リバプールのスタメンは、カリウス、クライン、マティップ、ルーカス、ミルナー、ヘンダーソン、エムレ・ジャン、ララーナ、コウチーニョ、マネ、フィルミーノ。風邪のため、ロブレンはおやすみ。代役にルーカスをセンターバックで起用した。アフリカ・ネーションズカップにマネが出場すること、イングスが怪我により長期離脱になったことで、前線の補強を冬に行なうかどうかという話を聞くリバプール。前線よりも、センターバックの補強をしたほうが良いかもしれない。ただし、欧州での大会に参加していないので、補強なしでもどうにかなるかもしれないが。
ワトフォードのスタメンは、ゴメス、ブリトス、カブール、ヤンマート、ホレバス、アムラバト、カプエ、ベーラミ、ペレイラ、ディーニー、イガロ。マッツァーリの登場と3バックシステムの導入で、プレミアで健闘しているワトフォード。この試合まではクリーンシートを3試合続けている。チェルシーのコンテと共に、イタリア人監督たちによる3バックは、プレミアリーグに何かをもたらすかもしれない。リバプールと同じように、センターバックに怪我人を抱えている。代役はサイドバックを本職とするヤンマート。そんな調子の良いチーム同士の対決であった。
流動的なポジショニングと撃退守備
リバプールの攻撃の特徴は、前線の選手たちによる流動的なポジショニングだ。ボールを保持しているときのシステムは、ヘンダーソンが下り、サイドバックが上がり、ウイングが横幅タスクから解放される形だ。形そのものは、多くのチームが採用している形と言っていいだろう。特徴があるとすれば、ワントップのフィルミーノもこの流動的なポジショニングの一員になっていることだ。フィルミーノが流動的なポジショニング隊に加わる代わりに、インサイドハーフの役割に、前線に突撃していく役割が課せられている。流動的なポジショニングにありがちな中央渋滞のような状態にならないことは、クロップの手腕と言えるだろう。ミルナーが左サイドバックなのはかなり気になるが、各々の選手が持ち味を存分に発揮している様子は、爽快感に満ちあふれている。
相手の2.3列目の間などでボールを受けることを、ライン間でボールを受けると呼ぶ。選手の技術の発達によって、本来は閉じている狭いエリアでも、平気でプレーしてしまう選手たちが増えてきている。よって、それらの曖昧なポジショニングをとる選手たちを止めるために、イタリアで3バックが復興していたのは、ちょっと昔のお話。3バックによる人数の余りを利用して、ライン間でボールを受けようとする選手をマンマーク気味に捕まえることで、ライン間でボールを受ける技術を無効化した。ライン間でボールを受けようとする選手は、フィジカル能力に優れた選手は少ない。フィジカルに自信があるならば、相手がそばにいても関係ないだろう。
センターバックの負傷により、4バックにするのではないか?と現地では報道されていたらしいワトフォード。しかし、恒例の3バックで試合に臨んだマッツァーリ。イタリア式の撃退守備と流動的なポジショニングとの相性は、机上では最高となっている。カブールが何度も下りていくフィルミーノのついていったように、ワトフォードは準備万端でこの試合に勝ったら首位になるリバプールに挑んだ。
ロングボールと計算違い
クロップのリバプールは、かつてのベラミー×カイトを思い出させるくらいに、前線から攻撃的なプレッシングを開始する。もちろん、後方の選手も連動してポジショニングを移動させていく。ただし、連動性でボールを奪うというよりは、スピードのあるプレッシングで相手から思考の時間を奪うことを目的とされているように見える。それだけ、リバプールのプレッシングのスピードは速い。
ワトフォードは3バックのシステムを採用している。よって、システムが噛み合わないことのよるボール前進ができそうだ。しかし、リバプールのプレッシングスピードにたじたじ。しかし、たじたじになることはある程度は予想していたのだろう。バックパスをしてからのゴメス蹴っ飛ばし作戦で、プレッシング回避を狙う場面が目立った。前線に放り込めば、相手はルーカスだし、イガロはでかいし、ディーニーも重い。空中戦では優位に立てるだろうと計算していたのだろう。
また、リバプールの前線の選手は小さい。よって、ワトフォードの守備は、リバプールにロングボールを蹴っ飛ばさせるように設計されていた。2トップでリバプールの2センターバックを牽制し、下りていくヘンダーソンにもマークにつける。自由に動き回るリバプールの前線の選手たちにも撃退守備の準備で、追いかけ回す場面が多かった。よって、ボールを前進させることに苦労したリバプールは、ロングボールを蹴るしか無い状況に追い込まれ、競り合いではやっぱり負けてしまう展開となった。
