【カウンターの再現性】モナコ対マンチェスター・シティ【重要なことは、誰が時間と空間を得るか】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

ファースト・レグのスタメンと比べると、マンチェスター・シティはヤヤ・トゥーレ→クリシー、オタメンディ→コラロフの変更で試合に臨んだ。ファースト・レグでは左サイドバックだったフェルナンジーニョだが、セカンド・レグでは本来のポジションに戻っている。意外だったのはオタメンディがベンチにいることだった。左利きのセンターバックの起用でビルドアップをスムーズにすることのメリットと、オタメンディ不在の守備力の低下というデメリットを、グアルディオラがどのように計算していたかは、非常に興味深い。ただ、ベンチのメンバーをみると、イヘアナチョ、ヘスス・ナバスしか攻撃の駒がいない。これはこれでなかなか大変なマンチェスター・シティの事情だった。

ファースト・レグのスタメンと比べると、モナコはファルカオ→ジェルマン、グリク→ジェメルソンの変更で試合に臨んだ。ファルカオは怪我、グリクは累積なので、致し方ない。ファースト・レグの5-3というスコアは、2点差以上の勝利でモナコの勝ち抜けを約束するものといっていいだろう。もちろん、6-4などのスコアでマンチェスター・シティが勝てば、アウェイゴールの関係でモナコの勝ち抜けは決まらない。はっきりしていることは、勝たねば話にならないし、2点が必要ということだ。

モナコの1列目のプレッシング

モナコの1列目の守備の役割は、片方がボール保持者にプレッシングをかける、もう一方の選手がアンカーを見ることになっていた。マンチェスター・シティのセンターバック同士のパス交換によって、その役割が入れ代わることになっている。2センターバック+アンカーのポジショニングに対して、定跡と言える守備だ。しかし、モナコのムバッペとジェルマンはアンカーのフェルナンジーニョをスルーしてしまうことがたびたびあった。例えば、コラロフがストーンズにパスをする。フェルナンジーニョについていたムバッペがストーンズにプレッシングをかける。ここまでは計画通りだが、ジェルマンがフェルナンジーニョまで戻らない。よって、ストーンズが身体の向きとボールの位置を少し変えることで、フェルナンジーニョへのパスラインを上手くつくる場面が見られた。

ただし、6分の場面では、フェルナンジーニョを後ろから追いかけてボールを奪い、ショートカウンターを成功させている。このショートカウンターで得たコーナーキックの流れで、モナコは先制点を得る。メンディの突破のドリブルにサネがあっさりとかわされたのが、マンチェスター・シティにとっては誤算だったかもしれない。アグリゲートスコアは4-5となった。6分にボールを奪われるまでは、マンチェスター・シティはフェルナンジーニョを上手く使うことができていた。根性のプレスバックが実った瞬間と言えなくもないのだけど、モナコ側の立場からみても計算されたもの(フェルナンジーニョに出させて奪う)だったかは、微妙だ。

時間と空間を得られる場所に誰がいるべきか

失点後のマンチェスター・シティは、サニャのアラバロールをするようになる。フェルナンジーニョがボールを受けられたように、サニャもフリーでボールを受けることができていた。マンチェスター・シティの問題は、モナコの1.2列目のライン間を使うことができていたけれど、そのエリアから先にボールが届かなかったことにあった。サニャ、フェルナンジーニョが前線のシルバ、デ・ブライネ、スターリング、サネ、アグエロにボールを供給できなかったことで、バックパスを繰り返すことになる。ストーンズたちからすれば、1.2列目のライン間にボールを届けて仕事は終了なのだが、バックパスがすぐに戻ってくるので、なかなか大変な状況となった、

モナコからすれば、1.2列目を使われたとしても、前線の選手を捕まえとけば、大丈夫という計算はあったかもしれない。マンチェスター・シティの面々のオフ・ザ・ボールの動きも多くはなかったこともあって、モナコがボールを奪ってカウンター、または速攻という場面が目立つ展開となっていった。マンチェスター・シティからすれば、1.2列目のエリアにボールを入れることで、攻撃のスイッチが入る。でも、攻撃がうまくいかない。これがモナコの罠だったのか、1.2列目を使われたのは計算外だったけれど、その準備はしていたなのかは、監督に聞かないとわからないだろう。26分のスタッツでは、マンチェスター・シティのゴールチャンスはゼロであった。

モナコのカウンター

定位置攻撃に比べると、トランジション攻撃は共通点を見出しにくい。わかりにくい相似形だったり、少数人数のサッカーの原則に従っているだけに見えたりする。

モナコのカウンターの特徴は、2トップがひらく。マンチェスター・シティは3バックで相手のカウンターを迎え撃つパターンが多いので、両脇のセンターバックをピン留めする。そして、アンカーのいる選手(フェルナンジーニョやアラバロールのサニャ)にドリブルでつっかける。そして、突破するか、2トップにボールを預ける。2トップの選手がサイドに流れた場合は、後方の選手のインナーラップ。サイドに流れなかった場合は、図のようにオーバーラップする。

