失意の5月を過ごしたヴァンフォーレ甲府。中断期間を利用して、結果がでていない理由を改善していきたい。再開後の相手は、柏レイソル。8連勝によって、首位に位置する勢いのあるクラブだ。ただし、柏レイソルの全てを知るといっても過言でない吉田達磨監督が、ヴァンフォーレ甲府にいる。吉田達磨監督による柏レイソル対策は、なかなか興味深い。自分殺しという点において。もちろん、吉田達磨監督がいたころの柏レイソルとは、姿をかえているのかもしれないが、根っこはあのときから変わっていないと言っていいだろう。柏レイソルからすれば、中断期間によって、8連勝の勢いが止まってしまったねとは言われたくない試合だ。いくら吉田達磨監督がいるとはいえ、明らかに下位のチームに取りこぼしは許されない。そんなお互いにとって、負けられない試合が始まる。
柏レイソルのプレッシングを回避せよ
柏レイソルの躍進の理由のひとつが、中川を起用したことによる相手陣地からの積極的なプレッシングにある。ボール保持に定評のある浦和レッズですら、柏レイソルのプレッシングにはたじたじとなってしまっていた。吉田達磨監督が就任してからのヴァンフォーレ甲府は、ボールを保持することもある。ボールを保持しなければダメだ!なんて雰囲気はまるでないが、別にボールを持つことをストレスに感じていないようなレベルにはなっている印象を受けている。ただし、この状況で、柏レイソルのプレッシングと向き合えば、事故が起きることは火を見るより明らかだ。ヴァンフォーレ甲府のボール保持は、3バックによる配置的な優位性をキーとしている。ただ、柏レイソルのプレッシングは配置的な優位性を消すほどのスピードを持っている。だったら、どうないするねんという問題への解答が、ドゥドゥとウィルソンへ放り込むであった。
柏レイソルは相手陣地からのプレッシングを行なうため、3列目(ディフェンスライン)も高めに設定されている。よって、ヴァンフォーレ甲府は配置的な優位性を利用しながらも、さっさとロングボールを蹴ることで、柏レイソルのプレッシング回避を狙った。ウィルソン、ドゥドゥの強さは異常で、特にドゥドゥと輪湖のマッチアップは、どちらかが退場するのではないか?という疑念を抱かせるような荒れたものでだった。また、柏レイソルの高いディフェンスラインを利用して、裏のスペースにウィルソンやドゥドゥが飛び出していく場面も目立っていた。つまり、空中戦と裏抜けを両立させながら、ヴァンフォーレ甲府は攻撃を構築して、陣地回復を狙っていた。
ロングボールによるプレッシング回避は世界中で行われている。かつてのエトーがいたころのバルセロナが、キーパーからのロングキックによるプレッシング回避に苦戦していたことは非常に懐かしい。注意点は、ロングボールを蹴る人に時間とスペースを与えられているかどうか。ロングボールの先に優位性があるかどうか。セカンドボールを拾う人員は準備しているかどうか。ヴァンフォーレ甲府の場合は、配置的な優位性でロングボールを蹴る人に時間とスペースは与えられていた。ロングボールの先にはウィルソンとドゥドゥがいたので、優位性もあった。セカンドボールに関しては、新井やウイングバックの選手が飛び出してくることで、どうにかなっていた。こうして、柏レイソルの最も注意すべきプレッシングからの速攻やカウンターを防いだヴァンフォーレ甲府であった。なお、今後も前線の選手をサイドに流れさせて、柏レイソルのサイドバックと空中戦を申し込むチームは増えてくるかもしれない。ユベントスで言う、マンジュキッチ対サイドバックみたいな関係性を。
5-3-2を攻略せよ
まったりとボールを保持する気のなかったヴァンフォーレ甲府に対して、ボールを保持をするしかなかった柏レイソル。ただし、柏レイソルの本質はボール保持にあるので、ある意味で本質が試されているような試合となった。ウィルソンとドゥドゥは攻撃に力を貯めるためか、柏レイソルのセンターバックと同数にも関わらず、あまりプレッシングを行っていなかった。よって、ヴァンフォーレ甲府の守備は、ほとんどが5-3の形で行われた。ただし、輪湖とのマッチアップで怒ったのか、それとも、チームの約束事になっていたのか、ドゥドゥが右サイドハーフのポジションに下りて5-4-1を形成する場面も見られた。たぶん、トラップディフェンスのたぐいではなく、ドゥドゥの気まぐれ(献身的だったのか、チームの約束事を中途半端に守っていたのかは不明)であった可能性が高い。超好意的に解釈すれば、ハーフスペースにポジショニングする武富へのパスコースを制限していた、となるのだけど。
