EUROでの優勝によって、コンフェデレーションズカップへの出場権を獲得したポルトガル。ポルトガルにとって、コンフェデレーションズカップは、めったに出られる大会ではない。よって、メンバーがなかなかのガチとなっている。チャンピオンズリーグの激戦を考えれば、クリスティアーノ・ロナウドはコンフェデレーションズカップを休んでも文句は出ないだろう。しかし、普通に出場しているところに、クリスティアーノ・ロナウドらしさを感じる。若手に逸材が出てきているポルトガルだが、クアレスマがいつまでも代表で活躍しているところも、なかなか興味深い。
ワールドカップの常連国であるメキシコだが、コンフェデレーションズカップで見た記憶はあまりない。ワールドカップでファイナルラウンドまでは行くけれど、そこから先にはなかなかいけない国の代表格である。そのため、若手を懸命に育成したり、背の高い選手を抜擢してみたりと、一時期は改革とも言えるし、迷走とも言える時期を過ごしていた印象を受けている。ザッケローニによる正面衝突で砕け散った日本は、その反動からかハリルホジッチでいかに相手の長所を消しながら、相手の短所を狙い撃ちにするかサッカーになってきている。そんななかで、かつては日本のモデルケースにふさわしいと叫ばれていたメキシコは、どのような変化を遂げているのだろうか。それとも、今まで通りにメキシコらしいサッカーをしているのか。
メキシコの可変式システムとその狙い
アンカーの縦移動によって、3バックに変化する形はポピュラーな形となっている。亜種として、片方のサイドバックが高いポジショニングをすることで、3バックに変化する形もある。メキシコが採用したのは後者であった。横幅隊をみてみると、左サイドはフリーキックも蹴るラジュン。右サイドはウイングのヴェラが担っていた。片方のサイドバックを上げる形での可変式システムは、いびつな形になってしまうことがある。メキシコでいえば、左サイドの枚数と右サイドの枚数は明らかに偏りがある。もちろん、この偏りにはヴェラの突破力に期待や、数の論理で左サイドは制圧するなどの狙いがあるのだろう。さらに、チチャリートのポジショニングをある意味で浮かせる仕組みを採用している理由は、ヒメネスの動きを補完する目的があった。
ポルトガルのボールを保持していないときのシステムは、4-4-2。ナニが守備に参加すると、4-4-1-1になる。4-4-2で試合に入ったポルトガルは、3バックに変化するビルドアップに対して、2トップでがむしゃらにプレッシングをかけるそぶりを全く見せなかった。よって、左利きのセンターバックであるモレノがゆうゆうとハーフスペースの入り口から攻撃の起点となることを許した。この大会にかけるポルトガルの想いがどれだけあるのかはわからない。ただ、横スライドはかなり適当に行われた。セントラルハーフコンビは、ハーフスペースにポジショニングするメキシコの選手に気を取られすぎてしまう傾向が強く、その位置をヒメネスにビルドアップの出口として利用されていた。そして、ヒメネスの空けたエリアにチチャリートが飛び出すという役割になっている。ときどき、ジョナタンも飛び出してくる。
楔をいれたときのメキシコの攻撃は、ワンツーなどのコンビネーションが主となる。または、斜めにボールを運ぶことで、相手の守備の基準点を撹乱しながら、相手の守備網に穴ができるのを待つ。斜めのドリブルに対しては、ファウルで対応されてしまうことが多かったけれど。モレノから始まる攻撃は、配置的な優位性を利用した同サイドの攻撃、ハーフスペースやおりてくるヒメネスへの楔のボール、そして左利きを最大限に利用したヴェラへのロングボール&サイドチェンジであった。というわけで、メキシコは現代風にしっかりとアップデートされたうえで、かつてのようにボールを保持した攻撃を延々と仕掛け続けていた。メキシコの総攻撃は、13分にポルトガルがまったりとボールを保持するまで続く。
メキシコのわずかな弱点とフェルナンド・サントスの采配
