【役割が柔軟なポゼッション】ポルトガル対アイスランド【空中殺法とロングスロー】

EURO2016

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ブラジルワールドカップでグループリーグ敗退をしたことはあまり記憶になかった。そして、ギリシャの監督をしていたフェルナンド・サントスを呼ぶ。パウロ・ベントとは何だったのか?という結果を残し、グループを首位で突破。欧州U21選手権で頭角を現した選手も23人の枠に入ってきて、充実の陣容になってきている。ベルナウド・シウバ、コエントラン(懐かしい)などが怪我で離脱したが、センターフォワードがいない問題に比べると、微々たる問題か。レアル・マドリーでもフォワード仕事が板についてきたクリスチャーノ・ロナウドの得点力次第だろう。

人口33万人で本大会にでるのだから立派なアイスランド。なお、予選ではオランダを破っている。レジェンドのグジョンセンはベンチにいるが、ギルフィ・シグルズソンが中心選手だろう。スウォンジーでブレイクした実力は、本物だ。また、共同監督という面白い試みをしている。スウェーデン人のラーゲルベックとアイスランド人のハルグリムソンの2人に率いられたアイスランドも隠れたダークホースとして期待が集まっている。

変幻自在のポルトガルと、レスターのようなアイスランド

アイスランドのボールを保持していないときのシステムは4-4-2。1列目の選手もしっかりと守備に参加していることが特徴だ。各国の守備の方法を見ていると、1列目の守備が曖昧であることが多い。レスター、アトレチコ・マドリーが示したように、10人でしっかりと守れば、相手がどこであろうと戦うことができる。EUROでも似たような発想のチームが多いかと思ったが、意外に少なかった。レスターやアトレチコ・マドリーは、例外と考えられているのかもしれない。または、ウチのチームにはヴァーディーやグリーズマンがいないから得点を考えると難しいんだ、と考えても不思議はないだろう。

ゾーン・ディフェンスを約束事とするハーフラインからのプレッシングで、ジャイアント・キリングを狙うアイスランド。ボールを持つことを許されたポルトガルは、俺達にボールをもたせたら危険だよ?というプレーを連発していく。

ポルトガルは攻撃の起点を2トップの脇のエリアとした。そのエリアへの侵入方法は、モウチーニョとインサイドハーフ(アンドレ・ゴメスとジョアン・マリオ)の列を下りる動き。そして、サイドチェンジからのペペの運ぶドリブルによる侵入だった。また、相手の2トップの間にダニーロが常駐していることも大きかった。アイスランドの1列目は自、分たちの横のエリアの守備をしたい。けれども、2人が離れすぎると、ダニーロにボールを通されて、列を突破されてしまう。だからといって、2人ともにボールサイドにスライドすると、ボールサイドでない2トップ脇のエリアを使われてしまう悪循環に陥っていた。

それでも、決まった選手が2トップ脇のエリアを使うならば、アイスランドはセントラルハーフの突撃で対応できただろう。しかし、モウチーニョやインサイドハーフが規則性もなく降りてくるので、守備の基準点を非常に定めにくかった。インサイドハーフをサイドバックに落とす形などは、準備さえすれば対応は可能だ。しかし、インサイドハーフ以外の選手もサイドバックのエリアに移動する、となると、事態はなかなか複雑となる。ポルトガルは、2トップの脇のエリアを攻撃の起点とする。ただし、そのエリアを使うのは決まった選手ではない、という決まりごとがあったのだろう。

守備に熱心な1列目を回避したポルトガル。序盤にボールを失ってカウンターをくらった場面以外は、ボールを支配して試合をすすめることができた。次に、攻撃の起点からの崩しにかかる。4-3-1-2の弱点は、攻撃の横幅隊を誰が行なうか?になる。サイドバックに一任するケースがあるが、サイドバックのアイソレーションでサイド攻撃を完結することは難しい。ポルトガルのサイドバックは、攻撃に長所がありそうなので、どうにかなりそうだけど。ポルトガルの出した答えは、インサイドハーフがサイドに流れるだった。サイドバックの前にインサイドハーフを流れさせることで、サイドに2人の選手が揃う。このときはモウチーニョが2トップ脇のエリアで活動をする。

インサイドハーフがサイドに流れないときは、サイドバックのアイソレーションか、2トップのナニとクリスチャーノ・ロナウドがサイドに流れる。その代わりにインサイドハーフやモウチーニョがゴール前、ライン間にポジショニングすることで、チームのバランスを保っていた。なお、サイドバックが高いポジショニングが可能となると、サイドに流れていた選手はライン間を狙ったポジショニングをするようになる。このようにチーム全体のボール循環の設計が非常にうまくできているポルトガル。さらに、多彩さ(決まった選手を攻撃の起点としない)は、相手に守備の的を絞らせないこともできる。モウチーニョが2トップの脇に必ず移動する、クリスチャーノ・ロナウドたちが必ずサイドに流れるなど決まった形なら相手もしっかりと対応ができる。しかし、決まった形が複雑に行われると、守備からすればたまったものではない。