柏レイソルのセントラルハーフが捕まっているときは、中川が3人目として現れることが柏レイソルの定跡となっている。この試合では手塚は自由にプレーすることができていたので、中川はそんなに目立っていなかった。というよりは、ヴァンフォーレ甲府の3センターによって、ポジショニングが困難になっていた。目立っていたことが柏レイソルのサイドハーフの役割の差となる。武富は外から中へのポジショニングをしていて、伊東は外に張り出す形が多かった。ヴァンフォーレ甲府の形を見て、というよりは、両サイドハーフの個性の差とサイドバックとの連携を考慮していたのだろう。アラバロールのできる小池と、大外からの侵入とクロスを得意としている輪湖を考えても、この形はしっくりくる。ただし、後半の頭に伊東と武富の位置をいれかえて、この形をやめていたので、下平監督はこの形の差をあまり好んでいないと解釈したほうがまっとうだろう。ただ、武富からの伊東への大外へのクロスはばっちしはまっていたが。
それでは柏レイソルは何を狙っていたのかとなる。
ウイングバックを引き出して、空いたエリアにパラで、相手のセンターバックと柏レイソルの前線の選手がどつきあい。ゆえに、サイドの選手が中に入ってくるよりも、外からのコンビネーションや個の力による優位性を狙っていたのだろう。ヴァンフォーレ甲府が5-4-1だったのか、5-3-2だったのかは、全てはドゥドゥ次第なのだけど、最近は中央のセントラルハーフを動かしてどうするの?という攻略が定跡になってきているなかで、愚直なまでにサイドからの攻撃を柏レイソルは繰り返していた。その場合は、どうしても火力不足が目についてしまう柏レイソル。最後に登場したオリベイラが火力全開でプレーしていたように、相手が撤退守備ばかりしてくるぜ!というときは、前線の選手構成は少し考えたほうがいいかもしれない。
3センターからの5-4-1
アルビレックス新潟時代の吉田達磨監督を知らない。よって、柏レイソル時代との比較になってしまう。柏レイソル時代の吉田達磨監督は、アンカーシステムにこだわりを持っていたと記憶している。アンカーはてこでも動かさない。しかし、時代は流れ、アンカーシステムを採用しているチームは減った。正確に言えば、アンカー+インサイドハーフで守るよりも、3センターとして守備をするチームばかりになってきた。チームによっては、ボールを保持するときは4-3-3、ボールを保持していないときは4-4-2の可変システムを使うチームも増えてきている。しかし、柏レイソル時代の吉田達磨監督は攻守にアンカーシステムを維持することにこだわっていた。そのこだわりが守備で相手に隙を与えることになっていたことは懐かしい記憶である。
しかし、この試合の兵働はアンカーとして、というよりは3センターとして活動していた。ボザニッチも懸命にポジショニングを修正していて、その役割の両を減らすためのドゥドゥの動きだったのかもしれない。堀米が入ってからは完全に5-4-1へのシフトを完了する。3センターからの2センターの移行もスムーズに行われた。残り5分の展開からは、柏レイソルの総攻撃に屈しそうになったが、クリスティアーノがいつものように枠にボールをぶつけてくれて何とか助かった。前半を振り返ると、速攻とカウンターを使いわける攻撃で、柏レイソルの3列目を強襲し、中村の出番を増やすことに成功していたヴァンフォーレ甲府。エリア内からのシュートも多く、最後の総攻撃での決定機を除けば、ヴァンフォーレ甲府のほうがいい時間帯を過ごしていた試合であった。
柏レイソルのボール保持攻撃を見ていると、中川なりクリスティアーノなりがライン間でボールを受けるプレーが多いのだけど、バルセロナが見せるような中央突破ならぬワンツー地獄がまるでない。セントラルハーフを攻守に動かさないことが柏レイソルの今の強みになっているのは間違いないのだけど、サイド攻撃やボールを奪ってからのトランジション攻撃でなかなか点を取れないときの奥の手が出せないと、なかなか撤退守備&ロングボールでプレッシング回避には苦戦する日々が続いていきそうだった。そして、試合は引き分けで終わる。
ひとりごと
柏レイソルの連勝を止めたのが吉田達磨監督という巡り合わせが面白かった。ヴァンフォーレ甲府は相手の長所短所をつけるようにカスタマイズされていたので、しっかりと準備期間を過ごしていたのだろう。選手層も意外に厚いようなので、スタメン争いも起きているのだろうか。前線の組み合わせで最適解を見つけることができれば、今日のように決定機が増えていき、得点もゆっくりと増えていくのではないだろうか。
柏レイソルはディエゴ・オリベイラの突撃が面白かった。オレを出せ!みたいな。退場するかもしれない輪湖を交代し、ユン・ソギュンを出せたのは今後を考えれば大きかっただろう。攻撃を組み立てるのは選手の距離が長いパスが多く、そのパスを狙われている場面が多々見られた。中央はワンツー地獄をテーマに邁進するかどうかは、今後の相手次第だろう。
コメント
先日はありがとうございました。
謎が解けました(^_^;)
次節、札幌戦も都倉、金園とフィジカルを生かした戦法に福森のキックが炸裂
また以前、お話しされてました柏のサイドバックを高さを突くような展開が予想されます。
引き続きコラム楽しみにしております!