ユベントスのスタメンは、ブッフォン、ボヌッチ、バルザーリ、キエッリーニ、エルナネス、アレックス・サンドロ、リヒトシュタイナー、ピアニッチ、ケディラ、マンジュキッチ、イグアイン。今季こそはチャンピオンズリーグ!!!を合言葉に戴冠を目指すユベントス。国内では浮いた存在になりつつある。フランスにおけるパリ・サンジェルマンみたいなものだよね、みたいな発言を誰かがしていた。実際にはバイエルンも似たような境遇になっている。チャンピオンズリーグに集中できるという意味ではメリットがあるのだが、突然に訪れる非日常に対応できるのかというデメリットもある。
ナポリのスタメンは、レイナ、ヒサイ、キリケシュ、クリバリ、グラム、ディアワラ、アラン、ハムシク、インシーニェ、カジェホン、メルテンス。今季はチャンピオンズリーグとの両立に取り組んでいるナポリ。チャンピオンズリーグで敗退するまでは、チャンピオンズリーグ圏内を狙える位置をうろうろすることが目標となるか。イグアインの穴を埋めてたらしいミリクの離脱によって、メルテンスがトップで出場している。国内チームからの補強で、徐々にレベルアップしてきたナポリ。チャンピオンズリーグでもファイナルラウンドに出場できそうな位置にいるので、何とかくらいついていきたいところだろう。
縦に早い攻撃を再考する
サッカーには4つの局面があると言われている。その4つの局面の前提条件に、相手の守備が整っているか否かという考えを持ち込んだのが、カウンター大国のドイツだ。バルセロナのボール保持と定位置攻撃がその破壊力で世界を支配した。そして、そんなバルセロナの攻撃を止めるために、整理された守備のレベルは、どんどん研ぎ澄まされていった。ボール保持と定位置の対策として、シメオネのアトレチコ・マドリーが生まれたと言っても過言ではないだろう。つまり、バルセロナの存在が、多くのチームの撤退守備のレベルアップに貢献することとなった。よって、整理された守備を攻略することはどのチームにとっても困難なゴールとなってしまった。だったら、相手の守備が整っていないときに、素早く攻撃を仕掛けてしまおうという考えが生まれることとなった。
相手がボールを保持しているときのユベントスのシステムは5-3-2。イタリア代表で組まれた3バック+ブッフォンの守備力は、言うまでもなく世界最高だろう。また、ハーフスペースが自然に埋まる5バックの並びと、ライン間で活動する選手を捕まえやすい5バックの役割分担が、相手の攻撃の役割を狂わせることになる。普段だったら、時間とスペースを得られる場所でも、ユベントスを相手にしているときは、普段のようにプレーすることができない。そんな整理された状態のユベントスを攻略するには、非常に手間がかかる。もしかしたら、最後まで崩せないかもしれない。よって、ナポリは、縦に早い速攻を仕掛けられるように、攻守に狙いをもってこの試合に臨んだ。
局面による質的優位
ユベントスのビルドアップは、3バックで行われた。ナポリのシステムは、4-1-4-1。ただし、アンカーのディアワラを中央とする3センターという解釈も可能な形だった。その理由は、インサイドハーフのハムシク、アランをディアワラが追い越して、相手にプレッシングをかける場面が何度も見られたからだ。4-1-4-1のアンカーシステムだったら、インサイドハーフを追い越してプレッシングを仕掛ける場面は、頻繁には見られない。
ワントップのメルテンスがボヌッチに寄せながら、アンカーのエルナネスへのパスコースを制限する。そして、両脇のセンターバック(キエッリーニやバルザーリ)にボールが渡ると、ナポリのサイドハーフ(カジェホン、インシーニェ)が前に縦断して対応する。空きがちなユベントスのウイングバックに対しては、横断が間に合うときはインサイドハーフ、間に合わないときはサイドバックの銃弾で対応していた。このインサイドハーフとサイドバックの役割分担が明確に行われたこともあって、ナポリはユベントスのビルドアップを何度も防ぐことに成功する。
