「さて、今日も元気に読書感想文だ」
「最早、読書感想文芸人だな」
「そう言われるのが嫌なので、そろそろマッチレポを書こうと思っているのだけどな。実は色々な企みもあるんだけど、方向性が決まっていない」
「それはまた別のお話だな」
「今回のお題はポジショナルフットボール実践論。著者はまさかに渡邉晋。元ベガルタ仙台の監督である。さらに、編集にサッカーライターがガッツリ絡んでいる。ちょっとだけゴーストの気配もするな。」
「この本は渡邉晋さんが隣でお話しているような感覚で進んでいく本なので、シンプルに読みやすい。また、話が良い意味で脱線することもあるんだけど、それも収録されているのがえぐい。この辺りは渡邉晋さんの人間力はもとより、本書のために周りで働いているスタッフさんも有能だったんだろうなと思う。」
「で、肝心の中身について話していこう。」
「この本はグアルディオラ本の中で最も秀逸と歌われた『キミにすべてをかたろう』に似ている。このグアルディオラ本は、グアルディオラの一年間に密着した本だったと記憶している。確かアラバロール誕生の瞬間も本に載っていたのではなかったかと」
「シーズンを過ごしていく中で、色々な事が起こる。それについてグアルディオラがどのように感じていたか、どのように対応したか、などなどが延々と綴られた本だった。それの渡邉晋バージョン、つまり、ベガルタ仙台と渡邉晋の歩みが書かれた本と言っても過言ではないだろう」
「なお、題名のポジショナルフットボールという言葉についてはキャッチャー路線だな。本人はポジショナルという言葉を使うことに抵抗があるみたいだったからな。ま、大人の事情だろう。」
「というわけで、この本はベガルタ仙台で渡邉晋が行った戦術的な取り組み、そしてその流れが詰まっている。」
「壮絶なネタバレだな」
「ベガルタ仙台がボール保持で主導権を握るために、立ち位置を調整していく物語だな。平たく言うと、配置で殴る。」
「で、このボール保持で主導権を握るを達成するための過程がなかなかおもしろい。例えば、必要以上にサリーしてしまう選手の話。だったら、最初から3バックでいいじゃねえか、という話。ボールを保持しても技術的なエラーで時間と空間を無駄にしてしまう話。配置的優位性を消すために相手がミラーゲームしてきた話。」
「そしてミラーゲームをぶっつぶすために禁断の3142に手を出す話。しかし、相のカウンターをどうしても止められない話。選手の入れ替わりでずっとやってきたサッカーをできなくなった話。そして、最後には結果を出すために守備的な442に回帰する話」
「リアルやな」
「あほほどにリアルや」
「本書ではもうちょっと細かく書いてあるし、何ならその改善点も書いてある。ただ、このサッカーの変化の過程やその理由の内容については、指導者ならわかるわーと言いながら読んでいくのではないかと。孤独な監督に寄り添ってくれる本なのではないかと」
「指導者なら必見やな」
「指導者は絶対に読んだほうが良いと思う」
「絶対か」
「絶対だな。プロの監督が赤裸々にこんなサッカーをしようとした、で、こうなった、色々な問題もあった、相手も対応してきた、だから変化させた、などなど書いてある本などなかなかないやろ。さらにこんなトレーニングメニューでこんなサッカーを実現させようとしたんだ、というところ何か涙が出そうになるぞ」
「赤裸々過ぎて涙出そうになるな。」
「戦術だけでなく、言葉の定義問題、選手のマネージメント、選手を育てる、選手の感情への配慮、点よりも線で考えるなどなど、指導者には涙がちょちょぎれる内容になっている。」
「大絶賛だな」
「で、ちなみに本に書かれているベガルタ仙台の戦術についてどう思ったんだ?」
「ポジショナルプレーって未だによくわからんねん。で、先日にイタリア人から教わったんだけど、今の時代はポジションよりもタスクやねんと」
「なるほど」
「ベガルタ仙台はポジションとタスクの固定化がえぐい。レーンからでないという話はなかなか驚いた」
「レーンからはでろよと」
「いや、レーンを入れ替えろよと。ポジションを固定しつつも配置的な優位性を取るチームは、マンマークにどうしても弱い。ミラーゲームをされると配置的な優位性を消されてしまうからだ。ミラーゲームから変化をできる原則があればイタチゴッコのようになるけれど、突き詰めるとそうなっていく。」
「レーンの移動と列の移動、そしてポジションバランスの維持やな」
「ボール保持で主導権を握るためにはそれらが必要になっている世界というわけやな。俺が求めているんじゃない、サッカーが求めているんだ!みたいな。ただ、それは2020年だから言える話とは言えるな。2018年くらいから言えそうだけども。」
「それがめんどくさいなら、ボール非保持に命をかけたり、トランジションに根性を出したりすればいいわけで」
「ボール保持は試合のペースをコントロールするもので、実際のゴールはトランジションというチームも多いしな」
「その辺りは次回のチームで、という感じになるんだろう。本を読んでいても次ならもっとうまくやれる、アイディアもあると宣言しているしな。」
「そう考えると切ないものがあるな」
「ああ、渡邉晋とベガルタ仙台は終わってしまったという話であるからか」
「そうや、再結成もあるのかどうかはわからないな」
「ただ、今のベガルタ仙台の現状を見るに、このタイミングで本を読んでその想いを成仏させられるかというと微妙だろうな」
「それだけ人の心を揺さぶる本だということにしよう」
「というわけで、ベガルタ仙台の試合をつぶさに見ていた人、そしてサッカーの指導者の人は是非買いましょう」
「ではまた。」
「しばらくはサッカー本を読まずに自分の方向性を決めようと思います」
「ただ、この本は今年のサッカー本ランキングで第一位になるのは間違いあるまい」
「ちなみに、他の監督にもこういうの書いてほしい」
「というわけで、カンゼンさん頑張ってください」
「さらばじゃ」
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