カウンター状態は、守備が整理されていない状況といえる。マンチェスター・シティは、正しい位置(例えば、サニャがサイドバックの位置)に戻るのに時間がかかる。可変システムの罠。また、前線に攻め上がった味方(特にウイング)が戻ってくるのに時間がかかる。よって、モナコの狙いは相手を正しい位置に戻りくいポジショニングや攻撃方法と相手が下ってこないことを考慮したカウンターを設計していた。また、それらの流れをすっ飛ばして、ムバッペがストーンズにただただ仕掛ける形も何度か見られた。

27分にトランジションの連続からモナコのカウンターが発動する。ムバッペはサイドにボールを運ぶことで、ストーンズをサイドに引きずり出す。ムバッペがサイドにいるので、インナーラップでサニャを中央にひきつける。この時点で、ストーンズとサニャの位置は入れ替わっている、つまり、守備が定位置でない、または整理されていない状況が成立する。しめはサイドでボールをもつレマーを追い越すインナーラップ後のメンディ。でも、メンディには誰もついてこない。局面的な数的優位はサイドからのクロスに繋がり、ファビーニョが決める。ちなみに、ファビーニョのマークを捨ててしまったのはスターリングだった。スターリングも本来の守備位置ではない場所にいたので、スターリングのせいだ!というのも少し切ないが。スコアは5-5。アウェイゴールの関係でモナコがリードとなる。

空中戦はどこで起きるか

リードしたモナコ。マンチェスター・シティは守備も4-4-2に可変して行なう。よって、デ・ブライネが前に出るのか出ないのかで形が変わってくる。モナコはスバシッチへのバックパスを巧みに使いながら、本来の4-2-2-2でマンチェスター・シティを相手にボールを保持していく。バカヨコのサイドバックエリアでのポジショニングや、クリシー対シディベのサイドバック同士の空中戦の優位性を使いながら、モナコが試合を支配していった。

ゴールキックなどでも見られる景色だが、サイドバックにロングボールでボールを逃がすパターンが確立されてきている。もちろん、フリーならサイドバックがボールを受けておしまいの話だ。しかし、相手がどこまでも人への基準を強くしてきた場合、サイドバックとサイドバックが空中戦で競り合うケースが増えてきている。フォワードがサイドに流れてミスマッチを利用する、というのではなく、ポゼッションの始まりとしての空中戦でサイドバックとサイドバックのバトルが日常化していくかもしれない。正確に言えば、相手に絶対に勝てるよねという局地戦になるなら、そのエリアからボールを前進させていく機会は増えていくだろう。前半は2-0で終了。このまま試合が終われば、モナコの勝ち抜けが決定する状況でハーフタイムを迎えた。

答えはデ・ブライネと解放されたシルバ

マンチェスター・シティは4-2-3-1に変更する。デ・ブライネとフェルナンジーニョのセントラルハーフコンビとなった。餅は餅屋ではなく、時間と空間を得られそうなエリアで輝けそうな選手を配置する。シルバはライン間でボールを受ける仕事に集中する。中央から左サイドをプレーエリアとしていたシルバがピッチ全体を動き回ることによって、シルバへのマークが曖昧になるモナコ。つまり、バカヨコとファビーニョはわかりやすい意味での守備の基準点を失った形となった。

デ・ブライネとフェルナンジーニョの存在に、モナコの2トップと2セントラルハーフはかなり注意深いポジショニングになる。具体的に言うと、デ・ブライネのそばにポジショニングし、すぐにプレッシングにいけるようにする。結果として、マンチェスター・シティのセンターバックとサイドバックは時間と空間を得られるようになる。よって、ストーンズが急にビルドアップで輝きを放つようになる。もちろん、スコアで優位にたったモナコが、少し受け身になったから、マンチェスター・シティがボールをモナコ陣地に運べるようになったという要因もあるだろう。

えぐかったのがデ・ブライネ。長いボールでスターリングやサネに正確なボールを届けていく。まるでシャビ・アロンソのようだった。あと5人はほしいデ・ブライネ。相手から警戒されれば、周りが空くという好循環であった。フェルナンジーニョもスルーパスを狙うようになる。そして、ピッチ全体を動き回るようになったシルバは、ライン間でボールを受ける職人ぶりを何度も発揮する。こうして、モナコを自陣に押し込んでいくマンチェスター・シティは、2度の決定機を得る。ストーンズの運ぶドリブル起点の攻撃と、中盤のこぼれ球に抜け出したシルバからのアグエロ。両方ともにアグエロが外してしまうけれど。

