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メジャートーナメント初登場のアルバニアと、メジャートーナメント常連のスイスの対決。スイス代表には、アルバニアからの移民が多いらしい。アーセナルへの移籍で注目の集まるシャカの兄貴が、アルバニア代表に選ばれている。懐かしのボアテング兄弟対決を彷彿とさせる、代表の試合なのに兄弟対決が実現した。なお、シャキリ、ジュマイリ、メフメディもアルバニア出身のようなので、ある意味でアルバニア対アルバニアのような不思議な対決となった。
スコアの変化と退場
フランスとルーマニアの試合が奇襲で幕を開けたことに対して、アルバニア対スイスは、これから繰り返されるんだろうなという展開で試合の幕があけた。最初の違和感は、ボールを保持していないときのアルバニアの守備のシステムにあった。高い位置にポジショニングしようとするスイスのサイドバックに、アルバニアのサイドハーフがついていったことで、前線にワントップとインサイドハーフが残された形となった。恐らく、6バックになることを恐れずに、人海戦術を駆使しても、しっかりと守ろうという意思があったのだろう。
しかし、5分のコーナーキックからシェアーが決めて、スイスがあっさりと先制する。失点後にカメラに抜かれたように、ベリシャの飛び出しミスという見方がなされるような失点場面となってしまった。早すぎる先制点を得たスイスは、リスクマネジメントに乗り出す。サイドバックの位置を下げて、ビルドアップを行なうようになった。それでも、サイドバックの位置に引っ張られることもあったアルバニアのサイドハーフたちだったが、失点するまでに比べると、相手がボールを保持しているときのシステムは徐々に整うようになっていった。
得点のきっかけとなったコーナーキックを得たスイスのプレーは、シャカのロングパスからだった。スイスのビルドアップは、ベーラミかシャカが3列目に降りる形をメインとしている。ベーラミたちの降りる動きをきっかけにして、スイスのサイドハーフは中央に侵入。サイドバックが横幅になることで、チームのバランスを保つような仕組みになっていた。アルバニアのプレッシング隊は3枚。ワントップとインサイドハーフ。スイスは2枚のセンターバックと2枚のセントラルハーフ、そしてときどきリカルド・ロドリゲスとリヒトシュタイナーがサポートすることで、攻撃の起点を何度も作ることに成功していた。アルバニアにとって幸運だったことは、スイスがほんの少しだけ攻撃の意欲を下げた(サイドバックのポジショニング)ことで、落ち着く時間を得たことによるだろう。
EUROの雰囲気に慣れてきたアルバニアは、徐々にボールを保持するようになっていく。ボールを保持していないときのスイスのシステムは、4-4-2。または、4-2-3-1からスタートして、4-4-2に変化する。アルバニアの選手はボールを繋ぐことを全く恐れていないこともあって、スイスのプレッシングをショートパスであっさりと回避する場面が目立った。特に2列目のトライアングルのボールを受ける動きにスイスの4-4-2は苦戦する。相手の2枚のセンターバックと3枚の逆三角形に対して、中央の4枚では対抗できなそうであった。アルバニアのサイドバックとサイドハーフは、サイドにポジショニングを置くことで、中央に時間とスペースを与える。そして、ボールを保持した攻撃では、インサイドハーフがフリーに動きまわることで、スイスの守備を撹乱することに成功していた。
インサイドハーフの役割は、ビルドアップをサポートする、相手のライン間でボールを受ける、サイドのボール保持を助ける、相手のサイドバックの裏に突撃すなどなど、多彩であった。試合の途中にシャカとアブラシはポジションを入れ替えている。兄弟でマッチアップしたかったのかもしれない。アトレチコ・マドリーの得意技であるサイドハーフが同サイドでプレーする、みたいなインサイドハーフが同サイドでプレーする場面も見られた。ただし、サイドハーフは果敢な仕掛けを行なうことがチームの約束事になっているようだったけれど。
ボールを保持してからのボール循環は悪くないけれど、守備では怪しさを見せていたスイス。スイスのチャンスは、攻撃の起点となるビルドアップから、前線の選手がフリーでボールを受けるポジショニングを獲得できたときだった。特にアルバニアのサイドバックとセンターバックの間を狙いうちにしている印象だが強い。ただし、守備の役割は不透明だったので、アルバニアに決定機を与える場面もしばしば。また、ビルドアップでときどきジュルーが怪しさを見せることも、アルバニアには希望を与えるものだった。
