【両者の力関係を示すような内容と、それを証明しない結果】チェルシー対マンチェスターユナイテッド

マッチレポ1516×プレミアリーグ

チェルシーのスタメンは、クルトワ、イバノビッチ、ズマ、テリー、アスピリクエタ、ミケル、マティッチ、セスク、オスカル、ウィリアン、ジエゴ・コスタ。アザールとペドロはベンチ。スタメンの顔ぶれは前節と同じ。ヒディンクが監督に就任してからリーグ戦で負けなしのチェルシー。でも、引き分けが多い。テリーと契約を延長しない問題が、ロンドン界隈を騒がせている。今季のパフォーマンスを見れば、チェルシーのセンターバックのなかで一番貢献度が高いし、後継者もいるようでいないのだから、残してあげれば、というよりも、残すべきだと傍目から見ていると思うのだが、

マンチェスターユナイテッドのスタメンは、デ・ヘア、ダルミアン、スモーリング、ブリント、ボースウィック=ジャクソン、キャリック、フェライニ、マタ、リンガード、マーシャル、ルーニー。スタメンの顔ぶれは前節と同じ。ルーニーが調子をあげている。監督解任が叫ばれることが日常になりつつあるファン・ハール。でも、粘っている。TOP4との差は少しあるが、不可能な数字では全く無い。そのためにもどんな試合も落とせない状況となっている。

■無情のミケル

マンチェスターユナイテッドは4-1-4-1。キャリックをアンカー、フェライニとマタがインサイドハーフ。マンチェスターユナイテッドのビルドアップは、デ・ヘアを使って2センターバックとアンカーでひし形を形成。チェルシーのシステムは、4-4-2。1列目の枚数が2枚なので、2トップの間にアンカーを配置する菱型と、アンカーがディフェンスラインに落ちる3バック変化を併用して、自陣を支配する仕組みを準備してきたマンチェスターユナイテッドだった。デ・ヘアは相変わらず繋ぐのが上手い。ロングキックも超うまい。

マンチェスターユナイテッドは、サイドバックの攻撃参加が非常に目立った。恐らく、オスカルとウィリアンを守備で疲労させたかった&守備をサボってくれればチャンスになる、という計算があったのだろう。また、インサイドハーフ(マタとフェライニ)が中央よりサイドに流れてボールを引き出す動きが目立つ。その動きで相手のセントラルハーフ(マティッチとミケル)を動かして、空いた中央のスペースにルーニーが出てきて楔のボールを受ける場面が多い。セントラルハーフがサイドに流れて空いたスペースにワントップの選手を落とすことは、ゼロトップの教科書みたいな動き。また、ルーニーの空けたゴール前のスペースは、フェライニが突撃していく。高さ要員にもなるフェライニ。

また、マンチェスターユナイテッドが狙っていたプレーがマーシャルのアイソレーション。アイソレーションをやるためにはサイドチェンジが一般的だが、相手のカバーリングの選手を味方の動きで他の役割に従事させる方法も出てきている。例えば、サイドバックのオーバーラップによって、相手のサイドバックかサイドハーフをカバーリングからオーバーラップしてきたサイドバック担当にする。または、インサイドハーフのポジショニングや突撃によって、中のカバーリングをするセントラルハーフを動かしたりとか。

自陣に撤退した後のチェルシーの1列目の守備は役割が曖昧。ボール保持者にプレッシングをかけるでもなく、パスコースを制限するわけでもなく。基本は4-4-1-1に見えるのだが、セスクの役割も曖昧。この曖昧さがマンチェスターユナイテッドのセンターバックとキャリックに時間とスペースを与える現象につながっていて、マンチェスターユナイテッドがボールを保持したときの攻撃の精度の高さ(勝負したいエリアにボールを運べているか否か)に繋がっていた。チェルシーがボールを保持しているときに、セスク・ファブレガスはポジションチェンジをすることもある。ポジションチェンジをしたまま、守備に移行するのだけど、そのときにポジションを入れ替わった選手同士(例えば、ウィリアンとセスク)の役割の曖昧さも相手に付け入る隙を与えそうなポイントだった。

チェルシーはセンターバックが繋げるわけではない。さらに、マンチェスターユナイテッドのインサイドハーフにチェルシーのマティッチとミケルは捕まっている状態がデフォルトなので、無理矢理に地上戦で仕掛けるわけにはいかない。試合の序盤ではウィリアンがポジションを下げてビルドアップの出口として機能していた。しかし、マンチェスターユナイテッドは人への意識が非常に強い守備なので、ウィリアンもなかなか自由になれない。

ただし、マンチェスターユナイテッドの守備は人への意識が強いだけ、前線へのパスラインは制限できていない。ただし、パスラインの先の選手もしっかりと捕まえている。チームの約束事として、目の前の相手に負けないという意味ではシンプル。そして、センターバックを信頼しているのだろう。特にスモーリングのパフォーマンスはなかなか素晴らしいものがある。チェルシーの攻撃は前線の選手にボールが繋がるのだけど、その選手のボールを受ける状態が決して良くはないので、なかなか攻撃を構築できていなかった。いわゆる、時間とスペースを特別な選手に与えられていないという状況だった。