70分に同点ゴール。デ・ブライネのロングパスからのスターリングのアイソレーション。カット・インからもミドルをはじくスバシッチ。はじいたボールを押し込んだのはサネ。スコアは6-5になる。こうして、デ・ブライネのセントラルハーフとシルバのトップ下が完全に当たったグアルディオラであった。これで勝負ありかと思いきや、困ったときのセットプレー。76分にバカヨコのヘディングが炸裂する。スコアは6-6になり、モナコが優位になる。残りは13分。

マンチェスター・シティはクリシー→イヘアナチョで炎の3バックで勝負に出る。カウンターで危険な雰囲気満載だったが、モナコも前線の選手を交代していたので、助かっていた。しかし、交代で出てきたのがイヘアナチョのみという切なさ。ヘスス・ナバスを出しても確かにしょうがない。というわけで、もう失点はしないぜと自陣に完全撤退したモナコを崩すことができずに、マンチェスター・シティの敗退が決まった。後半に底力を見せたマンチェスター・シティだったが、一歩及ばず。アウェイゴールの差にチャンピオンズ・リーグの舞台から去ることとなった。

ひとりごと

デ・ブライネがあと5人いれば、というように、マンチェスター・シティはグアルディオラのサッカーでチャンピオンズ・リーグで結果を残すには人材のミスマッチが響いたか。それでも、ここまでの形は取れるのだろうけど。来季の補強なのか、誰かの覚醒が起きるのかは楽しみに待ちたい。これでプレミアリーグに集中のマンチェスター・シティが、チェルシーにどこまで迫れるかは注目だろう。

わけあって詳しくなったモナコ。愛着がわいてきている。ビッククラブでも戦力になれそうな選手がズラリ。でも、有名人はそんなにいない。ベスト8からは強豪がズラリだが、当たりじゃないよ外れだよということをどこまでも証明していってほしい。

コメント

  1. NNS より:

    バイエルンでは3年連続ベスト4敗退。
    シティではベスト16敗退。

    ペップはポゼッションに固着しすぎ、無能、戦術が無い、今までは選手に恵まれ過ぎた…。
    などなど、様々な書き込みが目に入ります。

    らいかーるとさんはどのようにお考えですか?
    果たして無能なのか…?

    • らいかーると より:

      様々な書き込みに影響されるなんてまだまだっすよ!

      自分がどう思うかが大事です。

  2. Starrk1st より:

    記事中にご指摘されている通り、シティの前半のオフ・ザ・ボールの動きのなさが、ただただ残念でした。

    ハイプレスもなかったし。。。

    CLでデブライネをもう少し見たかった。

    • らいかーると より:

      あのオフ・ザ・ボールの動きのなさはなんだったのでしょうねえ。一番の謎と言えます。

  3. ととや より:

    昨シーズンは曲がりなりにもベスト4に進出したことを考えると期待を裏切る結果に終わってしまいましたね。
    先日、「ペップは強豪しか率いない」との批判がありましたが、ペップはやはり筆を選ぶタイプの監督なのだと実感させられました。合わない選手への冷遇もそれが原因でしょう。
    ストーンズの攻守に両極端な技能も象徴的です。
    プレミアではローテーションが苦しいですし、ペップはサポーターの反感を買うことも多いので立場は厳しそうです。
    アグエロはやはり今季限りでしょうし、とにかくジェズスの復帰を待つのみですね。

  4. 天国への階段 より:

    初コメですが、実は5年くらい前から愛読していつも勉強させていただいております
    モナコのカウンター設計、シティの後半の追い上げの分析はさすがです
    さて、質問ですが、18歳のムバッペ君についてはどのような印象を持たれていますか?長所、短所、今後メガクラブへ進出&活躍の可能性などご意見をぜひとも聞きたいです

    • らいかーると より:

      5年くらい前からとは、長い付き合いですね。いつもありがとうございます。

      ムバッベくんですが、ただのアンリです。なので、恐らくメガクラブでも結果を残すと思います。左サイドでのプレーを得意としていますが、カット・インよりも、縦突破からのクロスを長所としています。さらに足が速いので、裏抜けもいけます。エゴもあんまりないので、末恐ろしい逸材です。

  5. ヴィヴァルディ より:

    前半の内容はハーフタイムにペップ自身もめちゃくちゃ怒ったらしいですね
    選手達のメンタルや経験も関係あるのでしょうか
    ピッチ上に周りの選手に大きな影響を与えられるリーダーがいないのも一つ原因かもしれませんね
    コンパニが怪我のない選手ならと思ってしまいます

  6. デニス・マルケス より:

    ポルトvsモナコの決勝が懐かしいなぁ。サビオラの頃でしたっけ。
    今回もそこまで上り詰めてくれると面白いんですけど。

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