ポルトガルの先制点は、教科書通りの形だった。2トップの脇からペペ。ヴィエリーニャの上がりにあわせてサイドから相手のライン間に入るアンドレ・ゴメス。ペペからライン間のアンドレ・ゴメスへ。アンドレ・ゴメスはヴィエリーニャとのワンツーで相手のサイドバックの裏を攻略。そしてクロスをナニが合わせて先制と、4-4-2崩しのお手本のような形でポルトガルが先制した。

アイスランドの守備が、曖昧だとかぬるいだとか言うつもりは全く無い。恐らく、EUROの中ではイタリアの次に守備力がある。それでも、相手に的を絞らせないポルトガルの攻撃の設計が見事だった。前半はポルトガルの圧倒的なボール保持のまえにたじたじとなるアイスランドという構図で終わる。

空中殺法とロングスロー

前半のアイスランドを振り返ると、ビルドアップをする意思をときどき見せていた。しかし、モウチーニョを前に移動させたポルトガルのプレッシングスタイルに、不穏な空気を感じたのだろう。それならばと、割りきって空中殺法に乗り出す。ポルトガルのセンターバックは、ペペとカウバーリョ。一方で、アイスランドの2トップもでかい。とくにベズバルソンは190もある。ポルトガルは、この空中戦でどうしても後手を踏んでしまう場面が目立った。ハイボールに競り勝てると信じるアイスランドのサイドハーフは、スピードあふれるアタッカーが揃っている。この組み合わせは、相手からすると非常に厄介だ。

そして、そんな空中殺法から50分にアイスランドが同点ゴール。クロスに対して、ペペとヴィエリーニャのマークの受け渡しミスが起きた。ミスが起きた原因は、ペペが空中戦に強い選手に対応しようとしたからだろう。2人がつられ、ファーサイドにはフリーのビャルナソンが待っていた。前半から続いていたヘディングを後ろにそらすからの攻撃が実った瞬間であった。

後半のアイスランドの修正は、1列目よ、もっと頑張れだった。インサイドハーフやモウチーニョの動きにセントラルハーフがつられると、一気に最前線まで楔のボールを通されてしまうアイスランド。ナニとクリスチャーノ・ロナウドのポストプレーが決して脅威ではないとしても、歓迎する状況ではない。よって、2トップの脇のエリアも2トップで見てくれに変わる。その代わりに、中央にダニーロにボールが入ったら2列目以降で対応する形になった。よって、前半よりも目立つようになるダニーロ。2トップ脇のエリアをどのように相手に使わせないかは、多くのチームの課題となるだろう。アイスランドのように、1列目に走ってもらうのも立派な解決策だ。

70分にモウチーニョ→レナト・サンチェス。75分にマリオ→クアレスマ。ボールは保持できるけど、がっつり撤退するアイスランドを崩し切れないポルトガル。クリスチャーノ・ロナウドのシュートも今日は入らない日のようだった。クリスチャーノ・ロナウドは、シュートが入る日と入らない日の差が激しい。アイスランドもフィンボガソンを投入し、カウンターと守備の強度維持をはかる。アイスランドのプレーで面白かったのがグンナルソン。必殺のロングスロー。空中戦に強い選手が揃っているので、まさに鬼に金棒。ただ、自陣からもロングスローをする場面があって、ちょっとおもしろかった。

84分にはアンドレ・ゴメス→エデル。4-4-2にシステムを変更する。インサイドハーフとモウチーニョをまるごと交代し、ボールの循環をがらっと変更する。つまり、急に別のチームになったかのようなポルトガル。なお、サイドバックコンビが、アラバロール的な仕事を少しだけしていたのはたまたまか、仕込みか。ヴィエリーニャは言うまでもなく、ラファエル・ゲレイロも攻撃で相当貢献できる選手のようで、大会が終わる頃にはどこかに引き抜かれるかもしれない。サイドからのクロス祭りからのクリスチャーノ・ロナウドのヘディングは外れる。最後の直接フリーキック祭りでもクリスチャーノ・ロナウドのシュートは枠に飛ばない。英語で言うと、not his day

試合は1-1で終了。10人による懸命な4-4-2、最強の空中殺法にロングスローと自分たちの強みで相手を叩けるアイスランドは、なかなか良いチームだった。

ひとりごと

両チームの長所が出た試合だったと思う。アイスランドの長所(守備)を殴り続けたポルトガルの攻撃も悪くなかったし、ペペとカウバーリョを破壊するようなアイスランドの空中殺法も見事だった。ポルトガルからすれば、クリスチャーノ・ロナウドが決めていれば万々歳の試合だった。クアレスマも別人のようなプレーでチームに貢献していた。終盤の4-4-2も含めて、色々と仕掛けられるポルトガルはなかなか面白いかもしれない。ただし、次も曲者のオーストリアが相手だ。そういう意味では死のグループと言っていいだろう。

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