決と考えると、これほど興味深いチーム同士の対決はない。ただ、来季の欧州での戦いは絶望的なので、何名かの主力は引き抜かれるかもしれない。そういう意味で、昨年から続くレスターの奇跡の続きは、チャンピオンズ・リーグの舞台の終了とともに終わるのだろう。奇跡をいつまで続けることができるだろうか。
アトレチコ・マドリーのビルドアップ
相手がボールを保持しているときのレスターのシステムは、4-4-2。ヴァーディが前に残る4-4-1-1もこの試合では行っていた。レスターの1列目を突破するためのアトレチコ・マドリーのネタは、2センターバックと2セントラルハーフによる前進だった。ネタ事態は、ポピュラーなものと言っていいだろう。セカンド・レグのことを意識しただろうレスターは、2列目の選手(ドリンクウォーターとか)が、アトレチコ・マドリーも2列目(ガビとか)を果敢に捕まえに行くようなポジショニングを行わなかった。よって、2セントラルハーフをビルドアップの出口として機能させることができたアトレチコ・マドリー。逆に言えば、レスターからしても、ここまでは想定の範囲内だったのだろう。
話は少しそれてしまうのだが、2セントラルハーフのポジショニングに名前をつけたい。図で表すと、2センターバックと2セントラルハーフの位置関係はボックスがスタートとなる。2センターバックのポジショニングにはあまり種類がない。両者が横幅をとって、ピッチを広く専有するくらいだろう。2セントラルハーフの動き方は、何種類かに分類することができる。アトレチコ・マドリーが頻繁に使ったパターンは、セントラルハーフの片方が下りて、3-1への変化と、最も使用したのがセントラルハーフの片方がアンカーになり、もう片方がサイドに流れる不均等型だった。セントラルハーフのポジショニングは、相手のポジショニングに応じて、パターンが決まっているのだろう。多くのチームで採用されているポジショニング(片方がアンカー、片方がサイドに流れる)の仕組みなので、恐らく海外では名前がついていそうな気がする。ちなみに、セントラルハーフが下りて、3バックでポゼッションする形には名前があったと記憶している。肝心の名前は忘れてしまったが。
アトレチコ・マドリーのライン間ポジショニング
アトレチコ・マドリーの攻撃の特徴は、サイドチェンジをあまり行わないだ。できるかぎり、同サイドでの攻撃を志向している。よって、ボールサイドでないサイドハーフの選手がボールサイド、またはセンターまで流れてくるポジショニングを行なうことが多い。この試合では、ファンフランがボールを持っているときに、逆サイドハーフのコケが何度もセンターでボールを受けようとポジショニングしていた。かつてのセビージャの得意技である。時代は、ペロッティ、ヘスス・ナバス、アウベスなどなどで、すでに面影もないが。
なお、偏りを見せる相手の攻撃に対して、偏った守備で対抗するのが定跡とされている。しかし、レスターの守備はそこまでの偏りを見せなかった。よって、アトレチコ・マドリーの密集アタックにたじたじとなってしまう。たじたじとなった理由は、守備の基準点が狂わされたからだ。あの選手にボールが入ったら、僕が寄せます!というのが守備の基準点だ。しかし、あの選手にボールが入ったら誰が行くの?みたいな問いが出て来る状況を守備の基準点が狂っていると表現している。また、アトレチコ・マドリーの面々はダイレクトパスを頻繁に使用することで、ゾーン・ディフェンスの泣きどころをしっかりとついていることも素晴らしかった。
そんなアトレチコ・マドリーの攻撃の中心は、ライン間のポジショニングだ。両サイドハーフとグリーズマン、そしてサイドバックが連携して、大外、ハーフスペース、オフ・ザ・ボールの動きで相手を動かしてスペースメイクを淡々と行なう。前半に何度も見られた現象が、グリーズマンの動きでディディを動かされてセンターにスペースを与えてしまうことだった。コケ、カラスコ、グリーズマンがボールをライン間でボールを受けると、アトレチコ・マドリーの攻撃は一気に加速する。サイドからコンビネーションで崩したり、強引なドリブルを仕掛けてみたり。そんな場面で地味な仕事をしていたのがフェルナンド・トーレスだ。斜めに走り抜ける動きで、ゾーン・ディフェンスを横断するようなオフ・ザ・ボールの動きを何度も行っていた。
どこまでが想定内だったかはわからないが、レスターは自陣に釘付けにされつつも、ゴール前にバスを並べる作戦で耐え忍んでいく。アトレチコ・マドリーのミドルシュートが多かったのは、レスターの面々が最後は動かずに対応していたからといえるだろう。しかし、お世辞は抜きにしても、いつ失点してもおかしくないような序盤戦となった。4-4-2を代名詞とする両チームだったが、アトレチコ・マドリーのボール保持攻撃の前に、レスターは防戦一方となった。攻撃の手もヴァーディに放り込んでヨーイドンくらいであった。
局面変化は意図的に行われたのかどうか。