ボールを持たされているというようなネガティブな状況にはまったく見えなかったメキシコ。ポルトガルがボールを保持したときも、果敢にジャンプして相手のセンターバックまで追いかけていくプレッシングを見せていた。果敢なプレッシングの前に、ポルトガルはたじたじとなる。ポルトガルがボールを持てるかどうかは、メキシコがプレッシングを行なうか否かで決定するような。そんな展開だったが、メキシコがプレッシングに行かない、もしくはプレッシングが外されてしまったときは、一気にピンチになりそうな雰囲気であった。ポルトガルが何か特別なことをしたというよりは、メキシコは自分の陣地に相手を引き込んで撤退守備をすることが得意でないのかもしれない。ボールを保持する、相手陣地からプレッシングをかけるでは強大な威力を発揮していたが、ゆっくりと脆さを見せ始める。止まったら死んでしまうみたいな。
30分過ぎになると、ボールを受けに縦の動きを繰り返すメキシコの選手を、ポルトガルのセンターバックも捕まえに行くようになっていく。メキシコの攻撃に慣れていきながら、自分たちの時間も増やしていくポルトガルの姿は、EUROでの曲者ぶりを思い出させるものであった。33分にはサルシドのミスを見逃さないクリスティアーノ・ロナウド。クリスティアーノ・ロナウドのパスを受けたクアレスマは、冷酷にオチュアをかわしてゴールを決める。メキシコのペースで進んでいた試合に冷水をかけるような展開であった。
しかし、41分にメキシコも同点ゴールを決める。優位性を保ち続けていた左サイドからのクロスをラファエル・ゲレイロが痛恨の処理ミス。このミスを見逃さないヴェラとチチャリートのコンビで同点ゴールを決める。不遇の時代が長かった印象の強いチチャリートだが、メキシコではエースとして君臨し続けているようだ。
後半になっても、大きな流れの変化はなかった。前半のようにモレノを起点とする攻撃でメキシコが試合を支配していく。メキシコの攻撃に粗があったとすれば、ヴェラだろう。せっかくサイドをかえても、効果的な仕掛けができていなかった。よって、途中から懐かしのドス・サントス兄者が登場する。そして、フェルナンド・サントスが動かないことを不思議がっていると、ようやく動いた。
4-1-4-1にシステムを変更する。相手のビルドアップ隊を邪魔できないなら、待ち構えて迎撃しましょうという姿勢に変更した。この変更によって、ヒメネスが下りていく形やハーフスペースで活動するメキシコの選手たちが捕まりやすくなったのは言うまでもない。その代わりに、カウンターで前に出ていくのもしんどいだろうなと。ただ、守備は一気に安定するというトレードオフ。守備固めするのは早いな、でも、それだけメキシコのボール保持攻撃はめんどくさかったのだろうなと眺めていると、アンドレ・シウバが登場して、再びの4-4-2となる。つまり、4-1-4-1で相手が疲れることを待つ&途中出場したアドリエンとジェルソンが試合に馴染むのを待っていたのかもしれない。
そして、最後に計画通りに攻撃を仕掛けて決定機を作っていくポルトガル。地力で勝る姿は、レアル・マドリーにちょっとだけ似ていた。個の勝負では負けない。でも、複数で囲まれたら無理みたいな。ジェルソンのサイド突破から、長い距離を走ってきたセドリックが決めて、ポルトガルが勝ち越しゴールを決める。フェルナンド・サントスの思うがままに試合が進むのは面白くないと、メキシコも猛攻を仕掛ける。華麗なコンビネーションから中央突破をするが、肝心のフィニッシュまで辿り着けない。このまま試合が終わるかと思いきや、まさかの困ったときのセットプレー、というかコーナーキックでモレノが同点ゴールを決める。ロスタイムのゴールとともに試合は終了した。
ひとりごと
メキシコは変わっていなかった。恐らく、このスタイルを変える気もないのだろう。ボールを支配して、負けるなら自分たちが下手だったねで済ます気なのかもしれない。ただ、黙って負けるつもりはないようで、様々な工夫が織り込まれていたことは忘れはいけないだろう。このブレなさはさすがと言うか。撤退守備さえ身につけば、一気に万能型になっていきそうだが、ボール保持と撤退守備を同時に身につけるのはなかなか難しいのかもしれない。
のらりくらりのポルトガルは、健在だった。耐え忍びながらのカウンター、速攻。ただ、徐々に逸材も出てきているので、このチームがどのように変容していくかは非常に楽しみである。それは、ロシアワールドカップ後くらいになるだろうか。
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