【アイスランドの失敗】フランス対アイスランド【ボールを放棄できるか】

EURO2016

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雨のサンドニと言われると、物思いに耽るのは気のせいだろうか。中田英寿の孤軍奮闘を覚えている人は、この感情を共感してくれるかもしれない。

試合の結果は、フランスの大勝。レスターに例えられる守備を見せていたアイスランドだが、力尽きた格好へ。やるべきことをやることを集中すると定義するならば、前半は集中していなかった。疲労か、根拠の無い自信が慢心に変わったか。それとも監督の計算ミスか。答えは風の中へ。選手を休ませながらフランスは後半を戦いぬき、準備万端で準決勝を迎えることとなった。

4-4-2の弱点を放置したアイスランド

4-4-2の弱点は、1列目の脇のエリアになる。よって、ボールを保持するチームは、このエリアに選手を配置しようとする。そして、守備側はこのエリアをどのように守るかを考える必要がある。

フランスのビルドアップは、2センターバックと2セントラルハーフで行われた。アイルランド戦の後半と同じ仕組みだ。違いがあるとすれば、エブラの働きだろう。初出場のユムティティをサポートするために、エブラは低い位置でユムティティからのボールを受けることが多かった。エブラが高い位置を取ったとすれば、マテュイディがユムティティのそばでプレーする約束事になっているようだった。

4枚によるビルドアップによって、フランスは1列目の脇のエリアの攻略にあっさりと成功する。アイスランドの1列目は、フランスのセンターバック、セントラルハーフのどちらを担当するのかが曖昧だった。これまでのアイスランドの守備を思い出すと、1列目が走りに走って状況を解決させていたと記憶している。しかし、スタメンが続いている2トップコンビも、知らず知らずに疲労がたまっていたのだろう。または、この位置でポグバたちがボールを持っても、問題ないと考えていたのかもしれない。2列目が列を上げてプレッシングをする解決策もあったが、グリーズマンや中央に入ってくるパイエたちに、セントラルハーフコンビは本来の位置から離れることを許してもらえなかった。

2セントラルハーフのポジショニングのパターンは、限られている。2トップの間に片方の選手がポジショニングする。もう一方の選手が2トップの脇のエリアにポジショニングする形が王道だ。あとは、センターバックがボールを運びながらフリーの選手にボールを供給すればいい。他には、片方の選手がセンターバックの間に落ち、もう一方の選手が2トップの間にポジショニングする。または、セントラルハーフの両方の選手が2トップの脇にポジショニングする方法も定跡になりつつある。キーパーを使えば、相手が3枚でプレッシングに来たとしても対応できるだろう。抑えるべきは、センターバックよりも、柔軟なポジショニングをするセントラルハーフとなる。

しかし、アイスランドは集中せずに守備に入ってしまった。その結果が前半の3失点に繋がっている。最初の失点は、中盤でフリーのマテュイディからジルーへの裏抜けが炸裂する。ゾーン・ディフェンスの約束事であるボール保持者へのプレッシングがかからない状態を利用したフランスだった。2点目はコーナーキックからポグバのヘディングが決まった。コーナーキックをとったきっかけとなったプレーは、2トップの脇でフリーとなったポグバの裏への放り込みだった。2セントラルハーフを抑える、というよりは、誰がプレッシングに行くのかが機能しない、そんな中でアイスランドがこの状況を修正する前に2得点はフランスからすればできすぎな前半戦となっただろう。3点目もフリーのポグバ(ただし、位置が低いので抑えるのは難しかったかもしれない)から始まっていることも、見逃せない事実だった。

ボールを相手に持たせる道を選べるかどうか

チャンピオンズ・リーグの決勝で、レアル・マドリーがアトレチコ・マドリーにボールを持たせた事実は、興味深い現象だった。アトレチコ・マドリーの守備力を考慮すれば、いたって妥当な策だ。ただし、ボールを保持することを志向するチームが、結果のためにボールを放棄することはありそうであまりない。チャンピオンズ・リーグを優勝したからといって、レアル・マドリーのサッカーが世界を征服していくなんてことはないだろう。ただし、このボールを持つ、持たないは、相手との力関係とスコア、残り時間によるもの。チームの哲学など結果の前では意味を持たないという姿勢は、世界中に広まっていくかもしれない。

アイスランドは、ボールを保持することがうまくない。ボール保持率も非常に低い。自陣からのロングスローで一世を風靡しているくらいだ。そんなアイスランドに対して、フランスは前からボールを奪いに行く姿勢を最初は見せなかった。試合開始直後は、奇襲や自分たちの士気を高めるためにも、死なばもろともなな雰囲気をまとったプレッシングを行なうチームが多い。しかし、フランスは、至極冷静にハーフラインからのプレッシングを行った。もちろん、アイスランドのゴールキックなどは前から行くが、流れの中では、まずは下がってからを徹底していた。