ボールを保持するチームは、相手の守備が整っている状況に対して、様々な策を実行していく。試合開始直後ではなかなか効果的に決定機までがたどり着けないものだ。相手も疲れていないから。勝負は後半戦と言ってもいいだろう。この試合で言えば、アトレチコ・マドリーがボールを保持して、準備万端のレスターに突撃していく局面が多かった。しかし、アトレチコ・マドリーはゴールを奪えない。もちろん、シュマイケルの出番は多かったし、シュート数も多かったのでネガティブな内容では決してなかっただろう。しかし、相手も同じ展開が続けば、慣れていくものだ。こんなときは、局面がかわると何かが起こることが多い。
20分過ぎから、アトレチコ・マドリーのビルドアップが雑になる。局面の転換を狙ったというよりは、安全にプレーするという意味で、ロングボールが増える。レスターはロングボールに強く、ボールを保持する場面が出てくる。ヴァーディとのヨーイドンを嫌がったのかもしれないし、レスターにボールを持たせてもいいだろうと考えたのかもしれない。レスターのボール保持攻撃に対して、アトレチコ・マドリーは強さをみせつつも、自陣から始めるプレッシングは、レスターにボール保持を許可するものだった。よって、レスターもアトレチコ・マドリーのゴールに迫っていくようになっていく。
しかし、27分にコーナーキックからのカウンターでグリーズマンが独走する。そして、エリア外で倒されるが、無情のPKの判定。そして、フォルランをリスペクトしているかのような髪型になっていたグリーズマンが決める。レスターからすれば、守備が整った状態でアトレチコ・マドリーの攻撃を跳ね返し続けていたけど、ボールを保持したことで、守備が整理できていない状態での対応を迫られたこととなった。いわゆる、局面の転換である。守備が万端の相手に苦戦するならば、守備が万端でないときに攻撃を仕掛ければいい。ただし、アトレチコ・マドリーが狙って局面転換を行ったかというと、それはなさそうなのだけど。どちらかというと、攻撃に疲れきたゆえに、レスターがボールを保持するようになったくらいのほうが、真実には近そうである。この判定はレスターにとって激おこだったのは言うまでもない。失意のドリンクウォーター。
4-4-2→4-1-4-1
シェイクスピア監督の修正は、後半の頭から、岡崎→キング。ヴァーディを1トップにし、4-1-4-1に変更する。その心は、アトレチコ・マドリーの2セントラルハーフを抑えたっかったのだろう。また、アンカーにディディをきようすることで、グリーズマンにより集中できるように計画してきたに違いない。しかし、ヴァーディのみでアトレチコ・マドリーの2センターバックを抑えることは難しい。かつてのエトーやタムードなら走りきってくれそうだが。もしくは、岡崎。よって、センターバックの運ぶドリブルでレスターのインサイドハーフは苦しむこととなった。また、コケが3人目のセントラルハーフとしてサポートすることもあって、数合わせの理屈は早々に終わりを告げることとなった。
よって、アトレチコ・マドリーは前半のように攻撃を仕掛けていく。シュート数が減ったのはミドルシュートを打ってもしょうがないと考えたのも原因だろう。また、肝心の場面でフェルナンド・トーレスが滑ってしまうことも多かった。ただし、リードしたこともあって、そこまで攻撃に力を注ぐ必要もないと考えていた可能性もある。
レスターは、マフレズが徐々に存在感を出していく。個人技で相手を殴れるとすれば、マフレズくらいだろう。ガビに仕掛けてPKを狙うが主審は笛をならしてはいくれなかった。両チームに共通することだが、セットプレーの高さは尋常ではない。困ったときのセットプレー(直接フリーキック以外)は、セカンド・レグでもなかなか嵌りそうにない。レスターからすれば、流れの中からどうにかしないといけない、というのはなかなかのハードルの高さだ。ボールを奪われれば、アトレチコ・マドリーにカウンターチャンスを与えることにもなる。しかし、マフレズを中心とする突撃から何かを起こせそうな予感は間違いなくあって、セカンド・レグではそういった展開は増えていきそうだ。
64分にカラスコ→コレアが登場する。74分にトーレス→トーマス。トーマスは右サイドでコレアが中央へ。アトレチコ・マドリーは間違いなく追加点を狙っていたのだけど、9人がペナルティエリアにいるレスターの守備前に、最後の一手が足りない状況が続いた。それでも失点してもおかしくはなかったが、レスターが守りきりに成功する。相手のホームで0-1の負けは、セカンド・レグを考えれば、最低限の結果と言ってもいいだろう。レスターの奇跡がまだ続くのかどうかは、シェイクスピア監督の筋書きにかかっている。
ひとりごと
この試合のレスターのプランは、撤退守備で何とかするだったのだろう。そういう意味では、カウンターを許しての失点は想定外だったかもしれない。セカンド・レグでは相手陣地からの果敢なプレッシングで、アトレチコ・マドリーとの正面衝突が見られそうだ。プレッシング回避をロングボールで行なうと、レスターに分があるので、アトレチコ・マドリーがどのような引き出しで戦ってくるかも注目だ。
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