ユベントス側からすれば、困ったときのロングボールをキープしてくれそうなイグアインとマンジュキッチを起用していた。ビルドアップがロングボールになってしまうことは、予め計算していたのだろう。ただし、無闇にロングボールを蹴りたくないユベントスという立場も同時に見られた。よって、ユベントスのビルドアップとナポリのプレッシングが、正面衝突するような序盤戦となった。前述のように、ナポリがボールを奪ってのカウンターを繰り出す場面が多く見られた。よって、変更を強いられたユベントスだが、その変更については後述する。
ナポリの狙いは、メルテンス、インシーニェ、カジェホンによる質的優位を狙った。狙ったエリアは、ウイングバックの撤退が間に合わなかったときに発生していた。イタリア代表の3バックと言えど、スペースのある状態で、ナポリのウイングたちとのマッチアップは、非常に苦しい計算となる。よって、ナポリはボールを奪う、またはユベントスの守備が整っていない(ウイングバックが帰陣していない)ときは、縦に早い攻撃を仕掛け続けることで、ちびっこトリオによる奇襲を繰り返した。
ナポリのプレッシングの役割は、3トップがユベントスの3バックにぶつかる形だった。つまり、カウンターに非常に出やすい。ナポリのウイングたちが、ユベントスのウイングバックの守備にまわる。ナポリのインサイドハーフが、ユベントスの3バックへのプレッシングを行なう役割だと、ナポリのウイングたちは、カウンターに出る距離がどうしても長くなってしまう。後者の役割分担の場合は、縦に早い攻撃がどうしても行いにくい。よって、3バックの脇のエリアをちびっこトリオに狙わせる。そのためにはどのような守備の役割をするのかがしっかりとしていたナポリだった。
3バック→4バックへ変化するユベントス
ビルドアップが機能しないユベントス。3バックのユベントスのスタイルに準備万端のナポリ。よって、ユベントスは自分たちのビルドアップスタイルを変更する。アレックス・サンドロを下ろして左サイドバックへ。バルザーリを右に上げて右サイドバックへ。きっかけはボヌッチが右のハーフスペースに移動してプレーし始めたことだろう。4バックに変化したユベントスのビルドアップに対して、今度はナポリが変化を強いられることとなった。
ユベントスの4バックのビルドアップの特徴は、右サイドに人が多い形になることだった。リヒトシュタイナーが右ウイングのように振る舞う一方で、左ウイングには人がいない。イグアインがサイドに流れるプレーを得意としているわけでもなければ、アレックス・サンドロに絶え間ない上下動をさせるにしても、ビルドアップに関わる必要があるので、物理的に間に合わない。よって、慣れないピアニッチが走ることになるのは、ちょっと気の毒であった。ただし、人の多いリヒトシュタイナーからの攻撃は、ナポリのインシーニェサイドを苦しめることに成功する。
ナポリにとって、泣きどころは2センターバックからのエルナネスへのパスコースだった。3バック+エルナネスの場合は、ボヌッチを抑えれば、自然とエルナネスへのパスコースは制限できる。エルナネスが横に移動してもワントップでパスコースは制限できるし、インサイドハーフが縦断してエルナネスを捕まえることもできる。しかし、2センターバックになった次点で、ワントップの役割はエルナネスへのパスコースを制限することよりも、センターバック同士のパスコースを制限することに変更になる。その場合、エルナネスはインサイドハーフが捕まえなければならない。しかし、ナポリのインサイドハーフは、ユベントスのインサイドハーフを捕まえる役割があった。
