レオナルド・ジャルディムの奇襲はどのように評価されるべきか【ユベントス対モナコ】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ファースト・レグを振り返ると、リスクを最小限にコントロールしながら戦うユベントスの前に、モナコは手のひらで暴れるしかなかった、ような試合だった。アウェイゴールを2つ手に入れたユベントス。ホームで迎えるセカンド・レグにおいて、リスクを冒す必要性はまるでない。逆にモナコは2点以上を取らなければ何も起きない。よって、ファースト・レグ以上にリスクを冒す必要がある。スタメンの図を見ればわかるとおり、4バックを基本布陣とするモナコは、3バックでこの試合に臨んだ。つまり、レオナルド・ジャルディムはしっかりとリスクを冒してきた。そんな策がどうだったのかを検証していく。

ユベントスがボールを保持したとき

ファースト・レグを思い出すと、ユベントスの3バックによる前進に苦労したモナコ。よって、数合わせで対抗する。ユベントスがボールを保持しているときは、ベウナウド・シウバが1列目に移動することで、3バックに3トップをぶつける形を実現している。モナコが3トップによる同数プレッシングを行なうことは予想できたかもしれないが、3バックは予想できなかったのだろう。この変更にユベントスは面食らう形となる。ファースト・レグの前半を思い出すと、3-4-3によって、決定機を量産していた。セカンド・レグでもその再現を狙ったが、誰もフリーじゃないんだなという事実に苦しむこととなる。

同数プレッシングへのユベントスの解答は、2つあった。3バックビルドアップ→4バックビルドアップへの変化とロングボールによるプレッシング回避だ。

前者の4バックビルドアップは、モナコの守備の役割を狂わせることには成功していた。バルザーリが右サイドバックのように振る舞うことで、ムバッベはサイドハーフのように振る舞うようになる。そうなると、ボールサイドでないサイド(この局面ではアレックス・サンドロ)は誰が観るのか?となる。さすがにシディベがそこまで出てくることはない。よって、ファルカオがセンターバックとサイドバックのどちらの対応を悩んでいると、誰かが空くという仕組みになっていた。また、ベウナウド・シウバの1列目への移動とバカヨコのスライドがはまらないと、ケディラとピアニッチのどちらかが空きやすいという仕組みもあった。ユベントスからすれば、利用したい仕組みと言えるだろう。しかし、少しでもビルドアップをミスすれば、モナコのカウンターが炸裂する。だったら、ビルドアップで我慢をするよりは、リスクを冒さないほうがいいのはないかと後者の方法論にうつっていく。

ロングボールによるプレッシング回避のほうが問題がない。しかし、3バックで迎撃だのモナコ。ファースト・レグのディバラのワンタッチの落としやイグアインのポストプレーのような場面を作りたいユベントスだったが、モナコのセンターバックがどこまでもついてくる。もちろん、ポストプレーが成功する場面もあったのだけど、基本的には潰される場面が目立った。だからといって、ビルドアップを辛抱強くやるか?というと、そんな選択をする気もないユベントス。なお、ケディラがドリブルでボールを運ぼうとすると、負傷する。泣きっ面に蜂は言いすぎだが、確実に嫌な雰囲気となっていった。

モナコがボールを保持したとき

 

ファースト・レグでは、ベウナウド・シウバを試合から追い出されてしまったモナコ。ユベントスの右サイドの守備が曖昧なら、そのサイドにベウナウド・シウバを置く作戦に出る。ファビーニョの代わりに、モウチーニョを起用したことも、ボールを保持する攻撃の精度を上げるためだろう。3バックによるビルドアップによって、ユベントスの1列目のプレッシング回避もあっさりと成功した。ある意味でファースト・レグにユベントスにやられたことをやりかえしている采配に見える。ディバラとイグアインがビルドアップをつまらせたとしても、モウチーニョがボールを拾い上げに来るので、モナコのボール保持は効果的に続いた。

ユベントスのアウベスとバルザーリを苦しめたのは言うまでもない。メンディのアイソレーションからのクロスは何度も決定機未遂に繋がり、いつもと異なるサイドでもベウナウド・シウバはベウナウド・シウバだった。バルザーリがムバッベに集中していたこともあって、ベウナウド・シウバのボールを触る機会はファースト・レグよりも圧倒的に増えた。それにしても、この試合でもアウベスのポジショニングは謎だった。メンディに従属するポジショニングになるのか、ゾーン・ディフェンスの決まりごとを忠実に守るを状況によって使い分けていたのだけど、トリガーがわからなかった。マルキージオの交代後に行われた4-4-2を維持するようになったユベントスだったけど、メンディが気になるときは5バックになっても良いという感じだったのかもしれない。