ボールを持たされたアイスランドは、グンナルソンをセンターバックの間に下ろしていた。恐らく、プレッシング対策なのだろうか、フランスは前から奪いに来ない。アイスランドはロングボールを中心にフランスのゴールに迫っていくのだけど、守備の整理ができているフランスになかなか効果的な攻撃ができない。ユムティティを空中戦で狙い撃ちにするが、周りにはフランスの選手がたくさんであった。アイスランドに事情というよりは、ユムティティに気を使っていたのかもしれない。攻守に保護されたユムティティは、攻守にミスをほとんどせずに試合を終えることに成功している。

アイスランドがビルドアップでミスをするように、フランスのプレッシングは、ゆっくりと徐々に相手の選択肢を削っていった。そして、フランスの3点目はまさにこのフランスの守備から生まれている。いわゆるトランジション。アイスランドの守備を崩すネタがあったとしても、一番は守備の準備が整っていないときに攻撃を仕掛けること。そのためには、相手にボールを持たせる必要がある。よって、ハーフラインからの守備をしたフランス。徐々にプレッシングの圧力を強めていき、ボールを奪ってからの攻撃は見事だった。

集中するようになるアイスランド

前半で4点差のついた試合だったが、前半から試合内容には変化が見え始めていた。22分くらいか、アイスランドのサイドハーフやセントラルハーフが前に出て、1列目の脇を消すようになる。つまり、ポグバとマテュイディがオープンな状況でボールを持てなくなる。

フランスのオープンな状態からの攻撃で序盤は裏狙いが目立った。この攻撃の狙いは、相手のラインを下げることで、ライン間を使うことだった。実際にライン間でプレーする機会を得たグリーズマンやパイエだったが、ボールの出しどころのポグバたちが抑えられてしまうと苦しくなる。

よって、フランスはコシェルニーが前に出てくるようになる。セントラルハーフが抑えられたらセンターバックが出て行くと、非常に論理的な流れで試合は進んでいった。なお、ユムティティが前に出てくることはほとんどなかった。

後半になると、アイスランドは1列目の役割を整理する。基本はポグバとマテュイディをみる。センターバックは放置する。もしも、運ぶドリブルで前に出てきたら、対応をする。2列目のサポートを受けながらも、ポグバ、マテュイディを捕まえながら、チャンスと見るやセンターバックまで寄せていくプレッシングに代えてきた。

次はフランスが変化を見せる番なのだが、点差がついていることもあって、全体的にルーズであった。アイスランドはビャルナソンがフリーに動きまわる。グンナルソンを下げて足りなくなった中盤へ選手を動かし、サイドバックを上げて攻撃的に振る舞うようになる。そして、得意のロングスローの流れから反撃に成功する。しかし、直後にセットプレーからジルーに叩きこまれてしまう。

5-1となった試合だったが、アイスランドは最後まで自分たちのやるべきことをやり続ける。フランスのビルドアップの良さを消し、自分たちの長所である空中戦や各々の状況を解決するための意思とプレーは立派だった。最後にグジョンセンが登場し、活躍していたビャルナソンが得点をする。セットプレーからも得点のチャンスはあり、ロリスが少しかわいそうな展開だったが、試合はそのままに終了。最後まで戦い続けたアイスランドは立派だったが、だからこそ正しく戦えた後半のように、前半戦も戦えていればと悔やまれる試合となった。

ひとりごと

グループリーグではマン・オブ・ザ・マッチに選ばれるようなプレーをしていたカンテ。準決勝では累積からカンテが復活する。デシャンの采配に期待。この采配で当たりをひければ、デシャンは名将に認定されそう。インサイドハーフで使うと、プレーエリアが重なってしまうポグバとマテュイディをセントラルハーフで使うかどうかは非常に悩ましいところだ。

アイスランドは多くのチームに勇気を与えた。ハードワークとボールを運ぶ手段があれば、どうにか結果がついてくることもあることを証明する。それにしても、人口33万人で、プロがおよそ100人という環境でEUROの準々決勝まで来るのだから凄い。

コメント

  1. いつも楽しく拝見させて頂いております。
    記事内にちょくちょく出てくる「ボールを持たせる」=プレッシングをかけるエリアを守備陣内からにするというような意味であってますでしょうか。
    ボールを持たせる・最終守備ラインの高さ・1列目の守備含めてどこか詳しくご説明されてる記事ありましたら教えて頂けないでしょうか。

    • らいかーると より:

      だいたいそんな意味です。ボールラインよりも全員が撤退するような感じです。

      記事は心当たりありませぬ。申し訳ありません。

      • お返事ありがとうございます。
        僕ももっと勉強します。
        らいかーるとさんより全然読者少ないですが、勉強になるということで僕のブログでもリンク貼って紹介しておきました!

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