【大逆転が起きた軌跡】レアル・マドリー対ヴォルフスブルグ

マッチレポ1516×チャンピオンズ・リーグ

チャンピオンズ・リーグのセミ・ファイナル。ファーストレグで0-2で敗戦したレアル・マドリー。勝ち抜けを狙うならば、相手に得点を与えずに2点差以上で勝つことが求められている。困難なミッションだが、試合会場がサンチャゴ・ベルナベウであることは、心強いだろう。

レアル・マドリーのスタメンは、ケイラー・ナバス、マルセロ、セルヒオ・ラモス、ぺぺ、カルバハル、カゼミーロ、モドリッチ、クロース、クリスチャーノ・ロナウド、ベンゼマ、ベイル。ファーストレグからの変更は、ダニーロ→カルバハル。イスコやハメス・ロドリゲスの起用に注目が集まったが、いつものメンバーがスタメンとなった。つまり、このメンバーに対するジダンからの信頼を強く感じる采配となっている。

ヴォルフスブルクのスタメンは、ベナーリオ、リカルド・ロドリゲス、ダンテ、ナウド、ヴィエリーニャ、ルイス・グスタボ、ギラボギ、アーノルド、ドラクスラー、エンリケ、シュールレ。ファーストレグからの変更はなし。4-1-4-1のインサイドハーフアタックでレアル・マドリーのインサイドハーフ封じに成功したファーストレグ。しかし、レアル・マドリーに決定機を与えなかったわけではないので、新たな策はあるのか。アウェーゴールの関係から、1点でもとれればかなり有利になる状況。カウンターからのドラクスラー機会をどれだけ増やすことができるか、そもそも狙うかが注目。

ファーストレグと変わったこと、変わらなかったこと

ファーストレグの結果、内容を受けて、セカンドレグでは変化が求められる。もちろん、結果、内容によっては変化を求められないこともあるだろう。または、内容の解釈によっては、変化をする必要が無いと考えることもありえる。さらに、これ以上の策は存在しないために、変化をすることができない、ということもあるだろう。

ファーストレグで敗戦したレアル・マドリーは、普通に考えれば、何かを変える必要があると考えることができる。しかし、ジダンの選択(セカンドレグの戦い方)を見ると、大きな変化はなかった。ファーストレグの内容を受けて、ほんの少しの変化(もちろんそれが重要なことは言うまでもないが)で問題ないと考えたのだろう。では、ジダンの施したほんの少しの変化について見ていく。

レアル・マドリーのちょっとした変化の前に、相手の仕組みから見ていく。

ヴォルフスブルクの守備の仕組みは、ファーストレグと変わらない。4-1-4-1で自陣に撤退する。1列目のシュールレはセンターサークル付近でカゼミーロを見る。インサイドハーフのギラボギとアーノルドは、対面のモドリッチ、クロースの列の降りる動きにもプレッシングをかける。よって、インサイドハーフが1列目を追い越してボール保持者にプレッシングをかける場面が見られた。この形はファーストレグとほとんど変わらなかった。つまり、ヴォルフスブルグはファーストレグの形の再現で問題ないと考えていたのだろう。

レアル・マドリーのウイング(ベイル、クリスチャーノ・ロナウド)の列を降りる動き(ライン間ポジショニング)に対して、ヴォルフスブルクは、サイドバック、またはルイス・グスタボによって、迎撃させる。ただし、ダイナゴル(ぺぺ→クリスチャーノ・ロナウド)のようにボールを動かすと、サイドバックの迎撃が機能しない。この形はファーストレグでも見られた。ボールサイドはマンツー、ボールサイドではないサイドはゾーンが、ヴォルフスブルグの仕組みになっている。なお、マルセロ狙いの空中戦は継続されたが、セルヒオ・ラモスで対応された。セルヒオ・ラモスで空中戦対策はファーストレグでも見られた形だった。

変わらないヴォルフスブルグが見せた大きな変化は、攻撃方法にあった。2-0という点差を受けて、一番避けなければない状況をレアル・マドリーのカウンター、もしくはヴォルフスブルグの守備が整理されてない状況で、レアル・マドリーに攻撃を受けることと、ヴォルフスブルグは定義した。よって、相手にカウンターを与えないように、ヴォルフスブルグは攻撃を仕掛けなかった。攻撃を仕掛けないかわりに、ヴォルフスブルグは後ろ向きのポゼッションサッカーを展開する。バックパスを多用するポゼッションサッカーをすることによって、時間を潰す策に出た。1点でも決めれば、サンチャゴ・ベルナベウを絶望に叩き落とすことはできた。しかし、ヴォルフスブルグの選んだ道は得点をすることよりも、失点を防ぐことを最優先した。

