トラップディフェンスはあったのか、それともなかったのか。【モナコ対ユベントス】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

今週末にチャンピオンズ・リーグのファイナルが行われる。ファイナルを全力で楽しむためには、ユベントスとレアル・マドリーの戦いぶりを復習する必要がある。よって、ファイナルまでの時間を利用して、チャンピオンズ・リーグのセミ・ファイナルを振り返っていく。

予備予選からセミ・ファイナルまでたどり着いてきたモナコ。マンチェスター・シティ、ドルトムントと、チャンピオンズ・リーグの常連たちを負かしきた実力は本物だ。すでに忘れられてしまった存在になりつつあったファルカオと、新鋭ムバッペを中心とする1列目の破壊力は、ビッククラブにも引けを取らない。そして、ブレイク間近(もうブレイクしたと言っても良いかもしれない)ベウナウド・シウバは右サイドを支配する左利きのアタッカーであり、セントラルハーフには強烈な存在感を放つバカヨコとファビーニョがいる。メンディも含めて、シーズンの終わりにどれだけの選手がビッククラブへのステップアップを実現していくのか楽しみにしている。

国内では敵なし状態のユベントスのメインターゲットは、チャンピオンズ・リーグの優勝。アッレグリの初年度にはファイナルまでたどり着いたが、バルセロナに負ける。その前後もこのくじ運はあれか?ユベントスを嫌っているのか?という運の悪さなのか、大人に事情なのかは不明な巡り合わせの悪さでなかなか上位に進出できなかった。今年こそは優勝のタイミングだ!という声も大きいだろう。ポルト、バルセロナを撃破してたどり着いたセミ・ファイナル。マドリードの両チームに比べれば、モナコに組みやすさがあるのが現実だろう。

ボールを保持しているときは3バックのユベントス

ボールを保持したときのユベントスのシステムは、3-4-3。ユベントス版BBCの3バックでビルドアップを行った。モナコの準備を見ていると、ユベントスの3バックは予想していなかったようで、プレッシングに混乱が見られた。配置的な優位性を得ることができたユベントスは、ボール保持攻撃から再現性のある攻撃を何度も繰り返すことに成功する。アッレグリの計算からすれば、この時間帯にアウェイゴールを入れることになっていたのだろう。事実は、ゴールは決まらなかったが、一方的なユベントスのペースで試合の幕が開けた。ユベントスが配置的な優位性を得ることができたのは、モナコの2トップが3バックに対して、どのように振る舞うべきか整理されていなかったことがきっかけとなっている。2トップのプレッシングに連動したいモナコのサイドハーフだったが、2トップの中途半端な対応に傷口を広げるばかりとなった。

相手陣地からのプレッシングを得意としているモナコ。しかし、ユベントスの3バックの前に沈黙してしまう。ドルトムント戦を思い出すと、相手の3バックに3トップを即座にぶつける柔軟性を見せていた。この試合でもすぐに変化するかと思っていたが、アレックス・サンドロ、アウベスの高いポジショニングに対して、モナコのサイドハーフとサイドバックは幻惑され、中央にポジショニングするマルキージオ、ピアニッチ、マンジュキッチ、ディバラの対応におわれたセントラルハーフと各地で混乱が起きていた。特に中央のマルキージオ、ピアニッチ、ディバラ、マンジュキッチ、イグアインで形成される台形のポジショニングは、中央の選手(バカヨコ、ファビーニョ、ジェメルソン、グリク)だけで抑えられるものではなく、サイドのサポートを必要とした。サイドバックがサポートすれば、モナコのサイドハーフは相手のアウベスたちを抑えなければいけない。となると、3トップでプレッシングは絵に描いた餅となる。

フルボッコ状態だったモナコだったが、それでも一瞬の速攻でフィニッシュにたどり着くから恐ろしい。ムバッペの突破のドリブルはユベントスを苦しめていたし、ファルカオの絶対にクロスにあわせるマンぶりは健在だった。闇雲なクロスでもチャンスに繋がりそうなのが、モナコの恐ろしいところ。また、20分を過ぎると、モナコが人への意識を強くして、ユベントスの配置的な優位性を消しにかかる。逆サイドは勇気を持って捨てる。ブンデスリーガで見られたプレッシングスタイルだが、後方の数的均衡(3トップ対3バック)を受け入れると、相手陣地からのプレッシングが同数対応になる。ユベントスからしても、ボールが繋がらなくなってくるので、少し嫌な雰囲気となっていく。

ボールを保持していないときのユベントスはトラップディフェンスを仕掛けたか

 

ボールを保持していないときのユベントスの守備が、とても興味深かった。基本プランは撤退守備。撤退守備を選択した理由は、モナコに裏のスペースを与えたくなかったからだろう。20分までのユベントスタイムですら、ときどきモナコはカウンターを成功させていた。残念そこはブッフォンという戦術はずるい。モナコが守備を整理すると、ユベントスは早々に撤退守備に切り替える。

