ハリルホジッチのチームに、多数の選手を供給しているガンバ大阪。相手陣地からも積極的なプレッシングを行っているチームのスタイルが、ハリルホジッチの志向と似ている故かどうか。そのためかはわからないけれど、アデミウソンがベンチにいる。横浜F・マリノスから移籍することで、居場所を見つけた感があったアデミウソンだったが、未だに安住の地は見つからないようだ。2トップを採用しているガンバ大阪でスタメンに定着できれば一番いいのだろうけど。なお、エールディヴィジへの移籍が決まった堂安の最後の試合となっている。
ハリルホジッチのチームに、まったく選手を供給していない川崎フロンターレ。ボール保持を基本とする川崎フロンターレのスタイルは、ハリルホジッチの志向に合わないのかもしれない。しかし、ガンバ大阪が敗退したアジア・チャンピオンズリーグでは勝ち残っている。また、怪我人も多数戻ってきている。特にエウシーニョの復活は、チームにとって大きいだろう。新戦力の家長がチームに馴染めば、さらに破壊力を増した川崎フロンターレが見られるのかもしれない。
4-4-2の菱型によるプレッシング
4-4-2の菱型と言えば、今季のレアル・マドリーだろう。ただし、ガンバ大阪の菱型は、レアル・マドリーのそれとは異なる。レアル・マドリーの菱型は、イスコのポジショニングとクリスティアーノ・ロナウドのストライカーを実現させることで、チーム力が増した。ガンバ大阪の菱型は、トゥヘル時代のマインツに似ている。トゥヘル時代のマインツは、相手の4-3-3に対して、菱型の4-4-2によって、同数によるプレッシングを行っていた。川崎フロンターレが2セントラルハーフを採用していることもあって、同数によるプレッシングにはならないが、インサイドハーフがサイドバックまで根性でプレッシングに行くスタイルは、トゥヘル時代のマインツを彷彿とさせるものであった。走って死んでワークを行っていた阿部と大森の代わりに、井手口と今野が運動量を武器に活動している姿を見ると、最初からこのコンビが走って死んでワークをやればよかったのではないかとも思わされる。その場合は、阿部か大森がスタメンから外れていたかもしれないけれど。
大島にインサイドハーフに移動してもらうと、マインツのプレッシング配置のようになる。あくまで机上の空論。4-4-2の菱型によるガンバ大阪のプレッシングは、かなりの圧力を持って行われた。ボールを保持することを得意とする川崎フロンターレでも、その圧力に面食らう序盤戦となる。ただし、それでもロングボールでプレッシング回避を狙わないで、正面からガンバ大阪のプレッシングに向き合う川崎フロンターレの姿勢は、尊敬に値する。プレッシングの網に引っかかり、ガンバ大阪にトランジションを許す場面が見られたが、最初の15分間を凌げば、ボールを保持する時間が来るだろうと信じて、川崎フロンターレはボールを保持する姿勢を諦めなかった。そして、ときどきはプレッシングを交わしながら、徐々に自分たちの願っていたとおりの展開を手に入れていく。ただし、それまでの時間帯はボールを持つことが許されないかのようなスピードあふれる展開であった。
質的な優位性と配置的な優位性
川崎フロンターレは、オフ・ザ・ボールの動きでマークを剥がして時間とスペースを手に入れるというヤッヒーの志向が根付いている。その一方で、ビルドアップのときは相手のプレッシングの枚数に応じて、システムを変える。そして、配置的な優位性を手に入れる。考えようによっては、ネットと中村憲剛の縦移動は、相手から自由になるための動きと言えなくもない。ただ、川崎フロンターレは配置的な優位性で得た時間とスペースによって、前線の選手が自分のマークから自由になりやすいように設計されている印象を持っている。この試合でもネットと中村憲剛の縦移動によって、ガンバ大阪のプレッシングが時間がたつにつれてはまらなくなっていく。3センターに4枚をぶつけられると、ちょっと厳しい。ガンバ大阪からすれば、倉田を前に出して、3トップのように守れば、3センターのスライドで対応できそうなのだけど、それはほとんどやらなかった。理由は不明だ。実際に3バックのビルドアップに対して、4-3-3や3-4-3で対応するチームは増えてきている。