30分過ぎからチェルシーがボールを保持するようになる。すると、一気にチェルシーのターンへ。個の能力でチーム全体に時間を戦術を与えていくマンチェスター・シティ方式。マンチェスターユナイテッドの守備に対して前線の選手が対応し始める。また、マンチェスターユナイテッドもボールを保持するわりにチャンスが少ないことから、前線の選手がいい状態でないのにボールを出して、奪われてカウンターを受けるような場面が出てくるようになった。まだまだ焦る時間ではないが、自分たちの良さと決定機の数の相関関係のなさに耐え切れなかったのかもしれない。マンチェスターユナイテッドのフェライニをマティッチがほぼマンツーで抑えていたこともチェルシー側からすれば大きいことだった。

残り10分は殴り合いの様相を見せる展開へ。その展開で活躍したのがデ・ヘアとクルトワ。ネガティブに言えば、大雑把になった試合展開を引き締める役割を担った。チェルシーは速攻からジエゴ・コスタが力強さを見せ、マンチェスターユナイテッドはビルドアップからの攻撃でフィニッシュに繋げていくが、前半はスコアレスで終わる。

後半が始まると、マンチェスターユナイテッドの猛攻。いわゆるビルドアップから相手の構造を殴れているのはマンチェスターユナイテッド。焦らなければじっくり攻めることができる。後半の序盤から得点を狙って猛攻を見せるマンチェスターユナイテッド。ここはスタンフォード・ブリッジだとかは関係ない。チェルシーは良くも悪くも相手の立ち振舞によって、自分たちの状態が決まる、という状況であった。両者の力関係を示す展開とも言える。

53分にオスカル→アザール。その直後にズマが負傷し、ケイヒルが登場。

60分にリンガードが先制点を決める。ゴールキックからの攻撃。狙ってきたマティッチとミケルの間をキャリックがぶち抜き、左サイドのコンビネーションから最後はリンガードが決める。守備固めを狙ってミケルとマティッチが使われているのだが、周りの選手(セスク、ウィリアン、アザール、ジエゴ・コスタ)のサポートが少ないので、スペースがあるとき(自陣に撤退していないとき)は彼らを動かされ、スペースを相手に使われてしまう現象をマンチェスターユナイテッドは前半から狙い続けていた。ルーニー落としもその一種。ミケルからすれば、いったいどうすればいいねん、という広大なスペースを守る必要がある。物理的にきつい。

66分にマティッチ→ペドロ。残り25分で交代枠を使い切る得意のヒディンク殺法。ミケルをアンカーとして、セスクとウィリアンをインサイドハーフで起用。キャリックの周りのスペースを使いまくる作戦。マンチェスターユナイテッドは4-4-1-1でマタをミケル番にする。ただし、チェルシーはアザールやペドロも相手のライン間でプレーできる。また、セスクはアザールラインとミケルラインを行ったり来たりする。よって、フェライニとキャリックを動かされると、少し嫌な雰囲気のマンチェスターユナイテッド。また、フェライニが守備でおわれると、ゴール前まで出て行くことが難しくなる悪循環も用意されていた。

78分にフェライニ→シュナイデルラン。餅は餅屋。

残り時間が少なくなるにつれて、マンチェスターユナイテッドは守備が準備されていない状態でチェルシーの攻撃を迎え撃つ局面を迎えたくない。もちろん、そんな状況はいつだって歓迎すべき状況ではない。よって、シュナイデルランの登場とともに、自陣に撤退して相手の攻撃を跳ね返すようになる。このときに厄介だったのが、チェルシーの前線の選手たち。守備機会が減れば、攻撃機会が増える。特に列を動き回るセスク・ファブレガスには苦労していた。デ・ヘアのスーパーセーブもあったが、指摘される事項はファウルの数か。チェルシーはセットプレーの機会を増やし、マンチェスターユナイテッドのゴールに迫っていく。

マンチェスターユナイテッドは最後にデパイを登場させる。カウンターで走りきれる、個でどうにかできる選手という意図の采配だろう。そんなデパイは守備をしながらも絶好のカウンターの機会を得るが、ラストパスを相手に渡すようなミスをしてしまう。時間稼ぎでも良かったのかもしれないのに。

そして、与えたボールからチェルシーの攻撃が始まる。一度は跳ね返したと思った攻撃はセスク・ファブレガスの中央を素通りするようなスルーパスに繋がり、最後はジエゴ・コスタが決めて、ロスタイムにチェルシーが同点に追いつく。マンチェスターユナイテッドは反撃を試みるものの、ジエゴ・コスタにあわや逆転ゴールを許す場面を作られてしまうが、デ・ヘアのセーブで事なきをえる。こうして、試合は1-1で終了。なぜかわからないけれど、負けないヒディンクチェルシーは継続となった。

■ひとりごと

スタンフォード・ブリッジで意地をみせたチェルシー。ヒディンクにかわって何がどうこう、というのはミケルくらいしか見いだせていない。よりリスキーでなくなったような感じはあるけれど。オスカルとセスク・ファブレガスの併用はボール保持を意識したのか思ったが、そんな準備も特になかったので、余計によくわからなかった。この試合では、マンチェスターユナイテッドの思惑に振り回されながらも、かちっとはまるときははまるみたいな強さを見せる。ポジティブなのか、ネガティブなのかわからないけれど。

ファン・ハールのマンチェスターユナイテッドは良いのか悪いのか安定感がわからない。この試合は良かったと思う。かりにファン・ハールがいなくなったとしても、リンガード、マーシャル、ボースウィック=ジャクソンを育てた!という結果を残しているのがちょっとずるい。相手がチェルシーだから(1列目の守備が微妙)振り回せたのかもしれない。ただ、全体的にネームバリューが落ちているのは、少し気になる。若手育成路線というか。若手育成路線を否定する気など、毛頭ないのだけど。

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