ヴォルフスブルグの変化を受けて、レアル・マドリーの準備を見ていく。定位置攻撃のポジショニングに関しては、特に変化がない序盤戦となった。モドリッチ、クロースに対する執拗なプレッシングを受けて、ファーストレグと同じ仕組みで相手が守っていることを確認するレアル・マドリー。あえて言えば、カゼミーロの位置がモドリッチたちよりも前に設定されていたことくらいだろうか。

時間がたつにつれて、レアル・マドリーのちょっとした変化が試合に影響を与えていく。

最初に見られた変化は、相手の3列目の裏への飛び出しであった。ボールを保持したいレアル・マドリーだが、相手の裏にもボールを送る場面が目立った。前節では怪我のため途中交代してしまったベンゼマの飛び出しが特に目立っていた。裏への飛び出しに対して、ディフェンスラインを揃えることで、何度もオフサイドにかけていくヴォルフスブルグ。しかし、少しでもエラーが起きれば相手にチャンスを与えてしまう。よって、ロングボールの起点にプレッシングに来るかと予想されたヴォルフスブルグだったが、前には出てこない。最初の駆け引きは上記のように行われた。

次に見られた変化は、レアル・マドリーの右サイド攻撃にあった。マルセロに比べると、カルバハルのポジショニングは高めに設定されていた。この左右で対称ではない形は、ヴォルフスブルグにも多くの解決しなければならない状況を与えた。ヴォルフスブルグの守備の役割を思い出すと、レアル・マドリーのサイドバックには、サイドハーフが対応する形となる。時には、ヴォルフスブルグのサイドバックとサイドハーフの位置が入れ代わるくらいに人への意識が高いサイド守備であった。よって、必然的にカルバハルに引っ張られる形で、ドラクスラーのポジショニングは自陣の深い位置となった。この位置からのカウンターはなかなか難しい。ヴォルフスブルグにカウンターをする気がなかったとしても、歓迎すべきではないだろう。

もしも、ヴォルフスブルグがカウンターを仕掛ける、というプランだったとする。その場合は、高い位置にいるエンリケが中心となっていた可能性が高い。レアル・マドリーのサイドバックのポジショニングによって操作されたヴォルフスブルグのサイドハーフのポジショニングによって、ヴォルフスブルグのカウンターの出発点が操作されていたと考えると、考えすぎになるだろう。また、エンリケがボールをキープして上がってきたドラクスラーからのアイソレーションという形に繋がる可能性だってある。ただし、これらの形は、再現されないまま、試合が動くこととなった。

恐らく、レアル・マドリーにとって最も幸運だったことは、ヴォルフスブルグの後ろ向きのカウンターだったろう。0-2で負けていることもあって、前からの守備に積極的な普段は積極的な守備をしないクリスチャーノ・ロナウドたち。しかし、相手を追いかけ回すことで、ロングボールを蹴らせてボールを回復する場面が目立った。つまり、レアル・マドリーの前向きな攻守の切り替え、プレッシングは、ヴォルフスブルグの後ろ向きなポゼッションとの相性は抜群だった。ファーストレグでレアル・マドリーを最も苦しめたドラクスラーを中心とするカウンターを自ら手放したことによって、ヴォルフスブルグは守備に集中する環境を手に入れることはできた。しかし、それはファーストレグからの少しの変化でどうにかなるというジダンの計算が正しいかどうかを検証するにはもってこいの環境にもなってしまっている。

レアル・マドリーは左から右へのサイドチェンジ、インサイドハーフの攻撃参加と、準備された形と積極的な姿勢で、ヴォルフスブルグのゴールに迫りに迫っていく。右サイドの攻撃はベイルの個人技とカルバハルのポジショニング。左サイドはマルセロの起点攻撃とベンゼマ、クリスチャーノ・ロナウドの裏を狙う動きと、多種多様な攻撃で迫っていった。特にベンゼマのコンディションが見違えるように良くなっていることが目立っていた。

