守備の基準点を相手に複数用意したときと、ひとつしか用意しなかったときの違い【モナコ対ドルトムント】

マッチレポ1617×チャンピオンズ・リーグ

両チームのスタメンはこちら。

最初に、ファーストレグの内容について振り返っていく。ドルトムントの3バックによる前進に対して、序盤から様々な策で対抗するモナコ。3トップで3バックを抑える策で落ち着いた。モナコの同数プレッシングに対して、ドルトムントはヴァイグルの横にヌリ・サヒンを配置することで、対抗する。モナコの3バックのギャップにヴァイグルとヌリ・サヒンを配置することで、相手の3トップに選手同士の距離を意識させることが狙いだ。2トップの間にアンカーを配置するブスケツ仕事と発想は似ている。このような策のぶつかりあいの結末は、ドルトムントが上を行ったのだけど、結果はモナコが逃げ切った形となった。アウェイの地で3ゴールという結果は大きいが、ドルトムントが諸々の問題を解決した状況で、セカンド・レグを迎えるという事実も大きい。モナコの監督であるレオナルド・ジャルデムの手腕に注目が集まったセカンド・レグの前半戦と言えるだろう。

レオナルド・ジャルデムの答え

レオナルド・ジャルデムは、しっかりとドルトムントの3-2ビルドアップの対抗策を準備してきた。レオナルド・ジャルデムの準備が意外だったというよりは、トゥヘルがセカンド・レグの形をそのまま使おうと考えていたことのほうが驚きだった。レオナルド・ジャルデムが対策をしないとでも思っていたのだろうか。

3バックによる前進のキーは、相手のサイドハーフに守備の基準点を置かない、もしくは複数用意するということにある。モナコのサイドハーフであるレマーたちが、ドルトムントのウイングバックに守備の基準点をおけば、ドルトムントの両脇のセンターバックは空く。だからといって、レマーたちがドルトムントの両脇にプレッシングに行けば、ドルトムントのウイングバックが空いてしまうという設計になっている。よって、3バックに擬似的3トップをぶつけ、2列目を3センターのスライドで何とかする!という形で対抗する策が生まれてきた。

では、レオナルド・ジャルデムの策を見ていく。2トップ(ファルカオ、ムバッベ)のポジショニングのパターンは2つ。ドルトムントのセントラルハーフの正面にたつか、背中にたつか。図では背中に置いている。スタートの位置は、ドルトムントのセントラルハーフであることが多かった。ドルトムントの3バックのセンターバック同士のパス交換をきっかけに、プレッシングがスタートする。ギンターにパスをすれば、走るファルカオだ。ドルトムントの3バックの横幅が狭ければ、3対2の状況でもプレッシングを続ける。ドルトムントの3バックの横幅が広ければ、サイドハーフ(レマーとベルナウド)のサポートを得る。サイドハーフが前に出ていくときは、モナコのサイドバックが縦スライドでドルトムントのウイングバックに対応する約束事になっていた。

最近のトレンドである3バックへ3トップの同数プレッシングを行わなかった理由は、ファースト・レグの反省からだろう。3トップでプレッシングに行けば、どうしてもサヒンへのパスコースが空いてしまう。ファルカオがサヒンまで下りれば良いのだが、疲れる&ボールをいつまでたっても奪えそうにない。よって、4トップによる横圧縮でヌリ・サヒンとヴァイグルへのパスラインを消すことを優先した。レオナルド・ジャルデムの采配は大当たりで、システムを変更するまでヌリ・サヒンとヴァイグルは試合から消されていた。

ドルトムントに効果的にボールを保持させなかったモナコは、3分と17分にゴールを決めて、ドルトムントの息の根をほぼ止めてしまうことに成功する。先制点はメンディの突破のドリブルによる優位性、2点目はカウンターからのゴールだった。ドルトムント時代のトゥヘルは、選手の配置による優位性によるポゼッションにステータスを全振りしている印象がある。かつては同数プレッシングの先駆けをマインツでやっていた監督なのだが、ビッククラブに移ってからは、理想に邁進しすぎている印象だ。この形ならボールも失わないだろうみたいな。実際にはボールを失い、相手の攻撃にさらされたときに脆さを露呈強い続けてきたことはドルトムントの弱点になってしまっているのだけど。

