チャンピオンズ・リーグのグループリーグは、対戦する順番を逆にして行います。よって、バイエルンとの2連戦を3.4試合目に行うアーセナルは、どのみち茨の道を進む運命にありました。しかも、バイエルンとの対戦前に、まさかの2連敗。そして、前回はバイエルンに勝利したものの、試練はまだ続きます。相手はグアルディオラ率いるバイエルン。バルセロナ時代からファーストレグで相手の対策に苦しむものの、セカンドレグで華麗にひっくり返すことを芸当としてきました。その芸当が今回も発揮されるかどうかが、最大の注目となった試合です。
■ミュラーを最初にサイドで使った理由
前回の対戦で、ミュラーのサイドがまったく機能しなかったバイエルン。この試合でも序盤はミュラーがサイドに配置されていました。恐らく機能しないだろう、または機能するための仕掛けがあるのかと眺めていると、早い時間にドグラス・コスタが右サイドでプレーするようになりました。だったら、最初からドグラス・コスタをサイドで起用すればいいではないか、となりそうです。
サイドを中心にドグラス・コスタがプレーするようになるまでのミュラーとの関係を観てみました。基本はミュラーがサイド、ドグラス・コスタが中央にいます。ときどき、ポジションチェンジをしていました。今季のバイエルンは、役割を固定するポジションがありました。ウイングの選手はサイドにはって、クロスマシーンとなることが求められています。ドグラス・コスタが左サイドでブレイクしたのは、この役割に集中できたことが大きかったと言えます。
昨年までのバイエルンは、役割の固定化を嫌っているような印象を受けました。自分のいるエリアによって、役割が決定される状況を好んで行っていました。自分のいるポジションニングによって役割が変化することのメリットは、対面の相手が変化することにあります。守備の時間が長くなればなるほど、守備をしているチームは、相手の攻撃に慣れていきます。マッチアップの相手が同じ相手であれば、対策も工夫もするようになっていきます。もちろん、マッチアップで圧倒されていなければという前提つきですが。
しかし、自分に用意された守備の基準点(守るべきエリアと相手)が変化していくと、かなりめんどくさい作業になります。局地的な数的不利が発生したり、マッチアップの相手が代わったりすることによって、試合のテンポとリズムが変化していきます。守備を長い時間するチームにとって、このリズムとテンポの変化が致命傷になります。相手の攻撃への慣れを許さない展開になってしまうので。つまり、ミュラーとドグラス・コスタの配置はこのような役割の複雑化を狙った可能性が高いです。
でも、ミュラーとドグラス・コスタの入れ替わりはすぐにおわりました。しかし、この役割変化は左サイドで常に行われました。アラバとチアゴ・アルカンタラです。チアゴ・アルカンタラがサイドに流れれば、アラバが中へ。アラバがサイドにポジショニングすれば、チアゴ・アルカンタラは中にポジショニングする。シャビ・アロンソが中央にポジショニングしているのに対して、バイエルンの左サイドは人数が多く、攻撃の起点となっていました。スウォンジーのビルドアップから左右不均等のビルドアップというくだりがありましたが、それに似通っています。
■ドグラス・コスタを右、コマンを左に配置した理由
ドグラス・コスタがブレイクしたように、今季のバイエルンのサイドアタッカーは、単騎特攻でクロスをあげられることを求められています。しかし、この試合では、利き足と逆のサイドに起用されています。定跡で考えると、利き足の逆サイドで起用される理由は、カットインからのフィニッシュになります。この試合のバイエルンは、そのような意図もあったのでしょうが、どちらかというと、サイドバックのサポートを有効活用するために、逆足のサイドで起用されたと感じました。
サイドバックのサポートがある場合、ウイングが縦に突破してしまうと、使いたいスペースが重なってしまうケースが多いです。オーバーラップ、インナーラップともに相手のサイドバックの裏のスペースを攻略する狙いの動きです。ウイングの縦への突破も、同じく相手のサイドバックの裏を攻略する動きになります。よって、カットイン型にすることによって、ラームやアラバの動きを効果的に使うことができます。