さらに、ナポリはウイングたちの速攻を攻撃のメインとしていた。よって、彼らの位置をできるだけ下げたくない。しかし、4-1-4-1→4-4-2の変換として、サイドハーフが前の列に移動する形はほとんどない。本人とカバーリングする選手の移動距離が長くなってしまうからだ。だからといって、アレックス・サンドロとバルザーリに対して、ナポリのウイングがついていくと、カウンターまでの移動距離が長くなってしまう。つまり、自分たちのプランを崩すことになってしまう。それはどうかと思うぜとピッチの選手たちも感じていたのだろう。結果として、ユベントスの変更に対して最適な手が打てないまま、時間を過ごすこととなった。
ボール保持と両サイドのバランス
両監督のプランを破壊するような殴り合いの前半戦は、スコアレスで終わった。キエッリーニの負傷で前半の終わりごろに登場したクアドラード。右ウイングバックで登場したクアドラードの起用の仕方は、プレミアリーグのチェルシー、マンチェスター・シティの考えに近い。モーゼスやサネがウイングバックだと、みたいな。ただし、ユベントスの場合は後方にリヒトシュタイナーが控えているのだけど。なお、キエッリーニの位置には、バルザーリが移動している。
右サイドに攻撃が偏ってしまうならば、クアドラードで殴り続けようという作戦だったが、アッレグリも気持ち悪かったのだろう。アレックス・サンドロを上げたい。左サイドの横幅も取りたい。よって、基本は3バックのビルドアップで、困ったら4バックに変える形にしてきた。ナポリの良さを出してしまうことになるかもしれないが、右サイドからクアドラードでは得点が生まれそうにもないと計算したのだろう。
ナポリのサイド攻撃の形が、おおまかに3種類あった。メルテンスがサイドに流れる。ウイングの突撃。ボール保持からの人数をかけたコンビネーション。縦に速い攻撃を仕掛けることが難しいから、ボール保持からでもやってやると、これはこれで正面衝突な解決策となった。ハムシクが下りてプレーすることで、ボール保持を安定させる。ライン間に選手とボールを出し入れすることで、ユベントスの仕組みをゆっくりと破壊していったのは見事だった。ユベントス側からみれば、5-3-2の3-2の間のエリアを使われてしまったのが誤算だったか。ミラン戦も含めて、ユベントスのいまいち感は、前線の守備がぬるくなっていることからくるのかなと推測はしている。
そんな試合を動かしたのは困ったときのセットプレー。先制点はユベントス。ナポリは悲しいクリアーミスがボヌッチにの元に溢れる悲しい失点となった。同点ゴールはナポリ。ボールと人を動かして動かしてインシーニェが時間を得る。形としては、イニエスタ→アウベスの往年の型を、インシーニェ→カジェホンで再現して同点ゴールを決める。
追加点は、ユベントス。悲しみのイグアインのゴールが炸裂する。イグアインにボールが入るまでの形は立派だったユベントス。イグアインの前線へのパスのクリアーが、イグアインのもとに戻ってきてからのダイレクトシュートが炸裂。2点ともにクリアーミスが相手のもとにこぼれるという切ないナポリの失点たちであった。その後の25分はナポリが猛攻を仕掛け、得点機会を作るけれど、ゴールは決まらず。懐かしのジャッケリーニ、マルキージオが出て来るなど、守備の強度を落とさないようにしっかりと采配をふるったアッレグリの勝ちとなった。
ひとりごと
ビルドアップのスタイルを試合中に変更することも当たり前になってきているか。ただし、ハーフタイムを挟まないで変更するユベントスは立派。2センターバック+アンカーと、3バック+アンカーでは、前者のほうが人数のかけかたが厄介になる。トライアングルが最強理論。この試合のように、攻守は一体理論で、守備の役割が攻撃の役割とつながっている場合は、守備の役割変更がチームに与えてしまう影響は大きい。それでも、関係ありませんという仕込みが必要となってくる時代になると、なかなかめんどくさい世界になる。
コメント
パリ・サンジェルマンは今季リーグ・アンで大きく出遅れてますよ。
例え話です!!!