そんな次の1点が試合の流れを左右するだろう展開は、サナの退場で終わりを告げる。2枚目のイエローで前半のうちに退場。残り時間は少なかったけれど、非常にめんどくさい状況となったアルバニア。ヒサイがセンターバック、ロシがサイドバックに下りることで、当座は凌ぐ考えのようだった。なお、ボールを保持したときのシステムは、できるだけそのままという勇敢な姿勢。この退場でチャンスだと感じたときのスイスの一体感は素晴らしかった。一気にサイドバックが高いポジショニングを取るようになり、相手の守備の役割がしっかりと定まっていないうちに、追加点を狙う意思を全員で表現していた。それでも、追加点はとれなかったけれど、試合の流れからどのようにプレーすべきかを全員で同じ絵を書きながらプレーできたことは素晴らしいことだと思う。
伝説の6バック登場
ハーフタイムを挟んだアルバニアは、クケリを3列目に下ろして4バックを形成。4-4-1で、後半に臨んだ。前半を振り返ると、スイスの前線の4枚のポジショニングに苦しんだアルバニア。よって、どうせならマンツーマンで対応してしまえばいいのではないか、という開き直りを見せる。ライン間のポジショニングに対して、撃退で対応する3バックの発想に似ている。個人の勝負でこじ開けられることもあったが、前半よりはがっつり守ることに成功していた。前半のサイドハーフの役割をある意味で昇華したように、マンツーマンの要素が強くなったアルバニアは、サイドハーフを下げた6バックでスイスのボール保持に対抗するようになる。なお、6-2-1の2列目だけゾーンで守るので、中央の選手は非常にきつそうだった。
スイスはベーラミ、シャカ、またシェアが1トップの脇のエリアを攻撃の起点にボール保持を構築していった。相手の2セントラルハーフが出てくるので、空いたエリアを使いたい。でも、その選手はマンツーマンで捕まっている状況に四苦八苦していった。圧倒的なボール保持からの攻撃でセフェロヴィッチがたびたび決定機を迎えるけれど、ベリシャの好セーブにことごとく防がれてしまった。
60分にジャカ兄→カチェ。理不尽な負担がかかるセントラルハーフを交代、ジャカ兄はベンチで怒っていた。というか、アルバニアの面々は、プレーごとに怒り狂っているようにも見えた。怖い人達が揃っているのかもしれない。スイスも同時にメフメディ→エンボロ。19歳のエンボロは左サイドに配置された。フィジカルモンスターと聞いていたのだが、周りが見える選手のようだった。セフェロヴィッチに通したスルーパスは、非常に素晴らしかった。それでも、得点は決まらなかったけれど。
72分にロシ→チカレシがワントップ。サディクは右サイドに移動する。75分にジュマイリ→フライ。選手交代をきっかけに、スイスがシステムを4-4-2に変更したけれど、すぐに4-1-4-1に戻した。サナが退場してからのスイスは、プレッシングの枚数の問題の解決をはかった。アルバニアのビルドアップ隊はキーパーも含めて、多少のプレッシングを物ともしない技術を持っている。よって、相当の威力がなければ、物量的に不足していると、ボールをなかなか奪うことができなかった。しかし、1人退場したことで、マンツーマンプレッシングのリスクが減ることになる。その勢いをいかしたかったのだけれど、アルバニアの裏狙いも危険な香りをみせていた。そんな状況が相まって、1.2列目の間にはスペースができることが多かった。よって、4-4-2にしたけれど、やっぱり4-1-4-1にするみたいな修正をする。
80分にサリク→ガシ。ガシはスイスのアンダー世代で活躍していたらしい。残り時間が減っていく中で、スイスも1-0で良いのか、追加点を狙うのかが曖昧になっていく。相手が退場してからずっと攻め続けているけど、得点がどうしても入りそうにない。迷うには十分な状況。そんな中で、アルバニアもヒサイからのスルーパスで中央を割るなど、チャンスがないわけではなかった。では、守るか!となりたいスイスだが、前述のように1.2列目の距離が遠く、最初の守備者を決めることに時間がかかる場面があった。そんな隙を見逃さないアブラシのスルーパスで最高の決定機ができるが、残念そこはゾマー。
これはまずいとなったスイスは、ボールを繋ぎながら時間を潰すようになる。ボールを保持することはできるので、自分たちの追加点よりも、相手のボール保持機会を削ることを優先し、時間をつぶしにかかった。この時間からボールを奪いにいく力を見せるのはなかなか酷なアルバニア。それでも、最後まで奮闘を見せるが、さすがに同点に追いつくための機会はもう訪れなかった。こうして、試合は1-0で終了。この得失点差があとあと意味を持つことになるのかどうかは注目に値しそう。
ひとりごと
両チームのキーパーのファインセーブが目立つ試合となった。他には、スイスならシャカとエンボロ。シャカは左利きでチャンスメイクとビルドアップに奔走し、エンボロは意外な器用さをみせつけた。
アルバニアでは、アブラシとヒサイがかなりうまい。また、ビルドアップ隊の能力も非常に高い。そしてインサイドハーフの仕事に特徴があるので、注目してみると、面白いかもしれない。
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