15分にカルバハルのインターセプトから、そのままカウンターが発動。カルバハルのクロスは相手に当たり、ファーサイドで待つクリスチャーノ・ロナウドまで届いてゴールが炸裂した。アーノルドのパスが軽率。許してはいけないカウンターを相手に許してしまったヴォルフスブルグ。

16分にコーナーキックから同点ゴールが炸裂。最初のコーナーキックと同じような形。ニアで相手の前で合わせる。恐らくスカウティング通りだったのだろう。試合が振り出しに戻る。ここまでケイラー・ナバスの出番はほとんどなしだった。

ボールを保持した攻撃の多いレアル・マドリーだったが、得点はカウンターとセットプレー。ただし、ボールを保持した攻撃がなければセットプレーの機会は少ないだろうし、相手の焦り(アーノルドはかたくたに繋ごうとした)は出てこなかっただろう。それでも、出来過ぎな展開で、試合は振り出しに戻った。

復活するヴォルフスブルグの攻撃姿勢

試合が振り出しに戻ったことで、やるべきことが整理されたヴォルフスブルグ。1点でもとれれば、超有利な状況となることは変わっていない。よって、ヴォルフスブルグは、後ろ向きなポゼッションから前向きなポゼッションに切り替える。ヴォルフスブルグはカウンターもポゼッション攻撃もできることが素晴らしい。チャンピオンズ・リーグのベスト8に残るくらいなのだから、当たり前に標準装備していることなのかもしれないけれど。

相手もボールを保持するようになってきたので、レアル・マドリーには守備の時間が増える。バックパスを繰り返す守備には機能した死なばもろともプレッシングも、どんどん機能しなくなってくレアル・マドリー。レアル・マドリーはベイルを下げて4-4-2で守る場面がちらほら。守備の安定感のなさは、継続。4-3-3、もしくは4-4-2で守るのかの基準が定まっていないようで、クロース、モドリッチ、カゼミーロには大忙しの展開が待っていた。

ヴォルフスブルグの攻撃の狙いは、レアル・マドリーのサイドバックとウイングの間を攻撃の起点とし、相手の守備をずらしていくことにあった。モドリッチたちのボール保持者へのスライドに対して、カバーリングがいないことが多い。よって、ボールサイドではない3センター脇エリアと3センターの前のエリアに選手をポジショニングさせることで、相手の構造を狙い撃ちにする。サイドバックも積極的に攻撃参加する必要があるので、レアル・マドリーにカウンターの機会を与えかねないデメリットがある。しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ず。しかし、30分にドラクスラーが負傷。クルーゼが交代で出場し、シュールレが左サイドに移動した。

残りの時間は一進一退の攻防。相手を押し込めるけれど、エリア内には入れないヴォルフスブルグは、ルイス・グスタボのミドルシュートでケイラー・ナバスを強襲。レアル・マドリーは調子の良いベンゼマのミドルや、各々の個人技で時間とスペースを強引に創りだすプレーが目立った。

復活するレアル・マドリー

後半はレアル・マドリーのコーナーキック連発からスタートした。前半のように、ヴォルフスブルグがボールを保持する展開が減っていく。両チームの論理性を見ていくと、レアル・マドリーはボールを保持して相手陣地からのプレッシング。ヴォルフスブルグは自陣に撤退してからの守備とボールを保持することにそこまでもこだわりはない。よって、非常の論理的な展開といえる。ただし、ドラクスラーを失ったこともあって、ヴォルフスブルグのカウンターの威力は、半減していた。

前半からの変化を見ると、マルセロが積極的に攻撃参加していた。また、クリスチャーノ・ロナウドもベイルもいるべき場所に懸命に戻ることで、ヴォルフスブルグの攻撃の精度を落とすことに成功。むろん、クリスチャーノ・ロナウドは戻らない事のほうが多いけれど。レアル・マドリーの懸命な守備と相まって、前半から守備の時間が長かったヴォルフスブルグに徐々にダメージが蓄積されていた。よって、ベイルも前を向いてプレーする機会が増える。

しかし、レアル・マドリーの積極的なプレッシングは、連動はしていない。冷静にプレッシングを回避できると、ヴォルフスブルグも圧倒的に優位な状況でフィニッシュまで持っていける場面が何度もあった。そのたびに、前線の選手に守備をサボるなと怒るレアル・マドリー守備陣。ヴォルフスブルグにチャンスがあるとすれば、レアル・マドリーのプレッシングをかいくぐれたとき。ヴォルフスブルグの実力があれば勢いだけのプレッシングはかわせそうだが、この試合では回避できなかった。それだけモドリッチ、クロースの勢いは尋常でなかったし、ここがホームでなかったことも多少は影響したのかもしれない。いわゆるボールを失ってからの素早い切り替えが機能したレアル・マドリーは、攻撃機会を増やしていった。

