はじめに
フットボリスタで欧州のクラブチームについて、つれづれと書くことがある。
特定のチームについての原稿を書くときに、集中的に対象チームの試合を見ることになる。脇目も振らずに見るので、盲目になってしまうことが難点だ。そして最大の難点は原稿を書いた後に、他のチームに目を移していくことである。
もったいない。
というわけで、バルセロナである。
最初にスタメンはこちら
ラフィーニャとペドリが復活している。便利屋のエリック・ガルシアがセントラルハーフで出場。センターバック、サイドバック、セントラルハーフをこなす選手なんて、いそうであんまりいない。
アトレチコ・マドリーは連勝街道らしい。開幕当初にチラ見したときは曖昧な感じだったけれど、どうやらシメオネが早くも仕上げてきたということなのだろう、たぶん。
悩むシメオネ
シメオネと言えば、【442】という時代はとっくに終わっている、気がする。そういえば超長期政権になっているシメオネとアトレチコ・マドリーの「幸福な関係」。マンネリ化しないための策はどこにあるのだろうか。やはりコーチが定期的に入れ替わっているのかどうか。
「お互いに調子を取り戻してきてますね」という序盤戦。キックオフでボールを相手に渡すチームが多いなかで、アトレチコ・マドリーがボール保持から試合を始めたのは笑った。「今は昔」ってやつだろう。
「442のゾーンディフェンスの教科書」としてのアトレチコ・マドリーへの信頼感は今でも強いのだろうか。この試合のアトレチコ・マドリーは「ボール」よりも「人」を基準として守る意識が高かった。5バックの一員として語られることのあるシメオネジュニアだけれど、実際には「バルデの位置」に左右される格好となった。
ニュアンスとして【4141】のような形でプレッシングを行ったアトレチコ・マドリー。クバルシとエリガルの位置を担当するニコ・ゴンサレスだけ過負荷になっていた。どちらかというと、地味にビルドアップで厄介な存在になりつつあるバルデサイドにボールを運ばせたくなかった狙いの可能性も否定はできない。
ヤマルにボールが届くよりも、バルデから「時間とスペース」を配られた状態でヤマルにボールが届く状況を嫌がったのかもしれない。ただし、ニコ・ゴンサレスとしても、どのような状況でクバルシとエリガルをどうするかが曖昧なようだった。
だからこそ、手数をかければ、アトレチコ・マドリーの陣地に侵入し、シュートまで辿り着けそうな雰囲気のバルセロナ。シメオネが「このままではあかん」と考えたのかどうかはわからない。事実として開始早々に怪我を匂わせたカルドーゾ。12分に「闘将コケ」と交代する。
コケが登場すると、【442】のプレッシングに変更するアトレチコ・マドリー。このような守備の微調整で相手に解決しなければならない「新たなこと」をプレゼントすることにシメオネは長けている。ついでに、バエナとニコ・ゴンサレスの位置も交換している。
それまでは「ボール保持の逃げ場」があったバルセロナ。突然に配置がかみ合う関係性となった。ダニ・オルモの位置が怪しいことは伏線。おんどりゃーとプレッシングに行き、バルセロナの前進は配置変更によって、少しスムーズさを失い、「強引さ」を見せるようになる。となれば、パスの受け手が捕まりそうな場面も増える。
そしてカウンターが炸裂。バルセロナ攻略である「ハイライン」への「飛び出し」を成功させ、アトレチコ・マドリーが先制に成功する。ちなみに今日のバルセロナを見る限り、「無謀なハイラインの維持」はやめたようであった。冷静に考えれば、それはそうである。
ペドリとラフィーニャ
ラフィーニャが復活していた。
バルセロナのプレッシングは、ラミン・ヤマルとラフィーニャを出す形に戻したようだった。ただし、早々にリードしたことで、お互いの配置がリセットされた状態からボールを保持するリスクを冒さないアトレチコ・マドリーの姿勢によって、ラフィーニャ復帰による「ハイプレッシング」の復活はよくわからなかった。
なお、アトレチコ・マドリーの「縦ポン」は「空中戦」と「ボールを拾う人」の塩梅がちょうどよかった。
ラフィーニャは大外にいることは少ないので、バルデが果敢に大外レーンを埋める配置の雰囲気はあったけれど、「以前ほどに立ち位置にこだわらない」バルデだった。ラッシュフォードととのコンビを経て、プレーの選択肢が増えたのかもしれない。基本的にはクンデを残す【325】で、最大火力を出すときは「クンデのサイドバック化」となる。