前回の対戦を思い出してみると、ペジェリンが気合でドグラス・コスタを抑え、ミュラーはサイドで持ち味をなくしていました。今回はサイド攻撃を機能させたい。しかし、前回は単騎特攻が機能しなかった。だから、サイドバックのサポートをウイングの選手が得ることによって、サイド攻撃の破壊力を増加させたい。そのためには、サイドバックのサポートをいかせるようにウイングを配置する必要があるとなります。もしかしたら、ミュラーのほうがラームをうまく使えるという計算があったのかもしれません。
この攻撃にはさらに続きがあります。サイドバックとサイドハーフの動きで相手のサイドバックとサイドハーフを自陣に押し込めます。そうなると、大抵の場合、マンマーク状態のシャビ・アロンソはそれでもフリーにならないかもしれませんが、チアゴ・アルカンタラはフリーになりやすくなります。チアゴ・アルカンタラを見るべき選手が自陣に押し込まれてしまうからです。そんなチアゴ・アルカンタラからのクロスボールでバイエルンは先制に成功します。イニエスタがクロスを上げて、アウベスが合わせるような、かつてのバルセロナらしい形でした。
このように、バイエルンはサイドからの単騎特攻にサイドバックのサポートをたすことによって、アーセナル対策への解答としました。考えてみると、かなりオーソドックスな方法論になります。しかし、オーソドックスな方法は何年も積み重ねられてきただけの理由があります。バイエルンはサイドアタッカーが個人技をみせつける形は減りましたが、アラバとラームのサポートから何度もチャンスを作ることに成功しました。
2点目はラームのクロスから最後はミュラー。3点目はアラバが相手のライン間でボールを受けて、スーペルなミドル。4点目はサイドチェンジをコマンが受ける。コマンが仕掛けるふりをして味方の上がりを待つ。インナーラップで相手のサイドバックの裏に走るアラバにボールが渡り、最後は交代出場したばかりのロッベンが決めて4-0。
4-0になってからのバイエルンはかなりまったりしていました。明らかに攻撃のスピードが落ちました。復讐は終わった、みたいな。逆にアーセナルはもう死なばもろともだべと言わんばかりの攻撃を見せます。攻守の素早い切り替えでボールを奪うことを、バイエルンは得意としています。撤退して守ることはあんまり得意としていません。また、カウンターができる状態でもボール保持に切り替える習性があります。よって、意外とボールを保持して攻撃を仕掛けたら面白いかもしれません。バルセロナは躊躇せずにカウンターをするようになっているようですが。
この対戦において、一般的なアーセナルらしさを、アーセナルがようやく見せるようになっていきます。対して、バイエルンは主力を温存していきます。ボアテング、レヴァンドフスキが最初に下がったのが印象的でした。アーセナルはロッベン対策もあってギブスを左サイドハーフで起用します。
らしさを見せていたアーセナルは、ジルーが見事なボレーで一矢を報います。しかし、最後の最後にカウンターするなんてずるいじゃんのバイエルンがとうとうカウンターを発動。ドグラス・コスタからのパスをうけたミュラーが2ゴール目を決めて試合が終わります。こうして、グアルディオラ、もといバイエルンのアーセナルへの復讐が予定通りに終了しました。コシェルニー、ベジェリンが負傷し、ベンチにも強力なスカッドがいない状態のアーセナルではなかなか難しかったかもしれません。
■独り言
恒例のグループリーグまでは行ける状態にするためには、残り2連勝が必要なアーセナル。バイエルンは手をぬくとは考えにくいので、2連勝したら結構チャンスがあるのではないかと思います。でも、得失点差が苦しめるのかもしれませんが。
バイエルンは、これでほぼ決定。シーズンの中で、これだけ自分たちの姿をかえられるのは凄いと思います。グアルディオラが具体的にどのようにプレーすべきかをイメージし、それを選手たちの落としこむことができているからできる芸当です。
コメント
ハインケス時代のカウンター+ポゼッションのスタイルから独自の変化を遂げましたね。
カウンターはおまけ程度であくまでポゼッション主体ですが、バイタル攻略に固執しないスタイルというか。
選手層の幅広さも戦術の変化を容易にするのでしょう。
ちなみにバルサはカウンターを取り入れてから追いつかれたことはあっても逆転負けしたことは一度もないそうです。