ワトフォードの計算通りで進んでいった試合だったが、計算違いも見られた。ワトフォードのロングボールによる前進が機能しない。ハイボールの競り合いで五分五分になったとしても、セカンドボールを拾われてしまう。また、リバプールから始めるロングボールによる前進で、ときどき競り負けることもあった。あくまで後者の状況はときどきなのだけど、前者はワトフォードにとって致命的であった。よって、ワトフォードの攻撃は機能せずに、リバプールはボールを保持しながら、淡々と定位置攻撃を繰り返していく展開に試合は推移していった。
定位置攻撃とショートカウンター、そしてセットプレー
一定の展開で試合が進んでいくと、守備にもリズムが生まれていく。よって、異なる展開に持っていったほうが、守備の集中力は持続しにくくなる。リバプールは定位置攻撃を中心としながらも、ボールを奪われたらすぐに奪い返すことで、ショートカウンターの気配を相手に見せることができていた。しかし、リバプールに守備が整っていない状態を見せたくないワトフォードも、カウンターに色気をなかなか出さない。リバプールは大外のサイドバックの攻撃参加という定位置攻撃の最後の必殺技を繰り出しながらも、得点は奪えなかった。しかし、相手の攻撃の可能性をたちながら、自分たちがボールを保持して攻撃を続けている状況をネガティブに捉える必要はなかっただろう。
そんな試合が動いたのは、27分。困ったときのセットプレー。ショートコーナーからのマネのヘディングが炸裂する。
この先制点が最初にもたらしたものは、ワトフォードの変化だった。ロングボールによる前進から、ショートパスに切り替えるようになる。ボールを保持しているときから守備のことを意識していたかのようなワトフォードの振る舞いが一変すると、リバプールのショートカウンターが早速発動する。激しいプレッシングで相手のミスを誘うと、攻撃が一気に加速する。相手を置き去りにすると、最後はコウチーニョが決めて、一気に2-0にすることに成功する。
その後にキーパーのゴメスが負傷退場をする。そんな緊急事態になって、ワトフォードは安全なプレーをするようになるが、今度はロングボールからリバプールに速攻を許し、最後はエムレ・ジャンに決められて前半で3-0になってしまった。
象徴的だったのは、この2.3点目のリバプールの攻撃スピード。相手の守備が整っているときに攻撃を仕掛けても難しい。それは先制点までのワトフォードの守備が証明している。しかし、守備が整理されていないときのワトフォードは、セオリーどおりにもろくなる。カウンターと速攻を繰り出しやすくなったのは、先制点のセットプレー。そういう意味では、スコアの変化が試合内容と結果に大きな影響を与えることとなった。
後半のリバプールのゴールも相手の守備が整っていないときに、ほとんど生まれている。4点目はセットプレー崩れ。5点目はボールを奪ってからのカウンター。6点目はセットプレー。セットプレーは例外だが、相手の守備が整っていないときを見逃さない&どのようにして相手の守備が整っていない状況を作り出すかが鍵となってくるだろう。ただし、リバプールの定位置攻撃は、相手の守備に穴をあけることもできる。この試合では撃退守備に苦しんだが、プレミアリーグで3バックで守るチームは少ないだろう。
なお、後半も正面衝突ゆえに大量失点をくらったワトフォード。しかし、唯一決めたゴールは、見事に整理されたリバプールの守備を破壊したものだった。自分たちらしさを出せば、ゴールまで届くことを証明したワトフォード。だが、大量失点は免れないわけで、そういう意味では前半の戦い方も理にかなっているといえるだろう。前線の選手がパワーを出せれば、マッツァーリの計算通りに試合は進んでいたのかもしれない。それでも、結果がひっくり返るとはいえないけども。
ひとりごと
コウチーニョとフィルミーノが、凄まじい。彼らの周りに気の利く選手を大量配置していることもにくい。ボールを保持できずに、撤退守備を余儀なくされたときにどのようになるかは興味深い。ただし、プレミアリーグのみの戦いではそんな機会も少ないだろう。プレッシング野郎のスパーズや、ポゼッション野郎のマンチェスター・シティ、3バック野郎のチェルシーとの対決が非常に楽しみだ。
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