71分にカリジュリが登場。エンリケは負傷退場。役割過多のインサイドハーフを交代したいところだが、負傷交代でサイドハーフを2枚交代する状況というのは、不運。

そして、74分にクリスチャーノ・ロナウドの直接フリーキックが決まり、とうとうレアル・マドリーが逆転。壁の間を抜けると、キーパーにはノーチャンス。絶対に避けちゃダメ。ナウドとギラボギの間をボールは抜けていった。また、このフリーキックを得たきっかけは、モドリッチの切り替えからのボール奪取→突破をルイス・グスタボに倒された形だった。よって、強度の上がった切り替えがゴールに結びついた場面となった。

79分にギラボギ→ドスト。この状況ではレアル・マドリーの前線トリオも守備に一所懸命。クリスチャーノ・ロナウドは頑張りすぎてイエローをもらう。その後もレアル・マドリーのカウンターが炸裂するが、ベナーリオがファインセーブで試合を終わらせない。アウェーゴールの関係で、1点を奪えば良いヴォルフスブルグは懸命な攻撃を見せる。特にナウドとドストを上げてのパワープレーの威力は凄まじかった。ぺぺとナウドの空中戦の迫力は異常。

83分にベンゼマ→ヘセ・ロドリゲス。ヘセ・ロドリゲスもチャンスを掴むが、残念そこはベナーリオ。時間を潰せば良いレアル・マドリーだったが、フィニッシュまで持って行ってしまう選手もちらほら。この動きはロスタイムにも訪れ、そのボールロストがきっかけで相手に得点を許してしたら世界中の笑いものになったに違いない。最後にはヴァランを入れて、空中戦対策をするジダン。ケイラー・ナバスの出番を増やすことなく、試合は終了。3-0で勝利したレアル・マドリーが、ベスト4に名乗りを上げることになった。

ひとりごとならぬジダンの采配について

リーグ戦のエイバルをターンオーバーで凌いだレアル・マドリー。しっかりと主力を休ませたことで、クラシコの疲労から回復。いわゆるコンディションが改善されれば、ファーストレグのメンバーでその戦い方を基本とすることで、どうにかなる!という計算は見事に成功した。それしかなかったのか、緻密な計算によるものなのかは不明。選手としてもモチベーションが上がらない試合ではないので、それをうまく利用したのかなとも感じるところはあった。イスコ、ハメス・ロドリゲスが蚊帳の外だけれど、この勝利はチームを纏めるものになりそう。

ヴォルフスブルグは後ろ向きのポゼッションが余計だった。0-2というスコアがもたらした余裕ゆえの選択だったのだろうけど、果敢なレアル・マドリーに勢いを与える選択となってしまったことは否めない。

コメント

  1. 匿名 より:

    いつも楽しくブログ読ませてもらってます。
    カゼミロのポジショニングですが、アレは相手のFWを押し込めることによってカウンターの起点になることを防ぐのとインサイド対決の邪魔をさせない為によるポジショニングだったんですかね?
    あまりビルドアップに参加してないな、と思ったので(それでも繋ぐ形はあったのでいいのですが)
    あと、らいかーるとさんが思うビルドアップの出口入り口ってどこからどこまでなのかなというのも気になります。

    • らいかーると より:

      匿名様

      こんにちは。相手のFWを押し込める云々ですが、あのFWの位置は守備のことを考えると、理にかなっていました。インサイドハーフの飛び出し→インサイドハーフの斜め後ろに1列目のFWがたつことで、守備の共犯関係が成り立ちます。

      カゼミーロの位置は、恐らくボールを失った際の最初の守備のためではないかと。インサイドハーフが降りるゆえに、1列目と相手の3列目で発生するセカンドボールを拾う選手がいませんからね。

      ビルドアップの出口は、相手の最初の列を越えるポジショニングと定義しています。

      • 匿名 より:

        分かりやすい解説ありがとうございました。

        以前Twitterで募集していたブログで書いて欲しい企画ですが、サッカー言語の言葉の定義 とか聞いてみたいです。

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