こうして、3バックによるビルドアップとベウナウド・シウバの自由化によって、モナコは狙い通りに試合を進めることができた。オフサイドになったけれどムバッベがチャンスを掴んだ場面やメンディ、ムバッベ、ベウナウド・シウバのトリオによる仕掛けとサイドバックによるアイソレーションからのクロスは、ユベントスを苦しめていった。それでも、ブッフォンを中心に耐え忍んでいくユベントス。プレッシング対策でも見られたように、あの手この手を試しながら、反撃にチャンスを待つ。4-4-2で守備をするようになったのもあの手この手のひとつだ。そして、有効な手を見つける。それが困ったときのマンジュキッチだ。

質的優位とマンジュキッチ

プレッシング回避でロングボールを蹴っ飛ばすユベントスだったが、いくつかの粗に気がつきはじめる。ボールを奪ったときにモナコは定位置に戻るのが遅い。ゆえに、トランジションからの速攻でボールを前進させることができる。ファビーニョはいないし、慣れない3バックをやっている事情もあるだろう。また、モナコのセンターバックの質はやっぱり高いとは言えない。攻撃のスタートになるべき3バックだったが、相手の裏にけるような長いボールではミスが目立った。ゆえに、ムバッベの持ち味を活かす場面でも活かせない場面も何度も見られた。また、低いボールには強さを見せていたが、ハイボールを跳ね返すことには難があった。フリーでも相手に渡してしまったり。となれば、ユベントスの狙いははっきりしてくる。ボールを奪っての速攻と相手のセンターバックと1列目の選手による同数勝負だ。

そんな中でも最も脅威を与えたのがマンジュキッチ対ラッジの空中戦だ。決して小さくはないラッジだが、マンジュキッチとの空中戦では分が悪かった。ユベントスの恒例もである困ったときに相手のサイドバックとマンジュキッチが競り合うでボールを前進させるがはまった瞬間だった。シディベが競るよりはましという判断だったが、どうせ競り負けるならシディベが競ろうぜという解決策も根本を解決させるものではなかった。なお、カウンターや、イグアイン、ディバラの裏とりによって、いつのまにか決定機にたどり着いていくようになるユベントス。スバシッチがファインセーブで対抗していくが、失点は時間の問題となっていった。ユベントスの攻勢を受けるなかで、モナコはビルドアップをするなど、どんどん空回りしていく。

そして、コーナーキックからのカウンター。アレックス・サンドロが運びに運んだ攻撃は、トーンダウンする。しかし、アウベスのクロスをあわせるはマンジュキッチ。モナコは誰がどの位置に戻るなどが3バックゆえの未整備状態だったのは悔やまれる失点だった。マンジュキッチのシュートを1度は防いだスバシッチだったが、2度目は防げなかった。

さらに前半終了間際にはコーナーキックのこぼれ球をアウベスにボレーを決められて、終了する。アグリーゲートスコアが4-0ではちょっとどうしようもない。後半にムバッベが維持の一撃を見せるが、時すでに遅し。ユベントスがチャンピオンズ・リーグのファイナルに到達し、予備予選からチャンピオンズ・リーグに登場したモナコの快進撃は、こうして幕を閉じた。

ひとりごと

ユベントスと比べると、モナコは可変式システムを使うなどの完成度がまだまだ低い。モナコが低いというよりは、ユベントスの完成度が異常といったほうがいいだろう。クアドラードの代わりにアウベスを起用することで、3バックと4バック、5バックと4バックを交代なしで使い分けられるのはえぐい。レオナルド・ジャルディムの狙いは、決して間違っていなかった。計算違いがあったとすれば、センターバックの質だろうか。ユベントスに先制される前に押し切るという計算だったのかもしれないが、押しきれなかったときに完成度の差が出てしまった。結果が出なかったという意味では、レオナルド・ジャルディムの3バック戦術は失敗となってしまうが、狙いは悪くはなかったと思う。ただ、チャンピオンズ・リーグで安定的に結果を出すためには、個の殴り合いでセンターバックがもっと結果を出せないと厳しいだろうなと考えさせられる試合となった。

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