基本的には4-4-2。アウベスが右サイドハーフにいると考えれば自然な形だ。しかし、ときどき図のような形になる場面が見られた。5-3-2だけれど、アウベスの下りた行動により、スペースができている。わざとスペースをあけることで、相手に攻撃を仕掛けさせることをトラップディフェンスと呼ぶ。なお、マンジュキッチもときどき3列目に下って守備をしていた。アッレグリの考えは、4バックをペナルティエリア幅から動かしたくなかったのだろう。そのためのアウベスやマンジュキッチのサポートだったという可能性はある。

モナコの選手を当てはめてみると、左サイドからの攻撃がやりやすい。データを漁れば出てくると思うが、モナコのサイドの選手のボールタッチ数を比較すると、明らかになるのではないかと思う。ベウナウド・シウバは右サイドからのカット・インで序盤に見せ場を作ったが、その後は出番が減ってしまう。もしも、モナコにボールをもたせるとすれば、ベウナウド・シウバサイドは避けた方がいい。だったら、逆サイドから攻めてもらえばいいじゃねえかというのがトラップディフェンスの目的となる。自動的に守備の出番も増えるのだけど、そのためにバルザーリを起用していることがにくい。この位置にクアドラードとアウベスでは守備に不安が残るだろう。スペースを予め埋めてしえば、快足メンディの存在感も消えていった。ユベントスの思考を辿っていくと、序盤は配置的な優位性で攻撃をする。相手が対応してくる。カウンターもやっぱり怖い。だったら、相手にボールを持たせる。ボールを持たせるとしても、ベウナウド・・シウバは怖い。だったら、ベウナウド・シウバにボールを持たせないような守備をしようみたいな。まあ、トラップディフェンスのたぐいは深読みしすぎかもしれないけれど。

試合の展開を操作するユベントス

モナコの対応の前に20分過ぎから引き始めたユベントス。ビルドアップも苦労する形が増えていったが、先制ゴールはブッフォンを経由した攻撃から始まった。まるでデザインされていたかのような攻撃のきっかけはディバラの華麗なワンタッチパスだった。この試合でイグアインも何度も行っていたけど、ワンタッチで前向きの選手を使う場面が非常に多い。無理矢理に前を向いたりキープする場面が本当に少ない。そんな綺麗な攻撃のフィニッシュはイグアイン。アウベスのヒールキックも見事だったが、華麗過ぎるゴールをユベントスが決まる。

リードしたこともあって、ユベントスの撤退守備はさらに濃厚となる。モナコもじわじわと決定機未遂を作っていくが、中央を空けないユベントスの守備の前に時間だけが過ぎていく。ユベントスは4-4-2と5-3-2の守備を使い分けながら、モナコの攻撃を防いでいく。思い出したかのように4-4-2でプレッシングを行なうこともあった。そんなときどき見せる相手陣地からの守備でバカヨコからボールを奪ったのは58分。アウベスからのイグアインで追加点を決めるユベントスであった。恐らく後半の15分は前からも守備をしようという決まりごとになっていたのだろう。その前に、マルキージオのチャンスもあった。

65分にバカヨコ→モウチーニョ。ボールを持たされるなら、ボールプレーヤーを増やすという論理的な采配。そして、ジェルマンを入れてさらに突撃姿勢を強めるモナコ。決定機未遂は多いし、ユベントスよりもシュート数が多かったモナコだが、ゴールだけが遠い。エリア内でのシュートは少ない。エリア内には入らせないユベントスの守備。攻め込まれても大丈夫という成功体験のなせる技だろう。76分にはクアドラードをいれて、5-4-1に変更。あとは守るだけだよ!なユベントス。モナコも攻めるだけなのだが、最後の最後でブッフォンが立ちはだかる。ジェルマンのシュートを止めたことで、セカンド・レグをさらに優位に進められたのは言うまでもない。こうして、試合は2-0のまま終わった。モナコに1点くらいは入ってもおかしくない展開だったが、それを0で終わり続けてきたユベントスの強さが目立った試合となった。

ひとりごと

ファースト・レグということもあって、ユベントスの姿勢がなかなかおもしろかった。序盤はモナコの4-4-2の仕組みを殴れるように準備(3-4-3)してくる。モナコがシステムに対応してきたり、カウンター、速攻で強さを見せ始めると、自分たちの仕組みを捨てて、相手の良さ(3列目の裏のスペースを与えない)を消す方向性にさっさと移行する。そして、逆に速攻でしとめる。リードしてからはのらりくらり。でも、ときどきは奇襲を仕掛ける。そして、相手陣地でボールを奪ってのショートカウンターで追加点。あとは5-4-1でがっつりと守って終了。失点のリスクが大きくなれば、それを即座に消して、慎重に試合を進める。そのためにはボール保持も平気で捨てるし、試合展開もどんどん操作していく。まさに試合巧者だった。このレッスンを受けたモナコのセカンド・レグの振る舞いに期待する。モナコの監督もただでは転ばない監督な印象なので。

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