しかし、配置的な優位性とボール保持に全振りがトゥヘル監督だとすれば、このレオナルド・ジャルデムの策にしっかりと対応するはずだ。実際にファースト・レグでもヌリ・サヒンの配置で試合内容を取り返すことに成功している。この試合でも早すぎる交代でボール保持を効果的にしてしまうのだから、それはそれで全振りの強さなのかもしれない。

トゥヘルの答え

守備の基準点(マークすべき対象)が複数用意されている、またはいない場合は、自分で何を守るかを選択することができる。逆に守備の基準点が準備されているときは、この選手を守るというように、役割がある意味で決定されてしまう。よって、判断の選択肢はどうしても狭まってしまう。守備において、選択肢がないということは、決してネガティブなことではないんだけれど。

トゥヘルの修正は、ドゥルム→デンベレによって、システムは4-2-3-1に変更した。この変更で最も影響されたののは、モナコのサイドハーフたちであった。モナコのサイドバックがドルトムントのサイドハーフをみる役割になったことで、縦スライドが不可能となる。よって、自分たちでドルトムントのサイドバックを見なければならなくなった。つまり、守備の基準点を相手が用意してきたことによって、モナコは4-4-2での守備を余儀なくされる。余儀なくされるといっても、レギュラーの形に戻っただけなのだけど、守備の方法を変更しなければならないというのは決して簡単なことではない。

 

システム変更によって、相手がいなくなったドルトムント。よって、ヌリ・サヒンがボールに関わるようになっていく。3バックでボールを前進できなかったけど、4トップでないモナコに対して、ヌリ・サヒンがおりる3バックが効果的にハマっていたのは面白かった。2点をいれたモナコからしても、リードに余裕があるので、しっかりと撤退守備でドルトムントの攻撃に対抗していく。守備を固めていくモナコに対して、ドルトムントは香川やロイスのポジショニング優位とデンベレの質的優位で迫っていった。

後半にはヌリ・サヒン→シュメルツァーでゲレイロを中盤に配置する。しかし、さらに、ゲレイロ→プリシッチで質的優位でさらに迫るように攻撃を強めていく。後半にロイスのきれいなゴールが決まったように、ドルトムントは決定機を作ることはできていた。ただし、それはモナコも同じで、カウンターで決定機をつくることができていた。そんな我慢比べに勝ったのがモナコ。最後のゴールはピスチェクのビルドアップミスという切なさをきっかけとして決まった。

ひとりごと

レオナルド・ジャルデムの準備力は、素晴らしい。けれども、試合中に相手がその準備を乗り越えてきたときに、じっと手を眺めるみたいな傾向がある。もちろん、モナコにとっての4-4-2はいつか帰るところなので、別に悪くはない手なんだけれど。ただ、4-4-2でチャンピオンズ・リーグのファイナルラウンドに進んできた相手に守りきれるかというと、そんな事実はない。マンチェスター・シティ戦しかり、ドルトムント戦しかり。後半勝負というよりは、前半勝負?というチームになるのだろうか。ドルトムントとの決戦では、バカヨコ、ファビーニョが揃わなくても勝利したのは大きいか。ムバッペ、バカヨコ、ファビーニョ、ベウナウド・シルバ、この試合にはいなかったけれど、シディベあたりは、近い将来にビッククラブに引き抜かれていきそうだ。

ドルトムントは策に溺れたというよりは、相手の準備力の確かさを想定していなかったというべきか。デンベレを入れてからのサッカーは見事だったけれど、座して死を待つなら戦って死のう感は満載だった。それだけのリスクを冒す必要があったので、まあわからなくもないけれど。もう少しマインツ時代のように、相手がボールを保持しているときやボールを奪われたときに気を使わないと安定した結果は得られなそうな予感。はまったときは強いんだろうけども。

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