ガンバ大阪からすれば、相手の攻撃をサイドに誘導して、プレッシングを行なう。だったら、相手の位置を動かして、攻撃を仕掛けようとなる川崎フロンターレ。特に登里の動きでオ・ジェソクを動かして阿部が飛び出す。またはその逆の動きが多く見られた。というように、川崎フロンターレは即興的な攻撃とともに、論理的な崩しもしっかりと行っているという具体例となる。オフ・ザ・ボールの動きで相手を動かして、味方にプレーエリアを与える、みたいな。
前半を振り返ると、ガンバ大阪のプレッシングが機能していた時間はガンバ大阪。ガンバ大阪のプレッシングが落ち着いてくると、川崎フロンターレが試合の主導権を握った。ガンバ大阪は撤退守備に怪しさがあり、もちろん、相手が川崎フロンターレだったから顕在化したといえるかもしれないが、川崎フロンターレにフィニッシュの機会を与えるようになっていく。また、ガンバ大阪のボール保持攻撃は、センターバックが運びドリブルで相手をひきつけないこともあって、川崎フロンターレの守備網にひっかかる場面が何度も見られた。後半に遠藤にセンターバックが持ち上がれと指示されてからも、曖昧なプレーに終始していた。二人共に長いボールを蹴ることはできるのだけど、ボールを運ぶことを苦手としているのかもしれない。だからこそ、トランジションで相手を刺せるようにプレッシングを極める道に進んだのかもしれないけれど。または、その問題ゆえに遠藤を起用しなければならない理由なのかと。今日は中村憲剛とのマッチアップで時間とスペースを消されていたので、あまり目立ってはいなかったが。
得点経過と采配を読み解く
後半の頭から、またも前からプレッシングをかけていくガンバ大阪。これ以上暑くなってくると、体力的に厳しくなってくるかもしれない。片道燃料で後半からアデミウソンみたいな。先制点は川崎フロンターレ。相手のゴールキックのトランジションから、空いているエウシーニョがせっせとボールを運びクロスがピンポン玉のように行っては戻ってくる結末は中村憲剛であった。つまりは、前半のリピートとなった後半の立ち上がりであった。ガンバ大阪のプレッシングがちょっとだけ復活したけれど、前半の勢いはなかった。ただし、藤春の突撃など、攻撃的に行こうという意思統一はあったのだろう。
最初に動いたのは長谷川健太監督。遠藤→藤本、堂安→アデミウソン。いきなりアデミウソンがドリブル突破で魅せる。システムを4-4-2に変更して、守備の役割をはっきりさせた。ただ、この交代とはほぼ無関係にガンバ大阪に同点ゴールが決まる。スローインからの再開でクロスを長沢がズドン。高さのある長沢はクロスの的だけでなく、陣地回復の的、困ったときの空中戦の的、そしてそれらが上手くいかなくてもファーストディフェンダーとしての役割もできるという優れものになっている。
同点になったことで、動きは鬼木監督。中村憲剛→家長、登里→長谷川。興味深かったのは選手配置。エウシーニョと家長を縦関係で並べた鬼木監督だったが、藤春と倉田を抑えきれるかというと非常に怪しい。よって、エウシーニョと長谷川を縦に並べる。倉田にボールを運ばせるために、中央に起用していたが、同点においついたころには井手口と今野を中央に並べていた。個人的にはそのままでどうなるかを見てみたかったが、両チームともに動くのが早い。
エリア内のシュートという意味では、川崎フロンターレに分がある展開となったが、ガンバ大阪もアデミウソンを中心にロングカウンターで対抗。どっちに転んでもおかしくない試合は同点で終わった。たぶん、両チームの監督ともにやりきった感があるのではないだろうか。そんな両チームの良さが見えたかのような試合であった。
ひとりごと
非常に熱量の高い試合だった。流行りの言葉を使えば、インテンシティーが高いゲームだったと言っていいのかもしれない。ある意味で、ハリルホジッチの志向に対して、日本で根強いボールを保持するサッカーの対決となったわけだが、引き分けという結末は、まあむべなるかなというべきか。両方できればいいのだけど。
ただ、ガンバ大阪はボール保持攻撃と撤退守備に怪しさが漂っていたので、そこをつけるチームがでてくるかどうか。ただ、それらが暴露されるようにならないようなガンバ大阪の仕組みもあるので、まとまっているチームと言える。
そういう意味では、川崎フロンターレは勝っておきたかった。特に決定機を何度か迎えた小林悠はゴールを決めて置きたかっただろう。また、中村憲剛の相手を外す動きは秀逸だった。大島も相変わらずわけのわからない上手さだったので、また観るのが楽しみだ。
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