ただし、この試合では、ペドリ、エリガルのサリーが目立っていた。マンマークにはサリー。「降りる動きで相手を動かすこと」が定跡である。なので、クンデは後ろに残るのではなく、時間の経過とともにヤマルをサポートするランニングを何度もこなしていた。
この試合で最もシメオネが苦労していたのが「ダニ・オルモをどうするか」であった。
試合の序盤はカルドーゾにマンマーク。しかし、【442】の変更によって、カルドーゾの役割を担ったバリオスは徐々にダニ・オルモよりもエリガルとペドリへの監視を強めていった。
結果として、ダニ・オルモは空くようになる。「ラングレがついていくよ、どこまでも」だったら、問題ないと言いたいが、ラングレがいなくなれば、ヤマルとレヴァンドフスキを同数で迎え撃つことになる。
結果として、ダニ・オルモは浮く場面が非常に多かった。「バルデはシメオネジュニア」が、「ラフィーニャはモリーナ」が担当するなかで、ダニ・オルモだけどうしても役割が決められなかった。
列を降りてオープンな状態でボールを持つペドリ。優雅にボールを運ぶペドリは一気にスルーパスでラフィーニャが抜け出して決める。
セントラルハーフに監視させる形から、この場面はジュリアーノを下げて5バックになったことの曖昧さをつかれる。ついでにダニ・オルモとラフィーニャが席を入れ替えるおまけつき。ラッシュフォードにはできない芸当がこれ。ラフィーニャのほうが「中央での席替え」がスムーズになる。
失点してからのアトレチコ・マドリーは、バリオスにダニ・オルモを監視させるようになる。この場合、バルデがあがればシメオネジュニアが下がるので、6バックのようになってしまう。
そして、ペドリたちへの圧が下がる。となれば、バルセロナのやりたい放題となってしまう。そして、PKを奪われるのだけど、これをレヴァンドフスキが枠外へ飛ばしてしまい九死に一生を得る形となった。
ダニ・オルモをどのように消すか
後半になって、ボールの受け手であるダニ・オルモを消すよりも、「ボールの出し手にプレッシングをかける作戦」で対抗するアトレチコ・マドリー。気がつけば、ボール保持も上手になっているけれど、ゴール前までパワーを維持することはなかなかできなかった。
久々に見たバリオスがべらぼうに上手になっていてびっくりした。びっくりした、といえば、左サイドバックでしか見たことなかったマルティンが左利きのセンターバックとして「普通」に振る舞えていて驚いた。本職はどこやねん案件である。
で、ダニ・オルモの対応は前半と同じ。
インサイドハーフの大外流れまではついていけないラングレ。ペドリとエリガルが交互に行うサリーで、守備の基準点が乱されるアトレチコ・マドリーの面々。たぶん、ペドリたちのサリーだけなら問題ないんだろうけど、ダニ・オルモたちも降りてくると、少しめんどくさくなる。しかも降り方も多彩だし。
というわけで、キーマンはダニ・オルモ。そのダニ・オルモがゴールを決めるのだからこの試合は論理的であった。ゴールと同時に負傷してしまったダニ・オルモの代わりにラッシュフォードが登場する。ポジションはどこ?と見守っていると、ラフィーニャがトップ下で、ラッシュフォードは左サイドとなった。
ペドリ、ラフィーニャを交代して少しアトレチコ・マドリーにゴールに迫る機会を与えるものの、最後にはラッシュフォードがシュートを撃ちまくる。そして、ラッシュフォードとバルデのコンビネーションでサイドを攻略し、仕上げはフェランが決めて、バルセロナが勝利した。
ひとりごと
サッカーは足りない毛布というけれど、それを実感する試合となった。
3センターで守れば、相手のセンバが空く。
532で枚数を揃えれば、サイドが空く。
相手のウイングを止めるためにはサイドバックとサイドハーフの連携が必要になる。
自然と442と541が増える。
つまり、中盤は2枚のセントラルハーフになる。2トップも入れれば強固になるけど、ボールは永遠に相手に渡る。
そのときに、ダニ・オルモ、ラフィーニャ、ペドリ、エリガルがこの試合で言えば、セントラルハーフ周りに集結する。
この問題をどのように解決するか。サイドを捨てれば、ヤマルが来る。逆サイドもバルデがいる。
さて、どうするか問題。たぶん、全部を守ろうとすると無理。そのあたりの割り切り大事説。





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